2016年8月12日(金)

『キングダム ハーツ』コンサートで下村陽子さんの名曲を堪能! 新作『KH0.2』につながるエピソードの朗読も

文:あべくん

 8月11日、東京芸術劇場にて、スクウェア・エニックスの人気RPG『KINGDOM HEARTS(KH)』シリーズのブラスバンドコンサートである“KINGDOM HEARTS Concert -First Breath-”が開催されました。

『KINGDOM HEARTS』

 シリーズの楽曲を手掛ける下村陽子さんの音楽を、和田薫さんがブラスバンド用に指揮・アレンジ。それら楽曲を、シエナ・ウインド・オーケストラの皆さんが力強く、そして美しく演奏された本公演の模様をお届けします。

『KINGDOM HEARTS』

 記事後半には『KH』シリーズディレクターの野村哲也氏のコメント、そして下村陽子さんと和田薫さんへのインタビューも掲載していますのでお見逃しなく。なお、本公演のセットリストは以下のとおりです。

●セットリスト

<第一部>

1.Destati
2.Dearly Beloved
3.Traverse Town
4.Hand in Hand
5.Journey of KINGDOM HEARTS(※KINGDOM HEARTS フィールドメドレー)
6.Lazy Afternoons
7.The Other Promise
8.Another Side

<第二部>

9.Gearing Up~Shipmeisters' Shanty~Blast Off!
10.Destiny's Union
11.The Unknown(※メドレー)
12.Musique pour la Tristesse de Xion
13.The Power of Darkness(※ボスバトルメドレー)
14.March Caprice For Piano & Orchestra

 公演は、ゲーム本編でプレイヤーを『KH』の世界へと誘った楽曲『Destati』と、タイトル画面などで流れるシリーズを象徴する楽曲『Dearly Beloved』からスタート。

『KINGDOM HEARTS』

 『KH』ファンが何度も繰り返し聴いたであろうこの2曲が、吹奏楽のアレンジを加えられることによって、より壮大に、そして、より大きな感動を伴って全身に押し寄せてきました。

 演奏された楽曲すべてに言えることなのですが、どの曲も演奏が中盤に差し掛かるころにはゲームをプレイしていた当時の記憶や思い出といった、ソラたちとの冒険の旅がフラッシュバックしてきます。

 音楽を聴くたびに数々のシーンが頭のなかで鮮明に描き出されるという、不思議ですばらしい体験を味わうことができました。

 続いて『KH1』でソラたちの拠点となるワールド“トラヴァースタウン”で流れる『Traverse Town』、『Hand in Hand』の2曲が演奏されたところで、檀上に下村さんが登場。

『KINGDOM HEARTS』

 下村さんは「1作目から14年。このようなはれやかな舞台でコンサートを行えて感動しています」と述べ、さらに「若いころから憧れていた和田さんと一緒に公演できて、幸せです」と思いを口にしていました。

 その後『KH1』のフィールド曲のメドレー『Journey of KINGDOM HEARTS』を演奏。こちらでは、初代『KH』のフィールド曲のアレンジを、たっぷりと堪能できました。

 そして『KH2』のトワイライトタウンで流れた『Lazy Afternoons』、続いてロクサス、アクセルのせつない友情に想いを馳せる『The Other Promise』、物語の重要な局面で流れる『Another Side』と、ファンからの人気が非常に高い楽曲を演奏。なかには涙を流しながら演奏に聴き入っているファンの姿も見受けられました。

 なお、演奏の合間には『KH2』でナミネを演じた中原郁さん、『KH Birth by Sleep』でテラを演じた置鮎龍太郎さんが朗読を行う場面も。

『KINGDOM HEARTS』

 テラとナミネは本編では出会うことがありませんでしたが、今回の公演でテラとナミネが話した内容は、12月発売予定の最新作『KH HD2.8 ファイナルチャプタープロローグ』に収録される『KH 0.2 Birth by Sleep -A fragmentary passage-』につながるエピソードとして、野村氏が書き下ろしたものなのだそうです。

 朗読の内容は新作の前日譚であり、公演限定の会話であるとのことでした。テラとナミネの意外なつながりとは? 以降の公演に参加される方は、それを念頭におきつつ、置鮎さんと中原さんの朗読を楽しんでほしいと思います。

『KINGDOM HEARTS』

 第2部は、コミカルな雰囲気の『Gearing Up~Shipmeisters' Shanty~Blast Off!』、そして優しいメロディが特徴の『Destiny's Union』、強敵との激闘の記憶がよみがえるメドレー『The Unknown』を演奏。続けて、シオンのせつない思い出の曲『Musique pour la Tristesse de Xion』が奏でられました。

 終盤の演奏に入る前に、野村氏、置鮎さん、中原さんが登場。中原さんは「今回はナミネの初めてのセリフも話すことができました。それをコンサートの場で発表できてうれしいです」とコメント。

 置鮎さんは作中のテラのように「アクア―! ヴェーン!!」と絶叫したのち、会場にいる観客すべてに感謝を述べていました。

 野村氏は「2017年には『KH』が15周年を迎えます。コンサートを皮切りにイベントが目白押しですし、『KH 2.8』ももうすぐ。これからも一緒に盛り上がっていただきたい」と述べていました。

