2016年9月20日(火)
2Kより9月15日に発売されたPS4/Xbox One/PC用ソフト『バイオショック コレクション』のレビューをお届けします。
本作は、PS3/Xbox 360/PCで発売されたアクションアドベンチャーゲーム『バイオショック』シリーズ3作品を、最新機種にあわせてリマスターを行い、1つのソフトにまとめたものです。
各ゲームの本編はもちろんのこと、過去に発表されたシングルプレイDLCも全て収録されている(マルチプレイモードは未収録)他、『バイオショック』の制作スタッフが開発の思い出を振り返る新規映像コンテンツも用意されています。
『バイオショック』シリーズは共通する世界観を持ちながらも、各作品ごとに内容の方向性が微妙に異なっており、いずれ劣らぬ傑作となっています。
特に第1作の『バイオショック』は、そのホラーテイストあふれる内容が、日本でもゲームファンから高い評価を獲得しており、日本における洋ゲーの認知度アップに貢献したタイトルの1つだと言えるでしょう。
今回の『バイオショック コレクション』は、全3作品を最新機種に対応したハイクオリティなグラフィックで楽しむことができます。しかも今回が日本初登場となるDLCもあり、非常にお得な内容となっています。
ちなみに、今回のレビューではPS4のパッケージ版をプレイしましたが、パッケージ版は『バイオショック』、『バイオショック2』の2作がプレイできるディスクと、『バイオショック インフィニット』がプレイできるディスクの2枚組となっています。また、各作品のDLCも含めたすべてのコンテンツが、ディスク上に収録されています。
それでは全3作品の内容と、このコレクションならではの注目ポイントを、もう少し詳しく見ていくことにしましょう。
2007年に発売(日本発売は2008年)された『バイオショック』は、海底に築かれた巨大都市“ラプチャー”が舞台となっています。
西暦1960年、飛行機事故で海上に投げ出された主人公ジャックは、天才科学者アンドリュー・ライアンが1940年代に建設した海底都市、ラプチャーに迷い込むことになります。
ラプチャーは、冷戦時代に科学者や知識人たちが自由に生きるために築かれた、人類の理想郷となるはずでした。しかもラプチャーの高度な科学は、人間の能力を飛躍的に向上させる遺伝物質“ADAM(アダム)”を、偶然にも発見したのです。
ところが、アダムによる過度の身体改造によってラプチャーの住人たちは精神が崩壊し、“スプライサー”と呼ばれるモンスターに変貌してしまいました。こうして理想郷だったはずのラプチャーは、狂気と殺戮に満ちた危険な閉鎖空間になってしまったのです。
▲本作の舞台となる海底都市ラプチャーは、1940年代のレトロなアメリカ文化と高度な科学力がミックスされた、不思議な空間となっています。 |
▲狂気のスプライサーと化したラプチャーの元住人たちは、思い思いに奇妙な独り言をしゃべりながら、武器を手にして主人公に襲いかかってきます。 |
崩壊後のラプチャーに迷い込んだジャックは、アトラスと名乗る男との無線を通じて、海底からの脱出を目指します。ですがその行く手には、狂気のスプライサーたちが待ち受けています。
スプライサーはそれぞれ、妄想に取りつかれたようなひとり言を話したり、怒りの叫びを上げたりしながら襲いかかってきます。このリマスター版では、スプライサーのセリフをはじめとするゲーム中の音声が、過去に発売されたPS3/Xbox 360版と同様の日本語吹き替えで表現されています。
PS3/Xbox 360版『バイオショック』の日本語吹き替えは、その絶妙な翻訳と演技が発売時に注目を集めました。なかでもスプライサーのセリフの数々は、恐怖を盛り上げる演出効果だけでなく、見えない位置にいる敵の存在をいち早く知るというゲーム攻略の面でも重要です。
そういった意味で、このリマスター版でも日本語吹き替えでプレイできるのは、筆者としては本当にうれしいポイントでした。
▲光と影を巧みに利用したホラー演出や、スプライサーの奇妙なセリフや効果音によって、あたかもお化け屋敷を探索しているかのようなスリルを堪能できるのが、『バイオショック』の大きな魅力です。 |
▲主人公ジャックは、探索で発見した薬を飲むことで遺伝子を変異させて、“スプラミド”と呼ばれるさまざまな特殊能力を身につけることができます。 |
▲水たまりにいる複数の敵をエレクトロボルトでまとめてしびれさせるなど、スプラミドの能力を応用したさまざまな戦略を立てられるのが、本作のゲームプレイの特徴です。 |
そして『バイオショック』と言えば忘れることができないのが、リトルシスターとその護衛役であるビッグダディの存在です。
リトルシスターと呼ばれる少女たちは、死体から採取した血を飲むことにより体内でアダムを精製できるため、アダムをほしがるスプライサーの群れからつねに狙われています。
