2016年4月30日(土)
サイバーエージェントとCygamesが共同制作する次世代ガールズRPG『プリンセスコネクト!(プリコネ)』のオリジナルノベル第1話を掲載する。
『プリコネ』は、現実世界とVRゲーム“レジェンド オブ アストルム”の仮想世界を行き来しながら、女の子たちとのコミュニケーション冒険が楽しめるスマートフォン/ブラウザ用ゲーム。
本作のオリジナルノベル『プリンセスコネクト! ~プリンセスナイト争奪戦~』では、恋愛シミュレーションゲームのシナリオなどを手掛けてきた太田僚先生が、現実世界での恋愛コメディを4話構成で描いていく。
▲西洋ファンタジー系の仮想世界“アストルム”の中では、好みの職業やアバターを選んで冒険できる。 |
⇒『プリンセスコネクト! ~プリンセスナイト争奪戦~』の登場人物はこちら
放課後、椿ヶ丘高校の屋上。赤みが差しはじめた空の下、僕は遠くから聞こえる部活の声をBGMに、ベンチに座ってスマホの画面を眺めていた。表示されているのは――『新規大型イベント開催決定』の文字。といっても、これは架空の世界の話。
レジェンドオブアストルム――
今、もっとも有名で人気のMMORPGってやつだ。
現実と区別がつかないくらいリアルに構築された剣と魔法の世界に、『mimi』という名の通り、耳に装着する端末を使ってダイブし、プレイヤーは分身となるアバターとして冒険をする。そう、誰もが夢見た世界初のVRゲームだ。
しかも、このゲームには、ただの娯楽といえない特典が用意されている。それはゲームをクリアすると、アストルムを管理運営している『超高性能AIミネルヴァ』がプレイヤーの願いを叶えてくれるということだ。もちろん、そう簡単にはいかない。誰もが必死になる理由がそこにある。
女性プレイヤーは定期的に開催される対人のバトルで勝利し、プリンセスとしての資格を得なければならない。しかも、その上で世界中に散らばるオーブを集め、塔の頂に収める必要がある。そして男性プレイヤーは、それに協力する騎士として、彼女たちの冒険をサポートし、一緒にクリアを目指すというもの。どちらも相応に困難、ということだ。
ただ、男性プレイヤーの中には、ごくまれに――
「新規大型イベント……だよね?」
「えっ? うわっ!」
突然の声に顔を上げると、息が届くほどの距離に、僕のスマホを覗きこんでいる顔があった。
「ご、ごめんなさい。驚かせちゃった?」
淡いピンクの制服によく似合う、控えめな立ち振る舞い。その少女――草野優衣は、肩に落ちた髪をかき上げながら言った。
「その、すごく真剣になにかを見てたから……」
もじもじと言い訳をする姿が、ほほえましい。隠れファンが多いって話にも、なるほど納得できる。
「あの……どうかした? 急に黙っちゃって……」
「いや、べつに」
軽く首を振って答える。
「それより……僕になにか用か?」
「よ、用って……メッセージ見てないの?」
草野が困惑の色を浮かべた。
「メッセージ?」
「あ、やっぱり見てないんだ。ギルドのページに怜ちゃんから連絡があったのに」
「え? あ……」
絡みつく視線。僕はそれから逃げるように、スマホに視線を落とした。
【レイ】――みんな新規イベント告知は見た?
【ヒヨリ】――いまみてる~
【レイ】――これ、また厄介なことになると思わない?
【ユイ】――うん、そんな気がする
【レイ】――そこで対策を練っておきたいんだけど…放課後、時間ある?
【ユイ】――大丈夫
【レイ】――なら、私たちが優衣の学校に行くから、彼を捕まえておいて
【ユイ】――わたしが?
【レイ】――クラスメイトでしょ、お願い
【レイ】――反応がないところをみると、このメッセージにも気付いてないみたいだし
【ユイ】――そうだね、わかった
【レイ】――ひよりもそれでいい?
