2016年7月10日(日)
「形のないIPの独占は、もう古い」プラチナゲームズ・稲葉敦志氏の講演をレポート【BitSummit】
7月9日~7月10日にかけて行われているBitSummitで、プラチナゲームズでさまざまなタイトルを手掛ける稲葉敦志氏の講演が行われた。昨年のBitSummitではプラチナゲームズという大きな会社だからこその大変さを語っていた稲葉氏だが、今回の講演では自分たちの未来の話に注力していた。
「自分たちのオリジナルタイトルを作りたい、という夢があってプラチナゲームズに席を置いたが、現在の夢は少し違う」
そう前置きをした稲葉氏が語り出したのは、プラチナゲームズは自分たちのIPを持っていないということ。設立から10年が経つプラチナゲームズは『ベヨネッタ』や『The Wonderful 101』などで高い評価を受けているが、あくまでこれらのタイトルの開発会社。だからこそ、自分たちで作って自分たちが販売する独自IPを持ちたいという話だった。
そして「これが今日一番語りたかったことです」と話し始めたのがIPの未来の形について。稲葉氏はIPには“形のあるIP”と“形のないIP”があるという考えのようだ。
形のあるIPというのは『ベヨネッタ』など、個々のタイトルやそのシリーズのこと。そして形のないIPというのは、デベロッパー独自の技術力のこと。いわばノウハウだ。
例えばアクションゲームが高い評価を受けているプラチナゲームズなら、アニメーションライブラリーやVFXのシステムに関する蓄積が豊富。ユーザーを楽しませるアクションの敵作りにも詳しい。だが一方で、グラフィックスの技術やシューターを作るノウハウについては、プラチナゲームズよりも海外の有名スタジオの方が優れているといった具合だ。
このように、各デベロッパーにはそれぞれ形のないIPがある。これをデベロッパー単位で独占するという発想はもう古いというのが稲葉氏の主張だった。
形のないIPを共有していけばお互いのゲーム作りに生かせ、ひいてはユーザーが喜ぶゲームを作ることにつながっていく。今のように技術を独占していてはこの喜びは得られないとのことだ。
あえてBitsummitという場で“形のないIPの共有”という話をしたのは、インディーデベロッパーこそがこの形のないIPの共有に重要な役割を果たすだろうと稲葉氏が考えているからだそう。
形のないIPとユーザーからのフィードバックがユーザーの喜びにつながる
また、もう1つゲームの未来に向けて稲葉氏が重要と考えているのが、ユーザーがプレイして感じた想いを、その後のゲーム製作に生かしやすい環境の整備。
デベロッパーが実際にアンケートを取るといったことではなく、ユーザーが遊んだことで自動的にデータが蓄積される形にしたいというのが稲葉氏の考えだ。
形のないIPとユーザーからのフィードバック。この2つをデベロッパーで共有して互いに力をつけていけば、それがユーザーの喜びにつながる。そうすると、大きなデベロッパーによる、ケチなノウハウの独占は自然となくなるだろうと話していた。
この話を聞くと似通ったタイトルが生まれそうにも聞こえる。だが、ノウハウを共有しているなかでも自分たちならではの色が出せるのが優れたデベロッパーであると稲葉氏は言及していた。
会場の盛り上がりこそインディーの盛り上がり。形のないIPの共有に賛同してくれるデベロッパーがあればぜひ協力していきたいと、稲葉氏は講演を終えた。