2016年4月13日(水)
4月7日よりTOKYO MX他各局で放送&配信が開始されたTVアニメ『ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った?』。本作の特集記事第1弾として、制作スタッフによる座談会をお届けします。
『ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った?』は、聴猫芝居先生が執筆するネットゲームを題材とした、電撃文庫の人気作品。本作のストーリーはこんな感じ。
【『ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った?』ストーリー】
ネトゲの女キャラに告白! →残念! ネカマでした☆ ……そんな黒歴史を秘めた少年・英騎が、今度はネトゲ内で女キャラに告白された。まさか黒歴史の再来!? と思いきや、相手であるアコ=玉置亜子は本物の美少女! でもリアルとネトゲの区別が付いていない、コミュ障ぼっちの女の子だった!? 英騎は彼女を“更正”させるため、ギルドの仲間たちと動き出すのだが……。
●動画:『ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った?』PV
今回の座談会には、アニメの監督を担当する柳 伸亮氏と、プロデューサーの福良 啓氏のお2人が参加してくれました。進行は、電撃オンラインのmeganeが務めます。
▲写真右から柳 伸亮監督、福良 啓プロデューサー、電撃オンラインのmegane。 |
megane:今回はよろしくお願いします。このアニメは“ネトゲ”、つまりMMORPGが題材となっているのですが、お2人はネトゲをプレイした経験があるのでしょうか?
柳監督:『リネージュII』を7年間ぐらいプレイしていました。
福良P:『ファイナルファンタジーXI』を、正式サービスの開始直後から14年間遊び続けて、今でもWindows版で遊んでいます。
megane:お2人とも、思いっきりガチのネトゲプレイヤーじゃないですか! せっかくなので、もう少し詳しいお話を聞かせてください。まずは柳監督から。
柳監督:『リネージュII』は、課金が始まった1週間後ぐらいから遊び始めました。当時は参加費用が月額3,000円と高額だったんですけど、それを一生懸命払って遊んでいました。このゲームで初めてMMORPGに触れて、「こんなにおもしろい世界があるんだ」と思って、我を忘れてずっと没頭していました。
megane:それにしても、7年間もプレイされていたのはスゴいですよね。
柳監督:今から思い返すと、楽しかったのは間違いないにせよ「さすがに7年間はやりすぎたな……」という気もしますが(笑)。でも、この経験があったからこそ、本作のお話をいただけたので、そう考えるとあの7年間は楽しいだけじゃなかったんだなと思います。むしろ「やっててよかった、MMORPG」みたいな感じですね(笑)。
福良P:仕事に生かす機会っていうのは、なかなかないですよね。だいたい普通は、時間の浪費だけで終わっちゃいますから。
megane:そういう福良さんは、『FFXI』を14年間遊び続けているんですから、もっとスゴいですよ(笑)。僕も『FFXI』をプレイしていたんですけど、6年ぐらいで引退しちゃいました。
福良P:私の場合は移行しそびれて、そのまま今でも『FFXI』を遊び続けている形ですね。『FFXI』のベータ版には参加していなかったんですけど、正式サービスがスタートした時に“リアルフレ”、つまり実生活での友人から「一緒にやろう」って誘われて、そこから遊び始めました。
megane:『FFXI』以外のネトゲはプレイされていましたか?
福良P:お試し期間とかにチョコチョコと手を出してはみたんですけど、ずっと続けているのは『FFXI』だけですね。もともとリアルフレと一緒に始めたのですが、ゲーム内に現実の友人がいるのは大きいですね。それで気がつくと、14年間も経っていて(笑)。
megane:アニメの制作スタッフで、お2人以外にネトゲをプレイされている方はいらっしゃいますか?
柳監督:アニメ スタッフでもPCを扱う職種の方は、けっこうガチでプレイされてるみたいですね。撮影監督は、アニメの中に出てくるゲームのインターフェース画面も作成してるんですが、本人もプレイヤーなので、けっこうノリノリでやってくれています。
福良P:あと、シリーズ構成としてシナリオ全体を統括してくださっている髙橋龍也さんは、もともと『To Heart』などのシナリオを手がけたゲーム業界出身の方ですから、ネトゲを含めてゲームに造詣が深いですね。
megane:なるほど。けっこう大勢いらっしゃるんですね。
福良P:制作スタッフは、ネトゲを遊んでいて詳しい人が半分、あまり詳しくない人が半分といった感じでバランスが取れています。ゲームのことをわかる人がいないと薄っぺらいものになってしまいますし、かといってゲームに詳しい人ばかりだと、詳しくない人にはハードルの高すぎるものになってしまいますから。
megane:『ネトゲの嫁』では、主人公たち4人がゲーム内で“アレイキャッツ”というギルドに所属していますが、お2人はそうした他のプレイヤーとのコミュニケーションの経験は?