『KINGDOM HEARTS』

 そしてボスバトルのメドレー曲『The Power of Darkness』と、本編ラストに流れるゆるやかでいて荘厳な『March Caprice For Piano & Orchestra』を演奏。会場からは万来の拍手が贈られました。

 ちなみに、公演ではアンコールも。どんな曲を演奏したかはここでは秘密。ですが、本公演に参加した多くのお客さんがスタンディングオベーションを行うほどのパフォーマンスだった、とお伝えしておきます。最初から最後まですばらしい公演でした。

『KINGDOM HEARTS』

 そして公演後には、野村哲也氏からコメントをいただきました。その内容がこちらです。

 東京の昼・夜公演に出演しましたが、残念ながら私は全公演に出演するわけではありませんので、どこに出てどこに出ないのか、それもサプライズです……。

 実は、今回のコンサートのセットリストや内容は、来年のワールドツアーのセットリストと同時並行で考えたもので、個人的には今回のブラスコンサートとワールドツアーで前後編のような構成で考えました。

 今回楽しめた方はまた次回もお越しいただいて来られなかった方は次回こそ参加していただければと思います。

 ここからは、下村さんと和田さんから聞くことのできた、本公演の感想や思いをお届けします。

和田さんのマジックにより『KH』のあらゆる楽曲が吹奏楽にマッチ!

『KINGDOM HEARTS』

――本日の公演を終えての感想をお願いします。

下村陽子さん(以下、敬称略):本当に、本当にとしか言えないくらい、すごく嬉しいです。いろいろと大変だったこともありましたが、そういうものがすべて消化されるというか。ただただ喜びと幸せをかみしめています。

 私1人でできることではないので、たくさんの方にご協力いただきました。和田さんの全力の指揮とアレンジも。私が作った音楽にこんなにもたくさんの方々がかかわり、聴きに来てくださったことは、最高の幸せだと思います。ありがとうございます。

和田薫さん(以下、敬称略):とりあえず初日が終わってホッとしています。本当にお客様に喜んでいただけたし、聞いたところによると泣いている方も多くいらっしゃったようで。嬉しいかぎりです。

 1日2公演というのは本当に大変なのですが、こんなにたっぷり『KH』の音楽にひたれるというのは、指揮者、アレンジャー名利につきますね。下村さんとも長いお付き合いに。かれこれ14、5年近くになりますね。

下村:最初のレコーディングから15年近くになります。

和田:僕も今日は振りながら走馬燈のようにいろいろな思いが。とても気持ちよく振らせていただきました。ありがとうございました。

『KINGDOM HEARTS』

――まず和田さんには編曲されたうえで、大事にしたポイントを。下村さんには、その完成した曲を聴いてどのように感じられたかを教えていただければと思います。

和田:『KH』のオリジナルオーケストラエディションも僕が担当していたのですが、やはり皆さんゲームを遊んでらっしゃって、ゲームの思い出が強いと思うんですよ。

 それを大切にしたかったので、あくまでも原曲に忠実に、生で味わうとこうなるよ、迫力あるよ、というような方向で編曲しました。

 そしてコーラスや弦楽器ではないのですが、吹奏楽ならではの迫力と音圧感、ライブ感が伝わるように頑張りました。

下村:アレンジが完成した際にはデモを送っていただくんですね。デモは簡易の音源なので、それを聴いたうえで(本番は)こうなるだろうなというのを想像して「じゃあ大丈夫。楽しみにしています」という形でやり取りをしていました。

 でも一昨日のリハを聴いて「これが和田さんの頭の中で鳴ってるんだ!」と驚愕しました。想像を超えてくるっていうのはこういうことなんだなと。私は和田さんの曲が好きで、アレンジもとても好きなので、ある程度は私の頭の中でも鳴っているんです。

 でもそれがもう全然。今回ブラスバンドでは初めてだったので、想像を超えていて、実はリハで生になった瞬間、私が一番泣きそうになっていました。

――今回のセットリストにテーマなどはあったのでしょうか?

下村:やはり初代『KH』を遊んだ方が、遊んだ記憶を思い出す、追体験というんですかね。「こういうことあったよね。こういう曲あったよね」というのを思い出して、プレイしていたことをなぞるような構成にしたいなと考えていました。

 たとえば『Traverse Town』などは2回演奏しているのですが、普通のコンサートだとそういったことはしないと思うんです。

 しかし、そういう決まりごとを覆してもメドレーには『Traverse Town』を入れなきゃいけないと思ったんですね。そういった点については意識して「こういう風にやっていきたい」と伝えていきました。

 そうすることで野村さんからも「いや、こっちの曲をやったほうがもっといいんじゃないか」といった形で監修していただくことができた。そういう流れで、今回はセットリストを決めていきましたね。

――野村さんからは何かオーダーなどあったのでしょうか?

