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2016年6月29日(水)

【電撃PS】海外のビッグタイトルを手掛けたローカライザーたちによるスペシャル鼎談、その全文を掲載!(前編)

文:電撃PlayStation

 海外発の名作・良作を日本で気軽に楽しめる昨今、それらのタイトルを日本になじむよう訳・交渉・調整のうえで市場に提供する“ローカライズ”のお仕事や、その担当者たちに注目が集まっています。そんななか電撃PSでは、5月26日発売のVol.615にて要注目のビッグタイトルを手掛けた担当者さんたちにインタビューし、海外タイトルのローカライズにまつわる裏話や各社・各人のローカライズの特徴などを詳しく伺いました。

 今回はその中核となる3名のローカライザーによる鼎談を全文掲載! 世界のおもしろさを日本へ届ける“ローカライズ”の裏側をぜひのぞいてみてください。

⇒スペシャル鼎談の後編はこちらら

鼎談参加メンバー

◆ソニー・インタラクティブエンタテインメント
ローカライズプロデューサー 石立大介さん

代表担当作:『アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝』『The Last of Us』『ラチェット&クランク THE GAME』『HELLDIVERS(ヘルダイバー)』など

『ローカライズスペシャル鼎談』

◆スクウェア・エニックス
ローカライズディレクター 西尾勇輝さん

代表担当作:『オーバーウォッチ オリジンズ・エディション』『Life is Strange(ライフ イズ ストレンジ)』『ディアブロIII』『コール オブ デューティ アドバンスド・ウォーフェア』など

『ローカライズスペシャル鼎談』

◆スパイク・チュンソフト
ローカライズプロデューサー 本間 覚さん

代表担当作:『ウィッチャー3 ワイルドハント』『ディヴィニティ オリジナル・シン エンハンスド・エディション』『ドラゴンエイジ:オリジンズ/ドラゴンエイジ2』『テラリア』など

『ローカライズスペシャル鼎談』

最前線を走る3人が語る、ローカライズの“現在”

――さて、まずは場を温める話題として、“みなさんが最近プレイしたゲーム”をお聞きしてもよろしいでしょうか?

『ローカライズスペシャル鼎談』

石立大介氏:最近はもう『オーバーウォッチ(以下、OW)』ですね。(編注:インタビューの日時は5月10日。『OW』のオープンベータテスト中だった)

本間覚氏:自分も『OW』です(笑)。

西尾勇輝氏:ありがとうございます(笑)。

石立:『アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝(以下、アンチャ)』も今日発売したので、そちらもよろしくお願いします。でも、全然仕事が終わらない……(笑)。リリースしたあとも終わらないっていう。

本間:それはもう、この業界の常みたいなものになってきていますよね(笑)。

西尾:今はコンテンツとして続きますからね。僕も今は『OW』をずっとやっていますね。まもなくベータが終わるので、そのあとは一気に『アンチャ』をやろうかなと(笑)。

石立:ありがとうございます(笑)。そういえば『The Last of Us』のリマスター版も積みゲーになってるって言ってませんでしたっけ?

西尾:けっこう進みましたよ! でも、もともとクリアはしていたので。

石立:あ、PS3版はプレイされていたんですね。

西尾:そうですそうです。

本間:自分も『Life Is Strange(以下、LIS)』がチャプター1で止まってるっていう……。

石立:あ、僕もです!

西尾:やりましょうよ!(笑)

本間:いや~、時間があったら本当にやりたいんですよ? 本当は『OW』も2日3日と続けてやりたかったんですけど、1日しか時間がとれなくて……。月並みな理由で申しわけないんですが、『ウィッチャー3』の大規模拡張DLC第2弾のマスターが今週なので、なかなか時間がとれなくて。GW(ゴールデンウィーク)って海外は関係ないですからね。

西尾:ぜんぜん休めなかったです……。

石立:そうなんですよね。日本では全員休んでいるから仕事が進まないんだけど、海外は普通に進んでいくという。

本間:でも海外のマスターアップのスケジュールは容赦なくGWにかぶるという……。

石立:そうなんですよ!

――やはりローカライズをしていると、日本の暦はあまり関係なくなるものですか?

石立:関係はあって、日本のローカライズチーム以外の人は休むんですよ。ですので、日本の休暇中に海外でリリースされた情報を日本ではタイムリーに出せないことなどはありましたね。

本間:けっこう歯がゆいですよね。時差の関係上、例えば北米だとこちらの深夜から情報が出てくるじゃないですか。そうなると日本では最速で作業しても翌日の対応になってしまうので、そこがやきもきするところですよね。

西尾:エクストリームエッジチーム(※1)は年中無休ですけど、マスターアップが休暇中にくるのはツライですね~。

本間:SIEさんとかだと社内にあるのかもしれないですが、外部だとQAベンダーさん(※2)に、「GW動いてね」って打診しとかないといけないんですよね。

西尾:でもだいたいいつも急に来るんですよね。

本間:ですよね。読めないのがツライ。

石立:社内のほうが、逆に暦を守らせなきゃいけないから、厳しい部分もあるんですよ。社員でQAをされている方ならまだしも、アルバイトさんにお願いする場合だと、自主的に「来てもいいですよ」って言っていただかないと確保できないので。外部ベンダーさんのほうが逆にそこは動かしやすいかもしれません。

本間:なるほど。事前に言っておけば動いてくれますからね。

西尾:あの、こんな話で本当にいいんですか!?(笑)

『ローカライズスペシャル鼎談』

――大丈夫です(笑)。みなさん、『OW』をプレイ中とのことですが、お互いローカライズの印象などはありますか?

