2016年8月20日(土)

『デウスエクス マンカインド・ディバイデッド』はストーリー性の高いゲーム。オーグメンテーションの話も

文:あべくん

 現地時間の8月17~21日にかけて、ドイツ・ケルンで開催中の国際ゲーム産業見本市“gamescom 2016”。同会場で、スクウェア・エニックスより発売予定のPS4/Xbox One/PC用ソフト『Deus Ex:Mankind Divided(デウスエクス マンカインド・ディバイデッド)』のインタビューを実施しました。

『デウスエクス マンカインド・ディバイデッド』

 質問に答えていただいたのは、本作のゲームプレイディレクターを務めるPatrick Fortier氏。海外での発売を目前に控えた現在の心境やゲームの魅力を、存分に語ってくださいました。

 『デウスエクス マンカインド・ディバイデッド』は、カナダのゲームデベロッパーEidos Montrealが開発を手掛けるサイバーパンクアクション『Deus Ex』シリーズの最新作。2029年のサイバーパンクな近未来を舞台に、“オーグメンテーション(人体拡張技術)”による人間の機械化が引き金となって起きる陰謀が描かれます。

 前作『Deus Ex:Human Revolution』(日本では『デウスエクス』というタイトルで発売)と比較すると、“オーグメンテーションが引き起こした負の側面”にフォーカスした内容になっています。

プレイヤーが行動したぶんだけ、世界からのリアクションがある

『デウスエクス マンカインド・ディバイデッド』
▲Patrick Fortier氏。

――海外での発売が迫ってきていますが、発売前の心境をお願いします。

 今回のようなイベントで大々的に発表していることもあり、周囲の盛り上がりを見ながら自分も興奮しています。それと同時に、少し心配でもありますね。

 いろいろなアイデアを詰め込んで、作り込んできたという自信はあるのですが、やはりまだ完成したばかりですのでどうなるかが読めないのです。そういった意味では、皆さんに受け入れていただけるのかが心配です。興奮と心配が入り混じったような心境ですね。

――本作は長い期間プロモーションを行ってきましたが、大変だったことなどはありますか?

 大変だったこと……最初はアイデアを練ってまず何となく作ってみるのですが、後半になると、ほぼ完成したゲームをひたすらプレイして完成度を上げていくパートになるんです。

 この間に、アイデアベースでできたゲームを一通り完成させ、みんながテストできるようになるところまで持っていく。そのことに、わりと長い時間がかかりました。

 また、開発中のビルドが送られてきても、そのビルドの前段階と比べて何が変わっているかわからないことも。「自分たちは進歩しているのか」「なんのためにこの作業をやっているのだろう」という期間が長かったですね。

 食事でたとえるなら、食材は見えているけれど、それらがあちこちに散らばっていて、それを料理するためにテーブルのいろいろなところから持ってこなければならない。散らかったものをキュッとまとめるまでに長い期間かかってしまい、大変でした。

 ただ、すごく大変でしたが楽しかったこともありました。完成が近づくにつれて、散らばったものがひとつになり動いている。それが実感できたことは、大変であると同時に楽しいことでしたね。

――SNSなどにもたくさんのメッセージが寄せられたと思います。そうしたファンからのメッセージを見る時、どういった気持ちになりますか?

 発売直前の現在はいい意見が大半なのですが、悪い意見もいくつかあるものです。そういった意見に対して、開発者の視点から「これはこうなんだよ」と言いたいことはあるのですが、それは皆さんが知らなくてもいいことだと思っています。ただ、そうした意見はフィードバックしています。

 発売後、SNSにはプレイヤーが実際に遊び、自分がどう思ったか、この場面すごくよかっただとか、逆にここはよくなかったなど、そういう意見が飛び交うと思うのですが、そういったコメントを見るのは楽しみですね。

 ユーザーが本作を体験し、いろいろな意見を出してくれる。遊んで感じてくれたことによって、会話が弾む。そのためにこれまで作ってきましたので、それについては本当に楽しみです。

 たとえば視点ひとつとっても「三人称がいいよね」「一人称がいい」といったいろいろな意見があるかと思いますが、「いや、本作は一人称視点でいくんだ」という決定もありました。その決定がユーザー様のためになると信じてやってきた訳ですが、まだゲームが出ていないので、本当にそれをユーザー様が認めてくれるかはわかりません。

 発売された時にその反応で答えがわかるということが、とても楽しみです。『デウスエクス』は世界観も作り込んでいるゲームですので、プレイヤーの皆さんに届いた時にどのような反応をされるか楽しみです。自分たちはいい反応があると信じて作ってきましたので、なおさらです。

『デウスエクス マンカインド・ディバイデッド』

――本作において、あえて注力した部分を1つ挙げるのであれば、何になりますか?

