2016年5月10日(火)
4月16日にベルサール秋葉原で開催されたイベント“AR performers βLIVE(ベータライブ)”をプロデュースする、内田明理さんへのインタビューを掲載する。
“AR performers”は、魅力的な“AR(拡張現実)”を作りあげるプロジェクト。すべてがリアルタイム公演となり、一期一会の空間が展開するという。“AR performer”が繰り広げるパフォーマンスとオーディエンスが、ライブの進行や演出に影響を与えるという、これまでにない新たな一体感を楽しめる。
イベントの興奮冷めやらぬ内田さんに、プロジェクトの生い立ちや先日のイベントの反響、今後の展開などをお聞きした。
――“AR performers βLIVE”を取材させていただいたのですが、圧倒されてしまいました。
そう言っていただけるのはとてもうれしいです。ありがとうございました。
――大きな反響がありましたが、内田さん自身の率直な感想をいただけますか?
正直ホッとしました(笑)。テクニカル的に相当アクロバットなことをやっているんですね。そのため、終始はらはらドキドキしていました。練習を何回も重ねたのですが、予期せぬトラブルが何かしら起きていて、前日まで「大丈夫かな?」と思っていました。
ただ、参加してくださっているスタッフはプロフェッショナルな方ばかり。臨機応変に対応してくださって、リハーサルを重ねるたびにどんどんステージのクオリティが上がって、前日のリハーサルより、本番の方がいいものになりましたね。
ゲームの世界はプログラムしたものを再生することで構成されているのですが、生だとその場で多くの人が同時にかかわることで成立する。何度もやっていくと、かかわっている職人たちの練度があがっていくのは想像すればわかることなのですが、想定以上でした。
――後ほどお聞きしようと思っていたのですが、シンジくんとREBEL CROSS(レベルクロス)は今後、キャラクターとして動いていくのでしょうか? それともバーチャルなアイドルとして動いていくのでしょうか?
実はあまり考えていないんですよ(笑)。線引きについてはよく聞かれるのですが、僕としては「人気のあるアイドルとして楽しんでください」や「現実に生きています!」という体裁には、あまりしたくないんです。
“特殊なステージのうえで活動している”でいいと思っています。そこは僕なりの2.5次元空間で、楽しんでいるファンも彼らが存在していることしか、考えていないんです。なのでそこは参加してくださる人にゆだねようと思っています。
――あえて定義しないで、その空間を作るだけと。
はい、2次元のパフォーマーたちと、生で接していただける場所の提供。それが今考えているサービスです。
――会場で見ていて、パフォーマーの存在感やダンスはもちろんですが、質問に対してその場で答えるという“リアルタイムでの会話”について、参加者がもっとも驚いていたのではないでしょうか?
そうだと思います。携帯端末を振る応援のスコアがよかった人の名前を呼んでもらえることも、生イベントだからやれることです。名前が呼ばれることは記念になるのでうれしいと思います。参加した方は、自分が見るだけでなく見られていることに驚かれていましたね。
――不躾というか、興をそぐ質問になるのですが、技術的な質問をさせていただきます。どのような方がかかわることで、空間として成り立っているのでしょうか?
“チーム・シンジ”、“チーム・レベクロ”と呼んでいる多くのスタッフが一丸となり、リアルタイムのキャラを出しています。まさに人形浄瑠璃ですね。
そしてキャラクターとして成立させるために、演者の方にそれぞれの性格の枠組みや成り立ちのようなものを僕の方から説明させていただき、ディスカッションしています。そのうえで、「こういう動きをするだろう」や「こう話しそう」といったビジョンがチーム各員に生まれ、それらのイメージが少しずつ混ざって形成されていきます。
――かかわっている人の個性の融合でできていると。
その通りです。パフォーマーは僕1人で作っているのではなく、“チームに携わる人の個性が混ざり合って形成”されています。リハーサルを重ねるごとに設定が固まり、リアルタイムに設定が加わっていく。僕としても、非常におもしろい体験をさせていただいています。
――何がきっかけでこの展開を考えられたのでしょうか?
