2016年2月26日(金)
ポケモンが配信中の、ニンテンドー3DSダウンロード用ソフト『名探偵ピカチュウ ~新コンビ誕生~』についてインタビューを行いました。
本作は、人とポケモンが共存する街・ライムシティを舞台に、ある目的を果たすためにやってきた少年・ティムが、偶然の出会いを果たしたピカチュウとともに謎を解く、シネマティックアドベンチャーです。
本作のディレクターであるクリーチャーズの宮下尚生(みやしたなおき)さんから、“オッサンくさい”ピカチュウが誕生した経緯や、制作秘話など、貴重なお話をたくさん聞くことができました。
▲本作のディレクターである宮下さん。 |
ちなみに、通常価格は1,500円(税込)ですが、配信を記念して、ニンテンドーeショップでは2月29日(月)23:59までは20%オフの1,200円(税込)で販売されています。
――発表された時に一番インパクトが大きかったのが、ピカチュウがおじさんみたいなセリフでしゃべることだったのですが、初めて企画に携わった時の率直な印象はいかがでしたか?
宮下:最初にプロデューサーである陣内から「『名探偵ピカチュウ』というタイトルでアドベンチャーゲームを作ろう!」という話が出て、そこからゲームの内容を考えて、プレイヤーが探偵のピカチュウと一緒に謎を解いていくゲームという形になりました。
●動画:【公式】紹介映像「見たことのないピカチュウが、ここに」
そこから「探偵ならしゃべったらどうかな?」、「探偵にするなら、経験豊富なオッサンとかはどうだろう」という形でどんどんアイデアが積み重なって、まるで“オッサン”のように、“オッサン声”でしゃべるというイメージが最初にできあがりました。
その時の印象としては、「ポケモンファンの皆さんに受け入れられるのかな」という気持ちも強く、「こんなのピカチュウじゃない!」と怒られたらどうしようという不安が一番強かったです。
▲“オッサン声でしゃべる”ピカチュウ。ナンパもしちゃいます。 |
――開発を終えた段階ではどうですか?
宮下:途中の段階で徐々に印象が変わっていきましたね。表情や動きを付けたり、簡単なテストのシナリオを作って遊んだりして、少しずつイメージをゲームにしていく中で「ユーザーのみなさんにもちゃんと受け入れてもらえるピカチュウになるんじゃないか?」という印象に変わりました。
また、社内テストの段階でも、ポケモンに詳しくて好きな人ほど反応が大きく、「ポケモンでこんなことをやっていいの!?」「いいほうで意外だった」という声や、「オッサンだけどカワイイ!」という感想が出てきて驚きました。その状況を受けて、次第に「これはいけるんじゃないか?」という確信を持ちました。
――本作をプレイしていて、ピカチュウに限らずポケモンのモデリングがとてもよくできていると感じました。特殊な技術や工夫などされた点はあるのでしょうか。
宮下:弊社はNINTENDO64の『ポケモンスタジアム』のころからポケモンの3Dモデルの制作を行ってきており、3DS『ポケットモンスター X・Y』でも3Dモデリングやモーションを手がけてきました。そういったノウハウを生かしつつ、『名探偵ピカチュウ』の3Dモデルも力を入れて制作しました。
強く技術的に注力した点は、ポケモンの表情や動きに力を入れようということで、モデラーの表情をキャプチャして、それをピカチュウや人物キャラクターに流し込むという作り方をしました。ただ、リアルな表情をそのままCGモデルにあてこんでもマッチしない場合もあり、手直しもいくつか行なっています。
また、それとは別にピカチュウの動きは、パフォーマンスキャプチャを使って役者さんに演じてもらっており、役者さんの“オッサンの動き”がピカチュウにそのまま投影されています。
――これまでも3Dの『ポケモン』作品はありましたが、ピカチュウの表情までここまで感情豊かに再現するものはなかったかと思います。本作のために新規にモデルを作成したのでしょうか?
