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2016年7月21日(木)

VR ZONE『装甲騎兵ボトムズ』はATの挙動を極限まで追求。大河原邦男氏も「想像通り」と大絶賛!

文:る~ぱ

 バンダイナムコエンターテインメントがプロジェクトの企画・プロデュースを行い、ナムコが施設運営を行う“VR ZONE Project i Can”(東京・台場)。本施設に、TVアニメ『装甲騎兵ボトムズ』を題材とした『VR‐ATシミュレーター“装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎”』が登場しました。

 本記事では、このVRアクティビティを実現させたキーマンたちへのインタビューをお届けします。

『装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎』

 今回のインタビューでは、バンダイナムコエンターテインメント“VR ZONE Project i Can”の研究所所長である小山順一朗さん(コヤ所長)、サンライズの渋谷誠さん、バンダイナムコスタジオの柿沢高弘さんの3名からお話を伺うことができました。

 本コンテンツの誕生経緯はもちろん、これから体験する方にも必見の内容になっていますので、ぜひご一読ください!

『装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎』
▲小山順一朗さん(コヤ所長)。
『装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎』
▲渋谷誠さん。
『装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎』
▲柿沢高弘さん。

“ATが実在したらどうなるか”をひたすらに追求

『装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎』

――まずはじめに『装甲騎兵ボトムズ』をVRアクティビティのテーマに選んだ理由についてお聞かせください。

コヤ所長(以下、所長):本音を言ってしまうと、私が『ボトムズ』好きだからです(笑)。そもそもVRコンテンツを体験してもらえる施設を作りたい、ということで1年前から進めていた企画が“VR ZONE Project i Can”でした。

 建前的には“VRエンターテイメント研究施設”ですので、当初はIPコンテンツがなかったのですが、『ボトムズ』にはコアなファンの方も多いですし、VRに興味がない方にも『ボトムズ』を通じてVR体験をしてもらいたいという考えがあり、今回題材として選んだ形になります。

――たしかに『ボトムズ』はコアなファンが多い作品ですよね。ただ、なぜ『機動戦士ガンダム』を先に選ばなかったのかは気になりました。

所長:『ボトムズ』ってコアなファンが多い反面、まったく知らないという方も多いと思うんです。『ガンダム』などのIPでVRを作ると「あまり作品を知らないので、体験してもわからないのでは」といったように、VR体験そのものにしり込みをしてしまう方もいるのではないかと考えました。

 その点『ボトムズ』なら、ド直球に好きな人と、そうでない人にキレイに分かれる。事前に会社や施設内でスタッフに体験してもらったところ「『ボトムズ』だからやりたくない」という人はいませんでした。「『ボトムズ』だからやってみたい!」という人はもちろんいましたが。

 作品はあまり知らない方にも「ロボットを操縦するのが楽しそう」といったノリで遊んでいただけるのでは、と考えています。

渋谷誠さん(以下、渋谷):一般的に『ボトムズ』って、ギルガメスとバララントが100年にも渡り、アストラギウス銀河を二分する戦争を続けている世界だと知られてますよね?

所長:それはどうでしょう(笑)。

渋谷:冗談はさておき、『VR‐ATシミュレーター“装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎”』は、コアなファンにものすごく刺さるコンテンツだと思っています。実際、私の知り合いは即座に予約していました。

 「『ボトムズ』の世界観のなかでアーマードトルーパー(AT)に乗れます」と言われれば、パッとすぐに内容がイメージできるのというのがポイントだなと思います。

 それに世界観など関係なく、ガチャガチャと動かしているだけでも楽しいんですよ。ただ、最初にお話を聞いた時『ガンダム』ではなく『ボトムズ』を選んでくるあたり、開発スタッフたちは相当の最低野郎だなと思いましたね。

『装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎』

所長:この施設の企画がスタートした時に10タイトルほどのコンテンツを社長に提案し、その中に『ボトムズ』も入れていたのですが「『ガンダム』じゃないの?」とは言われました。

 他にもいろいろなコンテンツを用意するので、自分の好きな『ボトムズ』だけはやらせてください、とお願いしてなんとか企画を通したんです。もちろん『ガンダム』も好きなんですけどね。

