2015年10月30日(金)

サルでもわかる産業革命。『アサシン クリード シンジケート』の世界へようこそ!

文:イトヤン

 産業革命――おそらく学生時代に誰もが耳にした言葉だが、今でもその内容をはっきりと覚えている人が果たしてどれだけいるだろうか?

 というわけで、まずは産業革命の出来事や流れをわかりやすくまとめた図を見てほしい。

『アサシン クリード シンジケート』

 “産業革命がもたらす貧富の格差”をおわかりいただけただろうか。こうして奴隷同然の生活を強いられた労働者の運命を変えるべく、アサシン(暗殺者)として暗躍するゲーム……それが11月12日に発売されるPS4/Xbox One用ソフト『アサシン クリード シンジケート』だ。

●『アサシン クリード シンジケート』ヒストリカルトレーラー

『アサシン クリード シンジケート』
▲工場制機械工業の導入により、イギリス史を大きく変えた産業革命。プレイヤーは、バッキンガム宮殿からホワイトチャペルまでの広大なエリアを自由に駆け巡ることができる。
『アサシン クリード シンジケート』
▲貧困に苦しむ労働者の一部は“ギャング”と呼ばれる徒党を組み、旧来のロンドンの支配者層に挑戦する。この戦いの陰にはアサシン教団の姿が。

 ここから先は、本作の舞台背景となる産業革命を中心に、ヴィクトリア朝時代のロンドンの社会情勢を解説しよう。当時の偉人たちが本作にどうかかわるかにも注目してもらいたい。

イギリスの産業革命は綿織物から始まった

 18~19世紀のイギリスで起こった“産業革命”とは、産業の中心が農業から工業へと移り変わったことで、人々の暮らしや社会の仕組みそのものが大きく変化した状況を指している。

 産業革命によってイギリスの社会、さらにはその影響を受けた欧米諸国や日本の社会は、現在の我々が暮らしている社会と同様の形になったのだ。

『アサシン クリード シンジケート』
▲ロンドン市街を行き交う人々。燕尾服とシルクハットは、当時の英国紳士たちのファッションにおけるマストアイテムだ。

 イギリスの産業革命は、綿花から木綿生地を製造する綿織物産業から始まった。

 17世紀のイギリスでは、羊毛を使った毛織物の製造が急速に発展していた。毛織物産業を推進したのは、“ジェントリ”と呼ばれる富裕な地主たちだ。やがて、このジェントリと旧来からの貴族を総称して、イギリスの上流階級の人々を“ジェントルマン”と呼ぶようになる。

 一方で、16~17世紀に大航海時代を迎えて海外に進出したイギリスは、インドや北アメリカを植民地として支配する。そしてこれらの植民地から綿花が輸入されたことにより、イギリス本国では毛織物に代わって綿織物の製造が始まった。

 綿織物は人気が高く、作れば作るほど利益を生んだが、職人の手作業によって製造されていたために、製造できる数には限界があった。そこで18世紀には、綿花から糸をつむぐ紡績機や一度に大量の綿布を製造する織機が発明された。結果、綿織物の製造量が飛躍的に増大する。

 綿織物産業の機械化が始まった当初、機械の動力は水力が用いられたため、製造する工場は川のそばにしか建てることができなかった。ところが、1785年にワットが非常に効率のいい蒸気機関を発明したことで、大きな変化が訪れる。

『アサシン クリード シンジケート』
▲産業革命によって誕生した工場では、石炭を燃やして動かす蒸気機関が動力源となっている。そのため煙突からは常に、真っ黒なススを含んだ大量の煙が排出されている。

 蒸気機関とは、石炭を燃料として機械の動力を得るという、後のエンジンにあたるものだ(現在の自動車エンジンとは動作原理が異なる)。蒸気機関の発明によって、工場を建てる場所には制約がなくなり、人口の多い都市の近くに工場を建設することも可能になった。