これまでの仕事はほとんどコンシューマゲームをやっていました。リアルタイムクロックを使ったものもありますが、ゲームは基本的に再生の世界なので、参加する人に“画面に合わせてリアクションして”と暗黙の内にお願いする、いうなれば“ごっこ遊び”のスキルを求めるんですね。そこについては改善する余地があるだろうと思っていました。
またデジタルコンテンツがネット配信やアプリに移行していく中で、コンテンツ自体にお金を払ってもらうことは成り立たなくなってくると思うんですよ。
――なるほど。
皆さんが何に価値を感じているのかというと、体験なんですよ。音楽であればCDでもダウンロードでも音源が売れない一方で、ライブの市場は年々拡大している。コンテンツにお金を支払うことに違和感を感じている人が増えている。それは数年前から把握していました。
一方で、ゲームやアニメは作ったものを再生する2次元のコンテンツ。なかなか体験コンテンツを展開することは少ないんですね。
――“中の人”によるライブやトークが多く、キャラ自体と触れ合う体験はなかなか難しいですね。
そうなんです。それで、色々なイベントの仕事をする中で、ほんの少し、キャラクターと疑似的に生のやり取りをしていただいた時、すごく高い評価、反応をいただきました。それであれば2Dのキャラとの生のコミュニケーションが最大の価値だと考え、それを実現する技術を探求しました。
――言葉にすると“キャラをリアルタイムで描写して、動かす”ということになりますが、言葉以上に大変な作業だと思うのですが、いかがでしょう。
まったく簡単じゃありませんでしたね(笑)。リアルタイムキャプチャーのスキルが非常に要求されるのですが、国内では、あまりそのあたりの技術は重視されていないんです。ラッキーなことにユークスは、ゲーム中でリアルタイムにキャラを描写して動かすことに優れている。国内でも相当スキルの高いことをやっている会社なんですね。
――先日のインタビューや記者会見の際にも言われていましたね。
正直、それを知っていたからこそユークスに入社したというのもあります!(笑) あとはイベントにも協力していただいたダイナモピクチャーズとはずっと付き合いがあって、すごい技術を持っているのでなんとかなるのではないかと。幸いなことに機会に恵まれたので、思い切ってやってみました。
――社内でこのプロジェクトの反響は?
最初にデザインがあがった時は「ふ~~ん」くらいだったのですが、モデルができて動き出し、曲ができてくるに従って、盛り上がっていきました。あとは、プロジェクトに関係のない多くの女性スタッフも喜んでいたようで、社内での反響はよかったです。
――以前のインタビューで「女性のファンに“これは私たち向けだ!”と思っていただけるものもやっています」と発言されていましたが、そちらはこのプロジェクトだったのでしょうか?
はい、そうです。お待たせしてしまったのですが、その分、こだわっていいものになっていると思います。
――筆者は男なのですが、そんな自分から見てもエンターテインメントとしておもしろいうえに、パフォーマーが魅力的。さらに音楽がいいと感じました。
僕は音楽が大好きなんですね。なので、曲のクオリティについては絶対に譲りたくなかった。そのため、彼らを知らない方が音楽だけを聞いた場合に「これはいいね」と感じたり、音楽に詳しい人が聞いた時に「かなり高度なことをやっている」とコメントしたりするようなものをやりたいと思っていました。
曲については聞きやすいことが前提ですが、実は歌がうまい人でないとそう簡単に歌えない難易度の高いものになっています。
――曲を作られる方にもこだわっていると。
普段、いわゆるアーティストさんやアイドルさんのJPOPの曲を手掛けている方ですね。僕がものすごくリスペクトしている方です。ダンスも、国内随一のダンススクールの先生に振り付けをお願いしています。一流のなかの一流を揃えたプロジェクトです。
――レベルクロスはダンスで手を合わせたり、前後で重なったりする。連動はモーションキャプチャーが苦手とするところだと思うので、そこについても驚きました。
ご指摘いただいたところを始め、苦労しているところは多いです。いろいろとトリッキーなこともやっています。
今回のイベントは、初お披露目であり、自分たちのベンチマークでもあった。イベント当日はよくも悪くもたくさんのデータを取ることができました。そのため、本興行の時はより進化したいいステージを見せられるはずです。
――イベントに参加された方からはどのような反応がありましたか?
想像以上に、高い満足度・支持をいただいています。もちろん、連れてこられた男性や付き合いで来た人もいたのですが、ほぼ全員が「次回のイベントにも参加したい」と思っていただけたようです。
――イベントに参加できなかった人からはどんな反応がありましたか?
こちらもすごくいい反応でした。ソーシャルネットワークでの反響を見て興味を持っていただき、レポートを見て「次にやる時は絶対に行きたい!」という声が非常に多かったです。
――会場で写真撮影が可能なイベントというのも珍しいですよね。
SNSによる拡散を意識していることもありますが、僕がもっとも意識しているのは“一期一会のイベントに参加した”という思い出を、参加した方に残してもらいたいからなんです。そのため、今後も写真撮影はオッケーにしていきたいと思っています。ただ、いろいろな展開があるので、動画と録音は勘弁してください(苦笑)。
――曲をライブ前に公開されていたのは、予習のためでしょうか?
