2016年1月14日(木)

【電撃PS】SCE・山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』第73回全文掲載。テーマは“ジェダイの想い出”

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 ここでは、電撃PS Vol.604(12月10日発売号)のコラムを全文掲載! 

第73回:“ジェダイの想い出”

 いよいよ12月18日、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』が公開されますね~。楽しみにしている方々も多いと思いますが、そういえば、とある作品の熱烈なファンって、独自の呼び名があったりしますよね。たとえばハリー・ポッターだと“ポッタリアン”、スタートレックだと“トレッキー”などなど。というわけで、スター・ウォーズの熱烈なファンのことってなんて呼ぶんだろう? と思って先日Facebookにその疑問を書いたところ、複数の方より、「もちろん“ジェダイ”だよ」と教えていただきました。そうなんだ!

 さて、そんなスター・ウォーズ。1作目の公開は1977年。今から遡ること38年前です。当時僕は8歳、小学3年生でしたが、映画館に映画を観に行くことなどほとんどなかったので、母親に兄弟揃って連れて行ってもらったときはマジで嬉しかった(あの有名なファンファーレが鳴った瞬間、弟が泣き出して母親はほとんど映画を観られなかったのも良き思い出です)。

 しかしふと振り返ると、当時は今ほど“コラボレーション”という宣伝手法が隆盛ではなかったと思うのですが、それでも映画を観ながら、ダース・ベイダーやX翼戦闘機(Xウイング)といった名前を叫んでいた気がするので、学童誌やCM、その他キャンペーンなど、事前に結構な刷り込みがあったのでしょうね。

 そんなコラボ施策の一つに、当時の僕には熱狂的にハマってしまいました。なにかというと、スター・ウォーズの名場面がプリントされた、コカ・コーラのビンジュースの王冠を集めること、でした(今だとボトルキャップということになりますね)。その王冠を、指定された位置に50個はめるプラスチックのプレートがお店で配られていて、近所の子供中、このプレートをコンプリートするのに躍起になっていたのです。

 昔は、“ビンジュースの自動販売機”というものがあったのですが、当然ビンなので、中身を飲むためには王冠を栓抜きで抜く必要があります。その栓抜きは自動販売機本体に内蔵されていて、抜いた王冠はそのまま販売機内のタンクの中に落ちる、という仕組みになっていたのです。

 当時は子供なので、コレクションのために何本もジュースを飲む、なんてことはできません。で、何をやったかというと、該当する自動販売機を見つけては、宝が埋蔵された王冠タンクの中に、タコ糸で結んだ磁石を投入し、釣り師がごとく王冠をサルベージしまくったのです。ですが、普通のお店の前にあるような自動販売機は、早々に荒らされていて獲物など残っていません(それでも磁石を垂らす日々……)。

 そんな中、さてウチの近所には、大型トラックが荷物を捌く用の、大きな倉庫がありました。そこは、敷地と周辺が延々と金網で仕切られている大きな倉庫で、入口には大きな鉄柵の門がありました。当然、出入りしているのは屈強なおじさんばかり。近くで野球なんかをしていてボールがその倉庫に入った日にゃ、誰が取りに行くかで戦慄のジャンケン大会が始まったものです。その倉庫には、入口にプレハブの事務所があったのですが、その横に燦然と輝いていたのです。宝の自動販売機が。近所の子供中誰もが、涎を垂らしながら金網越しにその自動販売機を見つめていました。

 友達の中にはぼちぼち王冠コンプしそうなヤツも出てきそうな情勢。何とか誰よりも早く50個コンプを達成したかった僕は、ある日ビニール袋と磁石をポケットに忍ばせ、倉庫という名の魔窟に忍び込むことを決意しました。某日、人の出入りが少ない16時ごろ。まずはそっと入口の鉄柵を登り、倉庫の敷地内に入る。で、事務所の人にバレないよう、窓を避け屈みながら自動販売機に向かいます。順調順調。そして戦場に到着。いよいよ、王冠タンクに磁石を落とします。

 しかし、いつもは30センチくらいピンと張りつめるタコ糸が、全然そうならない。磁石が入り口付近から落ちていかないのです。「……そうか! こんな入り口にまで王冠が溜まってるんや!」もう大興奮です。僕は、夕陽に照らされながら一心不乱に王冠を釣りました。夢中で夢中で、慎重に磁石で王冠を吊り上げ、ビニールに入れたのです。

 そして、ビニールが満タンになったころ……後ろから、「おい」と声を掛けられました。振り向くと、逆光で顔はよく見えない。でも、シルエットだけで怖そうなおじさんだとわかりました。僕は、怒られる! と思い、まず謝ろうとするものの、全然声が出ず、あたふたするばかり。どうしようもなくなって、ビニールに詰めた宝物をおじさんに返そうとしました。

 場違いなガキが汚い手で差し出した、王冠が詰まったビニール袋。それを見たおじさんは言いました。「飲むか?」。しどろもどろに、「えっ…あ、うん…」となっている僕を尻目におじさんは、自動販売機に100円を入れてくれました。そして「えらいぎょうさん取れたなあ」といいながら、事務所に入っていったのでした。

 状況がよくわからないまま、僕はおじさんが入れてくれた100円でコーラを買い、大急ぎでビニール袋、磁石、コーラをつかんで家に帰りました。母親にそんな出来事を話しながらおじさんが買ってくれたコーラの王冠を見てみると、そこにはプレートの右上にはめる、スター・ウォーズのロゴが描かれていたのです。

 これにて50個のプレートは、誰よりも早く、めでたくコンプリート。子供の夢中に水を差さなかったあの“逆光のおじさん”は、僕にとってはまさに、“ジェダイ”そのものだったのでした。

ソニー・コンピュータエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

ソニー・コンピュータエンタテインメントJAPANスタジオエグゼクティブ・プロデュ ーサー。PS CAMP! にて『勇なま。』シリーズ、『TOKYO JUNGLE』などを手掛ける。現在『トゥモローチルドレン』『NewみんなのGOLF』を絶賛開発中。最新作、『Bloodborne The Old Hunters』好調発売中!

 Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)

 山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!

データ

▼『電撃PlayStaton Vol.606』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2016年1月14日
■定価:657円+税
 
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