2016年5月21日(土)
SIEEがイギリス・ロンドンで開催している『グランツーリスモ』シリーズのプライベートイベント“Gran Turismo SPORT UNVEILING”。この会場内にて、最新作『グランツーリスモSPORT』のプロデューサーを務める山内一典氏にお話を伺った。
『グランツーリスモSPORT』は初代『GT』以来のイノベーションとなる、と語った山内氏。その意図はどこにあるのか、本作および『グランツーリスモ』シリーズが目指すポイントはどこか、短い時間ながら山内氏のビジョンの一部が垣間見えるインタビューとなった。
▲『グランツーリスモ』シリーズプロデューサーの山内一典氏。 |
――今回、FIAというリアルの自動車連盟とさまざまな取り組みを行うと発表されていますが、その経緯を教えてください。
今回、発表したFIA(国際自動車連盟)との取り組みは大きく2つあります。1つはチャンピオンシップを行うこと、もう1つはデジタルライセンスを取得できるようにするということです。
▲FIAとの取り組みの1つ、ワールドチャンピオンシップの開催。 |
これらについては、もともとはFIAの皆さんから「何か新しいことができないか」ということで問い合わせがあって実現したものです。この2つの取り組みは、お話をいただいてから5分くらいで思いついたトピックではありましたが、それからプレゼンテーションの材料を作り、パリに行ってFIAの方々とお会いしました。これが3年前くらいの出来事です。
最初はFIAの皆さんも半信半疑というか、雲をつかむような話として聞いていたようですね。その後、年に2回くらい行われる全世界のオートモービルクラブが集まる総会でプレゼンテーションをしたり、ワークショップを開かせていただきました。
そこで、我々が提案していることを実際にやると、どのような未来が開かれていくのかということについて、長い時間をかけて少しずつ理解を深めてもらいました。それから2カ月くらい前に、ワールドモータースポーツカウンシルで『グランツーリスモSPORT』での取り組みに関する議決が行われ、ようやく発表することができました。
こうした長いプロセスを経て、今回の取り組みに至ったと言えます。
――デジタルライセンスの取得について、参加表明を行っている国に日本が入っていませんでしたが、今後の展開について教えてください。
FIAやJAFといった自動車連盟の世界に足を踏み入れるのは、今回初めてのことでした。実際に参加させていただき、深くコミュニケーションを取ってわかったことは、自動車連盟の世界は、ポリフォニーデジタルのような5分で物事が決まる世界とは真逆の世界だということです。
今回のデジタルライセンスについては、この3年間にわたるプレゼンテーションやワークショップの結果として、あの22カ国からの賛同が得られたということになります。ただ、この状況はじわじわと変化していくだろうと思っています。
▲『グランツーリスモSPORT』を通じて、リアルのモータスポーツで使えるデジタルライセンスを取得できる。 |
世界的にはモータースポーツのライセンスを取ろうとしている人はどんどん減ってきているんです。そして減ってきている国や新興国はデジタルライセンスに興味を持ってくれています。
一方、ドイツなどは逆にモータースポーツが盛んで、ライセンスの取得者は増えているし、新しいサーキットも作られています。そういう国では、新しい取り組みについて今のところ興味がないというのは、よくわかります。
そのあたりの温度感は国ごとに違いますが、今後は賛同する国が増えていくだろうと思っています。ローンチの時点でも増えているでしょうし、毎年増えていくだろうと思っています。
▲現時点で参加表明を行っている国。 |
――『グランツーリスモ』は、実際のモータースポーツシーンにどのように関わっていきたいと思っていますか?
まず前提として、現在の自分の問題意識についてお伝えします。現在のモータースポーツの姿はそれほど安定しているものではないと思っています。60年代や70年代はモータースポーツの形があって、そこにスポンサーマネーが入ってきていましたが、車にステッカーを貼るだけでお金がもらえるような時代はもう崩れてきていると思っています。
今は新しいモータースポーツのあり方を提案しないといけない時期なんじゃないか、という意識がありました。すでに現在のモータースポーツのあり方は以前とは違うものになっているのではないかという予感がしています。
我々がやっているGTアカデミーは、『GT』で培った技術が実際のモータースポーツでも通用するのか、という挑戦の場として作用したと思います。今回の『グランツーリスモSPORT』では、バーチャルのドライバーをリアルに接近させるということよりも、僕らが働きかけることでリアルの方を動かしていきたいと思っています。
『グランツーリスモ』の目標というのは、僕らが働きかけることでリアルの方も変化していくという触媒のような役割ができたら幸せだと思っています。FIAとのパートナーシップも根本はそこにあります。リアルの世界に変化を与えたいのです。
――ステージの上で山内さんは『グランツーリスモSPORT』について、次の世代のレースゲームの香りを感じられると表現していましたが、具体的にはどのようなことでしょうか?