福良P:私はもともと友だちに誘われてプレイを始めたので、とりあえずその友だちと2人でパーティを組んで、弱い敵を倒しながらレベル10ぐらいまで上げて。そこから先のレベル13から15ぐらいになると、バルクルム砂丘っていうエリアに行って、6人ぐらいのパーティを初めて組んで、強い敵を倒すことを学ぶ時期になるんです。
megane:ああ、わかります。懐かしいですね。
福良P:そのくらいになると、他のプレイヤーからパーティに誘われやすいジョブと、まったく誘われないジョブが露骨にわかれるんですよ(笑)。友だちは回復職の白魔道士だったので、すぐにお誘いがかかるんですけど、私はぜんぜん声がかからなくて……。
仕方がないので自分がリーダーになって、いろんな人を自分からパーティに誘うようになりました。ジョブによって他のプレイヤーとの関係がこんなにも変わるんだって、その時に初めて知ったし、1人で遊んでいる時には味わえない新鮮さを感じました。
megane:そういう体験は、オフラインのRPGでは絶対に味わえないものですよね。では、柳監督は?
柳監督:『リネージュII』ではギルドじゃなくてクランって呼んでいたんですけど、僕も“アレイキャッツ”みたいな感じの小規模な狩りクランにいました。だからルシアンたちとは、プレイスタイル的にすごく近いところがあります。
『リネージュII』にも“攻城戦”っていう、クラン同士の対人戦があるんです。僕らは普段、狩りしかやっていなかったので、たまに誘われて攻城戦に参加すると、対人戦用の装備じゃないから瞬殺されちゃうんですよ。しかも最初は、ゲームとはいえ他人の操作しているキャラクターをなぐるのに、ものすごく抵抗感があって……。だから、初めて対人戦で戦う際のアコの気持ちはよくわかりますね。
福良P:このアニメのキャラクターデザインでも、対人戦用の装備と対モンスター用の装備では、ちゃんとデザインが違うんですよ。でもあくまで架空のゲームですから、見ている人が正解を知っているわけではないんです。これが現実に運営されているネトゲなら、プレイヤーさんならすぐ気がつくんでしょうけど。
柳監督:ゲームに詳しい人なら、作品の中で明言はしなくても“そういうことなのかな”って、なんとなく伝わればいいかなと思って。
megane:普段ネトゲを遊んでいるプレイヤーにとっては、そのこだわりはうれしいですよ。
福良P:自分たちがネトゲをプレイしているぶん、嘘が描けないんですよね。柳監督も髙橋さんも、それに原作の聴猫芝居先生も、それぞれやってるゲームは違っていても、“ここは絶対こうだよね”っていうこだわりが多くて。
ネトゲを遊んだことのない人が見ると、“そこまでこだわるの?”って思うかもしれないですが、我々としてはこだわらざるを得ないというか。そういう意味では、効率が悪いのかもしれませんけど。
megane:そうしたネトゲらしさの表現について、もう少し具体的にお聞かせください。
柳監督:たとえば第1話のゲームの場面だと、最初にタンク役のルシアンがヘイトを取って敵を引き連れてきて、アタッカーのシュヴァインが敵を処理しているあいだに、魔法使いのアプリコットが強力な魔法を詠唱して全部まとめて仕留めるっていう、そういう構成になっています。
福良P:それを“ヘイト”っていう言葉を使って説明すると、とたんにハードルが上がってしまうんです。なので、そうした言葉はあえて使わずに、でもゲームに詳しい人が映像を見れば、その状況がすぐわかる作りになっています。
柳監督:アコがうっかり大ヘイトを稼いでしまって、敵がみんなそっちに流れていったりとか。
福良P:そもそもの話、原作の物語は基本的に会話で進んでいるんですよ。なので、ゲーム中のチャットをどうやってアニメのシナリオにするのかっていう、ものすごく高いハードルが最初にあって。それを髙橋龍也さんが“こうしたらどう?”っていうアイデアを出してくださったんです。
さらに原作者の聴猫先生にも、シナリオ会議に入っていただいて。ネトゲのわかる聴猫先生、髙橋さん、柳監督、あと私。そこにさらに、あまりゲームに詳しくない人たちも入ってもらって、どういった形だといちばんバランスがいいのかという話し合いは、かなりやりましたね。
柳監督:「この作品の監督に決まりました」って原作を渡されて、読むとすごくおもしろいんですけど、なまじネトゲを知っているぶん、“えっ!? これをどうやってアニメで表現するの?”って。おもしろいんだけど、固まりながら読んでいた記憶がありますね。