【ヒヨリ】――(´ω` )b
なるほど、そういうことか――
「気付いたら教室にいなかったから、もう帰っちゃったのかなって……」
「ごめん」
「ううん、いいの。こうして会えたから」
夕焼けのせいか、微笑んだ草野は少し紅潮してるように見えた。
「でも、少し大げさじゃないか? 新規イベントっていっても、内容だって発表されてないのに――」
「ネット上では新しいバトルコンテンツだって噂されてるの」
「へ~っ、そうなんだ」
新しいバトルコンテンツ、ね――
「もう、そんな他人事みたいに言ってると、また怜ちゃんに怒られるよ。『キミ、自分がどれだけ稀有な存在か自覚ある?』って」
ああ、確かに言いそうだ。
「ナオクン、ちゃんと分かってる? わたしたちプリンセス候補生の本当の実力を引き出せるのは――」
「伝説みたいな存在のプリンセスナイト、つまり僕くらい……だろ」
「うんっ」
草野はクスクスと笑いながら、そっと手を差し出してきた。
「ほら、立って! ナオクンが狙われないように、みんなで対策を練らなきゃ」
僕はその手を握り、勢いよく立ち上がった。
◆
いったん教室に戻った僕は、カバンを手に昇降口へと急いだ。草野とそこで落ち合うことになっていたからだ。
手早く下駄箱に手を伸ばす――と、その腕をぎゅっと掴まれた。
「ふぇ……おにいちゃ、ん」
「へ?」
そこには半ベソをかいた幼……いや、少女がいた。
編みこみのおさげに、フリルのついたパステルブルーのワンピース。
「ミ、ミミちゃんか!?」
アストルムで会うときとはまた違った印象に、僕はうろたえる。前に10歳と聞いていたが、どう見てもそれ以下だったからだ。
「おにい……ちゃ、やっと会えたぁ。ふぇええ――」
「ま、待って、とりあえず泣かないで! ほら、僕に会えたんだし!」
「あうぅ……」
「よしよし、いい子だな」
セーフ! 僕はほっと胸をなでおろした。こんな人目のあるところで泣かれたら、取り返しのつかないことになる。
「それより、どうしてこんなところに?」
「う? それは、そのぉ……」
ミミちゃんは少し恥ずかしそうに目を伏せ――
「ミミねぇ、おにいちゃんをゆうわくしにきたのーっ!」
こともあろうか、掴んでいた僕の手を、自分のささやかな胸に押し当てた。
「ぶおっ!?」
慌てて手を引っ込めようとするが、小さな手がそれを拒む。図らずとも伝わってくる感触。ふるふると震えるミミちゃんの手の冷たさ、それと――
うん、『ささやか』と言ったけど、あれは間違いだ。ゼロだ。じゃなくて! とにかくこの場をどうにかしないと!
僕は一呼吸をおいて言う。
「と、と、とりあえず手を放してくれると……」
「おかあさんが言ってたの! こうするとミミの気持ちがつたわるんだよって」
お母さん! 伝える相手を選ぶことも教えないと! 全力でつっこみたかったが、状況がそれを許してくれない。
「おにいちゃんも知ってるでしょ? こんど新しいプリンセスバトルがはじまるって」
「それって新規イベントのこと? で、でも内容はまだ……」
「ふみゅ? みそぎちゃんはプリンセスバトルって言ってた~」
「完全にネットの情報に踊らされてるな……」
というか、僕――なにか大事なことを忘れてるような。
「ナオクン……なにしてるの?」
「ああ、草野か……って、うわあああぁああっ!」
僕はミミちゃんの手を払って飛びのき、下駄箱に思い切り背をぶつけた。
見られた! 完全に見られた!