 ゲームプレイディレクターという立場で注力したのが“コントロール”です。今回の操作はかなり画期的でして、普通のFPSのように遊ぶこともできますし、そこにプラスしてオーグメンテーション(人体拡張技術)といった特殊な機械を動かすことができます。

 このオーグメンテーション、かなりの種類があるんです。PS4のコントローラのボタンは16個ほどですが、30種近くある基本操作を、その16個のボタンに押し込まなくてはいけなかった。

 大多数の人は「これ、すごく遊びやすいじゃん。こんなに機能があるのに、不自由なくプレイできる」と言ってくれると信じています。ただ、なかには「これは少しやりにくいな」という人もいるかと思います。これは、ユーザーの中で議論になる部分かなと思いますね。

 ちなみに、どれだけコントロールに神経を注いだかの話なのですが、開発の終盤の段階で、コントロールをどういった仕様にするのかを詰めていく時に、休日、家でパッと思いついた瞬間に子どもが落書きしていた黒板を消して、そこにコントローラの絵を描いて「これどうかな?」というのを写真にとって休暇中にメンバーに送ったりもしましたね。

 その後は黒板をちゃんと消して、子どもに絵を描かせてあげましたが(笑)。

『デウスエクス マンカインド・ディバイデッド』
▲中央にある黒板にコントローラの絵を描いて、スタッフに送信したとのことです。

――現実においては、イギリスのとある企業が本作のオーグメンテーションをもとに義手を作成し注目を集めました。ゲームの中のものが、現実に登場することについては、どういった印象をお受けになりましたか?

 前作の『ヒューマンレボリューション』のころから似たアイデア、普通の腕にスキンを巻いて、オーグメンテーションのようにするというのはありました。そのアイデアが発展して、本物の義手になったことを知った時、そのデザインを初めて見て驚きましたね。

 ゲームと現実世界がリンクするのを感じましたし、先日のE3の時には、ファンにそれを実際の義手として使ってもらったりもしました。それを回りの人が見た時には「すごくカッコいい」という反応が。付けた彼自身も「これすごいな。ちゃんと動いている」と驚いていました。

『デウスエクス マンカインド・ディバイデッド』

――これからの未来、技術が発展して、オーグメンテーションが現実のものになるとしたら、それを試してみたいと思いますか?

 非常におもしろい質問です。真剣に考えてしまいました。正直、今の時点ではどちらを選ぶかわかりません。

 たとえばスマートフォン。皆さん使っていると思うのですが、こうした便利なデバイスが登場すると使わずにはいられませんよね。便利なものは1回使ってしまうと手放せないように、そういった意味でテクノロジーの進歩をいったん受け入れてしまうと、それは避けられなくなってしまいます。

 生身でいたいという気持ちはあれど、ものすごく便利であるなら、使わざるをえなくなることもあるでしょう。人間は成長し、老いていきますが、老いに逆らうために、そうした技術を受け入れることもあるでしょう。

 個人の意見としては、自分の身体を取り返るというのは今は想像できません。ただ、近い将来オーグメンテーションの技術が確立されたとしたら、スマートフォンのように1回受け入れてしまうと避けられないことになるかもしれませんね。

――これまで数々の動画が公開されてきましたが、ゲーム自体はアクション性を重視したスリリングなものになるのでしょうか? それとも物語にフィーチャーした、ストーリー性の強いものになるのでしょうか?

 物語性の強いゲームになっています。アクションにフォーカスした動画もたくさん出しましたが、それは前作の『ヒューマンレボリューション』からどこが進化したか、探索でこういうこともできる、ああいうこともできる、ということを説明するためにアクションパートを切り取って説明しているのです。

 そういったアクションがありつつも、基本的にはストーリーをしっかりと楽しむようなゲームになっています。

●動画:Deus Ex: Mankind Divided ‐ The Mechanical Apartheid Trailer

――本作をファンにどのように楽しんでほしいか、そのポイントをお聞かせください。

 ゲームの中では、生身の人間とオーグメンテーションを使う人との対立など、社会の問題がかなりリアルに描かれています。ゲームとは言え、非常に現実的に作られています。その世界に、プレイヤーとして身を投じるということを楽しんでほしいです。

 また探索中などは、自分が街の何かに働きかける、人に話しかけたりオブジェクトを壊したりするといったことですね。そこで行動したことが、プレイヤー自身に帰ってきます。

 たとえば車を壊してから警察署に入ると何かのサインがあって、それを取ることで別の悪いことが起きるといった具合です。自分が行った行為に対して、ゲームの世界が何かを返してくれる、それをぜひ楽しんでほしいです。

 少し壊すだけでしたら少しだけ返ってきますし、幅広く世界に働きかけていけば、それと同じぶんだけ世界がリアクションを返してくれます。

『デウスエクス マンカインド・ディバイデッド』

 そして最後に、日本のファンに向けてになりますが、ぜひコンシューマのハードを買って、遊んでほしいですね。スマートフォンアプリですとAAAクラスのリッチなタイトルを作るのはやはり難しいので、ぜひゲーム機を買って、AAAクラスのゲームを遊んでいただきたいです。

 そうすることでクリエイター的にも業界的にもゲームを作りやすくなりますし、ゲーム業界全体も、より盛り上がっていくことになると思います。

『デウスエクス マンカインド・ディバイデッド』
▲会場には、オーグメンテーションを購入できる自動販売機(パッケージの中身はお菓子)も設置されていました。近い将来、身体のパーツを自動販売機で購入できるような世界が現実になる可能性も、ゼロではないのかもしれませんね。

データ

▼『デウスエクス マンカインド・ディバイデッド』
■メーカー:スクウェア・エニックス
■対応機種:PC
■ジャンル:ARPG
■配信日:未定
■価格:未定

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