2016年3月30日(水)

『いけにえと雪のセツナ』開発陣が語る作品への思い。作りたいものを作ってユーザーに響くのかという挑戦

文:ライターM

『いけにえと雪のセツナ』

 “とりもどそう。ボクたちのRPG”をスローガンとして、スクウェア・エニックスが2016年2月18日に発売したPS4/PS Vita用RPG『いけにえと雪のセツナ』

 本作はスクウェア・エニックスが設立した日本発のRPG専門スタジオ“Tokyo RPG Factory”の第1弾タイトル。純国産RPGが隆盛を極めた1990年代。今でも記憶に残る当時のRPGのプレイフィールを追及し、“記憶に残る物語”、“記憶に残るゲーム体験を”の理念のもとに開発されました。

 発売から1カ月以上が過ぎ、すでにゲームをプレイした方、気になっているけどまだ遊べていない方へ向けて、プロデューサーの内堀建吾さんとディレクターの橋本厚志さんのインタビューをお届けします。

『いけにえと雪のセツナ』
▲橋本厚志さん(写真左)と内堀建吾さん(写真右)。

作りたいものを作って、それがユーザーに響くか?

──Tokyo RPG Factory(TRF)の第1作目が無事に発売されて、現在の心境はいかがでしょうか?

内堀建吾氏(以下、内堀):本当にあっという間でしたね。TRFの発足が2014年の夏なので、もう間もなく1年半になろうかというところです。

 短い期間でもちゃんとゲームを作って、お客さまからもさまざまな反応、評価をいただけてひと安心……いや、ホッとしているというのとも少し違うかな? いちユーザーとして、ああ、発売されたんだなという、達観したような状態ですね。開発側としてはどうでした?

橋本厚志氏(以下、橋本):わりと早めのタイミングで発表をしたタイトルだったんですが、発表から発売までよい緊張感で駆け抜けられた感じですね。中には発表してから、開発に2年、3年とかかるゲームもありますが、『いけにえと雪のセツナ』(セツナ)はそういうプロジェクトではないですから。

 自分の中では半年ぐらい前に制作発表して、そこから宣伝を開始して発売という流れが自然に感じるんです。なので、あっという間というよりは、開発ってこんな感じだよねという感覚です。とりあえず発売して、ちょうど今の市場にないタイプのゲームを出せて、いろいろな反応があって、という意味では得るものがたくさんありました。

 そうして得たものを、また次に生かしていきたいと思っています。やはりホッとしているというのとはちょっと違って、プレイしていただいている方々の声がとくにたくさん聞こえてくるタイトルなので、それについてはうれしいですね。

 どのような意見にしても、強い思いをぶつけられるというのがボクらにとっては一番うれしいので。いろいろな意見があるのですが、期待していただいた結果とはちょっと違う、というのも大切な想いだと思いますので、そこを含めてありがとうございますという感じです。

『いけにえと雪のセツナ』

──コマンド選択型のRPGの発売は久しぶりだったと思いますが、橋本さんは過去にさまざまなタイトルを手がけられているじゃないですか? やはり久しぶりという感覚でしたか?

橋本:話を聞いた時に“今この手のゲームを作れるチャンスなんてないぞ、ラッキー”という気持ちはありました(笑)。今のご時世、コマンド選択型のRPGはなかなか作らせてもらえないと思うんですよ。

 作りたいものを作って、それがユーザーさんにも響くと信じて制作できたというのがうれしかったですね。もちろん、「今の時代はこうじゃないでしょ?」という声もあれば、逆に「いや、こういうのがいいんだよ」と言ってくれる人もいる。そういう意味で幸せな作品だなと感じます。

──反響としては、やはりSFCだったりPS初期の感覚が多かったのでしょうか?

橋本:うーん、そういった反響は思ったよりも少なかったですね。そういうものを期待してプレイされた方もたくさんいらっしゃると思いますし、そこを期待していると言ってくださった方もいるのですが、いざプレイするとあまり気にならないんじゃないかなと。

『いけにえと雪のセツナ』

 おもしろいかおもしろくないか、自分に合うか合わないかみたいな。ご意見の中に「こういうRPGもあっていいんだな」というのがあったのですが、まさにボクらが言いたかったのもそういうことなんです。

 ああいう煽ったことを言っておきながらなんですが、他のRPGを否定するつもりはまったくないんです。単純に今、あの頃のRPGに近しい作品がほぼなくなっていたので、なら自分たちで作りあげよう、という選択肢のひとつだったと思っています。

 ユーザーさんの反応を見たうえで、改めて選択肢のひとつとして理解いただけた手応えはあるので、それはすごくよかったなと感じています。

──それこそ、生まれた時から高性能ゲーム機が作り出すリアルな3Dタイトルに触れてきたような若い世代からはどのような反響があったのでしょうか?

橋本:プレイしていただけるところまで興味喚起できなかったのか、あまり見なかったな、という印象です。まったくなかったわけではないのですが、やはりネットでさまざまなご意見を書かれているのは、懐かしさを感じる世代の人たちが多かったのかなと。

 ボクらのところに聞こえてくるのはネットで声を上げる人たちがメインになってしまうので、それでは偏ってしまうという自覚もあったうえで見てはいるのですが……なにかコレという意見は見かけました?