「そのっ、今のは違うんだ!」
「もしかして、その子って……」
言い訳をする僕に、草野の視線が問いかける。
「そ、そう! この子もゲームをやってて、それで――」
「ダメ、おにいちゃん、今はミミとおはなしの時間!」
ミミちゃんの切なげな言葉が、僕の視線を強制で引き戻す。
「あのね、ミミはね、おにいちゃんがいればもっと強くなれるみたい。だからぁ、ミミたちの本当のナイトになってほしいの~」
いったん離れた距離をジリジリと縮めつつ、ミミちゃんが言う。
「みそぎちゃんが言ってたの。男の人はみんなロリ……えっと、ロリポンだって」
ロリポン? どこか角がとれたような表現だけど、結局は犯罪……ってか、こんな純真な子に、なにを吹き込んでるんだ。
「あ、あのなぁ」
「ナオクン、そうなの!?」
そこ、食いつくな、草野。真顔で尋ねられると、ちょっと傷つくから。
「ね、ナオクン……」
「んなわけないって!」
「ふぇ? でもぉ、ミミがゆーわくすれば、おにいちゃん、ぎるどに入ってくれるって」
「誰がそんなことを……」
「みそぎちゃんだよ~」
うん、納得だ。あの騒がしい小学生なら言いかねない。僕は嘆息し、それからちらり、と草野を見る。
不安そうな顔。だからこそ、僕は「大丈夫」とばかりに頷いてみせ、ミミちゃんを正面に見据えた。
「ミミちゃん、クエストのお手伝いはしてもいいけど、僕はギルドには入らないよ」
「ふぇ?」
こういうことは誤魔化さず、本当の気持ちを伝えるしかない。
「ミミちゃん、よく聞いてほしい」
その場に膝をつき、視線の高さをミミちゃんに合わせる。
「僕はね、今のギルドのみんなと離れたくない。それはミミちゃんだって同じだろ? 友達と作ったギルドを離れたくないだろ?」
「あうぅ……」
「僕もミミちゃんと同じなんだ」
「でもでも、ミミはおにいちゃんと一緒がいい!」
「一緒に冒険するくらい、いつでもできるって」
その言葉に、ミミちゃんがしょぼんとうつむいた。僕はその頭をそっと撫でてやる。
「それより、もう暗くなるし、早く帰らないとおうちの人が心配するぞ」
「そうだね。ほら、おねえちゃんたちと行こう」
草野が柔らかな声で言った。
「はぅ、う……」
納得したのか分からない返事。ただ、ミミちゃんは小さく頷いて、草野の制服の袖をつまんだ。子供は自分に優しくしてくれる人が分かる、と僕は理解しておいた。
◆
時刻はすっかり下校のピークを迎えていた。生徒たちの楽しげな声が飛び交う中、僕が見つけたのは、校門の方から歩いてくる女の子たちの姿だった。
一人は士条怜。名門校の黒い制服に身を包み、凛とした表情で、漆黒のロングヘアを風になびかせている。そしてもう一人は、怜と対照的な春咲ひよりだ。白と紺を基調にした制服にニーソ。活発な印象のショートヘアで、こちらに気付くやいなや、ぶんぶんと手を振ってきた。
「先輩~っ、優衣ちゃ~ん!」
それに手を上げて軽く応える。
「よかった~っ、いいところで会えて」
ぴょんぴょんと嬉しそうに跳ねるひより。
「で、その子は?」
おっかなびっくり、草野の背に隠れるミミちゃんに、怜が目を細めた。
「怜ちゃんの予感が当たったみたい」
僕が説明を口にする前に、草野が一言でまとめる――と、怜はこちらに顔を近づけ、小声で言った。
「間違っても『いい返事』なんてしてないだろうね?」
「当たり前だろ」
ミミちゃんに聞こえないよう、ささやかに反論する。
「それで、実際なんて言われたんだ?」
「ギルドに入ってくれ……って」
「提示された条件は?」
「それは……」
怜の追及に、僕が言葉を詰まらせると、その解は別のところからこぼれ出た。
「ゆ・う・わ・く」
草野が口元に手を当て、パクパクと口だけを動かす。
「せ、先輩、誘惑されたの!?」
「しっ、声が大きいって!」
