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【ガンスリンガー ストラトス EXエピソード 3話後編】できるメイドは主の気持ちを慮る

2016-06-11 00:05

文:電撃ARCADE編集部

燃える炎のようにしか生きられない男がいる。
安らぐことは燻ることで、止まることは燃え尽きること。
戦いの中で己を燃やし尽くさなければ、息が止まってしまう。
それが片桐鏡磨だ。
そんな鏡磨にとって、片桐財閥の御曹司に生まれたのは不幸であった。

『ガンスリンガー ストラトス』

片桐財閥としての肩書きは、彼にとって何の意味もなかった。戦わずに与えられたものには、何の価値もないのだ。

無価値な世界で燻っていた鏡磨は、廃墟の幻影と出会って、予感、否、確信した。

この先に、戦いがある、と。己の全てを燃やし尽くせる戦いがある、と。

鏡磨は戦いを愛している。

愛の深さとは、愛するもののために、己を変えられるかでわかるという。
廃墟世界と戦うために、鏡磨は豹変した。

それまでの不良めいた生活がふっつりと止み、品行方正な片桐財閥の跡継ぎとして振る舞いだす。
鏡磨にとって、それは矛盾ではない。単に戦場が変化したので、戦い方を変えたというだけだ。
鏡磨は、もてるあらゆる権力と財力、それに暴力を駆使し、廃墟世界の正体を追跡する。 そうしてたどり着いたのが、ブライアン・オードナーという男だった。
オードナー博士が行った、人類初の時間移動の試み、21世紀の過去を目指した時空越境実験が、二つの世界の衝突を引き起こしていたのだった。

「オードナーを取り込んで、時空移動の手段を抱え込んだ、おまえの手際は見事だった。
だが、おまえ一人でできることではない」

外から見れば、そう見えるか、と、鏡磨は苦笑する。
「おまえのバックは何だ?」
だが、鏡磨としては不本意な話だ。
「バックなんざねぇよ」
鏡磨は、うそぶく。
誘拐され、縛られて、拳銃をつきつられた状況。
これも一つの戦場だ。戦場である限りには、互いに有利不利がある。

己に有利な点は、まず時間だ。
鏡磨の現在位置がロストした時点で、無数の警備会社が動き出すのは相手もわかっている。
であれば、できるだけ短時間で尋問を済ましておきたいだろう。
もう一つは、相手が鏡磨を過小評価していることだ。

鏡磨は、縛り付けられた椅子をガタガタと揺らす。
「るっせえなぁ、いいから、とっとと、ほどけよ!」
粗暴なドラ息子を装って、暴れる鏡磨に対し、男は無表情に銃口を上げた。鏡磨は、狼狽した表情を作る。
短時間で尋問するためには覚悟を示す必要がある。故に、脅しでなく銃は当てる。だが尋問ができるように重傷、致命傷は避ける。
足を振り回してるので、つま先は狙いにくい。であるならば、撃つ場所は肩が妥当。相手は右利きなので、こちらの左肩。
そこまでわかっていれば簡単だ。
銃声より一瞬早く、鏡磨は、両手に渾身の力を込めて、前にかざす。ぴんと伸びた手錠の鎖に、拳銃弾が見事に命中する。ちぎれ飛ぶ鎖。
両手が自由になった鏡磨は、椅子に縛られたまま、体当たりからの連続蹴り。当たりはしなかったが、男も一瞬、体勢を崩す。
その隙に両手で椅子の接合部を破壊して、立ち上がる。所詮は安物のパイプ椅子だ。

自由になった鏡磨を、男は静かに観察している。この期に及んで動揺した様子がないのは評価に値する。

「君という人間を見誤っていたようだ」
至極、真摯にそう告げて、男は懐からナイフを取り出す。この距離なら拳銃よりも有効だ。

対する鏡磨は素手であり、立ち上がれたとはいえ、パイプ椅子の残骸が体にくくりつけられている。だが、それは。
──ちょうどいいハンデだ。
鏡磨は、凶暴な笑みを作った。

「失礼します」
煎れたての紅茶を盆に載せて、竜胆しづねは誘拐犯の部屋に入る。

「おお」
立ち上がった鏡磨に、まずタオルを差し出す。
顔を拭きおえた鏡磨がティーカップを取った。
誘拐犯は、とっくに足下に伸びている。
鏡磨様を傷つけようとした凶賊。本来ならば、生きたまま地獄を味あわせるところだが。
「首尾は?」
「今回の誘拐、依頼元は、ギュゲス系列の企業体です。報復措置は十五分前に完了しております」
うむ、と、鏡磨はうなずき、倒れた男に目をやる。

竜胆しづねが、鏡磨の現在位置をロストしたのは、約30秒ほどである。
すぐ救出しても良かったのだが、しづねは泳がすことを決定した。
できるメイドは、主の気持ちを慮るのである。
ただし30秒とはいえ、しづねの警戒網を抜けて鏡磨様を誘拐できたのは、確かに、並の腕ではない。
「こいつはうちで使えるようにしとけ」
「承りました」
しづねは、静かに頭を下げる。

男の脇腹を、えぐるように爪先を蹴り込む。くぐもった悲鳴が聞こえた。
鏡磨様が選んだ男だ。鍛えれば、それなりにものにはなるだろう。
地獄すらぬるい苦痛の中で、鏡磨様への忠誠心を、じっくりと骨の髄までたたき込むとしよう。
しづねは、起きあがる男の顔を見て、ゆっくりと微笑んだ。

データ

▼ガンスリンガー ストラトス EXエピソード
■文:海法紀光
■イラスト:彼岸ロージ
■協力:スクウェア・エニックス

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