megane:あと個人的には、主人公たちが遊んでいる“レジェンダリー・エイジ”って、いったいどういうゲームなんだろう? というのも気になります。原作に「デスペナルティが大きい」と書かれていたので、『ラグナロクオンライン』や『エバークエスト』みたいな感じなのかなって。
福良P:今の最先端のMMORPGというよりは、少し前のシステムなのかなって思いますね。なのでアニメで出てくるゲーム画面も、今時の3Dじゃなくて、クォータービューっぽい感じになっています。
柳監督:デスペナルティが大きいといっても、死んだ時に装備を落としたりしないぶん、まだ親切だと思いますよ(笑)。
『リネージュII』ではキャラクターが死ぬと、身につけていた装備を一定確率でドロップする仕様がありましたが、あれは本当にキツかったですね。しばらくするとアップデートがかかって、死んでも装備を落とさなくなりましたけど。
それまでは家庭用の優しいゲームしか知らなかったので、「こんなにエグいものなの!?」ってビックリしましたね。
megane:『ウルティマオンライン』だと、PKに殺されたあげくに、装備を全部持って行かれたりもしましたね。あれも今考えると、ヤバかったなぁ。
福良P:絆重視の『FFXI』から、PK上等の『UO』や『エバークエスト』まで、ネトゲって本当に幅が広いんですよね。そんななかで『ネトゲの嫁』の“レジェンダリー・エイジ”に関しては、ちょうど中間ぐらいのイメージになっています。聴猫先生はゲームにお詳しいので、いろんなゲームの要素が少しずつ混ざっている感じになっていますね。
megane:会話もそうですけど、原作にはネットで流行っているフレーズ、特にネトゲに関連するネタがたくさん出てくるじゃないですか。具体的に言うと“ブロントさん”とか(笑)。それってアニメではどんなふうに表現されているんですか?
柳監督:ゲーム画面のチャット欄で、そういう言い回しが流れていたりはしますけど、TVで読めるかどうかはわからないですね。
ゲームの中の描写は、基本的には主人公たちがそのキャラになって登場することが多いので、ゲーム画面が映るのは意外と少ないんです。ただ、チビキャラも全部手描きで描いていますし、チャットの会話も作り込んでいますし、先ほどお話ししたようにオリジナルのインターフェースもありますし、ゲーム画面はかなり手間がかかっていますよ。
福良P:あとは文字とセリフというメディアの違いが、けっこう大きくて。たとえばゲームのチャットだと、「さよなら」を手を振るアスキーアートみたいな感じで「ノシ」と書くじゃないですか。それをアニメでは「のし」って声に出して言ってもらっているんです。でも正直、耳で聞いてわかる人は、かなり少ないような気がするんですよ。
megane:たしかに(笑)。
福良P:今ではボイスチャットを使いながらゲームを遊んでいる人も多いのかもしれないですけど、基本は文字の文化じゃないですか。ゲームやネットの文字の文化と、アニメの声の文化とのギャップが、思った以上に大きくて。それをいろいろ考えながらアニメにしているんですけど、実際にアフレコ現場で声になったものを聞いて、“こうなるんだ!”って思うことも多いですね。
逆に声がつくことで、さらにおもしろくなるネタもあるんですけどね。“オンドゥル語”とか。
megane:ということは、声優さんがオンドゥル語を?
柳監督:それに近い感じでは言ってもらっています。
megane:それはスゴイ! アニメで出てくるのが楽しみですね。
megane:第1話は、“アレイキャッツ”初のオフ会が開かれて、全員が顔を合わせたところで終わりますが、お2人はオフ会に行かれたことはありますか?
柳監督:クランのオフ会に行きました。みんなオッサンでしたけど(笑)。
megane:ですよねー(笑)。自分以外のギルドメンバーが全員女性というのは、現実ではさすがにないですよね。
福良P:私のほうはもともとリアルフレに誘われて『FFXI』を始めて、そこからさらにリアルフレを誘ったりしたので、多い時には5人ぐらいのリアルフレと一緒に遊んでいたんですよ。だからリアルフレだけでパーティが成立している感じですね。
あとはギルドの仲間が20人ぐらいいたんですけど、その人たちは日本中に散らばっていたので、直接会うのが難しかったんです。地震が起きるとよくわかりますね。チャットで“揺れた”って発言するタイミングに差があるので、“あの人はけっこう遠くに住んでるんだな”って。
megane:ゲームのキャラクターと“中の人”とで、ギャップを感じたことは?
