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【ガンスリンガー ストラトス EXエピソード 1話後編】バスティアンに煌めく星々

2016-05-14 00:01

文:電撃ARCADE編集部

塔は半ばから、へし折れていた。

人の背丈を数十倍して、なお届かぬ巨大な塔は先端がなく、ただ大きくえぐられたように歪んでいた。
塔は土で汚れ、蔦が絡み、遠目には巨大な丘のようにも見える。

塔は一つではなかった。あるものは横倒しになり、あるものは草木に浸食され、無事な姿をさらしているものは一つもない。

砕けたコンクリと錆びた鉄骨と緑の蔦の織りなすジャングルこそが、フロンティア・ストラトス。風澄徹の故郷だった。

風に耳を澄まし、臭いをかぐ。一歩ごとに、獣や山賊の気配を探りながら、徹はビルの影から影へ渡り歩く。
瓦礫の山を乗り越えると、そこには徹たちのアジトがあった。崩れた建物の屋根を補強した住処だ。
「徹兄ちゃん、お帰り!」
見張りの少年が、喜びの声をあげ、体ごとぶつかってくる。
満面の笑顔を浮かべる少年を受け止めて、ただいまを言い終えるよりも早く、次から次へと子供達が顔を出す。
なじみ深い顔を見て、徹の心に暖かいものが満ちる。
彼らはみな、徹と同じ孤児だ。弱肉強食の大地で生き残るために集まった孤児達のグループ。それが、徹の率いるグループ、バスティアンだった。
「とーるっ、お帰り!」
喜びと自信に満ちあふれた声と共に鮮やかな髪の少女が顔を出す。そのまま子供達をかきわけて、徹に抱きつく。
子供達の冷やかす声の中、徹は少女……片桐鏡華を受け止め、抱擁を解く。
鏡華は孤児ではない。
このあたりを仕切る片桐組の長女だが、奇妙な縁から徹を気に入ってくれて、バスティアンに入り浸っている。

一人一人の顔を見る。
つらい冬を生き延びた子供。熱病から回復した子供。怪我を克服した子供。
そして、自分と同じ戦場で苦楽を共にしてきた片桐鏡華。
その全てがいとおしくて、徹は微笑んだ。
「ただいま、みんな」

「ねぇ、徹にいちゃん」
たき火を囲みながらの夕食は、語り合う時間だ。昼の間にあった様々なこと。今の心配事。そして、お話。
「あれ!」
徹の膝の上の子供が、折れた塔を指す。
「あれ、昔の人が作ったって本当?」
「あぁ本当だよ」
徹はうなずく。
「昔の人って、大きかったの?」
「いや、違うよ。でもね、頭を使って、力を合わせて大きなことができたんだ」
「ふぅん」
あまり納得できない顔で答える少年の、頭を撫でる。

『ガンスリンガー ストラトス』

徹は、あの戦場を思い出す。
塔が美しく立ち並び、硝子の窓がきらきらと陽光を反射し、数え切れないほどの人が行き来する、あの都市の光景。
「日本」と呼ばれた国家。
それこそが、このフロンティアSの過去の姿だった。

「ほんとに人が作ったのなら……また、新しく作れるのかな」
ぽつりとつぶやく少年。
無理に決まってる。何言ってんだよ。そんなからかう声が挙がる中。
「作れるわよ」
鏡華が優しく声をかける。
「どうやって?」
鼻っ柱の強い子供が、返事を返す。
「まずは、好き嫌いしないで、毎日、ちゃんとご飯をたべること。体鍛えて大きくなるの。そうやって、いつかお父さん、お母さんになったらね、がんばって、今より、ちょっとだけ、いい家を造るの」
穏やかだが自信に満ちた声が、静かな夜を渡っていく。
「みんなの子供も、子供の子供もそうするの。そうやっていけば、あんな塔なんて、あっと言う間よ!」
夜空を包むように両手を大きく広げる鏡華。子供達の笑い声。
「そう、いつかは作れるさ」
徹は、力強く、うなずく。

かつての日本は、巨大な天変地異によって滅びたという。
長い時間をかけて、その傷跡から人々は立ち上がってきた。
徹たちも力を尽くしてきた。子供達を育て、学校を作り、少しずつ失われた知識を取り戻している。

鏡華と視線が合い、小さくうなずきあう。
フロンティアSの未来は明るい。
未来があれば、だ。

それこそが、徹たちが二十一世紀という過去で戦い続けている理由だった。
敵は、かつて滅んだ日本の「もう一つの未来」。もう一人の徹の故郷。

選ばれる未来は二つに一つ。
フロンティアSが生き延びること。
それは、彼らの世界を滅ぼすことなのだ。

二話へ続く

データ

▼ガンスリンガー ストラトス EXエピソード
■文:海法紀光
■イラスト:彼岸ロージ
■協力:スクウェア・エニックス

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