 かつての職人の手作業とは違い、工場での仕事には専門技術を必要としないため、女性や子どもも含めて、誰でも働くことができた。

 しかも産業革命と同時期に、農業の進歩によって食糧事情が改善されて、農村での人口が爆発的に増加した。農村での職にあぶれた多くの人々は、都市に集まり工場で働くようになる。

 その結果、イギリスの社会には工場や炭鉱などで賃金をもらって働く“労働者”と、その労働者たちを雇って自らの工場や炭鉱を経営する“資本家”という、新たな階級が誕生することとなった。

工業化の完了によって大英帝国は繁栄の絶頂に

 当時の工場の動力源である蒸気機関は、石炭を燃料として動いていた。また、工場で動く機械を作るために必要な鉄も、石炭を加工したコークスを使って製鉄された。

 そのため炭鉱では、大量の石炭が採掘されるようになった。もちろん炭鉱での採掘作業にも、大勢の労働者が必要だ。

 石炭を採掘したら、工場のある都市まで輸送する必要がある。工場で製造された綿布などの製品も同様に、海外へと出荷する港湾都市まで運ばなければならない。産業革命が進むと今度は、交通網の整備が求められた。

『アサシン クリード シンジケート』
▲鉄工所で働く労働者たち。石炭は蒸気機関の動力だけでなく、製鉄にも重要な役割を果たすため、この当時はもっとも重要な資源となっていた。

 1807年にアメリカで蒸気船が発明されると、風や人の力に頼ることなく船が航行できるようになった。1825年にはイギリスで、蒸気機関車を使った商業鉄道が世界で初めて実用化されたほか、1830年前後には馬車に代わって、蒸気自動車を使った路線バスが走るようになった。

 こうして、繊維産業の拠点であるマンチェスターや輸出港のリヴァプール、鉄鋼の街バーミンガムといったイギリスの都市には、周辺の農村から多くの人々が集まり、急速に発展を遂げることになった。そして、これらの都市と首都ロンドンを結ぶ鉄道や、馬車や蒸気自動車の走る道路、蒸気船の航行する運河といった交通網が、くまなく整備されていった。

『アサシン クリード シンジケート』
▲テムズ川を進む蒸気船。蒸気船が誕生した当初は船の両側面にある外輪を回転させて航行していたが、19世紀中盤にはスクリューが実用化されて、より効率よく航行できるようになった。

 ただし交通網の整備には、巨額の資金が必要となる。これらの公共事業を担ったのは、首都ロンドンでイギリスの政治と経済を支配していた、上流階級の“ジェントルマン”たちだ。

 工場を経営する資本家とは異なり、ジェントルマンたちは金融や海運などにより、イギリスの経済をさらに拡大させていった。こうして、産業革命による工業化が完了した19世紀のヴィクトリア朝時代に、大英帝国はその絶頂期となる繁栄を迎えることになる。

ヴィクトリア朝時代のロンドンと日本の意外な繋がり

 “ヴィクトリア朝時代”とは、イギリスの女王ヴィクトリアが在位していた期間を指している言葉だ。ヴィクトリア女王の治世は1837年から1901年まで、なんと63年7カ月もの長きに渡っている。

ヴィクトリア女王

『アサシン クリード シンジケート』
▲大英帝国の繁栄の象徴であるヴィクトリア女王。ゲームの中でも直接謁見できる機会があるようだが……!? 

 『アサシン クリード シンジケート』の舞台となっているのは、ヴィクトリア朝時代の中期にあたる1868年だ。実はこの1868年、日本の歴史にとっても非常に重要な年である。

 江戸幕府の第15代将軍徳川慶喜が大政奉還したのを受け、明治天皇が京都から東京へと都を移したのが、ちょうど1868年になる。江戸時代が終わりを迎えて新たに明治時代が始まった、日本の元号では明治元年と呼ばれる年なのだ。

 幕末から明治へと移り変わるこの時期、黒船来航によって鎖国から開国に転じた日本は、西欧諸国の文明を急いで学ぼうとした。そこで多くの日本人が、ヨーロッパへ視察や留学に渡った。

