2015年12月11日(金)
『ソードアート・オンライン』『とある魔術の禁書目録』『魔法科高校の劣等生』など500作品以上の編集を担当し、その累計発行部数が6000万部を超える電撃文庫の三木一馬編集長が、自身の"仕事術"をまとめた書籍『面白ければなんでもあり 発行累計6000万部――とある編集の仕事目録(ライフワーク)』が12月10日に発売となりました。
▲abec氏がイラストを描き下ろした「面白ければなんでもあり」の表紙。 |
ここでは『面白ければなんでもあり 発行累計6000万部――とある編集の仕事目録』(KADOKAWA刊)の発売を記念して、本文より"電撃小説大賞の選考で、キラリと光る応募作"を特別にお届けします。
電撃文庫で活躍する作家のほぼすべては、電撃小説大賞の受賞者、もしくは投稿者です。数多の才能を輩出してきた電撃小説大賞については、意外と知られていないことが多いので紹介させてください。
電撃小説大賞は、毎年4月を締切とする国内最大規模の小説賞です。最新の第22回電撃小説大賞も、4,500作を超える応募がありました(ちなみに2015年度・第23回から、WEB応募も可能になりました!)。
ここからデビューを果たした作家たちによって、電撃文庫、メディアワークス文庫の作品はつくられています。
選考における通過作の推移としては、第21回電撃小説大賞を例に挙げますと、応募総数5,055作、一次通過654作品、二次通過217作品、三次通過86作品、四次通過10作品、そしてその10作の中から8作品が受賞作となっています。 つまり、受賞確率は約0.16%という非常に狭き門となっているのですが、受賞できなかったとしても『面白い』と感じた作品や、それを書いた作家はどんどんデビューしていきます。
投稿作品の応募規定は、オリジナルの長編及び短編小説で、ジャンルは不問。ファンタジー、SF、ミステリー、恋愛、歴史、ホラー、そのカテゴリにはいらないもの……つまり、『面白ければなんでもあり』ということです。
電撃小説大賞に投稿された作品は、まず『下読み』と呼ばれる専門の読み手によって選考されます。下読みの一次選考を通過した作品は、電撃文庫編集部による二次選考が待っています。各編集者が手分けして読み、選考会を重ねて『みんなが面白いと思う作品』を選んでいきます。この編集部内の選考は全部で四回あります。最終選考まですべて、電撃文庫編集部にて行われます。
一次を通過したけれど残念ながら二次で落ちてしまった……という作品にも、のちに編集者二名による選評表が送られます。三次選考を通過した作品には、五名の編集者による選評が届きます。そして、最終選考作の作者には、担当編集がついてアドバイスをします。概要としては、こんなところでしょうか。
では、たくさんある応募作の中で厳しい選考をくぐり抜けていく作品は、残念ながら落選してしまう作品となにが違うのでしょうか。
今までと同様に『電撃小説大賞の最終選考委員』としてではなく、『僕個人的な編集者』としてお話しするという前提になりますが、僕が選考で気を配って見ているポイントは、『キラリと光るものがあるかどうか』です。それぞれの編集者によって趣味嗜好・評価基準が異なりますから、一概に"これが正解"とは言えないのですが、僕としては、以下のような要素が作品に入っていると『キラリと光るものがある』と感じます。
・巧みな文章、理路整然とした内容が描かれているもの。
・可愛い女の子、共感できる主人公など、魅力的なキャラクターが描かれているもの(どんなキャラが魅力的か、第二章を参考にしてください)
・願望が満たされている、理想のキャラが表現されているもの。
・ストーリーにカタルシス(スッキリ感)があるもの。
・設定がキャッチー(=親しみやすい)なもの。
・アッと驚く要素があるもの。
普通すぎる、と思うかもしれませんが、これらをしっかりと、真正面から描くことができれば、それはとても面白いエンターテイメント作品になっているはずです。少なくとも、一次選考で落ちてしまうようなことはないはずです。
※ 三木編集長が考える、『魅力的なキャラクター』『願望が満たされている』『ストーリーにカタルシスがある』『設定がキャッチー』『アッと驚く要素』とは何かについては、『面白ければなんでもあり』(KADOKAWA刊)に詳しく書かれているので、ご参照ください。
そして。最後に一番重要なポイントをお伝えします。
・『ラノベの正しい書き方』『面白い小説の書き方』的なハウトゥー(この本も含まれます)を全部無視して、自分の好き勝手に書いているもの。
電撃小説大賞のコンセプトは『面白ければなんでもあり』です。 今までの常識を覆すものこそ大歓迎なのです。「この本に書かれていることなんて無視してやるぜ! 三木の言うことなんてあてになるか!」そんな気概を持った作家こそを求めています。
作品全体の完成度、クオリティも当然大切な要素ではありますが、新人賞は減点法ではなく加点法で評価すべきものだと僕は思っています。欠点が少ない無難な作品よりも、お話としては歪(いびつ)かもしれないけど、一つ尖った魅力がある……そんな作品をいつも望んでいます。
加点法で評価が高くなるのは、気持ちのこもった作品です。『書きたくて書きたくて仕方ない』という気持ちが出ているもの、作風に『遠慮がない』もの、『ここまでやってしまってもいいのか?』と感じられるもの……そういった情熱的な作品を電撃文庫編集部は熱望しています。
「自分が可愛いと思っている女の子はこうなんだ!」と全身全霊で描ききっている作品や、「みんなからはベタすぎると言われるけど、自分はこういうドストレートなバトルが好きなんだ!」という気持ちを徹底的に込めた作品などなど、どんなものでも構いません。本書で書かれているようなテクニックに頼るのは、その気持ちを込めたあとでも良いのですから。
今までよりももっと、「小説が大好きだ」「物語をつくりたいんだ」というパワーを、電撃小説大賞にぶつけてみてください。いつもと違う結果がそこにあるかもしれません。
(C)三木一馬/ KADOKAWA CORPORATION 2015
カバーイラスト:abec
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