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2016年6月23日(木)

【電撃PS】SIE・山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』を全文掲載。テーマは“システムの役割”

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 ここでは、電撃PS Vol.615(2016年5月26日発売号)のコラムを全文掲載! 

第84回:システムの役割

 先日、かつての『ドラゴンクエスト』シリーズや、最近ではスマートフォンアプリ『予言者育成学園 Fortune Tellers Academy』で、シナリオ、ディレクション、プロデュースを務められているフジゲルこと藤澤仁さんと、『ゴッドイーター』シリーズや『フリーダムウォーズ』でディレクターを務められた保井俊之さんと飲む機会がありました。

 業界の一流どころの方々は、とにかく話が面白い。たとえ寡黙な方であっても、放つ一言一言が輝いていて、あっという間に時間が過ぎてしまいます。しかもお店は、中目黒にある有名な鳥料理屋さん。美味しい料理と会話で夢心地なひとときが味わえる……はずだったのですが、途中から、どうも左上の奥歯の様子がおかしい。ちょっと歯の根が合うだけで、すごい痛みを感じ始めてしまったのです。

 夜、その痛みはどんどんひどくなり、半分が優しさでできている薬を飲みなんとか一夜は過ごしたものの、痛みが治まらない。というわけで、翌日10年ぶりくらいに歯医者へと赴きました。知らなかったのですが、最近の歯医者って、小奇麗な診察室にオンラインで繋がったモニターがしつらえられていて、その画面にさっき撮ったレントゲン写真が映し出されたり、治療法を説明する資料がスライドショーで表示されたりと、なかなかにハイテクな環境。一瞬痛みも忘れ、へえと興味津々できょろきょろしてしまいました。

 さて、結果的には、過去に被せモノをした歯の中が膿んでいたようで、何回かは根幹治療が必要とのこと。なので、会計をしつつ次回の予約を取ろうとしたのですが、そのときの受付の女性との会話が、さきほどのハイテクさとは打って変わって原始的だったのです。

「では次回はいつが大丈夫ですか?」
「えーと、できれば火曜の午前中は空いてますか?」
「火曜日は午前中が埋まっておりまして。午後なら大丈夫なのです が」
「じゃあまだちょっと痛いので、火曜の13時から15時のどこかでお 願いします」
「午後は15時からなんです」
「そうですか。じゃあ、平日は無理なんで土曜日の午前中はどうで しょう」
「土曜日も午前中は埋まっていて、午後なら大丈夫です」
「じゃあ、15時でお願いできますか」
「土曜日は、15時までなんです」
「…じゃあ、13時は?」
「13時からは埋まっておりまして、13時15分なら大丈夫です」
「では、土曜日の13時15分でお願いします」

 ……なにこれっ!? このやりとりの不毛さは一体なんなの!?

 ただ、質問の主従が逆転しても同じことですから、別に受付の人が悪いわけではありません。どうあれ、会話ベースで空いている時間を探り合う限り、双方が折り合える時間帯にたどり着くにはそこそこのやりとりが発生するでしょう。ではどうすればよいか。答えは簡単で、“既に確定している今の状況を見せてくれればよい”のです。予約状況がアップデートされるたびにいちいち紙にプリントするのは面倒。でも、予約を管理しているPCのカレンダー画面なりをカウンターのこちら側に見せてくれれば、空いている時間帯を「じゃあここで」と指定できるのです。

 思うに、病院ってこの手の“情報の出し方”が異常にヘタな場所だなあと思います。子供が小さかったころよく耳鼻科に連れて行ったのですが、近所には耳鼻科がその一軒しかなく、毎回ものすごく混んでいました。

 で、病院って、「○○さん、どうぞ~」と呼ばれる以外は、確かな“順番の情報”ってないんですよね。あるとすると、自分より誰が先に居て、誰が後から来たか。これだけです。なので、自分より前に居た人がまだこんなにいるからまだまだかかるぞこれは……というぼんやりとした不安でずっと待たなくてはなりません。人は待つことが基本的には嫌いなので患者はイライラする。きっと「いつまで待たせるんだ!」と怒る人もいるでしょう。

 病院側にしてみても、決して好きで待たせているわけではないのに、クレームがきたら耐えなければならない。お互いに都合のよい仕組みを考えるべきなのになあ。と思って調べてみると、受付後、スマホで自分の順番が数字で分かり、いったん外に出たとしても、番号の進み具合を確認しながら適宜また戻ってくればいい、といった仕組みもあるようです。ぜひすべての病院で採用されて欲しいなあと思います。

 “そこにある情報”と“知りたい情報”をマッチングさせ、双方にとってメリットのある“状態”に変化させる。これが多分、“システムを生み出す”ことの醍醐味なのではないか。かの宮本茂さんは、「アイデアとは、複数の問題を一気に解決できるものである」と語られました。改めて、けだし名言だ! と強く思うのでした。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

 ソニー・インタラクティブエンタテインメントJAPANスタジオエグゼクティブ・プロデューサー。PS CAMP! にて『勇なま。』シリーズ、『TOKYO JUNGLE』などを手掛ける。現在『トゥモローチルドレン』『NewみんなのGOLF』を絶賛開発中。最新作、『Bloodborne The Old Hunters』好調発売中!

 Twitterアカウント: 山本正美(@camp_masami)

 山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!

データ

▼『電撃PlayStaton Vol.617』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2016年6月23日
■定価:694円+税
 
■『電撃PlayStation Vol.617』の購入はこちら
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