焦ってひよりの口を押さえると、それを見た草野が「ごめんなさい」とばかりに肩をすくめた。
くっ――怒るに怒れない仕草に、僕はため息をつくしかなかった。
「ってことは、他にも先輩を狙う人たちが……」
「出てきてもおかしくないね」
ひよりと怜が顔を見合わせる。
「――というか、相談するなら、せめて場所を変えないか?」
夕暮れの校門で、他校の美少女と内緒話。おまけに草野が、小学生まで連れている。ハッキリいって、全力で目立っている。遠巻きに眺めている男子生徒から、殺意のようなものまで感じる始末だ。
「でも、その子はどうするの?」
ひよりがミミちゃんに目を向ける。
「そ、そうだった。暗くなる前に家の近くまで送ってあげないと……」
「そういうことなら、アタシがどうにかしてあげましょうか?」
唐突に割りこむ声。振り返ると、そこには――
「その代わり、アタシと二人きりで話す時間を作ってもらうわ」
強気な瞳で余裕の笑みを浮かべる闖入者がいた。
佐々木咲恋。名門・桜庭学院の現生徒会長だ。
「あーっ! 咲恋さんっ!?」
その姿に、誰よりも早く反応したのはひよりだった。
「どうして? なんでここにいるの? あっ、もしかして……新規イベントのために、先輩に会いにきたとか?」
「えっ、その……アタシは――」
「先輩って頼りになるもんね。その気持ち、すっごく分かる!」
ひよりが咲恋の手をとって、ぎゅっと握りしめる。
「あの、ひより……アタシ、い、今はナオと……」
その視線は僕に向けられていた――が、再会を喜ぶひよりはお構いなしに続ける。
「あたしね、あれからもっと強くなったの! 咲恋さんは?」
「えっ? まぁ、それなりに強くなったけど……じゃなくて!」
本題をきりだしたいのだろう。咲恋は深呼吸をして言った。
「あのね、ひより――アタシはナオに!」
「うん、先輩に会いにきたんだよね? 一緒に戦ってほしいって!」
「へ? そ、それは……まぁ、間違ってないけど……」
「あははっ、やっぱり咲恋さんも先輩のこと――」
「なっ! な、な……」
咲恋が耳まで赤くなった……というか、ちょっと待って、よく考えてほしい。なんだ、この誤解されるような流れは! ここ、学校。夕暮れに染まる平和な日常の一ページだぞ? 続々と増える野次馬の前で、この状況はマズ過ぎる!
しかし、僕が飛び出せば、それこそ火に油だ。でも、行くしかない! 僕は覚悟を決めて身構えた。そんな時だった。怜が肘でつついてきた。
「キミ、なにを呆けているんだ? 今のうちだよ」
「え、えっ!?」
「mimiを使ってフィオに連絡。新規イベントの噂が本当か確かめてきてくれ」
「こ、ここでダイブするのか?」
「冒険するわけじゃないし、1~2分で済むでしょ? 倒れたりしないよう、体は私が支えておくから」
「そ、そっか、分かった」
的確な指摘に僕は頷く。
たしかにゲームのナビゲートキャラであるフィオなら、イベントの詳細を知っていたっておかしくはない。すぐさまカバンにしまっていたmimiを取り出し、耳に装着する。駆動音とともに、電源が自動的にONに切り替わった。
「ダイブ、アストルム――」
音声認識で、ログインを開始。現実の視界は、アストルムのそれへと溶けていった。見えてきた場所は、クラッシックな邸宅――僕たちのギルドハウスだった。
「フィオ――フィオ、いるか?」
ともかく大声で叫んでみるが、反応がない。普段なら、すぐにでも飛んでくるはずだ。
「おいっ! フィオッ!」
「は~いはい」
しばらく声をあげていると、開け放たれた窓の外から、のんきそうな声が聞こえてきた。
「な~に? そんなに慌てて」
いつも通りの純白のドレス姿。飛来した手のひらサイズの妖精は、ため息と共に窓縁に腰をかけた。
「ほら、例の新規イベントの発表のことだ。聞きたいことがある」
「う~ん、今ちょっと忙しいんだけどな」