宮下:これまでのノウハウがあるので、ベースになるモデルは存在するのですが、実際にはほぼ作り直しとなりました。
ピカチュウが立っている姿を見ていただけるとわかりやすいのですが、そもそも形から違っています。例えば、前足の位置を本来のピカチュウよりもちょっと後ろ寄りにすることで、二足歩行に適したボディバランスにしています。これは、従来のピカチュウと名探偵ピカチュウが出会うシーンなどはモデルの違いが明らかにわかると思いますね。
名探偵ピカチュウは、二足歩行や肩を付けないとできない動きなど、キャプチャをした人間の仕草をきちんと再現することを大事にしました。そのため、今までにピカチュウのイメージをギリギリ保ちつつ、二足歩行の仕草に適した形へ形状を変えていくという作業を、ものすごく細かくトライして作っています。
▲言われてみれば、前足が少し後ろ寄りになっており、人間の手に近い位置になっています。 |
他のポケモンたちも、『ポケットモンスター』シリーズなどではバトル中心のモーションになりますが、本作では街の中にいて、生活感を出すために、モーションや関節の位置などを若干ずらすことで、接地感やリアリティを出しています。
ただ、プレイしていて印象が違うことがないようにしているので、普通に遊ぶと気づかないレベルだと思います。
▲実際、プレイしていて違いはわかりませんでしたが、かなり街になじんでいました。 |
――ストーリーやシステムについてもお聞きします。先ほどの話から『名探偵ピカチュウ』というタイトルは決まっていたようですが、その先の部分はすんなりと決まっていったのでしょうか?
宮下:ストーリーの部分は二転三転しました。“オッサンのようなピカチュウ”という設定と、それに関する謎をストーリーに落とし込み、ゲームという形にすることが大きな課題になり、何度も書き直しましたね。
特に難しかったのがピカチュウの扱いで、プレイヤーにはピカチュウと一緒に探索をして楽しんでもらいたいのですが、ピカチュウが有能すぎるとプレイヤーが謎を解いているという感じがしないので、ピカチュウと実際に謎を解くユーザーのバランスを取るのが大変でした。
プレイヤーが実際に操作するティムのほうは人間を中心に、ピカチュウのほうはポケモンを中心に情報を集めるという役割分担、そしてピカチュウがピカッとひらめいて「お前もわかるよな?」と謎解きをうながす今の形になるのに結構かかりましたね。
また、『ポケモン』は歴史が長い作品なので、小さいお子様や、昔ポケモンを遊んでいたけれども大人になって遊ぶ時間がない人など、いろいろな人に遊んでもらいたかったので、謎解きをあまり高い難易度にはしないようにしました。
▲謎解きを手伝ってくれるピカチュウ。頼りになります。 |
――名探偵ピカチュウは名ゼリフが多いのですが、特にお気に入りのものがありましたら、教えてください。
宮下:こちらはプロデューサーの陣内とも一致したのですが、序盤のほうで主人公がピカチュウに“10まんボルト”と命令すると、「オレにめいれいするな」と返すところが気に入っています。
言い方も気に入っていますが、従来のポケモンとの関係である“トレーナーが指示してポケモンが応える”というのとは逆に、指示を無視したり逆に命令したりするポケモンがいてもいいんじゃないかという思いが詰まっていて気に入っています。
こういった人間とポケモンの新たな関係性は、本作であえて挑戦している部分です。
▲言うことを聞かないピカチュウ。頭脳労働派のようです。 |
――声のキャスティングには気をつかわれたかと思いますが、どのような部分を重視して選んでいったのでしょうか。