石立:コレ、互いに褒め合う感じになるヤツですか?(笑)

西尾:気持ち悪い感じになる気がするんですけど!(笑)

石立:会社というより担当者って感じですかね。

本間:自分も会社より個人だなって思いますね。例えば、自分がSIEさんに行ってもスクエニさんに行っても同じようにやると思いますし。ローカライズって社内では1人や2人とかで担当していて、当然外部の協力会社もあるんですけど、最終的なクオリティを決めているのは各タイトルの担当者だと思うので。

 当然会社ごとに受け継がれているものはあるかもしれませんが、スパイク・チュンソフトだからどうというよりは、最終的には担当者でクオリティが決まるっていうのは、我々の共通見解なんじゃないかなあと思います。

西尾:結局各タイトルの担当者がクオリティを確保することにはなってくると思うので、どのタイトルにどの担当者がついているかで変わるんじゃないかなと。

本間:世の中の評判などを見ていると、どこどこの会社だからどうの、という話があるんですけれども、やっている側からすると、その点はあんまり関係ないなと思っています。

石立:そこはユーザーさんと我々でちょっと認識が違うかもしれないですね。

――では、お互いのお仕事についての感想はどうでしょう?

西尾:いやもう『ウィッチャー』はスゴくて……。

本間:いや『オーバーウォッチ』はもうスゴくて……。

一同:(笑)

西尾:『ウィッチャー』はスゴイと思う一方で、かなりキツそうだなと思います。正直、自分ではやりたくない(笑)。『ディヴィニティ』もですけど。

石立:『ディヴィニティ』のほうがたいへんそうですよね。

西尾:ほかのインタビューで本間さんがお答えになっていましたが、ローカライズしなければならないセリフのデータが、ストーリー順になっていないのはよくある話とはいえ、『ディヴィニティ』は完全にランダムって、そんな状態、僕初めて聞きましたよ(笑)。

本間:『ウィッチャー』はよくできていて、会話の様子や順番がデータベース上で見られるんです。ゲラルトがこういう選択をするとこういう流れになるというのがわかる。究極的に言えば、ゲームを確認しないでもある程度はローカライズできるんですが、『ディヴィニティ』に関しては話者が誰なのかが書いてある程度で……でもそれも男女がたまにおかしかったりするんです。

 さらに会話の流れが追えない形になっているので、例えばとある行にオークAのセリフが入っていて、その次のセリフは数百行離れたところにある、と。エクセル上で翻訳しても、実際のビルドを見るとしっちゃかめっちゃかになっているという、一番イヤなパターンなんです。それをゲームを見ながらひたすら直していかないといけないのですが、ゲーム自体のボリュームが1周100時間くらいかかるので……テキストの取り扱いだけで言うと『ウィッチャー』以上のしんどさでしたね(笑)。

石立:物量よりは、アセットの整い具合と、開発会社の対応力によって難度が決まりますよね。話を戻すと、僕はじつは西尾さんと本間さんが担当されているゲームをクリアしたことがないんですよ……。

西尾&本間:なんと!(笑)

石立:ないんですけど、ほぼ全作品、途中まではプレイしていて、僕の印象では西尾さんは“翻訳者”というイメージなんです。一方で、本間さんは“ゲーマー”という印象がある。西尾さんのほうは会話の流れに関する美意識を感じるし、本間さんのほうは、そのゲームを愛していないとできないというか、これは本間覚という人間以外にはできないだろう……というこだわりを感じます。

 例えば『ウィッチャー』は、僕はやれって言われたらなんとかなるかなと思うんですけど、『ディヴィニティ』はまずやりたいって思わない(笑)。なんせ100時間のゲームを何周もやる必要がありますよね。そのタイトルを愛していないとできない。そういう熱意がゲーマーだなあって思いました。

本間:そこは本当にゲーマーとしての無意識な部分かもしれないですね(笑)。

――石立さんと西尾さんは、RPGを担当されたことは?

石立:ないですね。そもそもうちが作っているRPGが、今は海外開発だとあまりないですから。あと、うちには谷口(※3)っていう人生の3分の1をRPGをやることに費やしてきた人間がいるので(笑)。

西尾:僕は『ディアブロIII』をRPGとしてカウントするかどうかでまた変わってくるとは思うんですけど、あれもなかなかの物量ではありました。ただBlizzardが優秀なところは、アセットの管理がとても洗練されているんです。誰でも10分見ればアセットがどう管理されているのかがわかってしまうくらい整理されていたので、そこは苦ではなかったですね。

本間:そういう意味では、大手デベロッパーやパブリッシャーはそのあたりの経験を多く積んでいるので、アセットの管理がしっかりしていることが多いですね。ワールドワイドで、マルチリンガルでプロジェクトをこなしてきた会社と、そうではない会社とで差はやはりあるかなと思います。

西尾:最初からローカライズを前提としたアセット(※4)を組んでいるかで変わりますよね。

本間:ローカライズ部門が開発の範疇に入るかどうかの判断は難しいところだと思うんですが、例えばCD PROJEKT REDだと完全に開発のなかにローカライズチームがあるので、カットシーンチームなどに対してもローカライズチームからガンガン注文がいきますし、ディスカッションもします。ほかの会社さんを見ているともう“言われるがまま”っていうローカライズ部門もあったりして。まあデベロッパーしだいという部分も多々あると思いますけど、CD PROJEKT REDはデベロッパー兼パブリッシャーなので、こだわりが強い。そういうところがモロにクオリティに影響してきますね。

西尾:Blizzardもそこは一緒ですね。

石立:Blizzardさんは、韓国などでずっとゲームを出していたので、2バイト言語(※5)への対応の経験が豊富なんですよね。

西尾:そうなんです、うまいんです! 逆に『コール オブ デューティ(以下、CoD)』は、長年2バイト言語への対応がうまくなかったので……。

本間:あとは洋ゲーあるあるなんですけど、RPGで“アーマー”っていう単語にいつも困るんです。“アーマー”って“防御力”という意味で使う場合と、“防具”という意味で使う場合があって、例えばアイテムカテゴリで“weapon、armor”と並んでいると“武器、防具”なんですけど、同時に“armor 73”と表示されていると、“防御力73”じゃないですか。でも、その“armor”という文字が共通で使われているケースが海外だとたくさんあるんですよね。

西尾:ひとつのストリング(文字列データ)を複数の場所で使い回すのは困りますよね。『LIS』だと観葉植物があって、そこに“水をやる”という選択肢がありまして、“water”としか書いてないんです。そこだけを見た場合、翻訳としては“水をやる”で問題ないのですが、のちのち親友のクロエに水をあげるシーンがあって、そこでも同じ文字列データが使われていたため、すごいエラそうになっちゃったんですよ(笑)。

石立:“水をやる”って(笑)。

西尾:結局重複して作ることができなかったので、“水”で逃げるしかできなかったんですけど。

本間:歯がゆいですね~。“水をやる”と“水をあげる”にしたいですよね。そのあたりもやっぱりシムシップ(同時発売)だと、同時にプログラマーが作業しているので、ゴリゴリ押せばなんとか変えてくれることもあるんですけど……。『LIS』ってシムシップでしたっけ?

