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2016年3月25日(金)

【電撃PS】SCE・山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』を全文掲載。テーマは“進化退化じゃなく”

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 ここでは、電撃PS Vol.610(2016年3月10日発売号)のコラムを全文掲載! 

第79回:進化退化じゃなく

 PlayStationが発売された当時、こんなことを思った憶えがあります。「これからゲームを遊ぶ子供達は、生まれたときから3Dのゲームを遊ぶんだなあ」と。僕達の世代が子供のころは、ゲームの絵といえば“点”であり、点で構成された図形だったりしたわけですが、そこに色彩が加わって、生き生きとしたキャラクターが描かれるようになりました。

 これが、点ではなく、“面”で構成されたゲームを遊ぶこれからの世代は、僕らとなにか感じ方が違ってくるのではないか。そんなことを思ったのです。でも蓋を開けてみると、ドットで構成されたグラフィック自体は、単純にデバイスの描画能力に応じて採用され、ノスタルジックな味わいを逆手にとったコンテンツが登場したり、そしてファッションとしても廃れることなく、その文化を維持、共存し続けています。

 ゲームが2Dから3Dになることで起こった一番大きな変化は、“カメラ”の要素だったと思います。それまでは、ゲームには横から見るか上から見るか、端的にはこの2つの視点しかなかったわけですが、それが3Dになり、空間をどう切り取り見せるか? ということが、ゲームの面白さや個性を左右する非常に大きな要素となったわけです。

 そういえば去年、中三の息子と『HELLDIVERS(ヘルダイバー)』というゲームを遊んだときのこと。『HELLDIVERS(ヘルダイバー)』は、SCEの海外スタジオが作った、基本的には見下ろし視点のアクションシューティングゲーム。戦略性と爽快感が両立した名作で、フレンドリファイヤ(同士討ち)の要素もあってエキサイトすること間違いなしなのですが、遊び始めて10分くらいしたとき、息子がこう言ったのでした。「これ、カメラの視点変えられないの?」

 いわゆる見下ろし視点のアクションゲームといえば、古くは『ガントレット』や、ハック&スラッシュの代名詞でもある『ディアブロ』、最近ではMOBAの『リーグオブレジェンド』など、数多の名作で溢れています。それらを一通り、系譜として遊んできている僕からすれば、あのジャンルのゲームは「カメラアングルが切り替わらない」というのが大前提なわけです。

 しかし、物心がついたときからPS3やPS4のゲームを遊んでいる息子にとっては、カメラはいくつかの視点に切り替えられるのが当たり前。トップビューも、“切り替えられる視点の一アングル”に過ぎない、という認識なのですね。

 世代や触れてきているモノの違いで、何かから受け取る印象に差が生まれる。そしてその差は、それぞれ個別には感じることができず、価値観が交錯したときに初めて、お互い気づくことになる。これは、ちょっと面白いなあと思いました。

 また、もう一つ僕がゲームの変化として気になっているのが、“物理ボタン”の存在についてです。随分前に知り合いの家族が家に遊びに来たときのことなのですが、その家族の子供は3人兄弟で、まあヤンチャなわけです。人んちにきていつも以上にテンション高くはしゃいでいるので、ママは大人と会話もできない。

 というわけで友達のママは、ちょっと子供の気を逸らすため、彼らにタブレットを渡したのです。で、子供達はゲームを遊び始めた。当時一世を風靡した『アングリーバード』です。さて、5歳児にプレイできるものなのかなと眺めていると、驚いたことに普通に操作をしている。しかもこれが結構上手い。引っ張って、角度を決めて、放す。シンプルではあるのですが、なんなく遊んでいたのです。

 そこでふと感じたのが、「これ、物理ボタンだったらここまで上手く遊べるかな?」ということでした。物理ボタンで鳥を飛ばす操作をざっくりイメージすると、まず1字キーで対象を選ぶ。選んだら、3ボタンを押して決定したまま、1字キーの左を押して対象を引っ張る。その際に角度も調整し、3ボタンを放す。ということになると思います。しかしこれを、5歳児にすんなり遊ばせるのは難しい。タッチインターフェイスの直観性って素晴らしいなあと思ったのでした。

 たとえば、物理ボタンでゲームを遊べなくなることは、プレイヤーとして“退化”したことになるのでしょうか。逆に、タッチ操作であっという間に上手くなれば、“進化”ということなのでしょうか。息子のように、“特定のカメラアングルにより遊ぶゲーム”という、ゲーム歴史上の不文律が通用しなくなることは、果たして退化なのか? 逆に、複数の視点制御にフレキシブル対応しているということは、進化なのか……?

 ゲームが2Dから3Dへの変化したこと。3Dに変化したことによる、それまであまり意識しなかったカメラアングルという要素が加わったこと。そして、“押す”という操作手段から、“触る”、“振る”といった拡張が行われてきた入力技術が生まれたこと。プレイヤーは、それら数多くのゲームの変化に、ことごとくついていっています。これらは、進化退化というより、“適応”ということなのでしょうね。面白い体験のために、自分の認識や技術をすり合わせていく能力。その適応という能力が、これまでにないくらい開花するのではないかと思うのが、そうか、『VR』の世界なんだろうな。

ソニー・コンピュータエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

ソニー・コンピュータエンタテインメントJAPANスタジオエグゼクティブ・プロデュ ーサー。PS CAMP! にて『勇なま。』シリーズ、『TOKYO JUNGLE』などを手掛ける。現在『トゥモローチルドレン』『NewみんなのGOLF』を絶賛開発中。最新作、『Bloodborne The Old Hunters』好調発売中!

 Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)

 山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!

※一部、誤解を招く表現がありましたので、掲載時より本文を修正しております。

データ

▼『電撃PlayStaton Vol.610』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2016年3月10日
■定価:657円+税
 
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