2016年5月20日(金)
Innocent Grey(イノセントグレイ)が『FLOWERS』春篇をリリースしてから2年。今や多くの百合ファンの心を掴み、とにかく続きが気になって仕方がないというユーザーも数多くいる本作ですが、その第3弾となる秋篇が今月27日、ついに発売となります!
というわけで前回の夏篇と同様、今回も一足早く秋篇のマスター版をお借りして、第1章のプレイレビューをどこよりも早くお贈りしたいと思います! また後半では、すっかり恒例となったInnocent Grey代表/原画担当スギナミキ氏のインタビューもお届けしますので、ぜひあわせてお楽しみくださいませ。
“百合系ミステリィADV”と銘打たれた本作『FLOWERS』は、森に囲まれた全寮制のミッションスクール・聖アングレカム学院を舞台に、そこで日々を送る少女たちのふれあいを描いた物語。シリーズは季節ごとの全4季で構成されていて、第3季となる今作の季節は“秋”。ニカイアの会の会長・八代譲葉と、その親友である小御門ネリネ、そして譲葉に想いを寄せる沙沙貴姉妹を軸に、秋らしいしっとりとしたエピソードが綴られていきます。
そして百合と並ぶ本作の重要な要素“ミステリィ”についても、もちろん健在。劇中では様々な事件が発生し、プレイヤーはそのたびに犯人を推理することになります。が、秋篇の第1章では推理パートは出てきません。その代わり冒頭から衝撃的なミステリィ展開となり、その答えが明かされないまま物語が続いていくことに……。まずはメインキャラクターを紹介しつつ、今までとは少し雰囲気の違う秋篇第1章をプレイしていきたいと思います!
夏を経て自分の前から去ったアミティエを捜す決意をした白羽蘇芳。
彼女はアミティエ――匂坂マユリが消えた謎に後一歩というところまで迫っていた。
“ニカイアの会の会長を引き継ぐなら君が求める鍵を与えよう”
ニカイアの会の長である八代譲葉は失った恋人の影を求める後輩へとそう告げた。
真意を知りつつも学院の謎を知る八代譲葉は、彼女に困難な要求を突きつけ諦めさせようと考えたのだ。
だが、真実を求め奔走する少女を見詰める八代譲葉も明かしては為らない秘密を抱えていた――。
秋日の聖アングレカム学院で起こる不可思議な事件の数々。
幼なじみとの祝福されぬ慕情、向けられる恋心、さまざまな恋の糸が織りなし交錯する。
複雑に絡み合った真実と恋の物語が動き始める――。
■ 八代 譲葉(ヤツシロ ユズリハ) ■
花 | ユズリハ(ユズリハ科) |
花言葉 | 若返り、世代交代、譲渡 |
声優 | 瑞沢渓 |
エキセントリックで行動的。言動が芝居がかっているが、それは意図して行っているもの。人をからかいもするがどこか憎めず、ここぞという時には頼りになり、ニカイアの会の会長として学院の生徒たちに全幅の信頼を置かれている。夏の出来事を機に、前に向かって歩き始めた白羽蘇芳のことを好ましく思っているが、学院の謎に迫ることで彼女に害が及ばないか危惧している。そして謎の真相を求めてきた蘇芳に対し、ひとつの“難題”を突きつけることに――。
■ 小御門 ネリネ(コミカド ネリネ) ■
花 | ネリネ(ヒガンバナ科) |
花言葉 | 華やか、また会う日を楽しみに、幸せな思い出、輝き、忍耐、箱入り娘 |