内堀:たしかに明らかに若い世代の方のご意見は少なかったかな、という印象ですね。

『いけにえと雪のセツナ』

橋本:反省とも違いますが、そういう人たちにも届くように作らなければいけないなとは思っています。そういえば『クロノ・トリガー』をプレイしたことがないという人もいたかな?

──そういう人にこそ、ある意味新鮮に映ると思うのですが。

橋本:そうですね、「ああ、こういうゲームもありなんだ」と受け止めてくれる人もいるんじゃないかなと思っていますし、そういった人からの意見もゼロではなかったので。

──内堀さんにとって、印象的な反応や意見などはありましたか?

内堀:発売前も発売後も、ツイッターやSNSといったインターネット上での反応を見るという日々を過ごしていたのですが、そういった中で特に多いかなと思ったのが、ボクらが目指していたあの頃のゲームというものに共感してくれた人たちの声なんです。

 やはりこういうタイプのRPGを新作として遊びたい人は多いんだな、ということを体感できたのは非常によかったと思います。

 こうしてインターネットを介してユーザーさんの意見や反応を知ることができる今の時代ってすごいなとも思います。昔は、ゲームを開発している人間がお客さんの声を聞けることなんてまずなくて、どういう風にプレイされているのかもわからないことがほとんどでした。

 今は遊んだ後の感想がよくも悪くも、批判も含めてボクら開発に携わった人間の目に触れますから。そんな時代になっていることが、あの当時のゲームをもう1回作ろうと言いながら、時代は“今”なんだな、という変な感覚に陥りましたね(笑)。

『いけにえと雪のセツナ』

──それこそ当時はゲームに同封されたハガキ程度で、プレゼントでもつけないとまず送らなかったですよね。

内堀:そうそう、返事してくれない(笑)。まあそういう今の時代にもちゃんと届けられる商品、ゲームであったなというのが、皆さんの声から心に残りました。

当時のゲームのお約束は現在には向いていなかったのか?

──長年ゲームに触れてきた者としては、当時の作法的なものが数多く込められているなと感じたのですが。

橋本:そうですね、結構お約束を入れたのですが、そこはいろいろと勉強になりましたね。お約束を守った結果、今の時代にそぐわないお約束もあるなというのを改めて感じた部分もあります。

 ああ、そうなんだと思ったのが“封印宝箱”なんですが、カギつき宝箱はすぐに入手できないのがストレスという意見が多くて、昔はいつになったら開けられるのか、というのをみんな楽しみにプレイしていたと思うんです。

 “封印宝箱”が多すぎたというのもあるかもしれませんが、そもそも昔に比べてゲームに対するつきあい方が変わってきている、より即物的になっているんだなと感じました。

『いけにえと雪のセツナ』

 じゃあそれを具体的にどうするか、次はどうするかとかは決まってないですし、やるかどうかもわからない状況ですから、それをどう生かすかというのは今後の課題なのかな。

──ユーザーさんからの反応として、音楽周りの評価も非常に高かったのかなと思いますがいかがでしょうか?

橋本:これもおもしろいんですよね。ボクらとしても音楽は自信をもって出しましたし、すごい評判も高いのですが、一方で“眠い”という人もいました。なるほど、そういう評価もあるのかと。

 他にも、バトルの曲はもうちょっとアツイほうが好きという意見もありました。曲に関しては、すごくよい曲を作っていただけたなと、ゲームの内容にもマッチしているなと思っていたので、音楽だけのゲームと言われないようにがんばらないといけないなと考えていました。

──音楽の評価が高いだけにですね。

橋本:音楽に限らず、一部分だけ評価されるような作品にはしようにがんばって作っていたというのはありますね。

──音楽と言えば、トラウマとまではいかないまでも、レア強敵に遭遇した時の絶望感も、思わずコントローラーを放り投げたくなるほどいい感じでしたね。特にセーブポイントやダンジョンの出口付近であの音楽が聞こえてきた時は……

橋本:石に蝕まれた魔物は全ての魔物を配置した後に空いてるところに置いていったので、狙ってやったわけではないこともあり、反省点として認識しています。ただ、それがよいという意見もあるので、いろんなご意見があるなと(笑)。

──ゲーム中にわざわざ“いつもとは違う強敵も出るよ”とチュートリアルまで用意されているにもかかわらず、1か所だけ踏んでしまった覚えが。ダンジョンの出口付近で、最後の一部屋にしれっと配置されていて、直前にセーブもしていなければ離脱用のアイテムも持っていなくて絶望しかなかったという。

橋本:オッカオッカの山ですよね?

──そうです!

