News

2016年6月9日(木)

【電撃PS】SIE・山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』を全文掲載。テーマは“春ドラマに学ぶ”

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 ここでは、電撃PS Vol.614(2016年5月12日発売号)のコラムを全文掲載! 

第83回:春ドラマに学ぶ

 春クールに入り、テレビドラマが一新されました。この原稿を書いている段階では、概ねそれぞれ第2話が終わったくらいのタイミングなのですが、今期は心躍るドラマが多くて嬉しい限りです。というわけで、中でもお気に入りの5本についてご紹介したいと思います。

 まず、天下のイケメン福山雅治さん久々の月9主演である“ラヴソング”。どこか人生に挫折したイケメンのお医者さんが、ギターも弾く。その時点でもうズルい。ヒロインは、このドラマのため100人からのオーディションに勝ち残った、ミュージシャンの藤原さくらさん。役の名前もそのまま“さくら”なんですが、このさくらさん、吃音であることに強いコンプレックスを持っていて、でも“歌”を通して世界と対峙していこうと頑張るのです。コミュニケーション手段が過多な現代、簡単に意思疎通できてしまうがゆえに起こる問題が多い時代だからこそ、一番大事な“会話できること”の重要さにスポットを当てている。来るべきラストシーンを楽しみにしたい作品です。

 2本目、嵐の松本潤さん主演の“99.9 -刑事専門弁護士-”。これも面白い。刑事事件って、検察に起訴された事件は、99.9%有罪になるんですってね。というわけで残りの0.1%に隠された真実を探る法廷モノ、なのですが、今のところ法廷シーンはものすごく短い。なぜ被告人が被告人になるに至ったか、その謎解き解明に時間を費やしていて、検事と弁護士、立場は逆ですが、木村拓哉さんの“HERO”を彷彿とさせます。1点シビれるのは、名優香川照之さんが配役されているのですが、となると普通、強敵検事役と思うじゃないですか。それがなんと、松潤さんの上司にあたる弁護士役なんですよね。ガンガンぶつかりながらも、最終的には利害が一致し共闘するという、なんとも頼もしい内容に仕上がっています。

 さて3本目。こちらも嵐の大野智さん主演、“世界一難しい恋”。大野さん演じる、若くしてホテル王となった、鮫島というエキセントリックな社長。プライドが高く、高圧的で冷徹な鮫島は、従業員のほんの些細なミスも見逃さず、バシバシ解雇したりするのですが、ひょんなことをきっかけに、波瑠さん演じる部下の女性に恋をしてしまう。鮫島は、プライドの高さがゆえに「好きだ」の3文字が言えなくて見ている側もやきもきしてしまうのですが、これって、どこか嵐というスーパーアイドルの一員である大野さん自身の、恋愛に対する不自由性と重なる部分があって、台詞回しなどすごく笑える作品なのにどこかもの悲しくもあり、目が離せません。

 4本目。クドカンこと宮藤官九郎さん脚本の“ゆとりですがなにか”。じつはこれ、日曜の夜にはあまりみたくない内容なんですよね……。扱いづらい小学校の教育実習生や、社員を小バカにする居酒屋のバイトリーダーなど、クセのあるキャラが盛りだくさん。なんといっても、ダブル主演のうちの一人、岡田将生さん演じる会社員の部下である入社2年目の新人が、まあ強烈なキャラクターで、絵に描いたようなモンスター社員なのです。仕事は手抜き、頑張らないうえにSNSばかりやっている。怒られて心を入れ替えたと思いきや、なんと組合に訴えて裁判沙汰を起こそうとする。当然、ものすごくカリカチュアされてることは分かるのですが、役者さんの演技力と相まって、めっちゃムカつくのです。ホントにあんなヤツがいたらと思うと、月曜日会社に行くのが怖くなりますね。

 そして5本目。黒木華さん主演、“重版出来!”。僕はこのドラマが一番好きかもしれません。黒木華さん演じる黒沢心は、学生時代、オリンピックを目指すほど柔道に打ち込んでいた女性。しかし怪我によりその夢は絶たれ、でも選手時代に励まされた漫画を生業にすべく、大手出版社の門を叩きます。そこで数々の個性的な漫画家と出会い、一人前の漫画編集者として成長していく。希望の部署に配属されずやる気を失ってしまっている先輩社員も、彼女の前向きな姿勢に感化され、仕事に手ごたえを感じていくのです。マイナスをプラスに変えていく彼女のエネルギー。見ていて気持ちのいいドラマです。

 4本目の“ゆとりですがなにか”とこの“重版出来!”を同じタイミングに見ることで、ひとつ感じたことがあります。それは、これまでいろいろなドラマで“新人”は登場してきたわけですが、その描かれ方が大抵、生意気、使えない、甘い、といった定型の描かれ方だったよな、ということ。“ゆとりですがなにか”が見ていてしんどいのは、新人という“属性”がひたすらネガティブに扱われているからで、“重版出来!”のような、新人が爽やかに輝くドラマと比較すると、その影がより暗く見えるのです。新人であろうがベテランであろうが、できる人はできるしやる気がない人はやる気がありません。

 僕の知っているリアル新人の多くは、希望とやる気に満ち溢れている。世の“新人”さん達にはぜひ、“重版出来!”を見てほしいなあと思うのでした。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

 ソニー・インタラクティブエンタテインメントJAPANスタジオエグゼクティブ・プロデューサー。PS CAMP! にて『勇なま。』シリーズ、『TOKYO JUNGLE』などを手掛ける。現在『トゥモローチルドレン』『NewみんなのGOLF』を絶賛開発中。最新作、『Bloodborne The Old Hunters』好調発売中!

 Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)

 山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!

データ

▼『電撃PlayStaton Vol.615』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2016年5月26日
■定価:667円+税
 
■『電撃PlayStation Vol.615』の購入はこちら
Amazon.co.jp

関連サイト