声優 | 西口有香 |
経験なカトリック教徒であり、善良で温和な好人物。本人は常に誰かとふれあっていたい、お喋りをしていたいと思っているが、その現実離れした美しさから、周りに距離を取られてしまっている。しかし無視されているわけではなく、むしろニカイアの会の副会長としても慕われており、神出鬼没な譲葉に代わり実務をこなすこともしばしば。親友である譲葉がなにか悩みを抱えていることを察しているが、打ち明けてくれるまでは見守ろうと決めている。
■ 沙沙貴 苺(ササキ イチゴ) ■
花 | 苺(バラ科) |
花言葉 | 尊敬と愛 |
声優 | 長妻樹里 |
好奇心旺盛なトラブルメーカー。夏の出来事を経て学院の校風に馴染みつつあるものの、トリックスター的な立ち位置は未だ健在。考える前に行動、といった軽率さはなくなったが、交友関係の広さから彼女の耳には様々な風聞が入り、それが騒ぎの火種になってしまうことも。妹の林檎とはなんでも話せる仲のいい双子姉妹だが、最近は口にできないことがあるらしく……。
■ 沙沙貴 林檎(ササキ リンゴ) ■
花 | 林檎(バラ科) |
花言葉 | 名声、選択、評判、選ばれた恋 |
声優 | 長妻樹里 |
怠け者気質のおっとり娘。基本的に自分から率先して動くことはないが、姉の苺が絡むこと、そして怪談系の話が絡む場合は能動的な一面を見せることも。本来は1人を好むものの、白羽蘇芳や八重垣えりかとは書痴仲間として、共に語らう機会が増えている。姉の微妙な変化に気づいており、自らもリアクションを起こそうとするのだが……。
■ 白羽 蘇芳(シラハネ スオウ) ■
花 | 花蘇芳(マメ科) |
花言葉 | 高貴、質素、不信仰、裏切り、疑惑、豊かな生涯、目覚め |
声優 | 名塚佳織 |
無口で心配性で小心者、という気質は変わらぬものの、夏にとある示唆を受けたことで能動的になろうと己を鼓舞している。学院を去った恋人から自分に向けての“印”を探し当て、謎を知る譲葉を問いただすも引き換えに難題を提示され、真っ向から受けて立つことを決意。周りが驚くほどの行動力を見せるようになる。
→その他の登場キャラクターについては前回、前々回の記事をご参照ください。
概要とキャラ紹介が終わったところで、ちょっと一息。プレイレポートに行く前に、まずは秋篇のOPムービーをご覧ください。さわやかさを前面に押し出していた夏篇と違い、今回は秋っぽいしっとりとしたイメージ。その中に漂うキラキラした演出が、ヒロインたちの新たな季節を彩ります。澄み切った秋空を連想させる、霜月はるかさんと鈴湯さんのボーカルも必聴ですよ!
ここからは、秋篇のプロローグと第1章のプレイレポートをお届けします。なんといっても気になるのは、やはり夏篇ラストからの展開。夜の聖堂で行われた譲葉と蘇芳のやり取り、それが彼女たちにどのような影響をもたらすのか、というところですね。あとは今回メインとなる譲葉とネリネについても気になるところ。蘇芳たちとは学年が違うということで、今までは“少し遠くにいたキャラ”という印象なのですが、それがメインに据えられたことでどんなドラマを見せてくれるのか非常に楽しみです。それでは、さっそくプレイスタート!
