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【ガンスリンガー ストラトス EXエピソード 3話前編】徹を押し倒す流れをシミュレート

2016-06-06 20:00

文:電撃ARCADE編集部

風澄徹は、マイペースだ。言葉を換えれば、自分で決めた優先順位を守る男だ。

元々、庶民であった風澄が、ランクによって支配された管理社会の中で生き抜くためには、弱みを見せずに生きる必要があったからだろう。
先の先を見すえ、必要な仕事を必要となる順に片づけていく。
世界が終わろうとする中において、色恋沙汰が占める割合は、比較的、低い。

残念なことではあるが、それも彼の魅力だ、と、片桐鏡華は思う。
そして、だからこそ、こうして二人きりで帰る時間は貴重だ。
たわいのないことを話して、買い食いなどする。
大きなアイスクリームを食べながら、ふと鏡華は気づく。
徹の頬、唇のすぐ横にクリームが。
きちんとした性格の徹にしては珍しいことだ。

──もしかして、誘われている?

いや、誘われてるか偶然なのかは、どちらでも良いことだ。
行動あるのみ。今すぐGO!
鏡華は、徹の頬に唇を近づける。近づけながらも冷静に判断。
あのバカ兄貴が、黙って見てるわけはない。兄貴の乱入から、徹を庇いつつ、どさくさに紛れて徹を押し倒す流れをシミュレートしつつ、カウントダウン開始。
バカ兄貴が乱入するまで、あと5、4、3、2……。

二人、同時に振り返る。だが、背後には何もない。
「……あれ?」
徹と顔を見合わせる。
「……バカ兄貴が来るかと思ったけど」
「しづねさんの気配もないな」
竜胆しづねは、徹たちの同級生であり、同時に、鏡華の兄、鏡磨のボディーガードでもある。
鏡磨の命令で、お目付け役として鏡華に派遣されていることも多い。
「何かあったのかな」
「いいから、いこっ、徹」
考え込む徹の腕を強引にとる。世界の危機はともかく、兄貴に徹の時間を奪われたくない。
苦笑する徹の頬に、今度こそ鏡華は口づける。
だいたい、あの兄貴が死ぬ器であるものか。

『ガンスリンガー ストラトス』

片桐鏡磨は、薄暗い部屋の中で目を覚ます。何もない殺風景な部屋。粗末なパイプ椅子。手は手錠で固定。
目の前には、銃を持った男。
鏡磨は、唇をつりあげて笑った。
あわてるほどのことではない。誘拐には慣れている。悪くない手際だ。
「で、何のようだ?」
「試さないのか?」
誘拐や急な襲撃に備えて、緊急用の通信装置や、隠し武器などは持ち歩いている。縛られたままでも使えるように服に仕込んだものも多い。
だが、いちいち試すつもりはなかった。
部屋の様子からすると電波は遮断されているし、武器類は取り上げられているだろう。 ──何よりも。
「オブスキュラ」
男が、かすかに目を見開いた。
「知っているか」
今の第十七極東帝都管理区では、あらゆる人間がネットワーク上の情報として管理される。自動ドア一つでさえ、顔と遺伝子情報を認証しなければ開くことはない。
そんな社会の中で、電子的に全く存在しない人間。それが、オブスキュラである。
市民登録も出生登録もなく、ランク制の外部に存在する。裏の仕事に、これほど便利な存在もないが、その分、社会の恩恵を全く受けられない、過酷な暮らしを強いられる。

「ならば、わかるだろう。この銃口は揺るがない。洗いざらいしゃべってもらうぞ」

男の持っている銃は、旧式の、電子部品の全くない拳銃である。
各種センサーの情報支援は受けられないが、その分、外部からハッキングされることもない。

「何が聞きたいんだ?」
鏡磨は鷹揚に答えた。
一流の人材をもって遇する相手は、好意に値する。たとえそれが誘拐であってもだ。

「おまえのバックについてだ」
そして男は、鏡磨の履歴を語り始める。

片桐鏡磨。メルキゼデク社重役の息子であり、アルクトゥルス学園の生徒会長も勤める。
第十七極東帝都管理区のランク制度は、あらゆる職業について、才能と適正に応じて人材を配分するという建前だが、実際は、ほぼ公然と世襲が行われ、良いポストはカネで独占される。
はたからみれば、鏡磨も、そうした未来を約束された、無能な二代目の一人、といったところだろう。

だが、真に才能あるものにとって、怠惰なものに囲まれることほど苦痛なことはない。
かつての鏡磨が荒れているとしたら、それは、己の全力を出せる相手がいなかったからだろう。

そんな彼が行いを改め、頭角を現した時期は、奇妙な事件が頻発しはじめたのと期を一にする。

見慣れた都会に重なるように、急に、荒れ果てた廃墟の光景が浮かび上がる。
その光景は見るものの心に、深い恐怖と、絶望、根源的な破滅の印象を与えた。

当時、幻覚剤を用いたテロ事件とされた、この光景が、フロンティアSと呼ばれる、もう一つの世界であり、二つの世界が崩壊に向かう兆しであると気づいた人間は、限りなく少なかった。

片桐鏡磨は、その一人である。

データ

▼ガンスリンガー ストラトス EXエピソード
■文:海法紀光
■イラスト:彼岸ロージ
■協力:スクウェア・エニックス

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