2016年6月16日(木)
2016年に発売が予定されているPS4用ソフト『人喰いの大鷲トリコ(以下、トリコ)』の続報が、E3 2016にて発表されました。
今回は、E3 2016にて、関係者のみに公開された『トリコ』E3版のプレイレポートをお送りします。
こんにちは、担当ライターのサガコです。ありがたいことに、一足早く『トリコ』に触れる機会をいただきました。
ちなみに「『トリコ』ってどういう経緯のゲームだっけ?」という方は、ゲームデザインを手がけられているディレクター・上田文人さんのインタビューがありますので、ぜひそちらもご覧ください。
今回のE3版では、ゲームスタートからの約30~40分がたっぷりと遊べる仕様になっていました。製品版とは異なる部分もあるとのことでしたが、ほぼゲームスタート時の雰囲気を味わえるとのこと。期待が高まります。
今のところ“少年と不思議な生き物のトリコが協力しながらギミックを解き、先に進んでいくゲーム”という大まかな概要はすでにPVなどから明らかになっているのですが、それ以外の詳細はほとんど謎に包まれたままです。果たしてどんなオープニングが待っているのか……トリコってどんな生き物なのか……いろいろなワクワクが止まりません。
しかし、取材の時間は有限!
試遊できるのはおそらく通しで1回のみ!!
何度も遊ばせてください~、なんてワガママは言えません。
膝の上にメモを持って、決意します。
とにかくすべての出来事を漏らさぬよう!! 細心の注意を払いつつ!! ライターとしての使命を果たすべく!! これは仕事だ、遊びではないのだから!! あれほど焦がれたトリコとのファーストコンタクトなのだから!
そう決意してコントローラーとペンを握りしめた私の試遊が終わった時、メモ帳はこんなことになっていました。
▲決意のメモとは!?!? |
きったない走り書きで、3行って……。しかもゲームの内容については、
▲「もふもふ」からの「もっふもふ!!」。 |
トリコを撫でた感想だけか!! しかもほぼ情報量は同じなのにどうして書き直しましたか、もっふもふ!
そりゃあ確かにもふもふでした。かなり、ふわっ……もふっ……もっふもふ…………でしたけれども。
いや、それにしたってなんたる体たらくでしょう。
しかし、その、つまり何を言いたいかというと、そのくらい夢中で遊んでしまったのです。メモをとることすら忘れてしまうほどに、ただただ夢中でした。約30分間、おそらくはゲーム本編におけるチュートリアル的な役割を果たすパートを遊んだだけなのですが、それだけで充分に楽しい体験でした。
そんなわけですので、ここからは私の記憶に頼って、試遊にて体験した一連の流れを、小説のような形にしてお伝えしたいと思います。なお、こちらは公式の小説ではありませんので、その点についてはご了承ください。
ある男は、静かに語りはじめた。
そう遠くはない昔の記憶を、しっかりと手繰るようにして。
少年が目を覚ますと、そこは薄暗い洞窟の中だった。風は緩く、生温い。
どうしてこんなところにいるのかもわからない。
洞窟の天井や壁にはところどころ穴があり、陽光が射し込んで地面が明るい場所もある。淡い光の中で自らの肌を見て、彼は瞠目(どうもく)した。衣服から見えている首に、腕に、それから足にと、不気味な紋様が浮き上がるように刻まれているではないか。びっしりと肌を埋めるそれがなんなのか、それも少年にはわからなかった。
立ち上がり、辺りを見回した視線のすぐ先にそれは佇んでいた。いや、自分を狙っているのかもしれない。どうして今まで気がつかなかったのか。じゃらり、と金属の音が反響する。洞穴の広場の真ん中には、少年の胴周りほどもある太い鎖が地に打ち込まれていた。鈍色のそれがじゃらじゃらと絶えず音を立てるのは、その先に繋がれたものが動いているからだ。
薄闇の中に、紫色に輝く鮮やかな丸い光がふたつ。それが生き物の双眸(そうぼう)であることに気がつくまでに時間はかからなかった。少年を覆い尽さんばかりの大きな影が、間近で獰猛に吼えた。
洞穴が震え、少年は息をのんだ。慌てて転ぶように後ずさる。鎖に繋がれているとはいえ、自分がその獣の口元にとても近い場所にいることに恐怖した。湿った温い風は、それの吐息だったのだ。
目を凝らす。鳥のような頭、折れているのか緑に輝く角もある。犬や猫のような四つ足は、しかし鳥の鉤爪だ。背中には申し訳程度に、鳥のような羽根が生えていた。