橋本:スイマセンでした(笑)。結果的に、お約束のような感じとなり、記憶に残るというのはあったと思うのですが、とはいえ一歩間違えるとゲームをやめるきっかけになりかねないので、匙加減は難しいですね。

 お約束と言えば、あえてお約束を外したところもあります。よく言われるのが宿屋がないことなんですが、設定的に魔物が徘徊していて、その被害を抑制するのにいけにえを捧げる、この世界では、旅人自体が非常に珍しい存在という設定がありました。

 結果として宿屋が繁盛することはありえない、ということでRPGのお約束ともいえる宿屋を入れなかったんです。

『いけにえと雪のセツナ』

 バトルからの逃走についても、『セツナ』のエンカウントシステムから見ても、場所はそのままで敵だけが消える、というのは表現的に違うよね。ということで、アイテムのミストーンを使うと逃げられるようになりました。

 結果として、そこはお約束でいいんだよ! という声をたくさんいただきました。ユーザーさんの中でこれは守ってほしいお約束だなとか、このお約束をやってしまうと今は面倒くさいと感じる人が多いんだな、とか。

あえてストレスを感じるようにすることで、印象に残るゲームを

──最大公約数的なものは世代によっても違うとは思いますが、とあるRPG好きの編集者からは“もう一段階手応えのあるモードがほしかった”という意見もありました。まあ、倒すとメテオを放ってくる敵もいましたが……。

橋本:ネットを見ていたら、ダメージがオーバーフローを起こすくらいやり込んでくれている人もいらっしゃって、「いや、3万ダメージは中々いかないぞ」と話していました(笑)。それを見た時に、無茶苦茶強いボスを作っておくべきだったか、とは思いましたね。

 法石に蝕まれた魔物もそのつもりではあったのですが、もっと強くてもよかったのかなと。ただ、手に取っていただいた人にはエンディングまで挫折せずに遊んでもらいたい、と思っていました。

 難易度はちょうどいいという人もいれば、簡単すぎるとか難しすぎるという人もいるので、丁度いいバランスだったのかなとは思います。さらにやるのであれば、バランスを調整するシステムを入れるとか、もう少し今のユーザーさんのニーズに応える部分も入れていかないといけないとも思いますね。

──内堀さんとしては、難易度はいかがでしたか?

内堀:ボクは開発の中でもだいぶゆるいほうなので、むしろ十分、ちょっと難しいんじゃないかなというくらいの難易度でしたね。まあ、どういうお客さんでも許容してくれる懐の深いゲームという、いいバランスが取れていたのではないかと思います。

『いけにえと雪のセツナ』

──編集部内でも「もっと手ごたえのあるほうがいい」と豪語していた編集者も、わりとよく戦闘不能になっていたようで、返り討ちに遭ってからもう一度作戦を練り直すという。

内堀:そういうのも含めて、昔やっていたゲームの遊び方の1つでしたよね。それがいいと言ってくれる人もいれば、もっと今のゲームデザインのようにきちんとした、エスカレーターのようなレベルデザインで、ユーザーさんがカタルシスを感じられるような心地よいテンポ感を求めている人もいますね。

橋本:完全なノンストレスは嫌だったんですよ。最初はもっとテンポ感重視の方向性も考えていたのですが、昔のゲームは違ったよねというところで、ある程度のストレスがあるからこそ解放された時の快感があると思っていたので、その選択は後悔していないです。

──最初のボスに負けている人も結構いるようですが。

橋本:そうなんですよ。ボクの中では弱くし過ぎたと思っているのですが、結構全滅している人もいるみたいで。抑えめにしたほうがよいというのは感覚ではわかっていますし、ボクは全部把握しているからなおさらですよね。

 でも、あまりにもノンストレスなゲームって、プレイした後に何も残らないと思うんです。かなりインパクトの強いストーリーならわかりませんが、さらっと遊べてしまうとあまり記憶にも残らないな、というのが自分の中でもあるんです。

 やはり昔のゲームは、ボスと戦ってみたらものすごく強くて、「ああ、これは全滅系のイベントかな」と放置したら普通にゲームオーバーになって驚かされるとか、そういう体験が1回や2回あるゲームのほうが個人的には記憶に残っているんですよ。

 そこで少しレベルを上げただけでちゃんと戦えるようになったりするのがボクらが遊んできたゲームなので、そういうところは外したくないなと。

『いけにえと雪のセツナ』

 ストロングシープは絶望でしたという意見が多いのですが、あのボスじつはリジェネを1回しか使わないんです。ボスに対してマヒも有効ということがネットで広まりましたけど、状態異常とかは結構効くようにしてあるんです。

 状態異常にする魔法があまり機能していないゲームになるのは嫌だなと思って、少し工夫してあります。

──マヒさせている間に立て直すと?

橋本:もちろん敵もずっとマヒしているわけではなく、一度マヒから回復するとしばらくマヒが効かないようになったりと、そういうところでバランスをとってあります。

 ある程度レベルデザインしたうえでのある意味わかりやすい攻略方法はあったほうがおもしろいと思っていますね。

──キャラごとのバランスもかなり極端なので、どのようなパーティでプレイしているかによっても戦い方が変わりますよね。

橋本:ボスも苦戦するポイントが人によって違うんですよ。開発の間でも「オレ、ここですごい苦戦するんだけど」「ああ、その場面でそのキャラを入れていたら仕方ないよね」とか。

──個人的に、雪の世界だからファイガは強いのではと思っていたら、案の定強かったですね。

橋本:確かに火が弱点の敵が若干多めではあります。やはりどうしても世界観に引っ張られる部分はありますよね。あと、キールはHPなどを犠牲にしているぶん、攻撃力に大きく振っているので、彼の魔法はとても強いんですよ。

 正しくはファイガが強いわけではなく、キールが強いんです。ただ、強いボスと戦うときっちり対策を練らないとキールは真っ先に倒されてしまうでしょうから、オーロランタイガーなどはかなりしんどいと思いますよ。

『いけにえと雪のセツナ』

──通常の探索はキールで雑魚を蹴散らしつつ、ボス戦になったら他のメンバーと入れ替えたり?