福良P:もちろんあります。すごく立派なリーダーがいて、上手くみんなを導いてくれるし、ケンカっぽくなってもちゃんと仲裁してくれるんだけど、でも本人は中学生だったりして。そうかと思うと、すごく幼稚な言動のもっと年上の人がいたり。
それを見た時に、人間は年齢じゃなくて中身なんだって、ものすごく実感しましたね。ゲームの世界では、普段の現実社会で通用している人間の外側じゃなくて、中身だけで勝負することになるわけだから、これはおもしろいと。
仕事柄、声優さんや芸能人の方がオンラインゲームにハマったなんてお話も聞いたことはあるんですけど、自分でプレイしてみて、よくわかりました。普段の外見とは無関係な素の自分になって、ゲームの世界で自由に遊べるわけですから。
柳監督:『リネージュII』は、ドワーフの女の子が見た目もモーションもすごくカワイイんですよ。そのキャラを使っていると、ゲームを始めたての人が近寄ってきて、いろいろと中身のことを聞き出そうとしてくるんです。「いや、中身はオッサンだから」って、必死に説明するんですけど(笑)。
megane:僕も『FFXI』では女性キャラを使っていたので、ちょっとていねいな言葉遣いをしたりすると、すぐ女性プレイヤーに間違えられました。ではネトゲをプレイしていて、“この人は絶対にネカマだな”と思ったことってありますか?
福良P:あからさまに女言葉を使っている人は怪しいですよね。リアルの会話で「~かしら」って使ってる女性って、あんまりいないじゃないですか。でも、そこでツッコむのもヤボかなと。
柳監督:ネカマとは逆に、シュヴァインみたいなタイプの女性プレイヤーさんって、けっこう多いですよね。
福良P:ネットの上で「私は女性です」と自分から言ったとしても、それを証明する方法はないし、そこにこだわること自体、あまり意味はないですよね。
バックボーンはあくまで参考情報でしかなくて、ネットの中での人間関係だけを信頼して交流するというのが、私の中では未体験の感覚だったんです。お互いに曖昧な情報で緩やかにつながっていて、でも一緒にモンスターを倒すという共通の目的で行動しているというのが、すごく新鮮でおもしろいと感じたんです。
福良P:この作品って、ハーレム物のように見えるかもしれませんが、アコとルシアンは相思相愛のカップルなんですね。
megane:浮気すると大変なことになっちゃいますからね。
福良P:実際のネトゲでも、女性問題で崩壊したギルドがどれだけあったか(笑)。
柳監督:ある日ログインすると、ギルドの空気がものすごく悪くなっていて。現実の疲れを癒やすためにゲームで遊んでるのに、こっちでもギスギスしちゃうの!? っていう。
megane:そういう意味で言うと『ネトゲの嫁』には、ネトゲでのある意味で理想が詰まっている作品ですよね。
福良P:ただ、ネトゲを知っている人だけが「あるある、こういうこと」や「いやいやこれはない。けど、いいよな~」などと楽しむのではなくて、ネトゲを遊んだことのない人でも理解できて楽しめるようなバランスは、常に意識しています。
その点では、この物語には初心者キャラもいれば重課金キャラもいて、お姫様プレイの人もいれば男キャラを演じる人もいるって具合に、現実のネトゲで出会う典型的なキャラが、非常にバランスよく配置されているんですよ。そのあたりは本当によくできていると思いますね。
megane:ネトゲを遊んだことのない人でも、このアニメを見ればネトゲの中の空気がよくわかる作品ですよね。
福良P:ただこのアニメでは、みんなでモンスターを倒して楽しいよっていう、ネトゲ本来の部分はあまり出てこない場合が多いです。普通のネトゲは9割が普通のゲームプレイで、残りの1割ぐらいでいろんな人間関係のハプニングが起こるんですけど、本作はその1割に焦点が当たっています。その点はみなさんに、あらかじめお伝えしておいたほうがいいかなと。
あくまでネトゲの中のエピソードをおもしろおかしく描いているので、プレイしたことのない人もあまり怖がらなくてもいいよ、基本は楽しいんだよ、って感じてもらえれば有り難いですね。
megane:では最後に、今後の放送を楽しみにしているみなさん、そしてこれから第1話を見るというみなさんに、メッセージをお願いします。
福良P:不思議なタイトルなので、どんな作品だろうと思っている人がいるかもしれません。ネットゲームを舞台にしてはいますが、実際には高校生活のドタバタギャグコメディですので、あまり難しく考えずに楽しんでもらえればと思います。
柳監督:ゲームの世界が舞台になっていますけど、映像的にはファンタジー世界のように見えるので、ファンタジーとして見ていただいても楽しめるかなと思います。
ギルドの仲間同士のつながりだとか、みんなで一緒に遊んでいる団らん感を楽しんでもらえればと思います。第1話でもちょこっと登場しているんですけど、4人に加えて新しいキャラクターも増えたりしますので、お楽しみに。
megane:ありがとうございました。
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