●いつも一緒の双子姉妹、その奥底に潜む感情
まずはプロローグ。譲葉かネリネの視点で物語が始まるのかと思いきや、最初は沙沙貴姉妹のモノローグから始まります。
昔からもう1人の姉妹に比べて出来がよく、ゆえに学力も習い事も相手に合わせてきたという“彼女”。いつしかそのことに後ろめたさを感じながらも、彼女は姉妹同士が比べられることを恐れ、あらゆることを相手と“同じ”にすることで、比べられること自体をなくしてしまおうと考えています。そして今夜、彼女は姉妹が好きな相手を呼び出し、自らも好きになろうと告白をするのですが……。
さて問題です。このモノローグの主は苺と林檎、どちらでしょうか? シリーズ3作目ともなれば、慣れたユーザー的には「はいはい」ってな感じでスルッと進んでいくと思っていたのですが、これは初っ端からやられました。声優の長妻樹里さんによる、苺と林檎のどちらにもとれる演技はお見事の一言。もちろんここで挿入されるイベントCGも、あえて姉妹で異なるほくろを描かずユーザーを惑わせます。勉強など出来がよさそうなのは林檎っぽいなと思うのですが、実は苺の方が林檎に合わせているのだとしたら……? そしてこの答えは第1章では明かされず、ユーザーは謎を抱えたまま譲葉メインのお話を進めていくことになるのです。
●誰よりも近くにいたからこそ、譲葉の悩みは消えることなく……
そして第1章の始まり。譲葉の視点で、親友であるネリネとの関係が語られていきます。譲葉はネリネの後を追ってこの学院に入学したこと、ニカイアの会の会長を目指していたのはネリネだったこと、なぜか選ばれたのは自分だったこと。そしてずっと以前からネリネに想いを寄せていることも……。しかし、熱心なカトリック教徒であるネリネにとって女性同士の恋愛は赦されないことであり、それがわかっているからこそ、譲葉は自分の気持ちを抑えながら親友との日々を送ってるのです。
意外、というか自分の中では「そうなのかな?」と思っていたことがあって。譲葉とネリネは、別々の部屋で暮らしています。つまり親友ではあっても、アミティエではないのかもしれません。今回の第1章でも、その辺りは明言されていなかったように思います。思えば蘇芳たちとは学年が違うせいか、今までのお話ではこの2人の情報はあまり出てきませんでした。それが秋篇では次々と明かされていって、非常に興味深いです。
●少しずつ変化を見せ始めた、沙沙貴姉妹との距離
料理部の部室に、密かに花をいけていた譲葉。そこへひょっこり林檎が現れて、花の件は2人だけの秘密に。花を愛でるイメージはあまりない譲葉ですが、何気に彼女の花好きを見抜いていた林檎は、驚きつつも納得の表情。そこへ今度は苺がやってきて、譲葉にまとわりつきます。呼び方が「八代先輩」から「譲葉先輩」に変わり、以前よりもスキンシップが増えたという苺。譲葉自身は嬉しさを感じつつ、やや戸惑っている節も。
プロローグを見るにこの姉妹、どちらかはガチで譲葉が好き、そしてもう1人は自分も好きにならなくてはならないから好き、という立ち位置になります。一見するといつもどおりの沙沙貴姉妹のやり取りではあるのですが、プロローグを見ていると、まったく異なる意味合いを持ったやり取りになるわけです。ギミックとしてはすごくおもしろいんですが……答えを、早く答えをください!(泣)
●図書室にてえりか、千鳥とハロウィン談義
ニカイアの会主催によるハロウィンパーティー。料理部として用意する料理を調べるため、譲葉は図書室へ。そこでえりかと出会った彼女は、どんな料理を食べたいかをリサーチ。譲葉にとってえりかはお気に入りというだけあり、冗談を交えつつ和気藹々と話が進んでいくのですが……そこへ、えりかが戻ってくるのを待っていたという千鳥が。そしてパーティーの催し物の話になると、千鳥は怪談話大会を提案。怪談の魅力について熱く語り出します。
えりか&千鳥と譲葉の会話は、なんだか新鮮ですごく楽しいです。これも春、夏ではあまり見られなかったシチュエーションですよね。年上の譲葉に対するえりかの反応もおもしろいですし、あとはすっかりまるくなった千鳥が大変かわいらしいのです。夏篇をプレイしているからこそ、こういうところがなおさら特別に感じられるのでしょうか。
そして千鳥の怪談談義。かくいう自分も稲川淳二氏の怪談ライブに毎年欠かさず行っているのですが、実は秋冬の方が話が多いということをよく仰っておられます。千鳥……その歳にしてなんという怪談通! そして本作のシナリオ担当・志水はつみ先生と怪談飲み会したいと思いました(笑)。
