【ガンスリンガー ストラトス EXエピソード 1話前編】白の少年と黒の少年
21世紀。東京。渋谷。
無数に開いた地下鉄の出入り口からは、規則正しく人間が吐き出され、また、吸い込まれる。
人の群は細い道を埋めるように前進し、巨大な交差点の前で停止する。
あとからあとから押し寄せる人の群。交差点の彼岸と此岸に、大勢の人間がひたすら溜まっていく。
決壊するかと思われる瞬間、信号が切り替わり、溜まりにたまった人間の群が、どっと前へ進む。
彼岸と此岸から、合戦のように流れ出す人の群は、しかし、ぶつかることはなく、互いにすりぬけながら道路を渡り、道の奥へ吸い込まれてゆく。
不意に、その動きが止まる。
耳が痛いほどの沈黙があたり一体を覆い、人の姿が薄れて消える。
道を埋め尽くす人々のざわめきが、呼吸が、足音が。一瞬にして消え失せる。
あらゆるものが凍り付いた時間に閉ざされる。
無音の時空に、光が生じる。
広い交差点の真ん中に、二つの光球が現れた。光球は音もなくはじけ、二つの人影を産み落とす。
わずかにあどけなさを残した少年。
片方は黒衣に身を固め、もう片方は白一色。光と闇のような出で立ちをのぞけば、二人の顔は、鏡に映したように似ていた。
手を伸ばせば、届く距離に立つ二人の少年。
しゅっと鋭い呼気が、二つの口から漏れた。
猫のようにしなやかに、音もなく走りながら、少年たちは虚空から拳銃を取り出す。
二丁拳銃と二丁拳銃。
引き金が絞られ、銃声が沈黙を打ち砕く。
二人の背後で、弾け飛んだ。
白の少年が、拳銃を虚空に消し、刀を引き抜くように、黒光りするアサルトライフルを取り出す。
黒の少年がアスファルトを蹴って距離を詰める。
白の少年は、アサルトライフルから、零距離でグレネードランチャーを射出。
爆炎があたりを包む。
だが、二人はすでにそこにいない。
上昇気流に乗って、高く高く空を舞う。
大地から空へ、空から大地へ、また空へ。
めまぐるしく戦場を変えながら二人は飛ぶ。
二人を比べれば、黒の少年の動きが、わずかに精密。白の少年は、わずかに思い切りがいい。
総じて、二人の実力は互角であり、流した血も同じだった。
ビルの壁面を垂直に駆けながら、黒の少年が、二丁拳銃を撃ちまくる。
白の少年は、動かずにアサルトライフルで応えた。頬を拳銃弾がかすめる。かすかな青い光が弾け、衝撃を吸収する。だが、完全にではない。残された衝撃が、頬に一筋の傷をつけ、赤い血が白い服に飛び散る。
己の血を浴びながら、白の少年はかすかに笑った。
黒の少年の足取りが乱れた。
アサルトライフルのフルオートが衝撃波となって、足場となる窓ガラスをことごとく砕いていたのだ。
空中で、動きを止める黒。
白は、撃ち尽くしたアサルトライフルを捨て、刀を抜いて黒に襲いかかる。
黒も空中で身を翻し、刀を抜きつけざまに切りつける。
鋼と鋼がかみ合い、ぎりぎりと音を立てた。
白が笑う。純粋な力勝負なら、わずかに白が上回る。
黒がにらむ。白は血を多く流している。黒のほうが体力を温存している。
骨と肉が軋み、鋼が悲鳴をあげる中、二人は同じ瞬間、同じ声で叫んだ。
「僕の勝ちだ、風澄徹!」
1話後編へ続く
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データ
- ▼ガンスリンガー ストラトス EXエピソード
- ■文:海法紀光
- ■イラスト:彼岸ロージ
- ■協力:スクウェア・エニックス