渋谷:社長も『ボトムズ』をご存知だったんですよね。

所長:ええ。ちなみに、施設のオープン当初はこれほどまでに一般の方々が来場してくれるとは想定していなくて、最先端テクノロジーを使ったガジェットが好きな人たちをターゲットにしていたんです。それなら『ボトムズ』を知っている、興味があるという人も多いだろうと。

――オープンから今日にいたるまでの様子をみると、20代のカップルやファミリーも多いという印象です。

所長:そういった方々に『ボトムズ』が受け入れられるかどうかは、自分にとっての1つの挑戦ですね。『アーガイルシフト』が楽しんでいただけているようですので、『ボトムズ』を知らなくても一度体験してもらえれば「これはスゴイ」と思っていただけるかなと。

『装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎』
▲『アーガイルシフト』。巨大ロボットにナビゲーターの少女と乗り込んで戦うVRアクティビティ。

柿沢高弘さん(以下、柿沢):『ボトムズ』はカンタンに操縦できるので、テストプレイでも女性がノリノリで遊んでくれていました。歯をむき出しに闘争本能を出して……(笑)。体験が終わった後に「これはどういった作品?」と聞かれるのですが、この作品をきっかけに百年戦争を知ってもらうのもいいのかなと思います。

――『ボトムズ』に登場するATの全高は4m前後と比較的小型の部類ですが、小型であるぶん現実の大型重機に搭乗するかのような自然な感覚で、違和感なく機体に乗り込めるのかなと思いました。これもすんなりと受け入れられる要因なのかなと。

所長:そのとおりだと思います。

柿沢:私は1年ほど前からVRを研究しているのですが、VR体験として、もっとも受け入れやすいのは、人間の動作として歩き回ることなんですね。ただ、体験者自身が実際に動き回るのは難しいので、操縦して歩き回れるロボットがいい。

 そして、操縦するマシンと人間の大きさはできるだけ近いほうがいい訳です。それらの条件を満たしていたのが『ボトムズ』のスコープドッグのようなATでした。この機体だったら最大限のVR体験ができつつ、酔うこともなく楽しめるのではないかと考えました。

――たしかに、巨大すぎるロボットを動かすというよりも、操縦のイメージをしやすい気がします。

柿沢:それに加え、操縦するロボットの大きさがよりイメージしやすくなるように、対戦前に倉庫で整備中のATを確認できるようにしています。

『装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎』
▲格納庫の内部も再現。バトリング前に、歩き回ることができます。

所長:ちなみにアーケードで展開中の『機動戦士ガンダム 戦場の絆』はドームスクリーンではありますが、あちらもVRの技術を使っています。モビルスーツは約18メートルあるのですが、これをVRで再現すると巨大すぎて現実感を出しにくいことはわかっていました。

 ですので、人間に近いサイズの機体で動き回ったり戦ったりした場合、人間はどういう錯覚を起こすのか、というのもテーマの1つとなっています。

――“VR ZONE Project i Can”に限らず、近年VRコンテンツはどんどん増えていますが、ここまで本格的に対戦できるコンテンツにはあまりお目にかかれなかったと思います。スリリングな対戦を成立させるために重視したことはありますか?

所長:『VR‐ATシミュレーター“装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎”』は最初からプレイヤー同士の対戦ものにしようと考えていました。NPCとの対戦は無しにしようと。これはあくまで“VR-ATシミュレーター”だと渋谷さんからも言われていたので。

渋谷:そういえば、このコンテンツ名に決まるまでも喧々諤々でしたね。

所長:そもそも『ボトムズ』の世界のATには必ず人間が乗っており、AIで操作するという設定はありませんからね。シミュレーターということで、そのあたりも再現したかったのでこういった形になりました。名前も最初は『鋼鉄の棺』なども考えていたのですが、棺桶はないかなと(笑)。

渋谷:棺桶に乗るのはちょっと嫌ですよね(笑)。結果論ですが、シミュレーターというタイトルにしたおかげで、開発の皆さんにもいい影響を与えられたようです。

所長:「ゲームではなくシミュレーターを作っているんだ」と吹っ切れたのはよかったですね。これまでのゲームには“行動後の硬直を狙う”、“ゲージを管理した移動”といったお約束事がありました。

 それらがゲームをおもしろくしている要因ということはもちろんわかっていますが、そういったゲーム性を取っ払い、ATが実在したらどうなるのかをひたすら追求したのが本コンテンツ。ですのでマシンには耐久力の表示もないし、行動後の不自然な硬直もありません。