●ネリネの笑顔と、目の前の絶景に癒やされるお風呂タイム
そして千鳥発案の怪談話大会が、まさかの採用に。清廉なアングレカム学院の生徒とはいえ、やはり怖い話は女の子受けがよく、しかも千鳥と同じく怪談好きのネリネが大賛成したこともあり、意外なほどすんなりと受け入れられたのです。譲葉としては冗談のつもりだったのですが、ネリネの笑顔が見られたのは僥倖だったようで。その後、お風呂の中でも嬉しそうなネリネと、そんな親友の胸につい意識がいってしまう譲葉なのでした。
譲葉とネリネは今までのシリーズのカップルとは距離感が決定的に違っていて、彼女たちは幼い頃からの幼なじみなんですよね。なので現時点ですでにお互いのことがよくわかっているし、昔の思い出話なんかも普通に出てくるわけです。言ってみれば、すでに熟年夫婦みたいな落ち着きを醸し出しているのですが、それだけに譲葉は数年後しの懊悩をずっと抱え続けているわけで。それを考えると、こんなほのぼのとしたシーンもやや切なく見えてきます。
●譲葉の心を揺らす一通の手紙、その内容は……
ネリネへの想いや蘇芳との聖堂での一件など、表には出さないものの悩みの尽きない譲葉。ある朝、部屋のドアの隙間に手紙――ラブレターが差し込まれているのを見つけ、彼女の悩みはまたひとつ増えることに。そして悩みを抱えていることはすぐにネリネに見抜かれてしまいますが、譲葉はいつもの調子で煙に巻いてしまうのでした。そんな2人のやり取りを見ていた立花も、譲葉のことを心配して……。
譲葉が入学してすぐの頃は散々ラブレターを送られていましたが、最近ではネリネとの親密な空気から察したのか、いく分落ち着いていたようです。譲葉の心情を考えるとネリネには相談しにくいだろうなと思うのですが、かと言って代わりの相談相手というのも想像できず。そして女性同士の恋愛について、自分でもどう向き合うべきか苦悩している今の状況では、返答の内容も悩みどころなのでしょう。
●悩める先輩を救う、秋空の下のお茶会
立花のお茶会に誘われた譲葉とネリネは、手作りのお菓子や美味しい紅茶を堪能し、穏やかな時間を過ごします。そして終わり際、なにか悩みがあるのなら力になりたいと申し出る蘇芳と立花。そう、2人は譲葉を案じてお茶会を開いたのです。先の聖堂でのやり取りで“真実”を教えることができなかった譲葉。そんな彼女を恨んでいてもおかしくないのに、むしろこうして心から心配してくれる蘇芳に対し、譲葉の胸は熱くなるのでした。しかし恋人を失って苦しんでいる蘇芳にラブレターのことを相談するわけにもいかず……。
春篇、夏篇とやってきて譲葉はなんでもできる完璧超人みたいなイメージだったのですが、秋篇は初っ端からそういうイメージをガリガリ崩してきますね。飄々とした態度の裏ではものすごい悩んでいたり、あと意外に不器用なところもあったり。でもそれで譲葉のことが嫌いになるわけではなく、むしろキャラとしての魅力が一気に増したなぁという印象。天上人だと思っていたら意外に身近だったみたいな(笑)。
●強く成長した後輩と、弱いままの自分
ラブレターには、返事はなくてもいいという旨が書かれていました。が、ここ数日の様々なやり取りの中で己の気持ちに向き合った譲葉は、手紙の送り主に直接、返事と真意を伝えるのでした。そして最後に、譲葉は誰か想う人がいるのかと聞かれ「いない」と答えるのです。この答えが相手をさらに悲しませ、そして譲葉自身も、昔から変わらない“臆病な自分”を改めて思い知ることに。
想い叶わずとも最後に真実を知りたかった送り主と、いつまでも本当の気持ちを口にすることができずにいる譲葉。色々な感情が交わることなくすれ違う、なんとも切ないシーンです。そして譲葉は臆病な自分と、小心者で流されるだけだった蘇芳の姿を重ねていました。しかし恋人を想う一心で強く変革した彼女を見て、心を揺さぶられます。第1章ラストは、そんな2人の“あの夜”のシーンへ――。
●真実の扉を開く鍵、その代償は――
聖アングレカム学院に存在する“真実の女神”――匂坂マユリが学院を去った理由がそこにあり、そして彼女が助けを求めていることを確信した蘇芳。その謎を知る譲葉を問いただすも、自分の口からそれを伝えることはできないと告げます。ただし、蘇芳がニカイアの会の会長を引く継ぐことができたら、謎を解く鍵を教えるとも。はたして蘇芳はこの条件に対し、どんな行動を起こすのか。そして、それは譲葉にどのような影響を与えることになるのでしょうか……?
