2016年8月4日(木)
ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は8月3日、“『シン・ゴジラ』スペシャルデモコンテンツ for PlayStation VR”の特別先行体験会を開催しました。本記事では会場で行われた、映画『シン・ゴジラ』制作スタッフによるプレミアムトークショーの模様と、本コンテンツの試遊体験レポートをお届けします。
7月29日より日本全国の映画館で公開中の映画『シン・ゴジラ』は、12年ぶりに日本で制作された『ゴジラ』シリーズの最新作です。
『新世紀エヴァンゲリオン』などを手がける庵野秀明さんを総監督に迎えた本作では、人類の前に初めて出現した巨大不明生物“ゴジラ”の脅威に対し、日本政府が一丸となって立ち向かう姿が迫真のリアリティをもって描き出されます。
怪獣映画史上に残るインパクトのある作品となっていますので、まだ観ていないという人はぜひ劇場に足を運んでみてください。
さて、この“『シン・ゴジラ』スペシャルデモコンテンツ for PlayStation VR”は、フルCGで描き出されたゴジラが目の前に迫り来るという、PS VRならではの体験が味わえる作品です。
本コンテンツはPS VRの発売日である10月13日より、日本国内向けのPlayStation Store(PSストア)において、期間限定で無料配信されます。イベント会場では一般招待者とメディア関係者がいち早く、本コンテンツを体験することができました。
▲イベント会場には歴代『ゴジラ』シリーズのポスターがズラリと展示されていました。 |
▲シリーズ史上最大の全長118.5メートルを誇る、ゴジラの形状検討用雛型。この造形物を元にして作成されたCGが、映画『シン・ゴジラ』本編だけでなく、PS VR用デモにも使用されています。 |
PS VR用デモの体験に先立って、映画『シン・ゴジラ』の制作スタッフによるプレミアムトークショーが開催されました。監督・特技監督を務めた樋口真嗣さんと、プロデューサーの佐藤善宏さんが登壇し、映画制作の裏側について興味深い話を大いに語ってくれました。
▲映画『シン・ゴジラ』監督・特技監督の樋口真嗣さん。 |
▲映画『シン・ゴジラ』プロデューサーの佐藤善宏さん。 |
トーク冒頭は、キャスティングの話題から。映画『シン・ゴジラ』には、総勢328名という日本映画空前とも言える数のキャストが出演していますが、その中にはプロの俳優だけでなく、映画監督も起用されています。
なかでも映画序盤に登場する政府の御用学者3名は、いずれも著名な映画監督なのですが、佐藤さんによるとこの場面は、撮影になんと38テイクもかかったとのこと。
とあるシーンで最後に話す原一男さんがセリフに詰まってしまい、そのたびに最初から撮り直したそうです。樋口さんは「映画監督を撮るのが一番大変だった」と冗談めかして語っていました。
それに対して、プロの俳優陣は演技も撮影もスムーズだったそうですが、なにしろ数十名が一度に出演するために、ベテラン俳優陣にでさえも「撮影現場では長机を並べて自由に座ってください」と言わねばならぬほどの状態だったそうです。
佐藤さんは「プロデューサーとしては、あれだけの人数を集めるのはもう二度と体験したくない」と苦労を口にしていました。
また、映画を観た人はご存じかもしれませんが、本作では専門用語満載のセリフが次々と早口で語られるため、俳優陣のあいだで「早くしゃべらないと映画からカットされる」という噂が立ったのだそうです。
実際にはそんなことはなかったとのことですが、プロデューサーの佐藤さんは映画によい影響があると考え、あえて肯定も否定もしないようにした、と述べていました。
そして『シン・ゴジラ』のキャスティングで大きな注目を集めたのが、狂言師の野村萬斎さんが、フルCGで表現されたゴジラの動きを演じるモーションアクターを務めている点です。この起用は、野村さんが主演した映画『のぼうの城』の共同監督を務めた樋口さんの発案とのこと。
「日本で作るゴジラなので、日本の伝統芸能が持つポテンシャルをゴジラに流し込みたかった」と樋口さん。また「狂言には、人間ではないものを動きだけで表現するということがあるので、(野村)萬斎さんにお願いした」とも語っていました。
ちなみに、樋口さんのオファーを受けた野村さんは「全然違うかもしれませんが」と前置きしたうえで「小学生の時のあだ名はレッドキングでした」と打ち明けられたそうです。
このモーションキャプチャーの模様が公開された写真では、野村さんがゴジラのお面を身につけていましたが、これは野村さんからのリクエストとのこと。狂言では面の先が顔になるように意識を集中するので、ゴジラを演じるにあたってもお面が必要だったそうです。