橋本:それはよい選択の1つですね。いろいろなキャラクターを試しながら、場面場面で使い分けるように遊んでもらえたらいいなと思いますが、「このゲームってパーティチェンジ前提なの!?」という意見もいただいて、もう少し固定して戦いやすくしてもよかったのかなという気もしています(笑)。

──ストーリー展開で「ああ、このタイミングで抜けちゃうの?」という場面も多くて面食らいました。

橋本:それもお約束ですよね。開発後半のバランス調整をしている時に、全員に経験値が均等に入るようにしようかという話もあったのですが、そこまで親切にするのはやりすぎだよね、という声もあり、最終的に戦闘に参加していないキャラへの経験値は50%に落ち着きました。

 結果的にそれが賛否両論になっている部分もあるとは思います。やはり今はそういうことを考えなくても遊べるゲームが多いので。

──昔の作法という点では、気に入って使っているキャラが突出して伸びていくというのは楽しくもありますけどね。

橋本:どちらがいいのか難しいところですね。この選択にまったく後悔はないのですが、そういう意見もあるのは実感しています。

『いけにえと雪のセツナ』

──武器もまんべんなく買っておかないと苦労しますよね。

橋本:そうですね。昔はそういうゲームが多かったと思うんです。「え!? こいつここで抜けるの?」みたいな。

──やらかした感はなんとも言えません。昔なんて武器や防具を持って行ったまま戻ってこなかったりも普通にありましたし。

橋本:帰ってくる時に新しい武器や防具になっていて、直前につぎ込んだお金返せ的な。

──FC時代は仲間が外れる前に装備を外しておくとかありましたね。

橋本:ありましたね(笑)。

あえて語りすぎていない物語だからこそ、行間を楽しんでほしい

──ネタバレになるようなことは一切書けないのですが、ストーリーに対してのユーザーさんの反響はいかがでしたか?

橋本:一番賛否揺れているんじゃないですかね。最高と言ってくれる人もいれば、なんだこれ! と言う人もいますね。

 ここも昔ながらのイベントの見せ方を意識してシステムでゲームを作っているので、こういうイベントに慣れていない人からすると演出が弱いというか、あっさりしすぎていると感じる人もいるみたいです。

 後はボリュームに対して、もっと長く遊びたいという意見もありました。全体的に雰囲気とマッチしていて最高だったという声もあれば、後半で泣けましたという人もいるし、サブシナリオもすごく楽しんでいただけているようですので……まあ、キャラを掘り下げているストーリーなので受け入れていただける要素は強いんですけどね。

『いけにえと雪のセツナ』

 他にも、スケール感が弱いのではないかという意見もありました。たぶん、演出があっさりしているという意見とセットだとは思うのですが。あとは、昔のゲームでもあったように、あえて語りすぎない、という部分を多く残していますので、ユーザーさんが誤解している部分も結構あったりします。

 そこは行間を読んで楽しんでいただきたい部分ではあるのですが、答えを求める声をはじめ、いろいろなリアクションが返ってきています。

──特に後半は解釈の余地がありますよね。

橋本:そうですね。開発末期にエンディングのスタッフロールを見ていて思ったのが、ある人物と主人公のボイスが同じ声優さんだということに対して考察が出てくるのかなと……。

──声が同じだといろいろと勘ぐってしまいますよね。

橋本:「主人公は●●が生み出した存在だと考える人もいるんじゃないの?」などと言っていたら、案の定、そういった意見もありました(笑)。

 行間のあるストーリーにしたかったので、そういう意味ではすごくよかったのかなと。それをあっさりしていて物足りないという人もいるだろうし、好みの問題だと思っているので、どちらが正解という話でもないですけれども。

──あまり突っ込んだことも聞けないのですが、ゲーム中に主人公の正体は明示されていないですよね?

橋本:ある理由から描いていないですね。そのため、こういうタイプのキャラには感情移入できないという声もありました。ボクらとしては『クロノ・トリガー』のクロノとか『ドラゴンクエスト』の主人公などと一緒で“しゃべらない主人公”で感情移入を誘発できるように作ったつもりですが、その文法もちょっと変わってきたのかなと。

『いけにえと雪のセツナ』

内堀:ボクは今そういう話を聞いて、ああ、そうだったんだというくらいなので、あまり文法の変化というところまでは感じなかったですね。

橋本:これは友人に言われたのですが、「なりきるにしても、なりきるなりの設定が欲しいんだよね」と言われて、なるほどなと思ったりもしました。もっとも、“しゃべらない主人公”にしては謎めいた感じが強すぎたのかもしれないとも思っています。

──会話選択はわりと自由だったので楽しめました。

橋本:よかったです。プレイしていると、だんだんと返し方がわかってくると思います。こう返すと、きっとクオンに突っ込まれるんだろうなと思って選ぶと本当に突っ込まれて、よしよしと思っている自分がいるわけですよ(笑)。

 そういう選択を繰り返していくことによって、プレイヤーが主人公に感情移入していく儀式として意図的に入れたシステムなのですが、そこはすごく成功したのではないかと思っています。