石立:たしか海外で出てからだったような。

西尾:『LIS』は海外だとエピソード配信をしていたタイトルですね。エピソード3が配信された頃にローカライズ作業がスタートしたので、シムシップではないんですが、エピソード4と5はほぼ同時期に進めてました。

本間:『ディヴィニティ』もPC版の発売から2年くらい経ってるんですが、そうなるともうローカライズプログラマーしか残ってなくて、コアな部分に手を入れられなくなってる場合が多々あるんです。そういう場合、満足なケアができないってことがありますよね。

西尾:そうですね。時間が経っちゃうと、開発チームとしてのリソースがほかのプロジェクトに移っちゃってることも多いですし。

本間:今『2』やってます! みたいなね。

石立:最悪、チームが解散してなくなってるとかもありますからね。

西尾:悲しい話ですね(笑)。

同業者だからこそのチェックポイントとは

――石立さんから西尾さん&本間さんの印象が語られましたが、お2人はほかの方にどんな印象を持っていましたか?

西尾:そうですね……。石立さんたちの手がけた『The Last of Us』と『アンチャーテッド』シリーズはプレイしていますが、物語ベースでやっているなかで、間の取り方がすごくうまいと感じましたね。僕も元翻訳者なのですが、各声優さんの演技の“間”ってすごい重要だと思っていまして。ただ、ゲームの収録ってキャラごとに別のスタジオで録ることが多くて、別々に撮った会話を組み合わせるのってけっこう難しいんです。『Life is Strange』もそうだったんですけど……。『アンチャーテッド』などは、そこがすごくうまいという印象ですね。

本間:谷口さんから以前お聞きしたんですが、谷口さんの場合、翻訳したあとにじっくりと尺合わせの期間を取っているそうで。あ、尺合わせって何かというと、英語の音声があって、それに日本語の音声を当てるときに、ぴったり合わせる必要があったり、±10%まではズレても許容範囲だったりというのがありまして、ゲームごと、会社ごとに異なるんです。収録する前に英語音声を聞いて、例えば6.3秒だったら日本語は6.2X秒~6.3X秒の間にする……という細かいところに時間をかけているかどうかが、そのまま吹き替えのクオリティにつながっているんじゃないかなと思っています。

 『ウィッチャー』を例にとると、通常は英語の音声を待ってから収録に入るんですが、発売を海外に合わせようとすると、どうしても英語音声を待っていられないタイミングができてしまって。英語音声がないまま、イチから演技をしてもらって収録しなければいけなくなることが多々あるんです。すると、当然シナリオライターが意図していたものとは違う意味になってしまったり、クオリティに影響する部分がでてきてしまう、といったケースがあるので、尺合わせの時間を大きく設けているというのは素晴らしいなと思いますし、個人的にもすごく羨ましいです。自分は時間がなくて、全部現場で尺合わせしながら収録もしてもらう、という強行スケジュールが多いです……。

西尾:尺合わせはたいへんですよね。

石立:そうですね~。通常、海外版のローカライズは、契約によって予算やスケジュールに制約があります。さらにファーストパーティでは、全世界での戦略によって「この日に発売するんだ」となったら、「あ、さようでございますか」と言うしかないので(笑)。また少人数の開発チームの場合は、悪いけど日本とアジアは1カ月後……ということも。けっこうグローバルで決定されているので、日本でもがんばってはいるんですけど、時間的な部分はやはり個別の交渉ではなんともならないことも多いですね。

西尾:とくにシムシップの場合は、やはり英語版の開発が優先されるので、こっちがゴリ押ししても「ごめん、今はちょっと無理、日本語版はあと回し」になりがちですね。

石立:言語別の売上で言うと、英語版の次のグループに日本語版もあるんですけど、2バイト言語なのでほかの言語よりちょっと対応が難しいみたいですね。あと日本のローカライザーやユーザーさんが凝り性というか、日本のユーザーさんのほうが欧米よりも比較的厳しい気がします(笑)。

本間:とくにローカライズ部分に対する反応は、一番厳しいんじゃないかなと思いますね。言葉へのこだわりが深い。

石立:とはいえそういう方々って、いいローカライズをすると、ちゃんと「いいねぇ」って褒めてくれるユーザーさんでもあるんですよね。

本間:冒頭でも言ったとおり、最近『OW』をプレイしているんですけど、21人もいるキャラクターそれぞれの個性が確立しているのがスゴい。もちろん声優さんの演技もあるんでしょうけれど……キャラ付けにかなり時間をかけていたのでは?

西尾:すごく時間をかけました(笑)。

本間:全キャラの方向性を西尾さんが決めているんですか?