『グランツーリスモSPORT』で行う次の世代のことというのは、発表したものがすべてとなります。もっとも、レースゲームジャンルというのは、我々が『GT』を世の中に打ち出してから、そもそもは何も変わっていないと思っています。『GT』のようなゲームは増えていますが、新しい遊び方や新しい何かを見せてくれるゲームは増えていません。
僕ら自身も『GT』からの新しい何かを生み出すということにすごく苦労をしていて、『GT5』や『GT6』の時代はストレスのたまる時代ではありました。新しいことをやりたいと思っていても機が熟していなかったり、ハード的な制約があったり……。
今回、PS4になって、あるいは『GT』が登場してからおよそ20年が経過したことで、世の中とコミュニケーションを取れる素地が整ったのではないかと思っています。今なら「新しい提案ができる」という手応えを感じています。あとは、単純に制作が楽しいです。
イメージしたものが形にできるというのは『5』や『6』の時代にはなかなか難しいことでした。
――それではゲーム内の要素に関する質問をさせていただきます。『GT6』ではタイヤメーカーなどとの提携もありましたが、『グランツーリスモSPORT』では車の挙動はどのように変わっていますか?
常に僕らが目指しているのは、リアルを徹底すれば操作も簡単になる、ということですね。車が持っているものを当たり前に実現すればいいことなんですが、当然ながらなかなか難しい。そのチャレンジは常に続いています。
ただ、今回の『グランツーリスモSPORT』は、初めてレースゲームをプレイする人に向けて作っているつもりなんです。乗りやすさについては徹底してこだわっています。リアルなものは難しいという誤解が、ドライビングシミュレーターと呼ばれるジャンルには激しく存在していますが、リアルな車って別に運転が難しいものでもないんですよ。
リアリティを求めていくと運転が難しくなるというのは完全に間違いで、そこを乗り越えていきたいですね。
――初心者向けの機能ということでお聞きしますが、他のレースゲームで導入されているような巻き戻し機能の搭載の予定はありますか?
技術的にはいつでもできる機能です。昨日のチャンピオンシップでもクラッシュシーンを巻き戻って見せていたりしてましたし。システムとしてはすでに持っているので、ゲームデザインとして、どのモードで使えるようにするか、逆にあらゆるモードで使えるようにするのかといった議論になりますね。そこはまだ決めていないところです。
――試遊機では他車にぶつかっても車の状態がそのままでしたが、破損表現は導入されますでしょうか?
今回のバージョンでは破損表現を表示できるようになっていませんでしたが、内部的にはありますので、もちろん可能です。
――前作までにあった天候変化は今作も対応していますか?
天候変化については、レース前に天候を選べるようになる予定です。これまでのシリーズではレース中に天候が変わるようにもできましたが、正直なところ、自由度を取るか、クォリティを取るかの天秤ですね。どの要素を自分たちが重要視するか、というところを考えて、天候は変わらないようにしました。
――PS VRへの対応がすでに発表されていますが、開発状況などを教えていただけますでしょうか?
『GT』シリーズは過去に3DTVに対応したり、『6』ではOculusに対応したりしていました。VRに関する経験そのものはあるので、PS VRにも対応が可能だと思っています。ただ、どのレベルまで対応するのか、それがよいのか悪いのかについては今後考えていく必要があると思っています。
PS VRについては、ローンチまでには対応させたいと思っています。もともとレースゲームはVRとは非常に相性がいいんです。コクピットビューがあるので、酔いにくいんですね。色々な意味で有利な条件が揃っていると思っています。後はそれをどう自然に表現できるかということですね。
――リアルとの取り組みに関する質問になりますが、車の自動運転の研究などに関するアプローチはされていますでしょうか?
すでにNVIDIAでは『GT』を使って自動運転に関する機械学習を3年くらい続けているんです。自動運転の路上試験は、当然ながら一度もミスをしてはいけないものですので、シミュレーターで機械学習をさせるのが安全なんです。
NVIDIAでは、プレイヤーが実際にやっているようにコントローラーに入力をさせる方式で学習させています。画面をキャプチャーして、その画面内にあるものを認識させたり、車速を読み取ったりして、その結果をもとにした自動操縦の研究を進めている形です。ですので、『GT』はすでにAIの研究開発には使われているんです。
今後、僕らがコンシューマ向けのゲーム制作を越えて、産業向けのソフトの制作に踏み出すかどうかは、とりあえず目の前の『グランツーリスモSPORT』の開発を終えてからですね。
――それでは最後に『グランツーリスモSPORT』を楽しみに待つ読者へのメッセージをお願いいたします。
今回の『グランツーリスモSPORT』は、僕や開発スタッフが初代『GT』以来の高揚感に包まれながら開発をしているタイトルなんです。
毎日、だいたい8時間置きくらいに小さな進化が目に見えて生まれている、そんな状況です。これは初代の時もそうでしたし、3~4日もするとかなりの改良が積み重なっています。そういう奇跡みたいな状態がいろいろな条件がうまくかみ合って、心から楽しく『グランツーリスモSPORT』を制作できているんです。
あとはこれを皆さんに届けて、この幸せを皆さんと共有したく思っています。それではありがとうございました。
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