2016年6月16日(木)
小島秀夫監督にインタビュー。新作『DEATH STRANDING』で目指すものとは?【E3 2016】
米国ロサンゼルスで開催中の世界最大級ゲームショー“E3 2016”。先日、SIEのカンファレンスにてPS4用ソフト『DEATH STRANDING(デス・ストランディング)』を発表した小島秀夫監督へお話をうかがった。
――“E3 2016 PlayStation Press Conference”で新作『DEATH STRANDING(デス・ストランディング)』を紹介するために、ステージに立たれました。大きな反響がありましたが、その感想からお願いします。
E3は97年のアトランタから来ていて、大好きで重要なショー。そこで皆さんと交流しながらプレゼンをするのは、僕にとっては大事なイベントです。
去年は来られなかったので、2年振りになるのですが、気持ち的には10年振りくらいの感じです。(すでに来ているので)『ターミネーター』のT-800のセリフである「I’ll be back」とは言えず、「I’m back」と事後報告させていただきました。温かい拍手で、E3に帰ってきたことを実感しました。
――大歓声でしたね。
僕は今年で53歳になるんですが、ずっとゲームを作りたいと思っています。一般的にはもう少しすると定年になるので、家族からは「まだやるの?」という意見もあったのですが、僕は死ぬまで作りたい。
今回、2カ月半でティザーを作って発表したのですが、賛同を得られたので「選択は間違っていなかった、よかった!」と思いました。
――2カ月半でティザーを作られたのですね。
会社を立ち上げる時には、建物、人、技術がいります。僕以外に何もない状態だったのですが、世界中にテクノロジーはたくさんある。そこで、候補となるゲームエンジンを探しました。
その際に見つけたサンディエゴにあるスタジオは設備がよくて、使ってみたかった。データが納品されてから作ったので、実質的には2カ月もなかったのですが、タイトルからデザインまですべて自分たちで作りました。
――なるほど。
仮の事務所でやったインディーズタイトルですけどね。何が言いたいのかというと、昔と違って今はインディーズでもテクノロジーを使うことができるんです。世界中にテクノロジーとツール、サービスがあるので、その気になればインディーズでも世界に向けてハイエンドのゲームを作れることを証明したかった。
――俳優のノーマン・リーダスさんを起用された理由は?
ノーマンは以前に一緒に仕事をする機会があり、仲よくなったのですが、その後にいろいろなことがありました。彼も悲しみましたし、ファンも僕も悲しみました。今回、企画立ち上げを話をしたところ、彼も乗り気ですぐに決まりました。
――『DEATH STRANDING(デス・ストランディング)』というタイトルについて、意図を教えてください。
イルカやクジラなどが大量に座礁する現象があります。大量に座礁するのが“マスストランディング”、死んだ状態で座礁するのが“デスストランディング”、生きている状態で座礁するのが“ライブストランディング”と言うんです。
――映像では赤ん坊が出てきていました。あれは“ライブストランディング”を指しているのですか?
ちょっと違います……その先を言いますと、ある世界から何かが座礁してくる。「I’ll keep coming」ということなので何回か来ることを暗示しているタイトルです。ストランドはもともとビーチという意味ですが、心理学用語で縒り糸(よりいと)を意味していて、絆とか鎖を指します。
動画の蟹やくじらにはコードがあり、ノーマンと子どももつながっていた。世界観、物語、ゲームを含めて“ストランディング”……つながりがテーマです。
僕は作家・安部公房のファンなんです。『なわ』という短編小説があって、高校の時に読みました。人類が最初に作ったのは棒。棒は自分にとって悪しきものを遠ざけるために発明された道具である。その次に発明したものは縄である。縄は自分が繋ぎとめたいものをひきつけて、縛る道具。今も棒と縄は人類が使っている。そういう定義がされているんです。
よくよく考えてみると、オンライン、オフライン、マルチプレイなどいろいろなゲームがありますが、ゲームで使っているのは棒なんですね。人を殴ったり攻撃したりすることで生まれるコミュニケーション。
本作でも棒も当然出てくるのですが……その次に行こうとしています。ゲームをやりながら、物語も世界観も、ユーザー同士も縄的な思考でつながる話です。
――アクションゲームということですが、このジャンルについてお聞かせいただけますか?
ジャンルなんて問うべきではないと思うんですよ。ただ、マーケティング的には言わないといけない。このゲームではノーマンを動かします。(コントローラを)入力するとノーマンが飛ぶなら、これはアクションゲームですよね。例えば、ゲームでシューターとかFPSとかの区別がありますが、あれはすべてアクションですよね?