西尾:はい。最初にスタイルガイドみたいなものを作って、翻訳者さんたちにお渡ししています。その後上がってきたものをチェックし、何か違うな~というのは全部僕が1個ずつ見て、音声ファイルを聞きながらだいたいの尺を合わせて……。そのうえで収録現場でディレクションする、みたいな。

本間:あれだけ格ゲーみたいに多数のキャラがいて、21人全員のキャラが立ってるじゃないですか。あれはスゴいですよね。過去にあったようなMOBA(※6)じゃない洋ゲーって、個性の強いキャラの数はそこまで多くないじゃないですか。例えば『ウィッチャー』だったらゲラルトというカリスマ性のある主人公がいて、イェネファーやトリスがいるんですけれど、登場人物全員が主役みたいな方向性にはならない。『OW』はすべてのキャラクターが個性にあふれていて、魅力的で、かつわかりやすい。そんなところにすごく感動しました。

西尾:全員をカッコよく見せたいという意図がまずあったので、そこをベースにセリフは考えています。Blizzardは遊び心が多いんですよ。セリフ1つとっても、日本だと「これはちょっと怒られちゃうな~」というパロディが多かったり。そこをいかに崩して、「逆にこっちで遊んじゃおう」みたいな試みは、今回ちょっと入れてみました。

石立:とある世界的に有名なタイトルで、同じようにキャラの数が多くて、もともと英語版でそれなりに各キャラにファン層がいたので、たいへんだったというお話を以前聞きました(笑)。既存のユーザーさんの期待をあんまり裏切れないっていう。

本間:けっこう合わせなきゃいけないところもありますよね。

石立:ローカライズ担当としては、そういう部分を気にしないほうが本当はいいものになるとは思うんですけど。

西尾:それはあるかもしれません。自分なりのこだわりがあったほうがユーザーさんから受け入れられやすいというか。

石立:あと僕は『OW』のフォントにすごく感動しました。3種類使ってますよね?

西尾:2種類かな? 2種類と、あとは元の英語フォントで3種類ですかね。

本間:綜藝体(そうげいたい)を使ってますよね?

西尾:よくわかりましたね!?

本間:自分のなかでは『バトルフィールド』で使われているフォントというイメージがすごく強いんですけど(笑)。あれを斜体にして、ちょっと横の幅を調整されているとか。

西尾:そうなんです。英語フォントのイメージに近づけるため、「どうしてもこのフォントを使いたい」と言ってBlizzardに実装してもらったときに、そのままのサイズで入れたら見事にドーーーンって突き抜けてしまって。「これだと入らないから変えて」って言われたのですが、「絶対ヤダ!」ってわがままを言いました。結局、向こうのUIエンジニアさんと連絡をとって個別にラスタライズ(※7)してもらい、斜体にしたうえで長体にしたんです。なので今は綺麗に収まっているんですけど。

石立:スゴく合っていると思います。

西尾:フォントは悩みますね。『LIS』でもだいぶ迷いました。

本間:なんかフォント攻めますよね? フォント攻めローカライザー(笑)。

西尾:なんか変な称号がついた(笑)。『LIS』のフォントについては個別のインタビュー(電撃PS Vol.615に掲載)でも答えさせていただいたんですが、『OW』はフォントのカタログを見たときに「あ、これしかないや」って直感で決めましたね。別にそんなに攻めてるつもりもないんですけど(笑)。

本間:綜藝体っていろんな洋ゲーで使われてるじゃないですか。SFとか近未来系のFPSってみんなアレでしょっていうくらい。でもそれを、斜体にしてイタリックにしてと調整をかけたことで、今までに見たことのないような感じに仕上がっていているのがいいですよね。パッとみた感じのイメージが違っていたので、すごくいいなって思いました。

石立:僕はフォントはものすごく大事だなと思っているんですよ。たまにインディーゲームで、翻訳はとてもいいんだけど、フォントがカッコ悪いせいで翻訳も悪く見えることがあるんです。視覚情報のほうが、言語内の意味情報よりも直感的に受けとられちゃうので、フォントで世界観を表現してあげないと、内容がチグハグに見えてしまう。

 僕は毎回毎回フォントはこだわりますけど、さっき西尾さんがおっしゃったように長さの問題などがあって。海外のゲームでは字幕などは小さくするのが今の流行りで、ユーザーさんのプレイ体験を邪魔しないようにUIをできるだけ小さく、極端に言うと表示しないくらいの勢いなんですね。そこで開発と交渉してフォントサイズをあげられない場合は、どうしても見やすいフォントを使わざるをえなくて。

 僕は西尾さんと違って、芸術性と可読性のどちらかを選ばなきゃいけないときに、どうしても読みやすさを優先しちゃうので。……やっぱり僕も西尾さんは攻めてると思いますね(笑)。『LIS』で採用したフォントについては、自分がそうするかは別にして、なぜあれにしたのかはよくわかります。

西尾:マックスが書いてるっていう雰囲気は捨てたくなくて。

石立:そうなんですよね。でもあんなに読み物が多いゲームなのに、僕だったらあれは怖くてできない(笑)。

西尾:テストプレイで実際に日記を見たときに「うわっ、読みにくっ!」って思ったんですけど、プレイしてたら意外とすぐ慣れちゃったんです。だったらイメージ重視でちょっと冒険しようかなって。

本間:長文が多い場合、とくにフォントが1つしか使えないと、必然的に可読性を重視して、読みやすいゴシックとかあまり装飾のないものを選んでしまいがちなんですけど、あれはもともとフォント2つ使える作りだったんですか?

西尾:あれは3つですね。日本語では2つ使用して、クレジットだけはそのまま英語を生かしてあります。フランスの開発会社なので特殊文字が多すぎて日本語のフォントでは対応できなかったので。

本間:それもローカライズあるあるですね。“e”なら、文字化けしてるとか。

西尾:ヨーロッパ系の言語だとどうしてもそうなりますね。

本間:自分ももちろんフォントにこだわりはあるんですが、それとは別に、自社内でソースコードをもらってローカライズすることがあるんです。例えば『テラリア』の場合はソースコードをもらったので自分たちでフォントを作ったんですけど、フチ取りや影をつけたりして調整しているとですね、ほかのプロジェクトのときにフォントに対して的確な調整の要望を出しやすくなりましたね。自分たちでフォントを作った経験が生かされたので、よかったかなと思っています。