それはかつて少年が教えられた伝説の獣によく似ていた。人喰いの大鷲――。
その名はトリコ。
息を整え、少年は注意深く観察した。トリコは鎖に繋がれていて、自由に動くことができないようだ。今にも襲われそうな恐怖と、そしてはじめて見る生き物への好奇心とのせめぎあいを感じながら、彼は様子をうかがうように距離をとって、トリコの周りをぐるりと回ってみた。それ以外に、できそうなこともなかったからだ。まとった衣服以外、彼は何も持っていない。
トリコの体中を覆う羽毛は、その一本一本が少年の背丈ほどもありそうだった。あまりにも大きな体躯。薄闇の中で注意深く目を凝らせば、羽毛の一際黒く汚れている場所が気になった。
「怪我をしているの……?」
問いかけはしかし独り言だった。言葉が通じているとは思えなかった。
威嚇するように唸り続け、震えるトリコの身体には、槍なのか柱なのか、太い木が突き刺さって血が流れていた。こんなものが刺さっていてはまともに動くこともできないだろう。
少年はおそるおそる、トリコに近づく。
一歩、また一歩。
いつ喰われたっておかしくはない。
だが、苦しむ姿をこのまま捨て置くことはできない。
意を決して背後から駆け寄り、少年はその脚へと飛びついた。トリコが吼える。容赦なく暴れはじめる。だが鎖につながれ、傷を負っているせいか暴力的な力はなかった。これならばなんとかなりそうだと、柔らかくも大きな羽毛にしがみつく。
相手は獣だ。手負いとは言え、気を抜けばもちろん振り落とされる。そうなれば無事ではすまないかもしれない。少年は歯を食いしばる。全力でトリコの身体をよじのぼり、血塗れの場所へとようようたどり着く。痛々しく突き刺さる巨大なトゲに両手をかけ、脚を踏ん張り、引き抜きにかかった。肉に埋まったトゲがじわりと動き、手応えが感じられた。少年は持てる全身の力を込めて引き抜いた。耐え難い痛みからかトリコは叫び、巨躯を悶絶させた。
「!」
大きくのたうつ身体の上でバランスを失った少年は、トゲごと乱暴に放り出された。そのまま岩壁に激しく打ちつけられ、静かに気を失った。
どれほど眠っていたのだろう。
目を覚ませば、不思議と身体に痛みはなかった。目を覚ませるということは、つまり生きているということだ。だが身体の下には冷たい岩肌があり、目の前にはやはりトリコがいた。
改めて自覚する。これは夢ではないのだ。
逃げ出したくとも、出口になりそうな場所は塞がれてしまっていた。少年はトリコを見上げた。傷はずいぶん治っているようだが、どうにも元気がないように見えた。どれくらい気を失っていたのだろう。おなかがすいているのかもしれない。かといって、もちろん自分を食べろなどと差し出せるはずがなかった。
それにしても、と少年は思う。
いつの間にか、あの獰猛で恐ろしい紫の瞳の色が、やわらいでいるような気がする。
少年は塞がれた出口らしき場所とは反対の方向を見渡した。廃墟のように壊れた石造りの壁があり、その奥には扉も見えた。近づいてみると壁は祭壇か倉庫のようになっていて、小さな朽ちかけの樽(タル)が並べられていた。樽は不思議な光を中に閉じこめていて、ほんの少しだがトリコの角や瞳の色に似ているような気がした。
他にできることもなかったので、少年は樽をひとつ抱えてトリコの元へ戻った。あまり近づくと威嚇されるのはもうわかっている。だから、繋がれたトリコの口元へとその樽を放ってみた。ごろりと転がった樽に興味は示すものの、トリコはあからさまに警戒していた。だから少年は少しトリコから距離を取ってみた。
少年が離れると、彼の興味は口元の樽へと移ったのだろう。トリコはしばらく樽を鼻先でつついていたが、やがて豪快に樽へとかぶりついた。
「……っ」
少年は不思議な手応えを感じずにはいられなかった。トリコは美味しそうに樽の中身を飲み下しているようだ。
急いで身を翻し、まだ残っている樽を持って来るべく駆けだした。閉ざされていた扉はスイッチを引けば開けることができるとわかった。あちらこちらにある樽を担いでは、その都度トリコにさしだす。トリコはじつに、よく食べた。ほんの少しずつではあるが、食べることで弱っていたトリコに冷静さと力が戻っていくような手応えがあった。その実感が、孤独な少年を励ました。