『装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎』
▲対戦時、プレイヤーの視界はこのように表示されます。機体の状況を把握できる各種データは存在するものの、HPゲージなどは存在しません。

渋谷:当然ですが、キャンセルコンボなどもありません(笑)。

――それでいて対戦としてキチンと成立していることに驚き、そして感動しました。

所長:それは『ボトムズ』の原作の設定がスゴいということです。

渋谷:シミュレーターと銘打ったので開発陣が「ちゃんとしたシミュレーターを作るぞ」という流れになったようです。

 よくある飛行機のシミュレーターのようなガチガチな感じもなく、それでいてほどよい遊び心も残っていて絶妙なバランスになったのかなと。

所長:これまでのゲームに登場するロボットは、よく見るとメチャクチャな動きをしているのですが、このコンテンツにはそういった妙な挙動は一切ありません。へヴィマシンガンなどの銃器を持つ腕の角度にも制限がありますので、届かない範囲を狙うためには自機の向きを変える必要があります。

 もちろん弾丸の不自然なリロードもありませんし、敵の攻撃で腕を壊されてしまうと、攻撃ができなくなります。

――ですが、本コンテンツには装備している武器を撃ちつくすと落ちてる武器を拾えるといった隠し要素もあるようですね。

所長:射撃武器を撃ち尽くすと武器を投げ捨てるのですが、その状態になるとフィールド内にある武器を拾って使うことができます。

柿沢:実は、1回の体験ではすべてを確認できないのではというほどに、あらゆる操作が可能になっています。目指していたのは第二次世界大戦中のシャーマン戦車。誰でもカンタンにシンプルに動かせますが、慣れればより深く、といった形です。

大河原邦男さんも「考えていた通りだった」と納得するほどのクオリティを実現

――VRは360度見渡せるのが特徴ですが、本コンテンツでは、見渡せる部分が限られているのが印象的でした。機体内部は360度見渡せるけれど、基本的には正面に集中させる作りというか。

所長:何を見せるかに関しては苦労しました。当初は普通のFPSのような形で手を生やせばいいのかなと思っていたのですが、「胸の装甲があるからFPSのようには見えないのでは?」と試行錯誤したりもしましたね。

 原作の兵士たちは網膜投影ゴーグルを付けていますが、そうなるとコクピット内部は見えないわけですし。

柿沢:最終的にはミクストリアリティーと言われる技術のように、現実空間にバーチャル空間を融合させるような技術なのでは、という解釈で今のような形になりました。

渋谷:厳密に作ると、スコープドッグのスコープを切り替えれば外ももっと見えるはずです。ただ、レンズ透過と視覚変化が体験者にとって負担になるので。そのあたりはバランスですよね。

――ダメージを受けると機体内部に火花が散る、といった演出にもリアリティを感じました。

柿沢:被弾すると火花がバチバチとなるんですが、それを見ているとトドメを刺されます(笑)。

所長:へヴィマシンガンは、実際の30ミリ弾でシミュレートしています。当たると周辺のものがグチャグチャになる、そんな弾が飛び交うなかで戦っているのです。

『装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎』
▲ミサイルの直撃などを受けると、コックピット内部が炎上!

渋谷:体験中はわからないと思いますが、当たりどころによっては銃弾がコックピットを突き抜けていくこともありえます。ちなみに当たりどころが悪くパイロットに当たると、一撃で撃墜されてしまうところまで再現しているようです。

所長:劇中でもキリコが操縦中に足を撃たれてしまい、血を吹き出しながら戦っているシーンがありましたから。さすがにそこまでは再現していませんが(笑)。

柿沢:ちなみに筐体のイスと体験中のコクピット内のシートは同期していて、乗ったポジションが映像とマッチしています。

――他のVRアクティビティと比べると窮屈なように感じましが、これも狙ってのことでしょうか?