というわけで、第1章はここまでとなります。推理パートを挟まない静かな滑り出しといった感じでしたが、今まであまり深く触れられてこなかった譲葉やネリネのバックボーンが劇中でこれでもかと公表されて、『FLOWERS』全体を構成するピースがようやく揃ってきたなと思わせる出だしでした。
そして全体的には、夏篇とは真逆の展開になるのかなという印象。夏篇は新キャラの登場や、出会っていきなり大げんかという嵐の海から始まって、それが綺麗に凪いでいくまでの過程を描いていたように思います。対して秋篇は波もなく落ち着いた海から始まるものの、徐々に遠くの空が暗くなり始めて、この先の嵐を予感させるような……そんな漠然とした不安感みたいなものが根底に漂っている印象でした。4部作の3作目、起承転結で言えば“転”にあたる部分でもあるので、恐らく第2章以降は物語が加速度的に動き出していくのではないでしょうか。ここから先はあえてプレイせず、1ファンとして発売日を待ちたいと思います。
――まずは改めて、秋篇のテーマを教えてください。
わかりやすく言うと“恋愛”です。春篇、夏篇と比べて恋愛的な要素が前面に出ているシーズンなのかな、と。序盤はそれほどでもないのですが、中盤以降はそれが顕著になるので、よりわかりやすく秋篇の本質を感じていただけるのではないかと。
――秋篇は表向きは静かで穏やかな雰囲気ですが、その根底に得体の知れない不安感みたいなものが漂っているように感じました。
仰るとおり、秋っぽいアンニュイな感じを穏やかな空気の中に潜ませています(笑)。最後の盛り上がりにつなげるために、わりと普通っぽいシーンであってもカッチリ雰囲気作りをするというのは、イノグレっぽいこだわりでもありますね。
――譲葉は春篇、夏篇だとカラッとした印象のキャラだったのですが、それが秋篇では最初から色々なことに悩み続けていますよね。プレイしていて感じる不安感の出どころは、そこなのかな、と。
今までは譲葉の内面が描かれることはなかったですからね。いつもトリッキーなキャラを装いつつも、実は人並みに……あるいは人並み以上に悩んで苦しんでいるんだなっていうのを見ていただくのが、秋篇のテーマのひとつでもあるんですよ。特に譲葉は普段とのギャップが大きいですよね。
――譲葉のイメージがガラリと変わったというか、一気に掴みどころのあるキャラになった感じがします。
そうですね、ちょっとガチで女の子が好きなだけで(笑)。パッと見は完璧な人に見えても、意外と普通に悩んでいたり。
――特に譲葉がネリネの言動に対して、思った以上に内心で動揺しまくっていたのがとても印象的でした。
自分でプレイしていても、譲葉が本当はすごい動じやすかったり、変なところで驚いちゃったりするのを見て「あ、この子かわいいな」っていうのを再認識させられました(笑)。
――一方、ネリネの方は今までとあまり変わらない印象です。
ネリネは中盤以降でかなり変わってくるかと思います。ネリネ視点でのエピソードも出てきますし、なにより彼女は彼女で色々抱えていますから。今までとはかなり印象が異なる“黒ネリネ”にご期待ください!