ステージの上のパフォーマーについてもまだよくわかっていないうえに、知らない曲に乗るのは難しい。正直僕自身が「どれだけ盛り上がってもらえるのかな?」という、不安もありました。それについて少しでもこちらからできることとして、曲はあらかじめ公開しました。
曲が流れて涙されている方もいらっしゃいました。我々が想定されている以上に思い入れを持たれているようで、大変ありがたかったです。
――パフォーマーについては参加者から支持されていましたが、メンバーの出来について自信はあったのでしょうか?
いやいや! いつも最初にお見せする時はドキドキです。「受けて入れてもらえるのだろうか?」や「これはないな」と言われるんじゃないかという恐怖心が毎回あります。なので受け入れていただけたのでホッとしています。
――結果として、初お披露目は大成功であったと。
個人的には、いいインディーズのアーティストが出てきて、アンテナの敏感な人がイベントに集まって、「彼らはいいよ!」と言ってもらえるものになってほしいと思っていました。“AR performers βLIVE(ベータライブ)”はまさにそういうものになったので、よかったです。
――野暮を承知でお聞きしますが、キャラクターデザインはどなたがやられているのですか?
それは難しい質問です。……いろいろな人のデザインが混ざっているため、いわゆるキャラデザという人はいません。最初の原案の方とイラスト担当の方も違い、それがモデルになる時にもデザインが変わっています。先ほどのように、複数の人のイメージが合わさって、現在のようなモデルになっています。
そもそも僕がデザインに口を出すのでこういうことになるんですが……今回はいつにも増してオーダーが多かったですね。
――デザインについて内田さんからどのようなオーダーがあったのでしょうか?
シンジくんは、“2次元”に慣れていない人が見ても、美青年の王子様を作ることを意識しました。
あとはファッションのスタイリングとして一般性を取り入れたいと思いました。扮装、コスチュームになるとファンタジーになってしまいますし、ステージ衣装に寄りすぎるのも使いにくい。実際に市販されている服とステージ衣装の中間を意識しています。
衣装については実際に作れるように、型をデザインしたうえで、縫い方や素材についても整合性をとっています。さらに星を置いて、王子様らしさを演出しています。
――レベルクロスのデザインはいかがでしょう?
彼らはパッと見、ややガラが悪いようにしています。あとは“お兄系(おにいけい)”と言われるようなセクシー&ワイルドなイメージを取り入れたいと。
ただ、リアルに“お兄系”のままだとゴチャゴチャしてしまううえに、スマートさに欠ける。清潔感を加えつつ、カッコよさを出すようにお願いしました。デザインがリアルな分、スタイリングに気を配って、実際の人間の頭身ではできないラインにしたりアクセサリーを加えたりしました。
――寄せられた質問に対してレイジくんが「レベルクロス的じゃない!」と一蹴する展開は予想できませんでしたね。
彼はすごいですよね(笑)。ああいう人だったみたいです(笑)。シンジくんについても、王子様のような見た目にもかかわらず、言葉の端々に彼独特の人間性が見え隠れしていましたよね。ナチュラルにイヤ味だったりすることがあるんですね。
実はここが僕の中でも実験している部分。アイドルやアーティストがそうだと思うのですが、ステージを重ねて、参加者と交流することで変わっていくことをやりたいんです。
――なるほど。
先ほどの話とつながるのですが、僕がこれまで作ってきたキャラは設定の中でしか動けず、変化しなかった。ただ、“生のキャラ”であれば当然変化していきますよね?
彼らの設定や考えている思考はかなり細かく用意しており、演者の方と共有しています。皆さんが見られたのは、初舞台のシンジくんやレベルクロスがステージにあがったら“こういう振る舞いする”というキャラであって、素の彼らではないんです。
――あくまで、初お披露目で緊張している彼らの姿であるわけですね。
あと3年くらいしたら、「初ステージ以降、このキャラ設定でやってきたけど、ちょっと無理が出てきたなあ」と思って、彼ら自身が考え直すかもしれない(笑)。あらすじはあるけど、結末は決まっていないんです。
ステージを重ねていくと変化が起きて、それが事実になるんですね。当然ステージのパフォーマンスは演者のメンタルが関係しますし、参加者のテンションも影響を与えます。それが目指していることです。
――それはこれまでにない展開ですね。
3回目の公演で、シンジくんのステージにダイヤくんが登場しました。段取りとして、ずっとシンジくん1人だとさみしいので、誰かがちょっかいを出すとおもしろいと考えていましたが、“チーム・シンジ”と“チーム・レベクロ”が現場で相談して決まったことです。その場その場の反応を受けて、あのようなイベントが発生したわけです。
――2回目の公演でダイヤくんがバック転していましたが、これも想定していなかった?