下村:コンサートに関してはそんなになかったですね。朗読については「こうやりたい」という話は受けました。朗読が入ることで和田さんにイントロを調整していただいたりもしましたね。その節はどうもありがとうございました!

和田:とんでもない。何でもご要望にお応えしますよ(笑)。

下村:野村さんもシナリオを書き下ろしてくださいました。ディレクターさんがゲームのコンサートにここまでかかわってくださることがあまりないと思うので、すごく恵まれたタイトル、コンサートだと感じましたね。

『KINGDOM HEARTS』

――『KH』の楽曲は、吹奏楽と非常にマッチしているという印象を受けました。

和田:いろいろと、吹奏楽ならではのアレンジを加えるのがおもしろかった曲もあるし『Hand in Hand』のように向いている曲もある。吹奏楽と『KH』の楽曲は相性がいいですね。向いていなければやりませんが(笑)。

下村:どんな曲も和田さんのマジックで吹奏楽にマッチした曲になるんです。アコースティックギターがなくても、コーラスがなくても成り立つというか。本当にすばらしいと思います。

――アレンジを加えるうえで苦心された曲はありましたか?

和田:すべて苦心しています(笑)。ただ、苦心と言っても下村さんから「こうしてほしい、ああしてほしい」という注文はありませんでした。

下村:簡単なコメントで「メドレーはこういう感じに」といったくらいはお願いしたのですが、基本的には原曲を聴いていただいて「原曲そのままのイメージは残してください」と。そのくらいでしたね。

和田:15年の付き合いですから。

下村:和田さんとは数年に1度レコーディングする、という感じで『KH』ではエクストラアレンジをしてきていただいているので。

――下村さんから見た和田さんの魅力をお聞かせ願えますか。

下村:熱いんですよ、やっぱり。1度聴くだけでその曲がすごく耳に残るんです。残って、また聴きたい、飽きないと思えるんです。また私の告白タイムになっちゃいましたね(笑)。

――反対に和田さんから見た下村さんの魅力とは?

和田:キャラクターがすごい。アレンジというのは料理人みたいなものなので、どんな素材が来ても料理は作るんですが、素材がよくないと美味い料理は作れないんです。下村さんの曲は素材としてピカ一ですね。

 独特の世界観、キャパシティの広さ。『KH』は下村さん抜きにしては語れないです。「あの曲はみんな好き」ということがある事実こそ、それの証明ですよね。

下村:ありがとうございます。明日から自信を持って生きていこうかな(笑)。

――曲作りにおいて、和田さんから影響を受けたことはありましたか?

下村:普段、曲を聴いて分析して、ということは好きな曲、ショパンでもラファエロでもしたことがないんですが、耳で聴いて残ったものについては絶対に影響を受けていると思うんです。ですので、和田さんからもたくさんの影響を受けているのだと思います。

――どの楽曲からも、大きなパワーというか、力強さを感じることができました。

和田:このコンサート、体力的にはかなり大変なんです。ただ、大変なことを超えてでも音楽で表現したいというのをプレイヤー(演奏者)からも感じるんですね。ですので一緒に作っていて楽しいです。

 吹奏楽ではあまりないタイプの楽曲が多いので、「こういう曲があるんですか?」と驚かれたりもしましたが、それ含めてシエナ・ウインド・オーケストラさんにとってもよい刺激になったのではないでしょうか。

下村:サックスでバイオリンの速弾きのパートを演奏していただいたりもしましたから。

――来年、ワールドツアーが始まりますが、今後の展望についても。

下村:長いシリーズになりましたね。長く仕事をしてきて、シリーズものでこんなにも長く作らせていただける機会がなかったので、続けさせていただいているぶん思い入れもありますし特別なタイトルだと思ってもいます。

 今後もたくさんの方の期待を裏切らないように、ゲームのファンの皆さんにも喜んでいただけるような曲を作っていければいいなと考えております。

 ワールドツアーも、また最初のリハで泣いちゃうかなと思うのですが、和田さんにもアレンジに参加していただきたいですし、またぜひ生のオーケストラで楽しんでいただければ。

 まだ先になりますが、ワールドツアーにも来ていただいて、ゲームも遊んでいただいて、いつになるか分からないけれどサントラも買っていただいて(笑)。存分に『KH』の世界を堪能していただけたら嬉しいですね。

『KINGDOM HEARTS』

 以上、インタビューでした。来年には15周年ということですし、『KH』ファンにとっての2017年はワクワクするような1年になりそうですね。2017年を迎える前にこれまでのシリーズを遊びなおしておくのもよいかもしれません。

 以前、『KH2』の思い出コラムを執筆した際にプレイし直したのですが、ゲームとしてのおもしろさはもちろんのこと、色あせない感動を与えてくれました。今でもPS3で『KH -HD 2.5 ReMIX』『KH -HD 1.5 ReMIX-』を遊べますので、シリーズ未経験者はもちろんのこと、ファンももう1度遊び直してほしいと思います。

 とにかく最高だった、といえる“KINGDOM HEARTS Concert -First Breath-”。これから参加される方々は、珠玉の楽曲の数々を全身で存分に堪能してほしいと思います!

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