『いけにえと雪のセツナ』

──RPGではどうしても正解を選ばされる感もありますが、『セツナ』だと本当に好きなほうを選んでいけるという。

橋本:そうですね、分岐させないというのはそういう意図もあります。やはり正解を選びたくなるじゃないですか、ゲームですから。

 ただ、今回に関しては正解を選ぶということに意味を持たせていないので、純粋に自分の好きなほうを選んでもらえる。ボクもそうなんですが、この質問には答えられないよ! というのがいくつかあるんです。そういった部分が、主人公に感情移入するうえでよかったのかなと思いますね。

「toi8さん以外ありえなかった」――世界観や“切ない”部分を表現するキャラクターたち

──キャラクターデザインについてもお伺いします。toi8さんにオーダーしたポイントなどもお聞かせいただけますか?

内堀:toi8さん以外ではありえなかったというのが正直なところです。企画段階からtoi8さんで行こうと決めていましたので、他の方にはお声がけもしていません。

 ボクらが当初、このゲームのコンセプトを練っている時から、今回のキャラのイメージ像というのがすでにtoi8さんの描かれるイラストだったんです。toi8さんの描かれる絵ってすごく繊細な描写をしていて、キャラの躍動感だったり説得力というものがきちんとキャラの背景として見えてくるんです。

 そこが本作のキャラを作るにあたって“切ない”という部分の描写であったり、世界観をきちんと作るうえでの説得力との相性だったりが、過去のtoi8さんの作品を見て一致していたのかなと思います。

『いけにえと雪のセツナ』

──デザインそのものについてのこだわりポイントはいかがでしょうか?

内堀:ボク自身がアートディレクターではないのですが、toi8さんとの打ち合せを見ていて、ああ、なるほど、と思ったのは、各キャラのシンボルやアイコンのようなものなんです。

 一番わかりやすいのはクオンのマスコットとか、ヨミのハートのペンダント、キールはしっぽとか、ジュリオンは宝石がついていたり、いろいろと象徴するようなアイコンめいたものがそれぞれのキャラについています。

 いつかこのゲームを好きになってくれた人たちがキャラにも愛を持ってくれて、彼らが身に着けているものを自分でも持っていたいという気持ちになってくれたら……。

 プレイしてくださった方がキャラを愛してくれた時の最終到達点のひとつとして、商品展開ができるとしたら、何を持っていてくれるとうれしいのか? というところまでアイデア出しをしていました。

──橋本さんはイラストについていかがですか?

橋本:実はもともとtoi8さんのファンだったんです。ボクが参加した時点ではすでにtoi8さんと決まっていて、「お、ラッキー♪」と。『セツナ』ではわりと、toi8さんの素の画に近いデザインをしていただいているので、すごくよかったなと思っています。

 実際のゲームキャラは3~4頭身なので、デフォルメするのに苦労はしましたが、うまく落としこめたかなと。もちろん、はまるべくしてはまっているというのもあるのでしょうが、やはり昔のRPGらしいな、と思いますね。

『いけにえと雪のセツナ』

 例えば初期の『FF』の場合でも、天野喜孝さんのイラストが動いているわけではないですよね。でも、イラストを見てプレイしているから、脳内では天野さんのキャラ同士がしゃべっているんです。

 そこが想像するおもしろさだと思うし、行間という部分のひとつだと思っています。好きか嫌いかは別として、そこが再現できたのはよかったなと。プレイしている時に、toi8さんのイラストが脳裏に浮かんできますから。

──では、キャラについてひとことずつコメントをお願いします。まずは主人公から。

橋本:主人公はシンボリックなものがいろいろとあるじゃないですか。仮面とか光る剣とか、モチベーションが上がるデザインだなと。無口なキャラっぽい雰囲気も出ていて、すごくいいデザインだと思っています。

『いけにえと雪のセツナ』

──暗殺を生業にしていたり、主人公にしては陰のあるところも特徴なのかなと。

橋本:多くのRPGが戦いとは無縁だった村の少年がある日を境に剣をとって成長していく、という成長を描いているのに対して、JRPG的に言うと、経験を積んできたキャラですからね。逆に、そこが少しキャラの設定が弱いのではないかと言われている部分かもしれません。

──まあ、記号的なものですからね。

橋本:よくも悪くもその作法に反しているから指摘されたのかもしれませんね。

内堀:ボクは普通に、なんで剣が光っているんだろうと思いました。武器はキャラの象徴でもあるんですよね。JRPGの作法の中でよく海外と比較されている、なぜ華奢な少年がそんなに重たい大剣を振り回しているのかという部分に、日本人は中二的なカッコよさを感じ取れる文化があるじゃないですか。

 もちろん、『Gears of War』のような、ああいう屈強な手練れたちでないと銃器を扱えないような説得力がカッコイイんだ、という海外の文化もすごく理解できます。そういった世界市場も見据えて考えてもらう中で象徴的な剣が光っているというのは、きっと某有名映画でいうところのライト●イバーなんだろうなと(笑)。

『いけにえと雪のセツナ』

──武器を変えるとゲーム中のグラフィックも変わりますが、実はtoi8さんのデザインが最強装備のデザインになっていたりしませんか?