――黒ネリネ! 言葉の響きからしてすごそうですが(笑)。
彼女の本性はもう、一筋縄ではいきませんので(笑)。ただおっとりしているだけの女の子ではない、ということがお分かりいただけると思います。
――あと、第1章では譲葉がアングレカム学院に入学した理由やニカイアの会の会長になった経緯などが語られますが、自分は譲葉やネリネについて実はほとんどなにも知らなかったんだなぁと改めて感じました。
あぁ、それはありますね。僕も夏篇まではよく知っているつもりだったんですが(笑)。昔からこんな風に仲がよかったんだろうなって、頭の中で勝手に補完されていたんでしょうね。
――それもあって、秋篇は表面的には静かな出だしなのですが、実はインパクトの強い情報も序盤から結構出てくるんですよね。
そういう意味では、今回のOPムービーもかなり攻めた内容だったりします。特に“譲葉とネリネの関係性”という部分は、あのムービーに集約されていると言っていいほどで。
――そんなに重要なメッセージが!?
サビのところで、幼いネリネが譲葉を引っ張っていて、次のシーンでは譲葉が引っ張る役になっているんですよね。あそこが今作を含めた2人の関係性をもっともよく表していると思います。あそこ、既存のイベントCGだとどうしてもカチッとはまらなくて、ムービー用に絵を描き起こしたんですよ。
――ムービーのためだけにですか! 確かにお話を聞いていると重要なシーンであることは理解できるのですが、それでもすごいこだわりですね……。今お聞きしたことを踏まえて、もう一度OPムービーを注意深く見たくなりました。
他にも林檎が譲葉を抱き締めているシーンとか、さり気なく重要な要素を詰め込みましたので、ぜひ繰り返し見つつ妄想を膨らませていただけたら嬉しいです。
――さて、第1章をプレイしていて感じたことがもうひとつありまして、譲葉と後輩たちとのやり取りがなんだか新鮮だなぁと。
あー確かに、今まで蘇芳以外とはあまり絡みがなかったかもしれませんね。
――個人的には、図書室でのえりか&千鳥とのやり取りが好きです。
あれはですね、声優さんの要望も多分に入っているんですよ(笑)。
――と言うと?
譲葉役の瑞沢渓さんは千鳥がお気に入りで、もっと千鳥と絡みたいという要望があったんですね。で、千鳥役の洲崎綾さんは夏篇で自分ばかり嫉妬していたから、もっとえりかを嫉妬させたいと仰っていて。今回それらを取り入れて譲葉、千鳥、えりかのやり取りを増やそうという流れに。
――声優さんからの要望でゲーム内容に調整が入るというのは珍しいですね?
あまり聞かないですよね(笑)。でも『FLOWERS』に関しては、それが自然とうまくハマるんですよ。
――公開されているイベントCGの中にも、向かい合っている譲葉とえりかをなんとも言えない表情で見つめている千鳥の絵がありますね。
編み物を教えているやつですね。3人の絡んだイベントとしてはまさに代表的なシーンで、ここは何回プレイしてもニヤニヤしちゃいます。この絵では相変わらず千鳥の方が嫉妬していますが(笑)、他にもちゃんと用意してありますのでご安心を!
――えりかと千鳥、いわゆる“えりちど”は今回かなり要素が多いんですね?