冷静になって眺めてみれば、トリコが繋がれている太い鎖も首輪の留め金を動かせば外してしまえるようだ。少年はまたもトリコの身体によじ登り、留め金をはずしてやることにした。不思議と恐怖は薄れていた。トゲを抜くときほどには暴れずにいてくれたし、それどころか背にいてもしがみついてさえいれば振り落とされることもなかった。生きているその大きな背は、確かにあたたかい。
不思議なことばかりだった。
いつしかそこに畏れはなく。
いつしか、まるで自分と同じ境遇の者を救いたいとさえ思うように、身体が動いてしまうのだ。
自由を得たトリコは少年を威嚇することもせず、穏やかなまなざしでただ少年の近くをうろつくようになった。洞穴の奥を探れば、まだ樽の置かれている場所が見つかった。高い壁の上に置かれていても、トリコの背を足場にすれば登ることができた。
「いくよ」
試しにと、佇むトリコに向かって高所から樽を放り投げてみる。口元を狙って、ぽんと樽を投げた。ぱくりと器用に口で受けることもあれば、ちょっと反応が鈍く、まぬけに鼻に樽が直撃してしまうこともあった。なんともいえず微笑ましく、どこか子犬のようだと思えなくもない。そして、食べるだけ食べておなかがいっぱいになったらトリコはその場にごろんと寝てしまうのだ。それこそ無防備に。
こうなってしまっては仕方がない。しばらく起きないだろう。少年は一人で壁に開いた穴の奥へ探索に出ることにした。穴からは、うっすらと冷気が流れてきていた。トリコにはとても無理だが、少年一人ならどうにか通れそうだ。身をかがめ、穴へと身体を滑り込ませた。
冷気を追って穴ぐらを這い進むと、不思議な部屋にたどり着いた。床から壁まで、何もかもが凍りついた部屋だ。円筒形の部屋は光を反射して壁も床もきらきらと輝いて美しく、真ん中には凍らぬ水をたたえた小さな池がある。少年は震え、腕をさすり、足踏みをした。吐く息も白く、とても長居できそうにないほどにここは寒い。早くトリコのいる元の洞穴へ戻るべきだろう。
ぐるりと見やれば、部屋の奥が不自然にくぼんでいた。駆け寄ってみると、そこが特別な場所だと直感できた。地面が、まるで人の形をした棺桶をそのまま置いたかのように盛り上がっているのである。その顔に当たる部分には大きな鏡のような円盤がはめこまれていた。
少年はその円盤を手に取ってみた。裏側には持ち手がある。自分の肘まで隠れそうな大きな円盤は、腕につけて構えればまるで盾のようだ。何か役に立つことがあるかもしれない。少年は自分の腰紐にそれをくくりつけると、再び穴ぐらを這って元の場所へと戻ることにした。
戻ると、ちょうどトリコが眠りから目を覚ましたところだった。その表情に、もはや出会ったばかりの頃のような荒々しさは見受けられない。トリコは落ち着きを持ち、濡れたような大きな瞳で少年を見つめていた。すると、どういうわけか持ち帰ってきた円盤が不思議な光を放ちはじめた。
「?」
円盤の表面に不思議な緑色の紋様が光り輝く。その光がトリコの大きな瞳にも映る。トリコの瞳に反応しているのだろうか。トリコの優しい瞳が一瞬、円盤とシンクロし、同じような緑の光を宿したかと思うと、信じられないことが起こった。
少年が構えた円盤は外からの光を反射する。その反射光が洞穴の壁へと印のように映し出されるやいなや、トリコの長い尻尾の先が赤く光り始めたのだ。
「!?」
そこから先はもう一瞬の出来事だった。不思議なエネルギーを蓄えた真っ赤な尻尾の先から、壁に映し出された印をめがけ、大きく太い雷光がほとばしったのである。
これには少年も唖然とするしかなかった。円盤をしげしげと眺め、もう一度試してみる。やはり光を反射させた場所をめがけて雷光が走った。円盤をしまえば、雷光は消えた。
くすぶる岩壁を見て、これならば、と思った。この雷光があれば、洞穴の分厚い壁は無理だとしても、あの出口らしき場所を塞いでいる軽い岩なら壊してしまえそうだ。
少年は強大な力を秘めた円盤をしまい、おそるおそるトリコを振り返った。やはり伝説の獣なのだ。いくら樽のエサをいくつか食べさせて慣れたとはいえ、その秘められた力は得体が知れず、こんなにも凄まじい。ならば、いつ喰われたとて不思議はないのではないか。この稲妻に焼かれて、自分も喰われるのではないか。少年は知らず、ごくりと生唾をのんでいた(※)。
(※注:これは筆者による小説風プレイレポートです。ゲーム本来の内容とは異なる可能性があるのでご容赦ください!)