所長:360度スクリーンを用いて広いところで大自然を体感する、ドローンで自由に飛び回るなど、広く広くを行くのがVRですが、本コンテンツではあえて狭く狭くしてみました。そのほうがATに乗っている感が強く出るかなと。

渋谷:アニメの高橋良輔監督とデザイナーの大河原邦男さんが「人が乗り込むにあたって最小のロボットを作ろう」という考えで生まれたのがスコープドッグなんです。これはアニメーションの話ですが、高橋監督曰く、ロボットがある程度の大きさを超えると大きさの概念が消失してしまうのだそうです。

 約10メートルのロボットですと、下にいても大きいだけ、上に乗ったら高いだけになってしまうようなのです。ですので、人とロボットの大きさを対比しつつ、人が乗り込んで操縦するロボットとして実感できる最小のサイズということで全長3.8メートルのATが完成したとのことでした。

 誰でも乗れて、気軽に使い捨てできて大量生産可能。快適性は度外視し、人が乗ってどう戦うかを追求したマシンですね。

――そういえば『VR‐ATシミュレーター“装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎”』には、ゴウトやバニラといった原作のキャラクターが登場しませんね。それにはなにか理由があるのでしょうか?

所長:シミュレーターとしてのバトリングをキッチリ作ってみよう、ということになったので、今回は彼らの出番を用意できませんでした。

 本コンテンツには実は、劇中のようにATの挙動を変えるミッションディスクや装備の付け替え、ギアの強弱などもシミュレーションとして組み込まれているのですが、今のバージョンではその一部分だけを取り出している状態です。

柿沢:なお、今回のATのセッティングは、誰でも扱えるベーシックなものになっています。

所長:今回はオミットしていますが、本来は武器を捨てるという動作もできます。ただ、開始直後に間違って武器を捨ててしまう人が多かったのでカットしました。

柿沢:劇中でキリコが行ったような、ジグザグにスラロームするような動きも再現できますよ。訓練しないと気分が悪くなるのでオススメしませんが(笑)。

――本来であれば速度ももっと出せる、ということでしょうか?

柿沢:原作同様、時速80kmを出すことができます。しかし、ATはそれなりに重量があるので、スピードが増すと慣性がかかって動かしにくくなってしまうんですね。ですので、今回のバージョンではリミットを設けています。ちなみに武器を撃ちつくして捨てた状態ですと、速度が少し上がりますよ。

――ちなみに、本コンテンツに限らず、“VR酔い”という概念については何か考えられていることがありますか?

所長:『戦場の絆』の経験から、VRで酔いが生じてしまうことはわかっていました。酔いというのは、自分の動きと脳のモデルがマッチしていない時に発生します。

 例えば、遊園地の乗り物でぐるぐる回ると酔うのは脳にモデルがないからであり、何度も乗って脳にモデルを形成できれば酔うこともなくなります。ただ、酔いはVRが嫌いになるキッカケになってしまうので、制作側としては気を使います。

 『サマーレッスン』は移動しないので気持ち悪くなりませんし、“VR ZONE Project i Can”の『高所恐怖SHOW』も実際に歩いているので問題なし。ただそこからが難しくて、移動を機械に任せる場合は、その動きを脳に教える必要があります。

 『スキーロデオ』はスキー板を激しく動かすことで脳にスキを与えないように、『トレインマイスター』も実際の揺れを再現することで酔いを防いでいます。

――『ボトムズ』の筐体も揺れますもんね。

柿沢:酔いにも乗り物酔いとVR酔いといった具合に種類があります。本コンテンツでは、乗り物酔いに関してはノータッチで、ターンピック(急旋回)を連続で行うと普通に乗り物酔いしてしまうハズです。

 ただ、いわゆるVR酔いに関しては対応策をいろいろと講じています。対応策に関しての詳細はここではお話しできませんが。

『装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎』
▲筐体を横からみた図。機体の状況に合わせて動くようになっています。

―――今回のVR体験で『ボトムズ』をどのぐらい再現できましたか?

所長:制作するにあたり、アニメや設定資料集を洗いざらい調べ直したのですが、ポリマーリンゲル液や網膜投影システム、駆動系など、1980年代に誕生した作品とは思えないほどに緻密(ちみつ)なんですよ。

 Windowsもないような時代に、OSのようなミッションディスクが考えられていたというのもすごくて。ですので、設定どおりに作った、としか言えないのが正直なところです。大河原さんに乗っていただいて「考えていた通りだった」と言われたときは本当にうれしかったですね。

柿沢:設定どおりに作っているので、ここからこう見える、というのは理にかなっているはずです。キリコが行ったスラローム走行で走り抜ける、という挙動などを一つ一つ作りながら満足していました(笑)。