また、プロデューサーの佐藤さんによると「今回のゴジラは尻尾の長さが特徴的なので、野村さんがその重みを感じられるように“萬斎さん用の尻尾”も身につけていた」のだそうです。「萬斎さんは本当に前向きに、まるでゴジラが乗り移ったかのように演じてくださった」と、絶賛していました。
先述しましたが、映画『シン・ゴジラ』に登場するゴジラは、全長118.5メートルという、シリーズ史上最大の大きさになっています。続いての話題は、このゴジラのデザインについてです。
「東宝にはゴジラのデザインについて守るべき数カ条があるが、それ以外のことについては大きさも含めて細かいことを何も言わず、すべて庵野さんと樋口さんにお任せした」と佐藤さん。
するとお2人からは「今回は“ゴジラの中に人間が入る”というデザイン自体をやめたい」という提案があったため、佐藤さんも「それはもうぜひ」と応じ、そこからゴジラのデザインがスタートしたのだそうです。
樋口さんによると「今回は、基本的には1954年の第1作目のゴジラを意識した」とのこと。それ以降のゴジラは他の怪獣と戦うために、より人間的な形になっているのだそうです。
初代をモチーフにした理由としては「最初のゴジラは戦う相手がおらず、東京をメチャクチャに破壊するために出てくる。今回はその形状がいちばん近いと思った」からであるとのことでした。
今回のゴジラは、身体の大きさに比べて腕が小さいことが特に印象的です。これについて樋口さんは「恐竜の小さい腕を参考にした。第1作目のゴジラの腕も小さい」としたうえで「腕が大きくて太いと、どうしても人間的な感じになってしまう」とも語っていました。
次の話題は、映画『シン・ゴジラ』のこだわりについて。ゴジラ以外は実際に存在するものしか出てこない本作において、“どこまで本物に近づけることができるか”というのが、本作の最大のこだわりだったとのこと。
「本物の自衛隊は決して“撃てーっ!”とは言わない。今までは映画のウソでなんとなくやってきたものを、本物ではどうやるのか全部きちんと調べて、それを積み上げていく。調べてもわからないことは、あらゆる手段を使って聞く」と、樋口さんは制作中のこだわりを説明してくれました。
これを受けて佐藤さんは「“どうしてもわからないのでウソのものを用意する”となった際は、庵野さんは“そういうのはいらないのでシーンごとカットする”と語っていました」とコメント。本物に対するこだわりは、それほどまでに強かったようです。
映画の主要な舞台である首相官邸も、監督の樋口さんや美術スタッフが何度も見学に赴いているとのこと。とはいえ、首相官邸の内部は写真撮影ができず、ましてやメジャーで測ることもできません。
そこで美術スタッフは、官邸の部屋の広さを歩幅で測ったり、肩にかけているカバンの幅を基準にして大きさを確認したりしたのだそうです。
「それだけ苦労して首相官邸の内部を再現しても、本物の部屋を見たことがある人はほとんどいない」と樋口さん。ニュースで出てくる官邸はほんの一部で、実際に会議を行う部屋には報道のカメラも入れないのだとか。
さらに首相官邸の地下にある危機管理センターは、まったく見学できなかったとのこと。いろいろと話を聞いてみたところ、危機管理センターの予備とされる施設が有明にあるとわかり、そこを借りて映画のロケを行ったそうです。
ただし有明の施設を借りる際の条件として、“もし地震などの災害が発生した場合には、30分以内に撤収すること”となっていたそうです。「30分で撤収する練習までしたけれど、幸いなことに、特に何も起きなかった」と、樋口さんは語っていました。
映画公開後の反響について聞かれた樋口さんは「友人からやたらと飲みに誘われるのだが、みんな飲まずにゴジラの話をしてくる」と回答。「でも自分は作った側だから、みんなが初めて観た時のような新鮮さはない」と語る樋口さんは、「ホントは自分も、観る側に回りたかった」とこぼしていました。
「我々がロケハンをしたり脚本作りをしたり、いろいろな調べ物をしたりしていた時に感じていた熱気を、映画を観たみなさんが感じてくださっている」と佐藤さん。「我々が脚本作りの際に話し合っていた精神性が、みなさんに伝わったのは嬉しい」とのことでした。
なお、今回のイベントは、品川にあるSIEのビルで行われたのですが、樋口さんによると、JR品川駅の北側に出て左に曲がると、JRの線路をまたぐ八ツ山橋という陸橋があり、そこから少し南に下ったあたりが、映画の前半で重要な事件の起こる場所となっているのだそうです。