橋本:最強武器ではなく初期武器にしました。『FF』とかもよくよく見ると初期武器だったりするはずです。デザインする方としても最強武器にするなら、そういうデザインにしたのに、っていうこともあると思いますので。

──では、次にセツナについてお聞かせください。

橋本:セツナは最終的に露出が大きく減りました。最初はすごく露出が多くて、生贄が一番寒そうだとか、守られる対象が無防備すぎると。いろいろあって現在の感じに落ち着きましたけれども、ひと目でヒロインとわかるデザインですよね。

『いけにえと雪のセツナ』

──いざプレイしてみると、思った以上に芯の強さも感じられたのですが。

橋本:ボイス収録の時にも言われたのですが、全員芯が強くてどう演じ分けたらいいのかと困ると(笑)。まあセツナが一番キャピキャピしていていいよという話はしたんですが(笑)。

 ちょっとお堅い感じというか、箱入り感がデザインからも出ているのがすごくよい部分だと思います。ちなみに、服のデザイン自体は生贄の衣装なんです。だから村でもセツナがずっとこの服を着ているわけではなくて、生贄の旅の最中だからこの服を着ているという設定です。

 あんな地味な服ばかり着ている村で、セツナだけこんな派手なの着たらちょっと引くよねと(笑)。後は何といっても、頭部の武器が特徴です。

──円月輪ですね。武器を使用する時のアクションも独特で驚きました。

橋本:結構衝撃を受けたという声も聞きますね。「え? それ武器になるんだ!?」って。実はここでも『クロノ・トリガー』を参考にしていて、マールがボウガンを使った遠距離攻撃だったから、やっぱ遠距離攻撃がいいよねという話しになり、円月輪に落ち着きました。

 でも、シナリオライターさんからは「円月輪投げるって、もうこれ守られる対象じゃないのでは?」とも言われました(笑)。

内堀:セツナは他のキャラと比べても民族衣装的なところが強いですよね。生贄の儀式の服だからこそ、民族の象徴のような形になっているのかなと思います。

『いけにえと雪のセツナ』

──では、次はジュリオンについておうかがいします。

橋本:ちょっと設定の話になりますが、この世界はあまり金属がないという世界観なんです。

 そもそも武器を持って戦う人がほぼいないし、魔力が通っていない武器は魔物に対して効果がないという設定があって、金属自体がすごくレアな設定なんです。おかげで、toi8さんもジュリオンの鎧のデザインとか困ったとおっしゃっていましたね。

『いけにえと雪のセツナ』

──ということは、ジュリオンの鎧は金属ではないのですね?。

内堀:なめし革を縫い合わせたようなものです。だからよく見ると、甲冑の外側にちゃんと縫った跡があるんですよ。

橋本:デザインについては、ひと目で騎士だなと思いました。toi8さんがおっしゃっていたのは、白を基調としているので、雪景色の中でいかに目立たせるかに苦労されたそうです。

 あとは武器が槍だったので、『FF』のお約束ができるなと思って見ていました。間違いなく“ジャンプ”だろうと思って(笑)。

『いけにえと雪のセツナ』

──間違いないです。ジュリオンは使ってみると、意外にトリッキーなキャラですよね。

橋本:使っていて楽しいし強いキャラなのですが、仲間になるタイミングが遅いこともあって、なかなかメインのキャラとしては使われていないようです。

内堀:ボクは一度もパーティメンバーとして使ったことがないですね……。

橋本:チェイスとか使うと、勝手に追撃してくれるからすごく強いんですけどね。クオンの天衣無縫と組み合わせるとすごく強い。うまくやれば大概のザコ敵が一撃で倒せるようになります。

──最初見た時はタンク寄りかなとも思ったのですが、いざ使ってみると……。

橋本:完全にアタッカーですね。デザインを見た時に人気出そうだなと思ったんですけど、役回り的に損しているところがちょっとあるのかなと。

『いけにえと雪のセツナ』

──続いて、クオンですが……。

橋本:褐色系の女性だったので、最初見た時は結構びっくりしました。開発初期の設定では主人公の幼なじみ的な感じだったので、こういうデザインでくるのかというのがちょっと新鮮でしたね。

『いけにえと雪のセツナ』

──突っ込み役でもあり、セツナにベッタリでいい感じでしたね。

橋本:最終的には幼なじみの設定はなくなり、今に落ち着いています。あと、当初の設定では格闘キャラだったんですよ。

──性能的にもATBとスピードキャラって相性がいいですよね。

橋本:そうですね。最初から強いキャラだと思っていたのですが、クオンは決め手に欠けるという人もいて、好みはわかれるみたいですね。強くしようとすると少々テクニカルですから。

 あと、クオンのデザインが上がってきた時にカエルがあしらわれていたので、これは“カエル落とし”(※)だねという話をしていました。これについては開発の序盤から“カエル落とし”を入れたいねという話をしていたんですが、そんな折、このイラストが上がってきたので、これはもうやるしかないと。

※カエル落とし:『クロノ・トリガー』や『FFIX』などに登場する技。特に『クロノ・トリガー』では、巨大なカエルが画面を跳ねる演出が特徴的。

内堀:ボクはクオンもパーティメンバーとしてはほとんど使わなかったですね。ゲームキャラというよりはイラストという観点から、かなり当初に上がってきたキャラの一枚なので、『セツナ』というゲームのキャラの方向性を決める時に「ああ、こういうキャラが今後どんどん登場してくるのか」という1つのきっかけにもなって、驚きを含めた楽しさが強く印象に残っています。