 中でも有名なのが、後に日本の初代総理大臣となる伊藤博文をはじめとする5人の長州藩士だ。彼らが1863年に留学したのが、当時のロンドンなのである。

 また江戸幕府からは、後に慶應義塾大学を創設する福澤諭吉も加わった遣欧使節団が、1862年にロンドンを訪れている。

 当時のイギリスで西洋の制度や文化を学んだ日本人たちは、その知識や経験を元にして、近代国家としての日本を作り上げていった。本作で描かれるロンドンの風景は、日本人が初めて目撃した西洋の姿でもあるのだ。

『アサシン クリード シンジケート』
▲石炭を積んだ蒸気船がテムズ川を行き交うロンドンの風景。この広いロンドンのどこかに、明治維新の志士たちがいるのでは……と思いを馳せてみるのもおもしろいだろう。

19世紀のロンドンには現代に通じる社会問題も……!?

 ヴィクトリア朝時代のイギリスは繁栄を迎えると同時に、さまざまな社会問題も抱えていた。

 工場や炭鉱で働く労働者たちは、劣悪な環境で長時間に渡って作業しているにもかかわらず得られる報酬は少なかったため、雇い主である資本家との間に貧富の格差が生じていたのである。

 男性だけでなく、女性や子どもも長時間の過酷な労働に就いており、それを規制する法律も存在しなかった。また、教育は上流階級のためのもので庶民には必要ないと考えられていたので、労働者の中には読み書きのできない者も多かった。

 ヴィクトリア朝時代を代表する作家のチャールズ・ディケンズは、『オリバー・ツイスト』や『デイヴィッド・コパフィールド』といった小説の中で、当時のロンドンに暮らす貧しい労働者たちの生活を克明に描いている。

チャールズ・ディケンズ

『アサシン クリード シンジケート』
▲『クリスマス・キャロル』などの名作小説を執筆した作家のディケンズは、ロンドンに暮らす貧しい労働者たちの様子を知り尽くしている。※本作での担当声優は佐々木睦さん。

 環境汚染も深刻で、ロンドンの街は常に工場の煙突から放出される石炭の煙に覆われていた。ロンドンの中心を流れるテムズ川は生活排水で汚れており、道路は無数の馬車によって渋滞していた。

 地上の渋滞を避けるため、1863年には世界初の地下鉄が開通したが、当時は蒸気機関車のため、トンネル内は煙で覆われて前が見えないほどだったという。

 都市の労働者たちが置かれた過酷な状況に対して、労働者たちは選挙権など権利の拡大を求める運動を起こした。その結果、1867年には都市労働者の男性に選挙権が与えられ、1884年には選挙権が農村や鉱山の男性労働者にまで拡大される。また1870年からは、8~13歳の子どもに義務教育が実施されるようになった。

 労働者の生活を改善し、理想の社会を実現しようとする運動はイギリスだけでなく、ヨーロッパ全土に広がっていた。1848年、ドイツ生まれの思想家カール・マルクスは、労働者が資本家を打倒する共産主義革命を説く“共産党宣言”を、フリードリヒ・エンゲルスとともに発表する。

 しかしマルクスは、その思想のために祖国プロイセンを追われて、イギリスへと亡命することになってしまう。マルクスの思い描いた革命は、約60年後の1917年にソビエト連邦の誕生として実現したが、現実の共産主義国家がどのような道を辿ったのかは、その後の歴史で明らかになる。

カール・マルクス

『アサシン クリード シンジケート』
▲『資本論』を著したマルクスは、ロンドンの街角で労働者の団結と資本家に対する階級闘争を訴えているようだが……。

 それはさておき、貧しい労働者や失業者が都市に集中したことで、ロンドンでは都市のスラム化や犯罪の増加といった問題が発生した。この状況に対処するため、1829年に設立されたロンドン警視庁は、初代の本部庁舎が置かれた地名から“スコットランドヤード”と呼ばれるようになった。