「はぁ!? こっちだって大変なんだよ!」
まったく、ゲーム内のキャラクターが忙しいってどんな状況だ。
「できればイベントの詳細を――」
「ごめんね、また後にしてくれる? 人を待たせてるから」
フィオがおかしなこと口走った。
「誰かと会ってたのか?」
「うん、協力してほしいって言われてて……あ、もう戻らなきゃ!」
「ちょっ……」
引き止める暇もなかった。フィオはあっという間に飛び去ってしまい、ギルドハウスには僕だけが残された。
「嘘だろ……」
取り付く島もない、とはこういうことを言うんだろう。やむなくログアウト処理を行い、僕は現実へと戻ってきた。
「どうだった?」
うな垂れる僕に、怜が問う。
「分からない、忙しいからって」
「じゃあ、詳細も……」
「さっぱりだ」
と、いうか――
「怜、これ……どうなってるんだ?」
僕がちょっと目を離している隙に、周囲の状況は一変していた。こちらを見たまま固まっているひよりと咲恋。ミミちゃんは涙目でなにかをうったえている。
「体を支えていたら、くっついてる、と思われたらしい」
怜は淡々と言った。
「えっと……」
誰に、というわけではなく、恐る恐る口にすると――
「おにいちゃ~ん、おにいちゃんはミミと一緒がいいんだよね」
僕の左足に幼女が飛びつき、ぎゅっとしがみついた。
「そうはいかないわ、アタシにはアンタが必要なの」
咲恋が柔らかな力で、左手を握る。
「もう、みんな仲良くしないとダメだよ! ほら、先輩からも言ってあげて!」
今度はひよりだ。僕の右腕をその両手で抱え込んだ。
は? ちょ、ちょっと待って!
僕の周囲だけが、妙に甘酸っぱい空間になっている気がする。
「あ、あのさ――」
慌てて言葉を発しようとするが、その瞬間、草野の不安そうな視線に僕の心は絡みとられた。
ど、どうしたらいい? あまりの急展開に頭がついてこない――というか、どうにもできない。
誰かに助けてもらいたい! 誰か……というか、原因である怜に!
「はぁ……」
ため息をこぼされた。完全にゲームオーバーだった。斜陽に染まる校門前で、僕はさらし者になったのだ。しかもだ。間の悪いことに、急展開はそのタイミングを狙ったかのように訪れた。
キイイイィィイイイイーーーーン!
不意に頭上から降りそそぐハウリング音。その場の誰もが反射的に立ちすくむ。
「なっ……なんだ!?」
どうにか耳を両手で押さえつつ、見上げると――
「みっともない争いはそこまでになさい!」
夕空に浮かぶヘリのスピーカーから、愉しげな声がこだました。最悪の予感。僕の背筋に冷たいものが走る。しかし、どうすることもできない。
迷惑なんてなんのその、ヘリは絶賛部活中の校庭へと着陸した。そして、バァンと開け放たれた扉から――
「皆様、ごきげんよう。藤堂秋乃ですわ」
現れたのは、場違い……というか、豪奢なドレスの淑女だった。
うん、どうして金持ちというのは、こう派手に登場したがるんだろう。
「あ、秋乃さん……どうしてここに?」
「すずめさんに聞きましたの。問い正す間もなく、うっかり口を滑らせてくれましたわ。あなた付きのメイドだけあって、く・わ・し・く」
「あ、あの子ったら――」
「まったく、こんなに面白いことを私抜きでするなんて、咲恋さんも人が悪いですわ。私たちはお友達でしょう?」
「秋乃さんがくると、騒ぎが大きくなるからです」
ぼそり、咲恋が呟いた。と、その隣で苦笑いを浮かべる僕に、秋乃さんがビシィと指を差した。
「こんな争いを起こしてしまうなんて、本当に罪な殿方ですのね、あなたは」
「えっ? あ、争いって……」
曖昧な返事しかできない。しかし、秋乃さんにとっては十分だったらしく、彼女は満足そうに両手を広げた。
「では、私が相応な舞台を用意して差し上げましょう」
「アストルムで勝負……とか?」
