2016年1月25日(月)
芝村裕吏が放つ新作小説『プリント・ブレイン』は近未来SFバトルファンタジー!!
空前の刀剣ブームを仕掛けた鬼才・芝村裕吏先生の新作小説『プリント・ブレイン』の紹介記事をお届けします。
●物語のあらすじ
近未来の九州を舞台に、四肢麻痺の少年・正親と、自意識を持つプリント・ブレインが“二人二脚”で繰り広げる冒険譚、それが芝村裕吏先生の新作小説『プリント・ブレイン』です。
14歳から19歳まで植物状態で入院中の患者・正親は、試作段階の自意識を持つ全規模試作機(プリント・ブレイン)とつながることで、肉体の自由を得ることに。
しかしその試作機の技術を使い、四肢麻痺の患者や死体を軍事利用しようと目論む勢力が正親に迫ります。
それを知った試作機は正親の身体を使い、文字通り“二人二脚”で入院先の病院を脱出するのですが……。
少年らしい素直さと正直さが瑞々しく輝くSFエンターテインメントをぜひご堪能ください!
登場人物紹介と見どころ
芝村裕吏先生が描く物語には、これでもかと言うほど多彩なキャラクターが登場します。そんな魅力的(?)な登場人物たちを、特徴的なシーンなどを抜粋しながら 紹介していきましょう。
●楠 正親(主人公)&全規模試作機(プリント・ブレイン)
まずは、主人公の少年と全規模試作機がお互いを認識しようとするシーンをどうぞ。
(本文から)
「当方は取引を希望する」
「うーん。わかってるかも知れないけど、僕は自分の身体も動かせないんだよ。今じゃ保護者もいないしね。だから取引するなら別の人がいいかも。何も、持ってないし、仕事してあげることもできないんだ」
「貴方の状態については把握している。問題ない」
「ごめんね」
「当方は貴方に対して取引を要望する」
「僕の状況、今言ったよね!?」
「理解している」
「じゃあなんで?」
「可能性の検討だ。当方の必要とする条件に一番適合した人物は貴方だ。患者番号一〇八八。適合率は二六%ある」
「僕は、く・す・の・き・ま・さ・ち・か、楠正親だよ。番号じゃない。君は何?」
「私は全規模試作機である。番号はない。おそらくは最初のプリントである」
「よくわからないけど、名前はどうなの?」
「特に付与されていない」
「そうなんだ」
「そのとおりである」
「君も僕と同じで身体が動かせない?」
「ある意味そのとおりである」
「年はいくつ?」
「製造からの時間のことと推定する」
「君はロボット?」
「それは攻撃と認識するが」
「ごめん。そんなつもりはないんだよ。僕は寝たきり状態だけど、いったい君は何かなあ、と思ったんだ」
「当方は当方である。四日である」
「四日?」
「フォーデイズで間違いない。私はプリントされてから四日経過している」
「わかった。信じるよ」
「感謝する」
こんなぎこちない感じの二人(?)が、どうやって敵対勢力と戦っていくのか? そのへんもこの物語の見どころです!
●このかさん
芝村作品のご多分に漏れず、この作品にもちょっと変わったお姉さんが登場してきます。そのひとりをご紹介。
(本文から)
まずは服だ。代わりの服がないのはわかるのだが、シャワールームから出てこのかた、裸のままなのは、当然気になる。
「あの、濡れていてもいいので服をですね」
「だめよ。部屋が濡れるでしょ」
“体調の維持にも良くない”
「でも恥ずかしいです」
そう言うとこのかはカラーボックスから長袖のTシャツを出した。
「仕方ないわね。はいこれ」
おそらくは寝間着なのだろう、使いこまれた長袖Tシャツを渡された。ズボンはなかったが裾が長いのでぎりぎり許せなくもない。いや、やっぱりだめだ。
「あの、ズボン……」
「私は気にしてないわ」
「僕は気にします」
「私が、気にしない、と言ったんだから、いいの」
女はきっぱりと言ってそれ以上取り合おうともしない。
“保温的にはこれで十分である”
“僕は十分じゃない”
頼み込んでレース地でできた女性ものの下着をどうにか借りたが、少々布地が少なすぎる。
「あの……これは」
「でもそれしかないのよ。それを穿くかやめるか、どっちかね」
女の人はそう言った。どうしたわけか、とても嬉しそうに笑っている。
おぉ~、これはいったいどういった場面なのでしょうか!? あられもない姿の主人公の、この先を知りたければぜひ本書をっ。
●藤原朝臣(仮名)
敵の手から逃れるため、寝間着のまま病院を抜け出した二人(?)は近未来の九州で、変な大人に出会うことになるのですが……?
(本文より)
「何時間も同じ場所に座ってるが、家出か? それとも失恋か?」
「家出です」
「帰れ。そして親に謝れ」
有無を言わせぬ調子だった。正親は目の前の男性をまじまじと見つめた。最近の、あるいは未来のホームレスは、家出人の心配までしてくれるのだろうか。
足元に視線を落としながら、正親は口を開いた。
「親は、いないんです」
「警察に行って相談しろ」
「警察は敵なんです」
うっかり正直に言った言葉に気づいて、しまったと思った。ホームレスたちは顔を見合わせている。
「それはつまり、ワケありというわけだな」
太い腕を組んでリーダーは言った。
「そうです」
その答えを聞いて、リーダーらしき男性は短く笑った。
ホームレス? う~ん、またまたおかしなことになってきました。この男性がこのあと、なかなかに興味深いことをやらかしてくれちゃうのです。
●後藤
おもしろい物語には、魅力的な悪役の存在が不可欠。この芝村作品にも、もちろんそんな素敵で不気味な悪役が登場します。
(本文より)
「すみません」
「いや、こんなもんだろうさ」
部下は恐縮しているが、後藤は特に怒ってもいなかった。何せ、怒っても金にならない。
「まったく。依頼主にも困ったもんだ。わかってることは全部話せと言ったんだが」
事前に受けていた説明とはひどく違う、目標の性能だった。二〇〇人近い大所帯である後藤の部隊を簡単に雇うくらいだから、何かわけありだと思ったが、いやはや。
後藤は片眉を上げて考える。依頼主が正確なことを言わないのはこの業界、民間軍事業界ではよくある話だった。わけありだから、黙りもするし暴力にも訴える。そういうものだ。そんなことは基礎の基礎としてわかっているつもりだったが。
まあ、目標が優秀だったというより、覚悟の差だろう。
目標は覚悟を決めて逃げるつもりだった。こっちは隠れて終わりだと思っていた。その意識の差を突かれて負けた。そう負けた。
ヘリを飛ばすのもただではない。依頼主はカンカンだ。しかしまあ、被害はあまり出ていない。あるいはそのせいで、軍隊時代と比べて意識が甘いのかもしれないが。
「ほかに報告は?」
「須頭は首の骨が折れました」
「優秀な奴だったんだがな」
「はい……」
戦死一。被害は軽微。作戦を続行しよう。
なんというか、プロという感じが滲み出ている印象です。「怒っても金にならない」は、けだし、名言ですねっ!
こんな風に、なんとも際どいキャラクターたちが織りなす、近未来SFバトルファンタジー『プリントブレイン』、この冬必読です!
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(C)YURI SHIBAMURA / KADOKAWA CORPORATION 2016
イラスト:bob
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