だが、それは杞憂に終わった。あれだけのとんでもない業を繰り出したにもかかわらず、トリコはなにひとつ変わらず、そこにいたからだ。何かをしでかしたという自覚もなければ、尻尾に痛みや熱を感じることもなさそうに、きょとんと少年を見つめたり、きょろきょろと周囲を見渡したりしている。それどころか、こっちへ行こうと言わんばかりに洞穴の中を自由に歩き回るのだ。
拍子抜けすればいいのか、笑えばいいのか。
なんともいえない気持ちを抱えながら、少年は走り、塞がれた出口の前で再び円盤を構えた。やはり赤い稲妻がほとばしり、積み重なる岩が音を立てて崩れ落ちた。思った通りだ。
先に広がった暗い崖には、細い道がついていた。道を塞ぐ大きな壷を崖下へ落としながら、少年は先を急ぐ。その後ろを大きなトリコが器用に歩いて着いてきた。これはどこへ通じているのだろう。
やがて水音が聞こえ、明るい光が射し込んだ。縦に長い洞穴に出たところで道は途切れていたが、眼下には広く深そうな泉が広がっており、小さな滝も流れ込んでいた。この程度の高さなら、なんなく飛び込んで先へ進めそうだ。
少年は深く息を吸ってから、ぽんと地面を蹴った。ざぶんと白い水しぶきがあがり、すぐに水面に顔を出すことができた。すいと泳いで岸に上がったところで後ろからなんの音もしないことに、はたと気がついた。
「?」
大きな獣は彼が飛び込んだまさにその場所で、うろうろと立ち往生していた。身体の大きさからすれば高さ的にはどうってことないはずなのに、どうやら飛び込むことが怖いらしい。水はどうも苦手なようだ。
少年は少し考えて、辺りを見渡してみた。木が打ちつけられて塞がれた通路が見える。稲妻を使って壁を壊してみると、先には小さな部屋があった。高い場所には、箱詰めにされた樽が見える。
天井からぶら下げられた鎖をよじ登るなど、少年にはお手のものだった。少々高いところからのジャンプでも、怪我なんてしないくらい頑丈だ。工夫して取り出した樽を持って泉へと戻る。声を出して、トリコの注意を引いてみる。すると案の定、手元の樽に気がついた。じっとこちらを見つめている。
少年は樽を泉に放ってみた。水面にぷかぷかと浮かぶ樽を、じっとトリコが見つめている。そして。
あれだけ嫌がっていたトリコが地を蹴って、ついに泉へ飛び込んだ。
水面が大きく揺れ、岸まで大量の水が押し寄せてきて、少年は危うく流されそうになってしまった。トリコはお構いなしに、樽へとまっしぐらである。水に浮かぶ樽をつつき、ぺろりと食べて岸へ上がる。純粋な食欲とは、なるほどポジティブな力になるようだ。
しっとり水に濡れた身体を乾かそうとトリコが全身を振れば、羽根から飛び散る大量の水滴がまるでスコールのように少年へと降り注いだ。トリコは何を気にするでもなく、岸辺の奥にあって少年の背丈よりも高い段差をひょいと越えていく。少年は慌てて垂れ下がった長い尻尾につかまった。期せずして、引き上げてもらう形になった。
トリコと力を合わせれば、どこまででも行けるのではないか。
そう思った矢先、いよいよどうにもならなさそうなほど高い壁に行く手を阻まれた。見上げるほど高い石壁には、しかし1カ所だけ穴が開き光が漏れていた。少年一人ならば向こう側へ行くことができそうだ。穴を覗きこむ。明るい光と道が広がっているのが見えた。いよいよこの暗い洞窟を出て、ここから村へ帰れるかもしれない。
少年は静かに、トリコを振り返った。
「ありがとう。ここでお別れだね。僕は村へ帰るよ」
トリコはわかっているのかいないのか、またもきょとんと少年を見つめるばかりだ。優しい色の瞳だった。出会った頃の荒れ狂った紫の瞳とは違う、静かなまなざしだった。まるで幼子のようにも見える。
ためらいはあった。だが、ずっとここにいるわけにもいかないのだ。
どうか言葉が届くようにと祈りながら、少年は最後の声をかける。
「……元気でね」
穴を潜り、外へ出た。高い壁から転がり落ちたが、それよりもやわらかな草の感触が嬉しかった。しっかりとした道が続いている。大きく切り立った崖で先こそ見通せないが、大きな空は見えるし、陽光がたっぷり降り注いでくる。ちゃんと風も吹いている。ここを辿っていけば、村へと戻れるに違いない。
少年は立ち上がって埃を払い、もう一度だけと後ろ髪を引かれるように背後の壁を見上げた。
「!」
すると高い壁の、そのまた上。ぽっかりと大きく壁が途切れた場所からトリコが顔を覗かせてこちらを見ていた。とんでもなく高い壁を大胆にもよじ登ったらしい。水はあんなに怖がったのに、高いところはまったくもって平気なのか。