西尾:それはすごいなあ(笑)。

石立:どうやって海外にお願いするかっていうのも、ローカライズをやっていくときに重要ですよね。

本間:コミュニケーションは超重要ですよね。ローカライズプロデューサーの仕事って、テキストを見てるかコミュニケーションを取っているかのどちらか……みたいなところがある。

石立:うちはそれ以外にも資料を作ったりすることもありますね。結局ローカライズプロデューサーが一番最初に海外の担当と話をするので、最新情報を知っているんですよね。言語の問題もあって“自分しかこの情報を知らない”ってときに、それをいかに国内の関係者に伝えていくかとか、露出するための資料を準備するとか。

本間:うちの場合で言えば、ご存知のとおり『ウィッチャー』には超広大な世界があります。もちろんメインのストーリーや展開はプロモーション関係のスタッフなどに伝えていくんですが、設定の細かいところまでというと、それこそ“ロード・オブ・ザ・リング”の世界をすべて教えますみたいなレベルになってしまう。数日間丸々講義してようやく伝えきれるかどうかという量があるんですよ。なので『ウィッチャー』も『ディヴィニティ』も広報資料の下地とかは全部自分で作ってますね。

西尾:それはなんというか……すさまじいですね(笑)。

本間:なんか担当するタイトルが複雑なんですよね。RPGはとくに世界設定が凝っているものが多いので……。一時期設定を伝えるってことをやめた時期があったんです。説明するより自分がやったほうが早いってなっちゃって。

西尾:僕は翻訳がそんな感じになっちゃいますね。

石立:あと、そういった資料とかを作るときに大事なのが、エッセンスを抽出して伝えることですね。当然、開発からするとあれもこれも自慢だと言われるのですが、日本のユーザーさんに受けそうなところや、ゲームのキモだなと思うところをピックアップしないと、情報過多になって結局伝わらないんですよね。もともと僕はそういうことには向いてない人間なので、勉強するようにしています。

 向いてないといえばローカライズでも、およそローカライズ担当として考えられるミスは全部やったんじゃないかな(笑)。一番最初の音声収録をしたのはたしか『SOCOM: CONFRONTATION』という作品で、そのときは自分で作った原稿の尺が合わないということがありました。そういう酷いものからちょっとしたうっかりまで経験して鍛えていただいたので、他の人のローカライズを見てこれなんか変だなと思ったら、その原因はだいたいわかります(笑)。

西尾:この仕事をやってると、ローカライズタイトルを遊ぶときにどうしても粗探ししてしまう自分がイヤなんですよ。純粋に楽しめないときがあるというか。

石立:そう、そうなんですよ!

本間:自分も『LIS』やってるときも……。

西尾:そうだ! なんか「ノイズ乗ってる音声がある」とおっしゃってましたね(笑)。

本間:たぶんいろんな条件が重なってそうなってしまったんだとは思うんですが、音声バグみたいのがあって、すぐに赤石沢(元スパイク・チュンソフト、現スクウェア・エニックスのローカライズプロデューサー)にLINEして、「この音声なんかおかしいっすよ」って伝えたんです。

西尾:で、その後「本間さんがなんか言ってる」って僕に伝わってくる、と(笑)。

本間:別にケチつけたいわけじゃないんですが、なんか気になっちゃって。そういうことがあるので、「もう英語版でプレイしちゃうか」って思うときはありますね。他人の訳が気になっちゃって、そこに頭の処理能力が持ってかれるというか。

西尾:この業界は狭いので、担当者の方もだいたい知ってますしね。

『ローカライズスペシャル鼎談』

――他人の訳が気になってしまうとのことですが、自分が担当している以外の作品で気になった訳や印象に残ったものはありますか?

西尾:ここは『ウィッチャー』を褒めるしかない!(笑)

本間:いやいや(笑)。あれは本当にパワープレイの塊なんで。自分も前職が翻訳会社だったんですが、西尾さんと違って翻訳そのものというより、プロジェクトコーディネーターみたいなことをやってたんです。海外に住んでたことがあるので英語はもちろんできるんですが、翻訳のプロではないですし、日本語の表現に優れているわけでもありません。

 『ウィッチャー』でやっているのは、文章をよくしようというよりは、とにかくエラーを少なくするということなんです。あの規模のゲームだとそれがとくに重要で、世界観の誤解はないかとか、会話の流れがおかしくないかとか、そういうのを全部直すというのが仕事でした。もちろん外注の翻訳者さんが素晴らしい訳をあげてくれることもあってそれを生かすこともあるんですが、自分がやっているのはひたすらおかしい場所をつぶすという作業をしているだけです。なので、やっぱり訳文のクオリティという点では西尾さんには敵わないかなあと思います。

西尾:いやいや。そんなことはないと思います。でもたしかに得意分野とかはありますよね。僕はそれこそ『ウィッチャー』みたいなゴリゴリの西洋ファンタジーって苦手で、なかなか本間さんのようにはできないと思います。いつかは挑戦してみたいですけどね。

本間:あとは……素晴らしいローカライズ、という意味では、スマホゲームに多い、オシャレな雰囲気のインディーズゲームですね。自分はああいったタイプの作品の翻訳が苦手です。雰囲気重視というか……『LIS』もそういう面があると思っているんですが……まあ『LIS』は文章がガッツリ出てきますけれど、もっと文章が少ないゲームってあるじゃないですか。アレは自分ではできないなと思いますね。

西尾:スマホで出てる某ゲームで、すごくいいローカライズしてるなって思った作品があったんです。狭いUIのなかにテキストを落とし込んで、それでいてクスッときちゃうフレーバーテキストを入れ込んだりしていて、感心しました。間違いなくほぼ直訳ではないだろうな、という印象を受けました。

本間:スマホゲームは少し前までは、本当に翻訳機を通したようなものがあふれていましたけど、今はちゃんとしたベンダーさんを通してクオリティをチェックしているものが増えましたよね。

石立:ある程度ちゃんとしたパブリッシャーさんは、ちゃんとしたベンダーさんを通してやっていますよね。優秀なローカライズベンダーさんって数社あって、たぶん、そのどこかに依頼していると思うんですよ。けっこう狭い世界ですよね。実力のある翻訳者さんが数名~十数名いて、その方たちがモバイル業界での良い翻訳の大半をやっているような。その中の5名くらいが担当されているんだと思います。

本間:うらやましい話ですね(笑)。大規模ゲームでは、翻訳者さんの数がすごいことになっちゃって、その分クオリティがバラバラになっちゃいますし。結局、全部自分のとこでリライトしてクオリティを一定にする、という作業に時間を取られてしまうんですよね。

西尾:僕のとこはだいたい2段階ですね。ベンダーさん側のプロジェクトマネージャーさんに一度リライトしてもらって、それを納品してもらい、僕がさらにならしていくみたいな。それでもやっぱり時間はかかります。

石立:そういえば、西尾さんって『オーバーウォッチ』の生放送でディレクション(演出)もやるっておっしゃってませんでした?