所長:予言者ワイズマンの指令のもとに作っています(笑)。

――実際、乗れば乗るほど「次はああしてみよう」とアイデアが出てきて、操縦していて楽しかったです。

所長:そういっていただけますと幸いです。

柿沢:動かすだけなら誰でもすぐに動かせますが、うまく動かすにはコツがいります。何度も操縦していると、後ろから狙われていることなどがわかり、それに対処する術もわかってくるのでおもしろいですよ。

所長:二足歩行なので普通にロボットに乗ると倒れてしまうのですが、それをサポートするシステムというのが原作にあるんです。本作も最低限の物理挙動は入っているので、やればやるほどに習得していけるのも、ある意味では再現ですね。

渋谷:ですので、何度もプレイしていただきたいです。いろいろとハードルもあるのですが、そこを頑張って乗り越えてほしい。最初は訳がわからない部分もあるかと思いますが、何度も体験することで見えてくるものがあるハズですので。

――ちなみに『ボトムズ』以外でVRで表現したいロボットなどはありますか?

渋谷:私は『アーガイルシフト』も体験したんですが、隣に等身大の女の子がいるのは大変だなと思ったんです。ですが、それよりも小さい妖精なんかですといい感じなのではと……。

所長:『ダンバイン』ですね! 僕も大好きなんですよ!

渋谷:『聖戦士ダンバイン』のオーラバトラーは全長7メット(7m)ぐらい。あの作品では妖精がコックピット内を飛び回ってパイロットにいろいろと言うのですが、それがVRにマッチしているかなと。

 コックピットハッチは透明で内側から外部を見えるのもVR向き。しかも空を飛べるんです。

所長:東京上空、やりますか! 実際の街並みを再現したら楽しそうですよね。

驚愕や恐怖、ドキドキが詰まったATのコックピットをぜひ体験しにきてほしい

――“VR ZONE Project i Can”を含め、今後はどのような展開を予定していますか?

所長:いろいろとお話したいことはあるのですが、まだ言えないんです。すみません。

渋谷:VRゴーグルの誕生によって今の展開があるので、今後もハードの発達次第ですね。筐体の大きさや価格、ケーブルなどといったネガティブな要素がクリアされていけば、VRの可能性はもっと広がると思います。

所長:“VR ZONE Project i Can”は2016年10月で一端終了しますが、すべてが無に帰すわけではありません。もちろん次の展開も考えているところです。それに“VR ZONE Project i Can”でも、次のコンテンツが登場するかもしれません。

――VR技術に関しての考えや印象をお聞かせください。

所長:私たちの分野はエンターテイメントですが、もっともっと広い可能性を見せられるのがVR技術だと思います。実際に実験も行っていますが、VR空間で自分の姿を抽象化させた状態でネットワーク上で話すと、自分の感覚や意識が自由になるんですよ。普段はおとなしいプログラマーが妙にはしゃいでみたり。

柿沢:感覚の拡張が素直に受け入れられるんです。例えばVR内部で腕が実際の2倍ぐらいになっても、自分の腕のように感じられて振り回すといったことが自然にできるんです。

所長:それをお互いに見ながら、大きさも変えられる。実生活では、背が大きい人は何かを見降ろして、小さい人は見上げて生きていますよね。それを逆転させるとどうなるか、といったこともできるんです。

 そうした垣根が取り払われるVR空間では、より自由なコミュニケーションができるようになる。言語もおそらくAIで変換されるようになり、国同士のコミュニケーションの壁もなくなるのかなと。これらは私だけでなく、いろいろな分野の方々が描いている夢です。

――エンターテイメントの分野に限定するとどうでしょう?