宮下:本作の音響監督は『ポケモン』のアニメや映画の音楽演出を担当されている三間雅文(みままさふみ)さんにお願いしていて、三間さんのほうから“しゃべるオッサンのようなピカチュウ”の候補を出してもらいました。その中から陣内やチームメンバーと相談した時に全員一致で「大川透さんがいい!」となったんです。
全体のキャスティングとしては、探偵モノなので、海外ドラマの吹き替えをイメージしており、キャスティングは吹き替え経験の多い方を採用しています。その中に大川さんがいたという形です。
大川さんの声を聞くまでは、スタッフの意見がバラバラだったのですが、声を聞いて全員が「この人!」ってなりました。データに声がのった時に、その気持ちがより強まったという形です。
▲普段はただのオッサンぽい感じですが……。 |
▲シメる時はシメてくれます。 |
――海外ドラマを意識したということですが、実際に遊んでいて音楽や音響にも力が入っていると感じました。
宮下:全体としてはオッサンのようなピカチュウがしゃべるので、ドラマや映画のサウンドトラックのイメージで制作しています。これまでの『ポケモン』とは異なる落ち着いたイメージやおとなしめなイメージですね。
効果音などはドラマなどのリアル志向の流れがあったので、動作音についても衣擦れの音や足音などを意識してリアルな表現を目指しました。
例えば洞窟の場面では、反響音などを使って雰囲気を出しています。あそこも設定が結構大変で、少しでも設定を間違えると、お風呂の中でピカチュウが歌っているように声が響いてしまうので大変でした。
▲洞窟での一コマ。鳴き声も反響します。 |
――謎解き要素にポケモンの特殊能力や設定が絡むという点が、遊んでいて「この能力がこう活躍するのか!」とつながって楽しかったです。アイデアや見せ方について、苦労した点はありましたか?
宮下:これも大変でしたね。ポケモンの能力を生かしながら謎を作るという部分がとても難しくって。それに、ポケモンは種類や特殊な能力、わざがたくさんあるのですが、それをゲームに組み込もうとすると問題が起きることもあるんです。
例えば、なんでもできるからといって、そのままギミックにしようとしても、謎がわかりやすすぎたり、正解が多すぎたりして、ゲームとしておもしろくなるとは限らないんですよね。
また、せっかく「この能力なら、このギミックが作れる!」といいアイデアが生まれても、「でも、このポケモンが公園にいるのは無理がある……」となってしまうこともあり、場所とストーリーとポケモンの特徴をマッチさせるという点もとても大変でした。
他にも、陣内から「見た目から能力を想像できるポケモンを中心にゲームを作りたい」という相談を受けていたので、ポケモンに詳しくないユーザーさんでも解けるように、ポケモンの特徴の説明などもうまく盛り込まないといけないところも難しかったですね。
――それは、どのような狙いがあったのでしょうか?
宮下:先ほどもお話しましたが、『ポケモン』は歴史の長い作品なので、人によってポケモンの知識量が違う部分があります。
例えば、“火を吹けるポケモン”と聞いただけでも、人によって思い浮かべるポケモンは違うと思います。初期の『ポケモン 赤』や『ポケモン 緑』を遊んでいた方と、最近の『ポケモン X』や『ポケモン Y』から遊び始めた方でも、違うポケモンをイメージするはずです。
それにくわえて、『ポケモン』シリーズをあまり遊んでいない方が遊んだ時に不利になってもよくないと思いました。そういったところから、ある程度は見た目や名前で能力を想像しやすいポケモンを中心にして、物語を構成していくことにしたんです。
――なるほど。そういう考えがあったんですね。ちなみにゲームの開発中、今だからこそ笑って話せるようなハプニングなどはありましたか?