西尾:音声収録のですか? はい。

石立:そこ(音声収録のディレクション)ってすごく重要ですよね。うちは実力ある演出家の力をお借りしつつ、誰かしら必ず収録現場に立ち会うようにしています。僕はここが一番得意だと思いますね。英語と日本語で同じことを言うのに必要なセリフの長さは違うし、英語で短く言えることが日本語でも短く言えることってあまりないので、同じセリフの長さで翻訳したらその時点で情報量が半分くらい落ちちゃう。僕はそれを補うのが役者さんの演技だと思っているんです。

 結局ユーザーさんの感情を動かすのって、セリフ内で言われる情報や言葉よりも演技に込められた感情だと思うので、役者さんや演出の方に「ここはこういう状況なので、こういう気持ちで」とか詳しく状況をお伝えしたり、ディレクションして演じてもらう。そういうのが得意だし、好きなんです。

本間:自分も収録は行けるときは行くようにしているんですが、大規模なゲームの場合って2~4スタジオ同時収録とかになると、物理的に行けないところが出てきちゃう。ローカライズ期間が長い場合はあとから録り直しもできるんですが、自分でプレイしてチェックしていると「あ、ここ録り直したな」っていうのがわかりませんか? その日の役者さんのコンディションや、スタジオが変わったときのマイクの違いとかで若干音が変わっちゃったりするので、可能な限り録り直しはしたくないんですけど……それをせざるを得ないときは歯がゆいですね。

西尾:収録現場では英語の音声を最初に流して、次に日本語の音声を声優さんに演じていただくっていうのが吹き替えの主流だと思うんですが、海外音声と同じようなニュアンスを保とうとしても、ディレクションがないとどうしてもそれがブレてしまうこともありますよね。『LIS』での失敗談ですが……2人の会話のシーンで1人がコソコソ話してるのに会話相手が普通の声で話していて、ゲーム内で見るとすっごいちぐはぐになってしまいました。最終的には録り直して事なきを得たんですが。

本間:そういうケースがわんさかでてきますよね。とくに選択肢で分岐がある場合とか。エクセル上でセリフを確認すると、分岐ルートのセリフがまったく違う場所に記載されていたりするので、まるで別シーンのようなテンションになってしまうというか。ファイル上で視覚的に離れてると、“会話の選択によってつながる文章”というイメージとしてつながりにくいんですよね。テストをしてみて、Aの選択肢ではうまく言葉が流れていくのに、BやCの選択肢を選ぶと何か違和感があるというのはよくあります。

西尾:困るのが、カットされて実際には使われなくなったセリフが、いっぱいファイルに残っている場合。翻訳者さんはもらったファイルを見て翻訳するので、どうしてもそれを追ってしまいます。自分で「あ、こういう流れなんだ」って結論付けて訳していると、じつはその大半が使われてなくてぜんぜん違うルートをたどっていたりとか。

石立:そういう場合、うちは全部並べ替えてますね。A、B、Cのルートがあったら、Aのルート、Bのルート、Cのルートって全部並べ替えてから渡します。もちろんすごい手間はかかるんですけど。

本間:重複する部分も含めて、あらかじめルートごとに作っちゃうと。

石立:最終的にはそれが一番ラクなんですよね。最後の方で「うわ~、直す時間ほとんどないのに!」っていうときに矛盾が見つかるのが一番困るので。

本間:自分もそれをやりたいんですが、『ウィッチャー』のときは、その日来た音声をもとに翌日収録するというケースも多々ありまして。そんな厳しいスケジュールとなると、物量が多すぎてとてもできなかったですね。ベンダーさんにお願いするにしても、ゲームの流れ全体をつかめるのは自分だけなので、自分でしか対応できないという状況も多々あります。

石立:スケジュールの都合はありますね。開発が終盤になると、英語音声の到着から日本語音声の納品までのスケジュールが極端に短くなるので、そうなっちゃったらもう仕方ないです。でも根幹の流れを最初に押さえておくと、演出家の方や役者さんがその流れを覚えていってくれるんですよ。「こいつはこんな奴で今はこんな状況だからこんな感じだな」ってイメージを構築してくれて、演技がさらによくなるんです。……でも『ウィッチャー』でそれをやろうと思ったら、たぶん本間さんがもう一人くらいいないと無理じゃないかな(笑)。うちでも台本の組み直しは社内でやってるんですよ。

本間:ですよね。ベンダーさんにお願いすると、それはそれでイメージと異なる感じになっちゃう可能性もあって、そうなると結局自分が直す作業が発生してしまいますし。たぶん我々で共通しているのって“最終的に信じられるのは自分だけ”みたいなところかな。

西尾:そうそう(笑)。基本的に他人を完全には信用しないですよね。

石立:ベンダーさんはゲームに触れないので、そこを投げても、あとで98%修正する――みたいな事態になりかねないんですよね。

本間:ベンダーさん側でも修正を入れてくれるんですが、結局ベンダーさんが入れる修正より自分が入れる修正のほうが多いみたいな。

西尾:そうですね。どうしてもスケジュール上複数人でやらなきゃいけないときもありますが、同じ部分に修正が重なった場合は自分のを最優先にしてもらうようにしています。

石立:うちは複数でやらなきゃいけないときは、ほかのプロジェクトから“スカウト”してきます(笑)。プロジェクト規模などからして終盤キツくなりそうなプロジェクトでは、メインのローカライズ担当のほかにサブを付けることもありますね。たとえば『アンチャーテッド』は谷口がメインで、もう1人サブのローカライズ担当がいます。最終的には、その2人が台本の作成で忙しすぎて収録に行けなくなったんで、僕や安次嶺(※8)が収録へ行ったこともありましたね。

本間:全部で何人くらいいらっしゃるんでしたっけ?