特技がバック転なので、現場でチーム・レベクロと打ち合わせしたところ、「イケそう」ということだったので、参加者が求めてきたらやろうと決めていました。このように「こうなってほしい」というビジョンがこちらにあったとしても、“チーム・シンジ”や“チーム・レベクロ”が納得しないと起きません。さらに、参加者のオーダーで変化することもあるんです。
ただ、あくまでのステージ上の立ち振る舞いであって、私生活がああいうわけではないんですよ。
――イベントでも「レベルクロス的ではないが、コンビニのスイーツが好き」とコメントされ、意外でしたね。
私生活は私生活であるけど、“レベルクロスのレイジくん”になった時にはああなる。ダイヤくんにしても強面(こわもて)なところがありますがしっかりしているので、私生活は割とちゃんとしているんじゃないですかね。
ステージ以外の彼らをお見せするのもおもしろいと思っているので、そういう展開もしたいと考えています。
――シンジくんと“レベルクロス”という2組をデビューされた理由を教えてください。
なぜ2組、3人だったのかというと2組のほうがいろいろ試したいことをやれると考えたからです。もっと多くデビューさせたかったのですが、現実的なスケジュールラインの都合もあります(笑)。
――なるほど。楽曲の音源は発売されるのでしょうか?
これについてもボンヤリとした展開しか考えていないんですよね。ただ、反響がすごかったので音源を早く出そうと考えています。レーベルさんにも興味を持っていただいたようで、すでにコンタクトをいただいています。
ただ、曲はすでにネットで公開しているので、インディーズっぽく知っている人が特定の場所で買えるようなタイプで販売するのもアリかなと考えています。過去を振り返った時に「あのCD手に入れておいてよかったよね」というものになってもらえるといいですね。
――今後のスケジュールについては決まっているのですか?
非常に大きな反響があったので、なるべく早くにまたお会いできる場所を用意したいと思っています。ただ、各チームのブッキングや開催場所などの問題もあるので。なかなか「来週やります!」というわけにはいきません。ごめんなさい。
さらに、ベータライブを踏まえてイベントの中身を検討する必要があるんですね。皆様の要望や意見を踏まえて、前向きに動いているのでもうしばらくお待ちいただけると幸いです。ただ、個人的には年内にはやりたいですね。
――例えば、実施しているイベントを他会場で映像として配信することは可能でしょうか?
まったく問題なく行えます。イベントは大都市でやることが多いのですが、地方の方に届けることも大事だと思っています。映画館や小さな場所を借りて、大人数を動かしてイベントをすることもやりたいです。
――イベント構成についての構想はすでにあるのでしょうか?
会場まで来ていただくにふさわしい、驚きを与えるものをしたいと思っています。あとは有名曲のカバーをお披露目したいとか、いろいろ構想はあります。
ただ、ベータライブでお披露目するための準備で精いっぱいだったので、以降の展開についてはまだ模索している最中です。
――個人的には女性パフォーマーが登場するようなコンテンツにも期待しているのですが、そちらはいかがでしょうか?
もちろん興味があり、いろいろなイメージを持っているのは確かです。僕としては女性アーティストもいてほしいと思っています。ただ、ぶっちゃけてしまうと次に登場するのは男性です。
――この“AR performers”を使って、今後はどのような展開をしていきたいですか?
まずはイベントの規模や頻度をあげて、なるべく多くの人に知っていただき、好きになっていただきたいです。先日のベータテストでエンターテインメントとしてやれることがさらにわかったので、“生”感をより出して、見応えのあるコンテンツ作りをしていきたいです。
思っていた以上に、キャラクターがやりとりしているパフォーマンスについて反響が大きかったんですよ。ただ、生のアーティストのトレースをしたいわけではないんですね。2.5次元だからこそできることをしないと意味がないので、そういうところに挑戦していきたいです。
――最後に読者へのメッセージをお願いします。
ダイジェスト映像を公開しているのですが、その場に来ないとわからない空気感があります。「百聞は一見に如かず」なので、今回ご参加いただけなかった方で興味を持った人は、ぜひ生で見ていただいて、理解していただきたいです。
イベントにご来場いただいた方は、デビューしたての彼らを知っている目撃者です。自分だけが知っているアーティストを紹介するような感じで、お友だちにどんどん紹介してもらえるとうれしいです。
自画自賛になってしまうのですが、自分のかかわる仕事として誇らしいものになったと感じています。今後も少しずつ情報を発信していきますので、追いかけていただけると幸いです。AR perfomersにぜひご期待ください!
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