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【ガンスリンガー ストラトス EXエピソード 2話前編】アルクトゥルス学園のとある風景

2016-05-21 00:01

文:電撃ARCADE編集部

第十七極東帝都管理区。
かつて日本と呼ばれた国家は、とうの昔に解体され、多国籍企業の支配する領土となっていた。
国民ひとりひとりにランクが振り当てられ、己の運命を変えることは不可能。
だが流れに逆らわず、身を任せさえすれば、それなりに安楽な一生は保証されている。そんな世界。

言われるままに登校し、言われるままに授業を受け、適当に点数をとり、目立たぬように生きていれば、それでいい世界。

──いや、そんな世界、だった・・・

予鈴と共に、学園は戦場と化した。

風澄徹は走りながら、センサーガンのトリガーを引く。仮想弾が命中したと判定された生徒の校章に電気ショック。「死亡」した生徒は、その場で動きを止める。

ブレイド1は全校参加の格闘技大会である。学園全体を戦場とし、センサーガンとセンサーブレードを使用し、最後の一人になるまで戦い抜く。

徹を強敵と見た級友たちが、机をバリケードにして徹を取り囲もうとする。
机のバリケードが三方から迫ってくる。出口は窓だが……明らかに罠だろう。
徹は、思い切り床を蹴り、マフラーを電灯に巻き付けてスイング。級友たちの頭上を舞う。
予想外の縦の動きにとまどうもの多数。冷静に反応し、銃を向けるもの、五名。

その目には殺意まではなくとも、明確な戦意がある。数ヶ月前まではなかった、その強い意志に、徹は、ふと微笑んだ。
一人一人の顔をのぞき込んで、狙撃。全弾命中。そのまま着地し、廊下へ脱出。そのまま大きく転がる。

センサーガンに銃声はない。
風澄徹が感じとったのは、己に向けられた敵意である。
四つの敵意を転がりながら躱し、四発の弾丸を返す。リロードしつつ、柱の陰を確保し、やっと息をつく。

私立アルクトゥルス学園。
次代を担う大企業の子弟のみが登校を許されるエリート高校。
その実体は、牙を抜かれた、ふぬけの集まりだった。
人は環境に適応するものだ。
生まれながらに地位を保証され、越えられない身分の壁がある時に、野心は邪魔でしかない。
ブレイド1も、戦力を競い合うものではなく、互いの身分を確認するための儀式となり果てていた。

だが今は違う。
低ランクのものが高ランクに牙を剥き、高ランクもそれを正面から迎え撃っている。
そこにあるのは危機感だった。

それも当然だろう。
この世界は、今、消滅の危機にあるのだ。

数ヶ月前、「最悪の五分」と呼ばれた事件があった。
全世界のあらゆる人間が、終末と絶望のイメージを幻視し、多くが命を絶った。
事件によって、実に人口の1%が失われたと言われ、心に傷を負ったものは、さらに多い。

未だ原因は発表されていない。だが、多くの人間は気づいた。
今日と同じ明日が来るとは限らない、と。

──いいことだったとは想わない。

徹の級友にも、事件後に学園に来なくなったものは多い。

──けれど。

廊下を走る徹。
己に叩きつけられる戦意に、徹は高揚する。

ここには、生きる意味を思い出した者達がいる。先の見えない明日への恐怖や、怒りをぶつけているだけかもしれないが、無為に生きるよりはずっとマシなはずだ。

廊下の向こうからの気配。女子生徒3名の全力射撃をしゃがんで躱す。
その隙に、男子生徒がセンサーブレードで斬りかかってくる。
見事な連携。
これなら多少の本気を出せる。

徹は、スライディングで男子生徒の足を刈り、センサーガンでとどめを刺す。
援護射撃をしてる女子生徒は、その時点できびすを返して逃げている。
良い判断だ。
徹もあえて深追いせず、「彼」に備える。

階段を登り、屋上へ。
「遅かったな、徹」
想った通り「彼」はそこで待ち受けていた。
片桐鏡磨。メルキゼデク社、重役の息子であり、アルクトゥルス学園の生徒会長であり、徹の戦友でもある男。誰よりもプライドが高く、その分、己に厳しい男。
「……遅すぎたぜ」
その鏡磨が、徹の前で、がっくりと膝をついた。
「ハイ、徹!」
鏡磨の背後から、その妹……片桐鏡華が現れる。

「助けて……くれたのかい?」
「兄貴が邪魔だっただけよ。正々堂々とやりあいましょ」
笑顔で言われて、徹もセンサーガンを構え直す。
「私が勝ったら……」
「勝ったら?」
「時間いっぱいまで、徹を膝枕してあげる!」
「なっ! そ、そんなことは許さっ……」
過保護な兄の言葉は、無慈悲な膝蹴りによって遮られた。
「やりましょ、徹っ!」
徹は、笑って頷く。

「もうちょっとだったのになー」
帰り道、鏡華はつぶやく。
「危なかったよ」
徹は本心から応える。
任務では援護に徹することが多い鏡華なので、ここまで腕を上げてるとは気づかなかった。
「膝枕、嫌いだった?」
「えっと……」
負けを演じるには、相手より技量が上回る必要がある。手を抜くほどの余裕もなかった、というのが正直なところだ。
「次は負けないからね」
鏡華が、そっと徹の腕をとる。その体温を感じる。
「……」
徹が口を開こうとした時、無粋な呼び出し音が会話を遮った。

『ガンスリンガー ストラトス』

データ

▼ガンスリンガー ストラトス EXエピソード
■文:海法紀光
■イラスト:彼岸ロージ
■協力:スクウェア・エニックス

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