夏篇をプレイしていただいた方へのフォローという意味合いもあるんですよ。夏篇はケンカから始まって最後に仲良くなるという構造だったので、くっついた後の絡みがあまり入れられなくて。そこを無視して譲葉とネリネだけに注力した秋篇を作るのは違うだろうということもあり、せっかくなので声優さんからの要望も大幅に取り入れつつ組み立ててみました。あと、えりちどは現在のところ唯一幸せになっているカップルなので、そういう意味でしっかり見せたかったのもありますね。
――図書室のシーンだけでも、千鳥の内面が思いの外まるくなっていて驚きました。
えりちどの、あの出来上がった夫婦感はすごいですよね(笑)。夏篇の経緯を知っているからこそ、秋篇の2人のやり取りはなおさら感慨深いというか。
――もうひとつ重要な要素としては、やはりプロローグの沙沙貴姉妹のシーンですよね。
声優の長妻樹里さんに苺と林檎の中間の演技をしていただいて、絶妙な具合に仕上がりました。もちろん服装や髪型も、意図して判別できないようにしています。
――プロローグが終わって第1章からは普通に譲葉視点のお話になるので、ユーザー的にはあのモヤモヤ感が常に引っかかった状態になるんですよね(笑)。だからなんでもない会話シーンでも、沙沙貴姉妹が出てくるだけで色々考えてしまうというか。
まさに狙い通りです(笑)。第1章以降、あのモヤモヤ感はハロウィンイベントまで引っ張ることになるので、ぜひ色々予想していただきたいですね。
――そしてプロローグ最後の告白シーン。姉妹と“合わせる”ために好きになるという部分は衝撃が大きかったです。
ある意味、秋篇でもっとも苦労した部分ですね。夏篇と違って秋篇は最初が静かなので、どうしてもインパクトに欠けてしまうというのがあって。だったらなおさら掴みが大事ということであの衝撃のプロローグになり、さらにそれをハロウィンまで引っ張ると(笑)。
――連作モノなのでユーザーとしてはもう慣れているはずなのですが、『FLOWERS』はどの季節にも驚かされている気がします。
ゲームやアニメは最初の5分が勝負って言いますからね。『FLOWERS』に限らず、イノグレ作品はどれも最初の掴みにはかなりこだわっています。
――ということは、最後の冬篇でも……?
すでに仕掛けを考えています、ご期待ください!
――気が早いですが、今から楽しみです。ちなみに先ほど、プロローグがもっとも苦労されたということでしたが、オチやエンディングではないんですね?
オチって比較的決めやすいんですよ。特に『FLOWERS』は最初からカップリングが決まっているので、こういう風に終わらせようっていうのは大体掴めているんですよね。逆に冒頭部分は自由度が高い分、いつも頭を悩ませています。
――その結果、今回のプロローグもすごい内容に仕上がっているので、早くユーザーのみなさんにもプレイしていただきたいと強く思います。さて、『FLOWERS』のキーキャラクターである蘇芳についてもお聞きしたいと思います。彼女は譲葉から、謎の鍵を得る条件としてニカイアの会の会長を引き継ぐという内容を提示されるわけですが……やはり会長を目指すのでしょうか?
OPムービーにもちらりと該当シーンがありますが、目指します。秋篇の蘇芳さんは強いですよ(笑)。『FLOWERS』は季節ごとに主人公が代わりますが、作品全体を通して蘇芳さんの成長を描いていくという部分もテーマのひとつなので、そこも注目していただけると嬉しいですね。
――ただ、春篇の頃のポンコツっぷりがかなり愛おしかったので、どんどん立派になっていく蘇芳を見ているとなんだか寂しくなります(笑)。
わかります(笑)。手がかかる娘だと思っていたのに、成長して手がかからなくなると寂しくなる父親の心境というか。
――でもそうすると秋篇は譲葉とネリネの問題があり、蘇芳の会長問題があり、例によって七不思議の事件も絡んでくるでしょうから、トピックとしてはかなり盛りだくさんですね。沙沙貴姉妹の問題はまぁ、ハロウィンパーティーで片が付くということでしたが。
沙沙貴姉妹はですねぇ……実はチョイ役で終わるような扱いではなかったりします。
――ハロウィンで解決して終わり、みたいな感じではないと?
パッケージイラストにも入れるくらいですから、それこそ秋篇全体に関わってくることになります。ハロウィン後もかなり後半まで拗らせてきますので、そこもご期待いただければと。
――では次に、これもすっかり『FLOWERS』の定番になりました、食べ物描写について。第1章ではBLTサンドの描写がやたらと美味しそうでしたが、やはり他の食べ物も先々で出てくるのでしょうか?