 連続猟奇殺人事件として有名な“切り裂きジャック”の事件がロンドンで発生したのは、『アサシン クリード シンジケート』の時代から約20年ほど経過した、1888年のこと。また、推理小説『シャーロック・ホームズ』シリーズの第1作が発表されたのも、ほぼ同時期の1887年だ。

世界を変えた偉人たちとゲームの中で出会うことも

 産業革命の背景には、蒸気機関や鉄道の発明といった、科学技術の進歩があった。ヴィクトリア朝時代は、科学が人々の生活を、さらには人々の意識を変えていった時代でもある。

 中でも、チャールズ・ダーウィンが1859年に発表した『種の起源』は、当時の人々にとって衝撃的だった。生物は環境に適応するように変化していくという“進化論”は、神がすべての生物を今の形として作ったという聖書の教えに反するものだったからだ。

 特に“人間も動物の一種でサルから進化した”との主張は、多くの反発や論争を巻き起こした。当時の雑誌には、ダーウィンの顔が描かれたサルの風刺画が掲載されたほどだ。

チャールズ・ダーウィン

『アサシン クリード シンジケート』
▲動物や植物の標本を大量に収集して、それらを比較・調査することにより、“進化論”を導き出した。※本作での担当声優は板取政明さん。

 スコットランド生まれで、1868年にはロンドンで暮らしていたアレクサンダー・グラハム・ベルは、その後カナダに移り住み、当時すでに実用化されていた電信(モールス信号)のケーブルを使った音声の送受信を研究。1876年にアメリカで電話の特許を取得した。

 その後、ベルは特許を元に電話会社を設立。やがてその会社はAT&T社となって、以後100年に渡りアメリカの電話事業を独占した。通信事業が自由化された現在でも、ベルとAT&Tの名前はアメリカにおける通信サービスの巨大ブランドとなっている。

アレクサンダー・グラハム・ベル

『アサシン クリード シンジケート』
▲電話の生みの親として莫大な利益を手にするベルだが、ロンドンに在住している当時は、まだ若き発明家のようだ。※本作での担当声優は寸石和弘さん。

 看護師のフローレンス・ナイチンゲールは、イギリス・フランスなどの連合軍とロシアが戦った1854年のクリミア戦争に、女性看護師団を率いて従軍した。彼女は兵舎病院の衛生を改善することで多くの負傷兵の生命を救い、“クリミアの天使”と呼ばれた。

 終戦後、看護師養成の必要性を説いた彼女は、ロンドンにナイチンゲール看護学校を設立した。また数学が得意だったナイチンゲールは、衛生改善の重要性を軍や政府に対して論理的に説明するため、円グラフなどを用いた統計資料を作成して、イギリスの統計学の基礎を築いたことでも知られている。

フローレンス・ナイチンゲール

『アサシン クリード シンジケート』
▲ナイチンゲール(写真右端)は“白衣の天使”というイメージが強いが、実際には看護や衛生に関する本の執筆や、看護師の養成などで大きな功績を残している。

 ここで紹介したヴィクトリア朝時代の偉人たちは、ゲームの中で会うことができる。中には主人公たちにサイドミッションを依頼してきたり、新たな武器を開発してくれたりする人物もいるようだが……!? 

初回生産限定特典は追加ミッションのシリアルコード

 PS4/Xbox One版の初回生産限定特典として、追加ミッション“ディケンズとダーウィンの企み”のシリアルコードが付属。数量限定ショップ特典は、オリジナルアートブックになる。

『アサシン クリード シンジケート』
▲追加ミッション“ディケンズとダーウィンの企み”。
『アサシン クリード シンジケート』
▲オリジナルアートブック。

データ

▼『アサシン クリード シンジケート』
■メーカー:ユービーアイソフト
■対応機種:PC(ダウンロード専用)
■ジャンル:アクション
■配信日:未定
■価格:7,500円+税

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