橋本:後はストーリーの大事な部分を担うキャラなので、まあ人気も出ますよね。

『いけにえと雪のセツナ』

──お次はヨミについてですが……。

橋本:バトルでの使用率が非常に高いキャラですよね。

──わりと戦闘不能になるゲームなので、ヨミがいると心強いです。

橋本:元々おっさんキャラで渋い役どころ、という感じで、ちょっと和風テイストをという話だったんですよ。

『いけにえと雪のセツナ』

橋本:キャラの性格の話しですが、開発初期のころとはだいぶ印象が違っていて、なんだこのクズみたいなキャラは、とか言われていたんです(笑)。最終的には一番いいキャラじゃないの? と開発内でも言われるくらい人気のあるキャラになりました。単純に強いというのもあるんですけど、ストーリー面でも掘り下げていますし。

──プレイ前はもっと固そうなイメージだったのですが、登場シーンはちょっと衝撃的でしたね。

橋本:確かに(笑)。あと、キールとヨミのやり取りが楽しいというご意見を結構耳にします。すごく切ない、重いストーリーが続く中で、この2人のやり取りが救いになっているところがあったのかなと。

──2人の少し抜けたやり取りとかで癒されることは多々ありますよね。

橋本:そうですね。ヨミとキールの絡みはある種テンプレといえるものなんだと思います。

『いけにえと雪のセツナ』

──ヨミやキールについて、内堀さんは使用率いかがですか?

内堀:ボクの場合、ヨミはほぼ常駐メンバーです。主人公とセツナとヨミという編成を最初から最後まで貫いていたので、キールはあまり使っていないですね。

 これはちょっとゲームシステム的な話になるんですけど、おもしろいなと思ったのが、ヨミ最強という人もいれば、いや、キールでしょという人もいたので、そこらへんはちゃんと色が付けられてよかったなと。結果的にみんないいキャラクター性が出たなと思います。

 当初、toi8さんにどのようなキャラを描いてもらうのかというオーダーをする時に、キャラや印象が被らないように、身長とかテーマカラーとかのマトリクス表をもとに、外見で被るような要素を削り落とすような作り方をしているので、見栄えとしてもキャラが立つようになっています。

『いけにえと雪のセツナ』

 そうやって、ロジカルにキャラを描いては見るものの、昔と同じようなテンプレートにパッとはまったんですね。じゃあ昔の人もロジカルに作ったのかと言われると、必ずしもそうではもないと思うんですが。

 ボクの中ではこのキャラクターたちを作るなかで、昔作られたゲームの感覚的な部分と、もう1回ボクらがきちんとロジカルにキャラを作るということのチャレンジの結果、ゴールが一緒だったということがちょっとした驚きでした。

橋本:それはもしかしたら逆かもしれません。ボクらは昔作られたものに影響を受けているので、ロジカルに考えると結果そうなるようになっているのかもしれないです。

──以前のインタビューでも少し話されていましたが、スタッフ間で「こういうのってこうだよね」というお約束とか共通認識に通じる部分ですね。

橋本:ボクらの“こうだよね”というものが、どうしても昔作られたものに影響を受けているので、ロジカルに考えているつもりでも、たぶん大きく影響されているんだろうという気がします。

 ただ、キャラにしても、そこまでズレているものはなかったような気はします。最初から「こういうキャラいるよね」みたいな感じで。

──そのへんの心地よさがうまくはまって、遊んでいても「こういうキャラならこういうスキルが欲しいよね」という部分が感じられましたし。

橋本:そこは極力合わせたつもりです。

ストーリーでは『DQI』の“アレ”をやろうとしていた? 今だから語られる裏話

──今だからこそ話せるボツネタ的なものはありますか?

橋本:当初のストーリーでは『ドラゴンクエストI』の、「お前に世界の半分をやろう」というくだりをやりたいね、と話をしていました。

 オマージュでこういうのをやろうよと話していたネタが結構あって、それなりに盛り込んでいるのですが、最終的に『セツナ』の世界観に合わないものは入れていません。

──セツナシステムなどはかなり特徴的でしたけれども、システムについてもさまざまな案があったのでしょうか?

橋本:わりと出しましたね。システム的な話でいうと、プレイヤーキャラをバトル中に移動させるかというのもありました。最初はそれ自体をセツナシステムにしようといっていたんですよ。

 知人にも「なんで動かせないの?」と言われたりするのですが、動かせてしまうとたぶんゲームとして面倒くさくなっちゃうんですよね。複雑になって、テンポも悪くなるし、位置取りに関してももっと意味をつけないとダメだろう、という話になって取りやめた経緯があります。

 今どきのゲームなら動けないとダメなのかな……という議論があったのは事実ですね。ATBを消費して移動するみたいなことも考えたりはしました。

『いけにえと雪のセツナ』

──たまに、回復範囲の都合を考えつつ、キャラが動いてくれるとありがたいなと思うこともあったのですが。

橋本:オプションとしてそういうのがあってもいいのかもしれませんね。セツナシステムについては、タイミング入力も最後まで悩みました。コマンド入力型のRPGにアクション的なタイミング入力という要素が入るのはどうなんだろう? と。