「第1作目のゴジラが初めて上陸して壊したのが八ツ山橋なので、この場所にしようと決めた」と樋口さん。「そうした現場を実際に訪れる方もいて、我々が目指してきたものを追体験してくださっているのがありがたい」と、佐藤さんも語っていました。
トークがひと段落すると、SIEで“『シン・ゴジラ』スペシャルデモコンテンツ for PlayStation VR”の開発を手がけている秋山賢成さんが新たに登壇。ここからはPS VR用デモについての話題となりました。
▲秋山賢成さん。 |
秋山さんによると「PS VRを東宝さんに体験していただく機会があり、“これはスゴい”と言ってもらえたことから、この企画が始まった」とのこと。「今回の『シン・ゴジラ』のように、いろいろな映画コンテンツの中に自分が入り込んでしまう体験ができるのは表現としても新しい」と語っていました。
VRについての印象を聞かれた佐藤さんは「映画にとってはライバル」と回答。「映画とVRは違うものだが、それを同じコンテンツで展開したらどうなるか。その意味で今回、こういった形でコラボできたのは、挑戦的で良かったと思う」と語っていました。
樋口さんは映画とVRの違いについて、より具体的に解説してくれました。「映画を構成する要素は“フレームを切り取る”ことと、“カットを割る”こと。しかしVRではその2つが奪われてしまう。だからVRのような体験は映画では絶対にできないし、逆にVRで映画のような表現は絶対にできない」のだそうです。
一方で樋口さんは「ラフなCGで環境を作って、その中でアングルを決めていくバーチャルカメラの技術も、VRを使えば自分で見回しながらできる」と、VRの技術を映画制作に応用することの可能性について、大いに興味を持っている様子でした。
「118.5メートルというゴジラ史上最大のサイズをVRで表現するために、ゴジラと自分との距離感や、音による臨場感にこだわっている」と秋山さん。さらにゴジラの迫力を表現するために、イベント前日までずっとこのデモを調整していたのだそうです。
また秋山さんによると、このデモでは映画で使っているゴジラのCGデータをそのまま使ってVRで表現しているので、ディテールには非常に自信があるとのこと。「ゴジラの表現で守らなければいけない数カ条は、東宝さんの監修によってこのデモにもしっかりと入っています」と説明してくれました。
ちなみに、プロデューサーの佐藤さんはこのデモをすでに体験しているそうなのですが、樋口さんはまだ未体験なのだとか。ここで樋口さんによる、VRデモの“公開初体験”が行われました。
「これから体験する人のために、ネタバレにならないようにしないと」という樋口さんは「おーーー!」「あーーー!」「熱い!」といったリアクションを連発。会場はそのノリのよい反応で、おおいに盛り上がっていました。
トークショーの最後に佐藤さんは「VRで体験できるゴジラと、これまでの映画とはまったく違う視点で作られた映画『シン・ゴジラ』がそれぞれいい形でスタートを切って、新しい時代を生み出せればいい」と語っていました。
一方、VR体験の興奮が冷めやらない樋口さんは、PS VRの本体がかなり気になる様子。「じつは予約の争奪戦にずっと負け続けていて」と語る樋口さんは、まとめのコメントそっちのけで「欲しい!」と繰り返していました(笑)。
▲佐藤さんがまとめのコメントを語っているあいだも、ずっとPS VR本体を眺めている樋口さんの様子に、会場からは思わず笑いが起こっていました。 |
トークショーに引き続いて、“『シン・ゴジラ』スペシャルデモコンテンツ for PlayStation VR”の体験会がスタート。一般招待者の体験後には、筆者をはじめとするメディア関係者も実際に体験することができました。
▲自分がVRを体験する姿は撮影できないので、代わりに『電撃PlayStation』編集部のおしょうさんが体験している様子をお届けします。 |
デモがスタートすると、目の前に広がっているのは夜の東京駅周辺が燃え上がっている光景……と説明すれば、映画を観ている人ならどういった状況なのかピンと来るはず。そして東京駅の向こう側から、ゴジラがゆっくりと姿を現します。
やや離れた位置からゆっくりと近づいてくるにつれ、だんだんとゴジラの巨大さが実感できます。そしてなにより、ズシン、ズシンと響き渡る足音をはじめとする周囲の音が、なんとも生々しい臨場感を与えてくれます。
巨大なゴジラがすぐそこにいるという、子どもの頃に見た悪夢のような感覚を、まじまじと体験できるコンテンツです。PS VRが発売されたら、ぜひ体験してみてください!
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