石立:えっと、全部で8人かな。

本間:となると、そのうちの半分を『アンチャーテッド』で使えるわけですね(笑)。

石立:そうですね、使ってます(笑)。

本間:羨ましい! うちワンマンなんで。

西尾:うちもワンマンです!

石立:まあ、その4人のうち2人はそれぞれ別の作品も複数同時に担当していたわけですが、『アンチャーテッド』にそれだけ人数を割いたのは、台本がとても繊細で、ちょっとのミスが大きく響いてしまう、という作品だったからですね。ニール・ドラックマンと、ジョシュ・シェラーの台本って、そういう感じなんですよ。

本間:そういえば『ブラックオプスIII』やってましたね。

石立:あれはパブリッシャーはSIEJAですけど、ローカライズはうちじゃないんですよ。アクティビジョンの開発会社がやっています。

西尾:以前は僕もかかわってました(苦笑)。大変ですよ、『CoD』。

石立:なんか、担当者はかなり大変だという話を聞きました(笑)。

西尾:そうですね。だいたい3ヶ月近くはロサンゼルスで作業してました。渡米する前に全部収録しておいて、現地で日本語が実装されたゲームを見たんですが、「これはあかーん!」という部分があったりして。そこからはダメなところを全て書き出して、日本にいるチームに送り、収録したものをこちらに戻してもらう、という形で作業してました。

本間:この場で言うのは非常に申し訳ないんですけども、スクエニさんってマイナスイメージからのスタートじゃないですか。でも最近は『LIS』とか『OW』とか、『トロピコ』も素晴らしかったと思いますし。一気に評判を上げてきてると思うんですよ。

西尾:『CoD』に関しては今ちょっと部署を離れてしまったんですが、塩見(塩見卓也氏。元エクストリームエッジのローカライズプロデューサー)の及ぼした影響が大きいと思います。塩見は『ブラックオプスII』からCoDシリーズに関わっていて『ゴースト』で僕が塩見のアシスタント的な立場で入って、『アドバンスド・ウォーフェア』では僕と塩見のツーマンセルでやってました。言い訳ではないのですが、やはりCoDシリーズはスケジュールが厳しい&規模的に日本語版での要望を通しにくいタイトルでした。

石立:ローカライズのことだけを考えると、そういうタイプよりも『LIS』のような自分でコントロールできるタイトルのほうがクオリティは高めやすいかもですね。

西尾:やってて楽しいですしね。

本間:それは間違いないです(笑)。

西尾:それはともかく、先ほど石立さんがおっしゃっていた台本の組み直しというのは目から鱗ですね。やってみたいですね、今後どこかで。

本間:同感です。ベンダーさんにやってもらうよりは、自分でやってみたいと思いました。

石立:結局、ベンダーさんにムリヤリこちらの意図通り仕上げてもらえるよう下準備するより、作品の情報が分かっている自分たちでやったほうが早い場合が多いんですよ。

西尾:そこをコントロールするのもディレクターの仕事だったりするのかもしれませんね。『LIS』は開発がすごく優秀で、分岐チャートがしっかりあったのでラクでした。それでも僕は基本的に開発も完全には信用していないんですけど(笑)。分岐が間違ってたりしますからね。

本間:自分の仕事を進めるうえでは「開発を信じるな」ってね(笑)。

石立:まあ、しれっと変えてくることもありますからね。アセットを確認して違和感があったときに「ここ違わない?」って聞くと「じつは最終バージョンで変更するつもりでいた」みたいなこと言われたり。

本間:向こうのローカライズの部署と開発部署が物理的に離れている場合、担当者が知らないケースもありますね。シムシップの場合、日本だけじゃなくて、さまざまな言語版からの質問が1つの窓口に集約するのでどうしてもいっぱいいっぱいになっていて、こちらから質問したことに対してろくに調べもせずに返答されたりすることもあります。開発の人に直接聞くことができればすぐに答えてくれるだろうとも思ってるんですが、ローカライズの窓口を介さずに開発とじかに連絡を取ると、窓口の担当者に怒られることもあるので……。

西尾:よくある話ですね。向こうもリソースの管理が大事なので、間に立っているローカライズ窓口担当が重要な質問とそうでないものを選り分けてるんです。こっちにとっては重要なものなんですが、向こうにそう認識してもらえずに、雑な扱いをされて止められるというのは、本当によくありますよね。

石立:開発の人に直接言えばすぐに解決することもありますからね。

本間:だからもう、バグ報告をする内部の掲示板みたいなところにバグとして報告したりするんです。そこだと開発者が直接見てるので、ダイレクトにコミュニケーションを取れるから(笑)。

西尾:みんな考えることは一緒なんですね(笑)。ローカライズの際の”要望”じゃなくて”不具合”として報告しちゃうやつ。

石立:僕はローカライズをとりまとめている人へメールを送るときに、開発の人をCCに入れてメッセージを伝えたりしてます。

本間:そこは御社の場合、自社IPですとやりやすそうですよね。

石立:開発会社にもよりますね。それに開発がアメリカなのかヨーロッパなのかによっても全然違うんです。ヨーロッパはローカライズに対する経験が豊富なので準備ができてるんですけど、そのぶん、悪い意味でシステマチックに感じることもあります。あとは、英語圏の人には分かってもらえないこともあって……。