 悩みつつもいろいろと案を出したうえで、今のセツナシステムに落ち着きました。

──敵を選びつつも、別ボタンでセツナシステムの入力を見図るというライブ感がおもしろかったです。

橋本:入力タイミングについては最初に決めて、受付時間も意図的に長くしています。最終的に気持ち入力受付時間を短く調整したら思った以上にいい感触になったのでこれで行こうと。

 開発内でも最初はみんな苦戦するんですが、プレイするうちにほぼ確実に出せるようになっていったので、よかったのかなと思います。

──ATBと相性のいいシステムですよね。

橋本:最初は結構反対意見も出ていました。待つ時間が多くなりすぎるんじゃないかとか。でも、待ったとしてもダメージを受けたらゲージはたまるので、SPがたまるのを待つか、待たずにすぐ行動するかの戦略も生まれたのでいい形に落ちついたなと思っています。

──刹那ゲージが最大3つという上限もちょうどよい感じです。

橋本:連携のために待っている時間がムダじゃなくなるのがいいという意見もありました。

 いろいろボツネタがあった中で落ち着いたシステムですが、セツナシステムが一番苦労した部分ではありますね。それ以外は結構最初からやろうと思っていたものが多いです。

『いけにえと雪のセツナ』

Tokyo RPG Factoryとしてのこれから。『セツナ』の続編はあるのか?

──Tokyo RPG Factoryとしてのお話になりますが、今後も『セツナ』のような方向性で制作を続けられるのでしょうか? それとも、また違った方向性を考えられているのでしょうか?

橋本:次も作るチャンスがあれば、古きよきRPGをテーマにするというのは少し違うのかもしれないです。今向いている方向性をさらに進化させるというか。

 今回の『セツナ』は昔のRPGをそのまま作りましたというものではなくて、忘れられた分岐の先にあるゲームだと思っているので、これをそのまま作り続けるというのも違う。

 さらに進化させていくことができればいいのかなと思ったりはするのですが、それは今後のボクらのがんばり次第なのでなんとも言えません。

『いけにえと雪のセツナ』

──『セツナ』の外伝的な作品であったり、また、同じ世界観で描かれるような作品の予定はあるのでしょうか?

橋本:冗談ですが、5年後に続編作って、10年後にリメイクを作ろうと話していました(笑)。今回『セツナ』の舞台となる世界には結界があるじゃないですか。結界の外に大陸があってという設定はゲーム中にも出しているので、そういう余地があるようには作っています。

 ただ、本当に出すかどうかとなると、それがゲームとして魅力的なものになるアイデアが出るかどうかですよね。また、『セツナ』の直接的な続編については、やるべきではないと思っています。

──確かに、物語は続編がないという感じで終わっていますね。

橋本:キレイに終われた作品なので、あれ以上は蛇足だと思うんです。だから、そういう意味ではやるべきではないと考えています。まあ外伝とかなら、あってもいいのかもしれないという温度感です。

 どのような結末を迎えられたかについては触れませんが、プレイされた方が感じたことを壊したくはないですから。

『いけにえと雪のセツナ』

──きっちり終わったと思える結末だったなと思います。

橋本:それは大事にしたかったところですね。この作品はキチんと終わっているよというのは大事だと思うし、20時間程度で終わって、魅力的なお話ですと言えるゲームであるべきだと思っていたので、そこはちゃんとできてよかったなと。

──では、最後に『セツナ』をプレイした方々へのメッセージをお願いします。

橋本:まずはプレイをしてくれた方々、ありがとうございます。多くのゲームがある中で『セツナ』が気になると買っていただいて、期待に応えられなかった部分もあるとは思いますが、実際にプレイしていただけたことにとても感謝しています。

 『セツナ』はよくも悪くも、賛否両論あるゲームだと思いますが、開発一同すごく熱意を込めて作ったゲームですし、いろいろな魅力が詰まったゲームだと自負しています。

 まだプレイされていない方にもぜひプレイしていただいて、そのプレイ体験が宝物になってほしいなという思いがあります。ボクらには、プレイしていただくことに勝るものはないんです。どんなご意見であろうと、プレイしていただかないと始まらないので。

 ここまでインタビューを読んでいただいた方で、まだプレイされていない方がいらっしゃれば、ぜひプレイしてみてください。よろしくお願いします。

内堀:ボクの中で『セツナ』というコンテンツを出せたこと、それをプレイしていただけたことを本当に幸せに思っています。このゲームは“Project SETSUNA”というプロジェクトの作品のひとつで、プロジェクト自体、10年経っても色あせないエンターテインメントを目指すというコンセプトで立ち上げました。

 遊んでいただいた皆さんが10年後に『セツナ』というゲームを思い出してくれることが、ボクらのミッションの達成になります。それが今回の『セツナ』だけではなく、今後僕らが作り続けていくゲームを含めて10年経ってもお客さんの心に残っているゲームというのを作りたいと思っています。

 まだプレイされていない方にはぜひ体験してほしいですし、プレイされた方は、きっと10年後におもしろかったなと思い出されると思うので、10年後まで楽しみにしていてください。

『いけにえと雪のセツナ』

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