僕らの仕事はいろいろなゲームを与えることなのですが、変なものにはユーザーは食いつきません。我々のゲームはとがったものではなく、ユーザーが探している時に目を引くものになります。どうやって目を引くかは今は言えないのですが、ノーマンを動かしながらゲームをプレイしていると、他のゲームとは見えてくる風景が違ってきます。さらに進んでいくと、縄的なものが見えてきます。
例えば敵から隠れて進めていくタイプのゲームがあります。敵を倒すゲームが多い中で、隠れて進めるゲームが生まれ、それが定番になったので“ステルスゲーム”というジャンルが生まれました。
『DEATH STRANDING』はノーマンを動かしていくアクションゲームですが、その先にあるものは、いまだ名前のないジャンルです。そのジャンルがどう名づけられるのかは、プレイした皆さんが決めていただければと思います。
――新しいジャンルを作ろうということですか?
ジャンルを作るのではなく、新しいゲーム性を作ろうとしています。その結果として、ジャンルが生まれるという順番なんだと思います。
――『DEATH STRANDING』における“新しいゲーム性”というのは、以前から監督がチャレンジしたかったものなのでしょうか?
『DEATH STRANDING』だけが、というのではなく、チャレンジしたいことはたくさんありますよ。すぐ忘れてしまったりするのですが(笑)。
昨年12月にコジマプロダクションを立ち上げて、机とイスしかない事務所で「何をしようかな」と考えていました。皆さんが期待しているモノってあるじゃないですか。読み応えのあるストーリーでアクションもすごくて……願わくば、前に遊んだゲームよりもすごいものであってほしいという。
作りたいゲームは毎日のように頭に生まれてくるのですが、そうした中で、作れるゲームであり、作りたいゲームを形にしたのが『DEATH STRANDING』なんです。「これを作ったら驚いてくれるかな」という思いはありますね。
SIEやゲームユーザーが期待している作品って、ボリュームとクオリティの両方を満たしたものなんです。選択肢の中には“VRの短いゲームを作る”というものもありました。ただ、僕らがインディーズでも頑張れるというところを見せてあげると、若いクリエイターも奮起してくれるかなという思いはあります。だからあえて、最初からボリュームとクオリティにこだわった作品に挑みました。
「ゼロから大作にチャレンジして大丈夫ですか?」とおっしゃる方もいらっしゃいます。でも、テクノロジーは世界中にあって、それを自分たちで作る必要はありませんし、協力してくれる人だっています。何より30年間ゲームを作り続けてきた経験があります。ですから不安はありませんでした。
ただし、同じことだけをやってもつまらないので、その中でチャレンジも入れています。まったく今までにやったことのないこと……それこそ「フレンチシェフになってくれ」と言われれば、それは怖いですけどね(笑)。
――今の段階では、どれくらいのスタッフが制作に携わっているのでしょうか?
スタッフは増えていっている状況なので、なんとも言えないところですが、100人以上にはしたくないと思っています。過去の経験上、200人近くになってしまった時にはスタッフの顔と名前が一致しませんでした。そういうことにはならないよう、少数精鋭で作っていきたいと思っています。
昨年12月にメンバーを募集したところ、ほとんどが外国の方でした。ただ、その時は何を作っているのかも言っていなかったので、わからない状況だったんですよね。それでも来たいという人が多かった。今回タイトルを発表したことで、ハイエンドのゲームを作っていることがわかったので、今までためらっていた人も来てくれるのではないかと思います。
――開発の状況について、少しお聞かせいただけますか?
実は今、ゲームエンジンの実験をしているところです。エンジンにはそれぞれ特性があって、できることとできないことがあります。ティザーはビジュアルを表現するためのエンジンで作りました。もう1つ、新しいゲーム性を実現するためのエンジンをどれにするか精査しているところです。もうすぐその結果が出て、開発に本腰を入れていくところです。
――制作へのモチベーションはどこから出てくるのですか?
やはりファンの皆さんですよね。E3会場でも、少し歩いただけで、老若男女問わずいろいろな方が声をかけてくれます。自分が作るものを楽しみに待っていてくれる人がいるって、とてもうれしいことなんですよ。
そういう人たちがいてくれる限り、自分を犠牲にしてでもゲームを作りたいですね。家族を犠牲にしつつあるのは、謝らないといけませんが(笑)。
――作品づくりを通じて、間接的に若いクリエイターを育てたいという思いがあるのでしょうか?
育てようなんて大仰なことは思っていません。私は映画を見て育った世代で、映画を通じていろいろなことを知りました。やがて「こんなすごい映画は誰が作っているんだろう?」と、作っている人に興味を持ち、映画を作りたいと思うようになりました。
結果的に映画ではなくゲームを作っていますが、ゲームを楽しんでくれた人が、作った人間に興味を持って、作る側に回ってくれたらうれしいですね。育てようとは思っていませんが「若者たちよ、かかってこい!」という思いはあります(笑)。
――本日はありがとうございました。