 例えば、息を日本語で入れたい、という場合、吹き替えってセリフは日本の役者さんに入れてもらいますが、アクションの合間に挟まる息などは、外国の役者さんのものが残っている場合があって、どうしても息に違和感がでちゃう。でも、今のローカライズで日本語の息を入れるってまずないんですよね。

西尾:『LIS』も笑い声だとか咳だとかはどうしても吹き替えができなかったなあ。

本間:『ウィッチャー』も全言語、息とか笑い声とかは全部英語でした。日本語だとシリというキャラクターは沢城みゆきさんに声を当ててもらっているんですが、戦闘になると「ヴォォォォ!」という、「オッサンか!」みたいな声を出すんですよね(笑)。違和感がスゴイので要望は出すんですが、「これはすべての言語でこうだから」って言われちゃう。

石立:開発側からしたら、一言語でそれに対応すると、全言語で対応しなきゃいけなくなりますからね。あと最近だとファイルサイズもバカにならないですし。

本間:そうですね。じつはデータの3分の1が音声とかザラですよね。

石立:ヨーロッパ版では、音声データのサイズが原因でSKUを分割しなきゃいけないことすらあります。

本間:たまにユーザーさんに「海外版で45GBのPS4ゲームが、日本語で30GBになってるのはおかしい! 何か要素が削られてるんじゃ?」って言われることあるんですが、単純に言語数が少ないだけなんです。収録されてる言語数が少ないだけで、とくに要素が減っていたりはしません。容量の差は全部ボイスだと思ってくれていいです。

石立:音声ファイルって意外と重いんですよね。とくにPS4になって性能が上がったので、音声ファイルのサイズがけっこう増大してる。

本間:カツカツな原因って、音声ファイルだったりしますよね。あとはムービー。

石立:1つの音声ファイルを複数の箇所で使い回されると、英語では意味が通じても日本語では通じなくなってしまうことがあります。だからそれはやめてほしいと依頼するんですが、『The Last of Us』のときは“容量の関係で音声ファイルは増やせない”というのが原因で断られたことがあります。

 あの作品はPS3のパフォーマンスを限界まで使っていたので、すべてがギリギリのバランスで成立していて、「ここを直してほしい」って要望を出しても、「これ以上いじると他の箇所にどんな影響があるかわからない」と断られたこともありました(笑)。ただ、全世界に向けての作品の完成度を考えると正しい判断だったと思います。

西尾:ちょっと話は戻りますが、次世代機になって、音声だけでなくフォントのメモリがだいぶラクになりましたね。PS3のときはなかなか2種類のフォントを入れるのって難しかったので。

石立:日本語は文字種が多いんですよね。文字種と言うのは“あ”“い”“う”とかの文字の形なんですけど、アルファベットだと20数文字、多くても50文字くらいでそれぞれ大文字小文字があるくらいなんですが、日本語だと100で収まるなんてことはまずなくて、数百くらいは行きますからね。

本間:『テラリア』ってすごくメモリを食うゲームで、パッと見はドット絵で軽そうな横スクロールなんですけど、ワールド全部をリアルタイムで保存していて、例えば物を落としたらそれがすべて保存されていくんですよ。なので、メモリの圧迫量がハンパないんですよね。

 海外版のフォントだとAからZまでと英数字で数が少ないんですけど、日本語にしたときにものすごく圧迫するので、ひらがなとカタカナを多めにして、なるべく漢字を使わないという手法をとりました。まあ限界があるのである程度は使いますが。最終的に翻訳したときに文字種ごとの使用頻度を出して、この文字は1回しか使わないからひらがなに置き換えてみたり……など、手作業で修正しました。

石立:それは……かなり手のかかるローカライズですね。

西尾:ローカライズ中はあるタイミングで文字種リストを作って、「この文字しか使わないよ」ということで開発に渡すのですが、それ以外の文字を使うと文字化けしてしまうんですよね。これがよく失敗の原因になるんです。

本間:DLCがあると厳しいんですよね。『ウィッチャー』は改めてパッチに新しいフォントテーブルを乗っけるので文字は使い放題なんですけど、ゲームによってはDLCで使える文字種も本編で使えるものに限定されるものがあって、この漢字を使いたいんだけど使えないっていうケースがあるんですよね。

西尾:『CoD』がそのタイプでした。DLCでどうしても“卵”っていう漢字を使いたかったんですけど、入っていなかったんです。

石立:戦争ものでそれは入っていないですよね(笑)。

西尾:卵なんて使わないじゃないですか。だいたい“弾”とか“死”とか“殺”とか物騒な単語ばっかりなので(笑)。

(鼎談企画後編に続く)

※1:エクストリームエッジ……スクウェア・エニックスの海外タイトル専用レーベル
※2:QAベンダー……品質のチェックをする会社。
※3:谷口……SIEのローカライズスペシャリスト、谷口新菜さんのこと。代表作は『アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝』『HEAVY RAIN -心の軋むとき-』など多数。
※4:アセット……要翻訳の文章や音声など。データ。
※5:2バイト文字……日本語、中国語、韓国語など、コンピュータ上で扱う際に1文字に2バイトのデータ量を要する文字のこと。英字は1バイトのため、これらの言語を使う際はそのぶんデータ量がかさむことになる。
※6:MOBA……マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ(Multiplayer Online Battle Arena)の略。リアルタイムストラテジーの一種。2チームに分かれたプレイヤーが戦略的に協力しつつ敵拠点の陥落を目指すタイプのゲームのこと。
※7:ラスタライズ……点と線、もしくは文字と画像などからなるイメージデータを、色つきの点が集まった形のデータ(ラスタイメージ)に変換すること。
※8:安次嶺……SIEのローカライズプロデューサー、安次嶺クリスさんのこと。代表作は『アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝』『The Last of Us』などなど。
※9:パブリックドメイン……著作権や知的財産権が存在していない、または消滅している状態を指す言葉。

データ

▼『電撃PlayStaton Vol.617』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2016年6月23日
■定価:694円+税
 
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