首を伸ばし、じっと見つめてくるまなざしに少年は慌てふためいた。
「ダメだよ!」
トリコに向かって叫ぶ。言葉を届かせようと、懸命に声を張り上げた。
「そこにいて! 僕は帰るんだから! 着いてきちゃダメだからね!」
しかし、そう、残念なことに。
トリコに言葉は通じないのである。
トリコは無邪気に、ぽーんと穴を飛び出した。まるで空を駆けるみたいに少年の上をあっさりと飛び越えて、道の向こうへと駆けていく。
「……!」
少年は走り出す。
トリコの背を追って。
トリコは待っている。
少年がやってくるのを。
その道の向こうに。
何が待っているのかも、知らないままに――。
本当はもっと細かくいろいろなできごとがあったように思うのですが、書きだしたらきりがなかったのでこのようにまとまりました。さらに簡潔にまとめると、
・閉じ込められた少年が、傷ついたトリコを助けるところから二人の脱出に向けた旅がはじまる
ということになるかと思います。
とにかく「ここからどうなるの!?」という不安や期待と、閉じ込められているという状況に対して「なんとかしたい、してみたい!」「先へ行ってみたい!」という欲求がずっと絡み合って、延々と遊んでいたい気持ちにさせられました。
少年の動きについてのアニメーションなども、歴代の上田氏の作品よりもグッとパワーアップしている印象を受けました。細かい動きの数々が、高所での身体の揺れなど絶妙な不安定さをかもしだしていて、なにかとハラハラさせられるのです。
だからといって操作しづらいということも特に感じません。しいて言えば、ジャンプ(△ボタン)に慣れるのに少し時間を要したくらいでしょうか。もっと先へ進めば、少し複雑な操作を要求されることもあるのかもしれません。
また今回の試遊で、思っていた以上にトリコがよく動く、さらには“奔放に動く”ことに驚きました。今回プレイヤーが操作できるのは少年のみでした。トリコは常に自分の判断で行動しています。
わりと勝手で、あっちへ行ったりこっちへ行ったり。それがとても自然で、思い通りにならないからこそかわいくて(ときどきはこわくもあるけれど)、もうとにかく一緒にいたい気持ちにさせられてしまうのです。そしてトリコが無邪気で自由だからこそ、たとえば呼んだり、樽を投げたりして、思った通りの場所で思った通りに行動してくれたときの達成感といったら格別なのです。
今回は大画面のテレビでプレイしたのですが、PS4ならではの映像のクオリティと相まって、生き物にこの手で触れるときのドキドキ感というものがリアルに感じられ、コントローラーを通しているのにまるで本当に触れているかのような満足感がありました。
それほどに、トリコが魅力的すぎました。だってもっふもふで、謎だらけで、ちょっと不気味で、わがままで、鳥みたいで猫みたいで犬みたいで幻獣のようで、自由だったり従順だったりするのですよ!? 現実のペットのかわいい要件を全部満たしていてびっくりするほど愛おしいということだけは、全力でお伝えしておきます。
時が経つのも忘れて遊び、たった30分で骨抜きにされました。発売された暁には、私のメモ帳が意味をなさなかった理由がきっとわかっていただけると思います。動物好きの方なら、なおさらです。
ゲームに対して何を求めるか。それは人によってそれぞれです。物語を重視する人もいれば、システムこそが大切だという人もいるでしょう。
どんなゲームもそうかもしれませんが、『人喰いの大鷲トリコ』は眺めるよりも遊んだほうが絶対に楽しいゲームだと思います。誰かのプレイを見学する経験では足りず、また平板な液晶をタッチする簡便さでは表現しきれない。
わざわざテレビの前に座り、コントローラを握り、自らゲームをプレイすることによってしか得られない体験と深く結びつくことで完成するであろうこのタイトルは、確実にプレイした人の記憶に残るタイトルになるでしょう。そういうものは“よいゲーム”と言えるのではないかと、私は思っています。
片手間では遊べない。時を忘れる。惹き寄せられる。
真っ白なメモ帳が、すべてを物語っていました。
発売されて、ゆったりと空白にいろんなメモを書き込む日が来るのを、今からとても楽しみにしています。
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