所長:これまでのゲームでは、“ジャンプするためにボタンを押す”というように動作を抽象化してきました。それがゲームをおもしろくする要素ではあったのですが、よく考えると不自然ですよね。ジャンプしたければ自分でジャンプすればいい訳で、それができるのがVR。

 『脱出病棟Ω(オメガ)』でもそうですが、話せない状態になると自然と身振り手振りでコミュニケーションを取ろうとする。例えば、ジャングルのなかで原住民の人たちと身振り手振りでどうやってコミュニケーションをとるのか、というのもエンターテイメントになるかもしれません。

渋谷:『ゼーガペイン』というアニメは、仮想空間で戦うことになったが、実はその仮想空間が現実で、現実だと思っていた世界が量子コンピューターの中につくられた世界にすぎなかった、というストーリーなんです。

 10年前の放送時は、まだVRにそれほど興味がなかったのですが、作品世界に現実が追いついてきたというのは実感しています。『ボトムズ』は30年以上前の作品ですが、それが最新技術とマッチするのはおもしろいですね。

 また、ユーザーはVR技術自体に、というのではなく、それが楽しいかどうかを判断して参加している。技術面は専門の人たちが頑張ってくれていますので、一ユーザーとして楽しみです。また、アニメーションを作る側から言えばユーザーが楽しめるコンテンツを提供したいですね。

所長:上司などもアニメやゲームに影響されています。ビジネスですので、儲けも考える必要がありますが、かつて夢中になって観ていたものに影響されないはずがありませんよね。制作者にはオタクが多いと思いますし、技術が作品世界に近づいていくのは当然なのかなと思います。

――まとめになるのですが、改めて『VR‐ATシミュレーター“装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎”』の見どころや苦心された点をお話ください。

所長:ロボット同士のバトルという点においては、他作品ですでにあるのでインパクトは薄いかもしれません。しかし、狭いATに乗り込み敵に近づき、撃たれ、コクピットに引火する、というような体験はここでしかできません。

 『ボトムズ』の話は置いておくにしても、驚愕や恐怖、ドキドキ、夢中になるという感動が、狭いコックピットの内部に詰まっています。また、スコープドッグに乗るにはVR以外ですと実物を作るしかないんですよ。それを作れる人も作る人もそうはいないでしょうし。今回のVRコンテンツでは、ハッチを締める、立ち上がる、動き出すというロボットらしい動作を実際に体験できるんです。

『装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎』

柿沢:『ボトムズ』を知らない人でも楽しめるよう、撃つ、撃たれるというシンプルな体験を大事に作っています。

 『VR‐ATシミュレーター“装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎”』には、実は“バトリング観戦モード”が搭載されています。フィールドに橋があるのですが、そこからバトリングが観戦できるんです。生身で見ているとすごい迫力で怖いくらいなのですが、劇中のように賭けをするのも楽しいかもしれませんね。

所長:あの質量の物体がすごい速度で突っ込んでくるので、本当にコワいですよ!

渋谷:『ボトムズ』を知らない人はどんなロボットに乗っているか分からないので、格納庫を見せるようにもしています。待機状態から起動させて立ち上がるシーンもよく雰囲気が出ていますし、そういった部分も楽しんでほしいです。そこからは殺伐とした戦闘が始まりますが(笑)。

『装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎』

――最後に『VR‐ATシミュレーター“装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎”』に期待されている方に対してメッセージをお願いします。

所長:33年間、お待たせしました。人生でATに乗れる体験ができるのは、現在は“VR ZONE Project i Can”の『VR‐ATシミュレーター“装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎”』だけです。ぜひ足を運んでいただきたいと思います。

渋谷:大河原さんと高橋監督にも乗ってもらい、お墨付きをいただけました。そして動作はもちろん、CGの作り込みなどにも注目していただきたいですね。

 ちなみに「お2人のサインをもらえないか」と言ってくる人がいまして。彼の私物の小説が施設内に飾ってありますので、そちらにもご注目ください(笑)。

所長:取り上げられてしまいました(笑)。

渋谷:このように、根っからの『ボトムズ』野郎が作りあげた『VR‐ATシミュレーター“装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎”』。ぜひ体験してみてください。

『装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎』
『装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎』
『装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎』

最後に高橋良輔監督、大河原邦男さんのコメントをお届け!

 本アクティビティを体験された、高橋良輔監督、大河原邦男さんのコメントをお届けします。

『装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎』
▲左から高橋良輔監督、大河原邦男さん。

●高橋良輔監督のコメント

 ゲームをいっさいやらない男なので、こういった大掛かりなゲームは始めて体験しました。70歳過ぎてハマっちゃう訳にはいかないので、ぜひ僕の代わりにユーザーの皆さんがハマってくれればいいなと思っています。

●大河原邦男さんのコメント

 楽しいです。バトリングを実際に経験できるなんて、めったにないことだから、ぜひATに乗って楽しんでください。

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