出てきます! 弊社のスタッフたちも、デバッグ中に無性に食べたくなって買いに行ったりしています(笑)。BLTサンドを筆頭に、ブリトーやら焼きいもやら。昨日も何気ないシーンでロールパンが出てきて、結局食べたくなってパン屋さんに走りました。
――ロールパンにそんな力が!?(笑)
ちょうど19時くらいのお腹が空く時間で……。ちなみにそのロールパンのシーン、絵も出てこない何気ないシーンなんですが、個人的にすごくお気に入りで。詳しくは言えないんですが、なんていうか、百合的にすごくいいんです!(笑) 志水さん的には特に意識して書かれたわけじゃないらしいんですが、僕はもう大絶賛で。
――ロールパン、色々な意味で注目ですね……しっかり覚えておきます。今回プレイした第1章では、カリカリベーコンに対する譲葉のセリフがかなり熱くて印象的でした。
BLTサンドは夏篇における仔牛のカツレツに相当する立ち位置で、物語中に何度か出てきます。譲葉のお気に入りなので、気づいたら食べてる感じで(笑)。他にも様々な飯テロがありますのでご注意を。食べたくなります。
――大抵はコンビニでなんとかなりそうですが、焼きいもは難易度高いですね。
そうなんですよ。僕も焼きいものカットを描くときにどうしても食べたくなったんですが、近場で売っているところがどこにもなくて。仕方がないのでネットで焼きいも専門店を探して、1人で買いに行って公園で食べてきました。ちょうど秋口だったので、風情があってよかったです(笑)。
――焼きいもひとつで大変でしたね!(笑) 自分も実際にプレイしたら、そうなるのかもしれませんが……。もうひとつ、『FLOWERS』の定番といえば映画や小説からの引用ですが、第1章だけでもかなり見受けられました。
今回も健在ですね。ただ、志水さん的には毎回ギリギリまで出し切っているので、やはり結構キツかったようで。ただ知っているものを出すだけではなくて、その場面に合ったものをピックアップしないといけないので。なので恐らく普通に映画を見る時も、使えそうなワードをメモして抽斗を増やしているんだと思います。
――志水さんは大変だと思いますが、自分も1ユーザーとして毎回楽しみにしているので応援しています!
ありがたいことに多くのユーザーさんからご好評をいただいている要素なので、続く冬篇に関してもしっかり入れていきたいと思っています。
――それでは言える範囲で構いませんので、秋篇の中で特にお気に入りのシーンを教えてください。あ、ロールパン以外で(笑)。
ふたつあって、これはシーンではないんですが……個人的に立花が秋篇のMVPだと思っているので、まずは立花の活躍全般ですね。かなり身体を張って秋篇を盛り上げてくれます。見どころ満載です! もうひとつは先ほども少し出た、えりちどと譲葉の絡みのひとつでしょうか。千鳥が譲葉の髪を梳かすシーンがあって、それを見たえりかが……みたいな。ここのやり取りはもう、何度やっても顔がニヤけてしまいます(笑)。声優さんの演技とかすべて含めて、大好きなシーンですね。あそこのえりかの反応は最高です!
――妄想が捗る情報をありがとうございます! では最後に、ユーザーさんにメッセージをお願いします。
いよいよ『FLOWERS』も折り返しの秋篇となります。序盤はおとなしめの展開ですが、中盤から後半にかけては一筋縄ではいかない内容になっていますので、まずは最後までプレイしていただいて。そしてここで満足せず、ぜひ最後の冬篇まで楽しんでいただければと思います。
――今までの流れだと、秋篇のラストも「えぇー!? 早く続きを!」っていう感じの終わり方なのでは……?
うーん、今回はそうとも言い切れない、かもしれません。
――それはまた意味深ですね……余計にラストが気になります!
“引きの強さ”で言えば夏篇以上であると自信を持って言えるんですが、それ以上にその、アレが、アレなので。うーん。
――ええと、そんな期待と不安が大いに入り交じる『FLOWERS』秋篇、5月27日(金)発売です。みなさまよろしくお願いいたします!
(C) Innocent Grey / Gungnir All Rights Reserved.
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