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2016年9月8日(木)

【電撃PS】SIE・山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』を全文掲載。テーマは“新・真・神”

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 この記事では、電撃PS Vol.621(2016年8月25日発売号)のコラムを全文掲載!

第90回:新・真・神

 皆さんはご覧になりましたか? 話題沸騰の映画、『シン・ゴジラ』。実は僕、『シン・ゴジラ』のことは、公開になる前までは完全にノーチェックでした。ですが公開直後から絶賛の声が多方面から上がり始め、これは見ておかねばということで映画館へ。……その面白さに驚嘆してしまいました。若干のネタバレが含まれるかもですが、今回はちょっと興奮気味に、この映画のことを書きます。

 まず何が面白かったかというと、自分の中にある“知らないこと/知っていること”の境界線によって、受け取る面白さの密度が変わる、ということに気付いたことでした。

 知らないこととしては、まずは怪獣映画の作法。これを僕は知りません。怪獣映画って、思えばちゃんと見たことがないんですね。世代的にゴジラも子供のころに見ているはずなのですが、まったく内容を憶えていない。意識して見たのは平成ガメラ3部作のみ。このとき、『シン・ゴジラ』の監督を務められている樋口真嗣さんの名も知ったのですが、ああ、東京タワーと怪獣ってイカすなあ。自衛隊カッコいいなあ。ガメラって玄武だったのかあ。前田愛ちゃん可愛いいなあ。くらいな感想しか沸かなくて、怪獣映画としての凄味やお約束など、面白さが成り立っている作法を理解しないまま見ていたのです。

 逆に言うと、だから『シン・ゴジラ』って怪獣同士が戦う映画だと思っていて、最初に海から上陸した気持ち悪い怪獣を見たとき、ああ、こいつとゴジラが戦うんだ、この後もあちこちで怪獣が現れて、人類からの理解が得られぬまま、それでもゴジラが人類のために怪獣を撃退する話なんだな、と勝手に思っていたのです。じゃなくて、えっ! こいつがゴジラなのかよ! と。知らないことによる勘違いが、いい感じで想定外の楽しさをもたらしてくれたといえます。

 知っていることとしては、まず単純に、日常に非日常が入り込むって、エンタメ構造として鉄壁に面白いってこと。その非日常性は、一定のリアリティの中で構築されるのがミソで、もっと言えば、モチーフの解釈性に振れ幅が生まれるように作るのがミソだということ。これを僕は、数々の作品を通して知っています。

 ゴジラが戦争や災害といったもののカリカチュアであったとして、それをリアリティを持ってやり切るには相当の土台構築と覚悟が必要。そうして生まれる現実と虚構を、解釈の幅として確信犯的に落とし込んでいる。『新世紀エヴァンゲリオン』もそうでしたが、この辺のペダンティックなスイッチの仕込み方は、総監督庵野秀明さんのまさに真骨頂だと思わず舌を巻いてしまいました。

 エヴァもそうですが、『機動警察パトレイバー』にも楽しませてもらった身としては、自分の死を契機に謎を仕込む研究者の存在や、日常に戦闘が入り込んだ際の風景の変化、人知を超えた生命体と人類の対決といった要素で対比できる部分も多く、つまりこれはある種、自己内エンタメライブラリとの照合作業における「コレってアレだよね!」を試されている感があり、それが程よく心地良かったのです。

 で、知っていることのもうひとつ。皆さんも経験があると思いますが、たとえば小説を読んでいて、自分がよく知っている場所が出てきたときって、すごく臨場感が上がりませんか? 『シン・ゴジラ』でいえば、最初に現れた羽田空港沖には出張のときしょっちゅう行くし、羽田まで奥さんに車で送ってもらうときは上陸したゴジラに蹂躙される蒲田を通るので街並みも知っている。品川は会社があるので言わずもがなで、極めつけは、自衛隊とバトルを繰り広げる武蔵小杉、丸子橋、多摩川という場所で、いずれも僕の家から10分なんですね。なんだったら、僕んち今回ゴジラに踏まれています。それがもうたまらなく面白かった。

 いわゆる高校野球で地元の高校を応援するときの感情、つまり“土着愛”は、作品世界にのめり込ませる大きな力になると改めて思いました。それと、石原さとみさん。言葉の端々に英語を交えるあのキャラクターが結構叩かれているようですが、ああいう人、グローバルなスタジオで働いていることもあって僕の身近にはたくさんいるので、なんら違和感がありませんでした。その意味で、キャラの好き嫌いや受け入れられ方が、身近にそういう人がいるかどうか、つまり“生活圏の差”に影響されるのだということも大きな発見でした。

 そもそもゴジラとはどういう存在なのか。まるで巨大な災害のようではありながら、しかしゴジラがやったことといえば、基本的には海から上がってただ“移動”しただけに過ぎません。劇中、謎の研究者が残した「私は好きにした。君たちも好きにしろ」という言葉は、制作陣の猛烈な心意気でしょう。そして、たとえ誰かを傷つけたとしても、誰にも受け入れられなかったとしても、ゴジラがただ移動したような強い意志で、この作品を作り切った。『シン・ゴジラ』の“シン”は、新なのか真なのか神なのか。コンテンツ制作者のはしくれとしては、ブレない“芯”なのではないかと思うのでした。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ 部長兼シニア・プロデューサー。PS CAMP! にて『勇なま。』シリーズや『TOKYO JUNGLE』、外部制作として『Bloodborne』などを手掛ける。公式生放送『Jスタとあそぼう!』に毎月出演中。

 Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)

 山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!

データ

▼『電撃PlayStaton Vol.621』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2016年8月25日
■定価:694円+税
 
■『電撃PlayStation Vol.621』の購入はこちら
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