「いえ、当然リアルの方ですわ。リアルの決着は、リアルでつけるべきですもの。偶然にも明日は休日ですから」
そして少し考えるように口元に手を当て、続ける。
「そうね、勝利した方々には……ナオさんとの二人きりの時間をプレゼント、というのでどうかしら?」
「僕の意思は……」
「意思? これほどに魅力的な面々と過ごせることが不服ですの?」
「魅力的……って――」
そう言われても、僕にとっては日常だ。とはいえ、これだけの野次馬からの後押し(という名の罵声)を受けてしまっては、頷くしかない。
「承認いただきましたわ! みなさん、これは絶好のチャンスでしてよ」
完全に押し切られる形だった。とはいえ、この提案には場を収拾させるだけの魅力があったらしく、ミミちゃんは携帯で通話をはじめ、咲恋は秋乃さんと内緒話をしはじめた。作戦会議、というやつだ。
当然、僕たちもこの時間を無駄にするわけにはいかない。
「怜、どう思う?」
「こうなった以上、やるしかないね」
「でも、勝てばいいんでしょ!」
力強く言うひより。その両の手はきゅっと握りしめられている。
「う~ん、そんなに簡単にいくかな……」
逆に草野は表情を曇らせていた。
「大丈夫だってっ! ギルド同士の勝負なら、あたしたちが有利だもん!」
「だが、問題は主催者だ。一筋縄ではいかないだろうな」
怜は真剣な顔をしていた。しかし、どうやら覚悟を決めたらしく、強く頷いて言った。
「ともかく十分に気をつけて臨むとしよう」
「「「おーっ!」」」
僕たちはそれぞれに高々と拳を突き上げた。
「ああ、そうだ……ナオ」
「ん?」
「今夜はアストルムにインしないで。キミが不用意な行動をとれば、騒ぎはもっと大きくなるかもしれないから」
うん、しっかり釘を刺すのを忘れない怜だった。
⇒『プリンセスコネクト! ~プリンセスナイト争奪戦~』第2話を読む
坂井直人(主人公)
ひょんなことから『アストルム』に無理やりログインさせられた高校生。少女たちの能力を増大させる“プリンセスナイト”の素質を持つ。
春咲ひより | 草野優衣 | |
▲直人が初めてパーティを組んだ女の子で、ギルドメンバーの1人。いつも元気はつらつで、どんな状況でも困っている人を助ける優しい心の持ち主。 | ▲直人と同じギルドのメンバーであり、中学時代からの同級生。優しくて控えめな性格で、学校では優等生として慕われている。 |
士条怜 | 茜ミミ | |
▲常に冷静沈着なギルドメンバーの1人。礼儀や規則に厳格だったり、頑固な一面も持つ。人との触れ合いに不慣れなで、男性に対しては潔癖なところも。 | ▲ふわふわした口調が特徴的な、小学生の女の子。すぐ迷子になったり、知り合いとはぐれたりする。直人にとっては歳の離れた妹のような存在。 |
佐々木咲恋 | 藤堂秋乃 | |
▲現在は大豪邸で暮らすお嬢様だが、幼いころに貧しい生活を送っていたため、お金にはシビア。正義感が強く曲がったことが嫌い。 | ▲世界中にグループ会社を持つ藤堂家の令嬢。プライドが高さと庶民感覚のなさから、突拍子のない言動で周囲を驚かせることが多い。 |
フィオ | ||
▲“アストルム”の世界でプレイヤーをサポートする妖精。ナビゲーターのわりに自由奔放。 |
人気恋愛シミュレーションゲームなどを手掛ける作家/シナリオライター。2014年にTVアニメ化されたPCゲーム『失われた未来を求めて』をはじめ、数多くのゲームでシナリオとディレクションを担当。ライトノベルの著作も行っている。
■経歴作品
PCゲーム『失われた未来を求めて』(シナリオ)
TVアニメ『失われた未来を求めて』(シナリオ監修)
小説『別れる理由を述べなさい!』(著作)
小説『断界の失喚士』(著作) ……他多数
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