宮下:ハプニングとは少し違いますが、陣内に作ってもらった大元のプロットではピカチュウがすばしっこいという印象で、それを生かしてプロットを展開していく部分もあったんです。
ただ、実際に大川さんの声を当ててモーションなどをつけるうちに「この声のピカチュウがすばしっこいわけがない」「もうちょっとオッサンだよね」と動きがオッサン化していって、いざ陣内に提出しようとしたころには完全にオッサン化してしまっていました。
ちょっと変えすぎてしまったかもとヒヤヒヤしていましたが、見せた後、「オッサンぽいほうがおもしろいから、後半のプロットもその流れでいこうか」と方針が変わったのは、ハプニングといえばハプニングですかね(笑)。
――普通に遊ぶと気づきにくいけれども、実は力を入れているポイントなどがありましたら、教えてください。
宮下:隠しイベントというほどではありませんが、ピカチュウに話しかけた時のリアクションには、なかなかおもしろいものも多いと思いますよ。
――謎解きに詰まった際にはピカチュウに相談していましたが、ヒントをもらえるだけではなかったんですね。ちょっと見落としていました……。
宮下:事件には関係ありませんが、ピカチュウに話しかけることができる機能“ピカチュウサイン”のタイミングによっていろいろな反応が返ってくるので、事件を追う以外にもいろいろ話しかけるとおもしろいピカチュウが見られるはずです。なので、一度クリアした方も、また何度も遊んでもらえるとうれしいですね。
あとは、コンビの協力アクションの失敗パターンも、実はおもしろいものが多いです。特にピカチュウの反応がユニークなので、遊び直す時はいろいろと試してみてもらえればと思います。
▲失敗パターンも楽しいので、あえて失敗してみるのもアリかもしれません。 |
他にもおまけとして、クリア後のセーブデータで再開してもう一度スタッフロールを見ると、ピカチュウに話しかけた時の反応がランダムで返ってきます。ゲーム中に見られなかったものが出てくることもあるので、一度クリアされた方も見ていただければと思います。
――その他、世界観的な部分で力を入れた部分はありましたか?
宮下:人間とポケモンが共存している雰囲気を出そうとしたことですね。これまでの作品でも表現されていた部分ですが、特に今回はより生活感が出るように力を入れました。
ステージも現実に近いものにしているので、そこにポケモンが生活していたらどんな種類がいて、どのように生活しているのかというリアリティを盛り込んでいきました。
物語や謎解きと直接かかわらない形でも、たくさんのポケモンの生活感を感じられるように演出をしている部分もありますので、遊び直す際などに細かく注目してもらえればと思います。
▲ウェイトレスをしているペロリーム。なじんでいます。 |
――最後に、すでに本作を遊んだファンと、本作が気になっているファンにメッセージをお願いします。
宮下:すでに遊んでいただいた皆さま、遊んでいただいて本当にありがとうございます。続きが気になっていると思いますが、鋭意制作中でアッと驚く内容になると思いますので、楽しみにお待ちください。
これから遊ぼうと思っている皆さまには、本作はプレイヤーが操作する少年のティムが、ピカチュウとコンビを組んで目の前の事件を解決していくゲームであることをアピールしたいと思います。
「こんなことをしゃべるの!?」というようなピカチュウのセリフが多く登場し、映画を見るような感覚でプレイできます。そういった感覚でプレイしたいという方にはオススメです。
1996年2月27日にゲームボーイ版が発売されてから、今年の2月27日で『ポケモン』シリーズは20周年を迎えます。本作は、その中で“ポケモンに新たな可能性はないのか?”と考えてきた模索に、モーションキャプチャなどの技術が組み合わさって、20周年経った今だからこそ提案できる遊びになっていると思います。
昔『ポケモン』をプレイしたりアニメを中心に楽しんできたりした方にも、ぜひ手に取ってもらいたい作品ですので、よろしくお願いします。
通常価格は1,500円(税込)ですが、2月29日23:59までの期間中は、ニンテンドーeショップで20%オフの1,200円(税込)で販売されています。
気になっている方は、この機会に購入してみてはいかがでしょう。
また、4月26日までの期間限定で、ポケモンのLINE公式アカウントを友だち登録すると、LINEのサウンドスタンプが無料配信されています。「事件のかおりだ」「あいにくオレは記憶を失くしてるんだ」など、使い勝手のよい名ゼリフがそろっているので、こちらもお見逃しなく!
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