いかつい潜水服に身を包んだビッグダディは、ふだんは無害なのですが、リトルシスターを狙う者に対しては、その巨体で容赦なく攻撃してきます。
▲ラプチャーの内部では、リトルシスターとビッグダディのコンビにばったり出くわすことも。うかつにリトルシスターに近づくと、ビッグダディが目を真っ赤にして突撃してきます。その破壊力はかなり強烈! |
そして主人公ジャックもまた、生き残るためにはアダムによる能力の成長が必要となります。そのためプレイヤーは、リトルシスターの生命を奪ってでもアダムを採取(ハーベスト)するか、それともアダムを少しだけもらう代わりに彼女を救う(レスキュー)かという、重大な決断を迫られるのです。
このようにプレイヤー自身の倫理観にかかわる決断が求められるのも、本作の印象に残るポイントです。まぁ、どちらを選ぶにしてもその前に、まずビッグダディと戦うことになるのですが……。
▲リトルシスターからアダムを採取するか、それとも彼女を救うのか。その決断はプレイヤー自身に委ねられています。 |
『バイオショック』にはゲーム本編に加えて、チャレンジルームやミュージアムといった追加コンテンツも用意されています。
▲限られた武器やスプラミドを駆使して、“観覧車に閉じ込められたリトルシスターを救出する”といった課題に挑むモード。謎解きと戦闘の腕前が求められる、挑戦しがいのある内容になっています。 |
▲開発時のデザイン画や3Dモデルが、ラプチャー内の博物館のようなスタイルで配置されており、館内を歩き回りながら鑑賞できます。 |
また今回のリマスター版のために、開発スタッフが思い出を語る実写動画シリーズも、新たに用意されています。こちらは『バイオショック』本編のマップ上にあるゴールドディスクを集めることでアンロックされていく、追加の収集要素となっています。
最新ハードで美しくなったグラフィックと、日本語音声を同時に楽しめるだけに、このリマスター版『バイオショック』は現状で望みうるベストの内容と言えるでしょう。ゲーム内容のおもしろさはもとより折り紙付きなので、まだプレイしたことがないという人は、ぜひこのリマスター版でチャレンジしてみてください。
2010年に発売された『バイオショック2』は、前作から約8年後のラプチャーでの物語を描いた続編です。本作の最大の特徴は、主人公の設定にあります。前作でプレイヤーを苦しめた、あのビッグダディとなって、ふたたび海底に戻ってくるのです!
▲初期型ビッグダディの実験体デルタはかつて、彼を“パパ”と呼ぶリトルシスターのエレノアを護衛して、彼女と行動をともにしていました。本作では主人公がビッグダディとなったことで、リトルシスターとの親密な交流を味わうことができます。 |
本作の主人公は、初期型であるアルファシリーズのビッグダディで、“実験体デルタ”と呼ばれています。前作の主人公であるジャックがラプチャーにやってくる以前、デルタはリトルシスターのエレノアを護衛しており、彼女からパパと呼ばれるほど親しくなっていました。
ところが、エレノアの母である科学者のソフィア・ラムによって、デルタはエレノアの目の前で自殺を強いられてしまいます。それから10年後の1968年、デルタが突如として復活。アンドリュー・ライアンに代わってソフィア・ラムが支配者となったラプチャーで、デルタは成長したエレノアを探し求めるのですが……。
ビッグダディのデルタは右腕に装備したドリルや、リベットガンなどの武器を使って大暴れできます。それだけでなく、プラスミドの能力を使用することも可能です。
また、主人公がビッグダディだけあって、アダムを採取しているリトルシスターを護衛して戦うといったシチュエーションも用意されています。基本となるゲームプレイは前作と同様なのですが、主人公の立場が異なるために、ひと味違う新鮮な感覚を味わえるのです。
▲主人公のアダムはビッグダディながらも、左手からはプラスミドの能力を繰り出すことができます。 |
▲ビッグダディといえば潜水服。そのため主人公のアダムは、水中を移動することも可能です。 |
▲スプライサーだけでなく、多彩なバリエーションのビッグダディも敵として立ちはだかります。ビッグダディ同士の対決という、熱い展開が楽しめるのです! |
上で紹介しているように、前作の『バイオショック』が日本語吹き替えによってその魅力をさらに増しているのに対して、本作は残念ながら英語音声・日本語字幕という仕様になっています。これに関しては、過去のPS3/Xbox 360版も同様なので、やむを得ないところでしょう。
また今回のリマスター版では、PS3/Xbox 360版にあったマルチプレイ対戦モードは未収録です。その一方で、日本では未配信だった2種類のシングルプレイDLCが、日本語字幕入りで収録されている点は非常にうれしいところです。
なかでも“ミネルバズデン”は、もう1人の初期型ビッグダディ“実験体シグマ”が主人公となり、本編と並行した時期の物語を描くサイドストーリーです。これまで日本ではプレイできなかった新たな物語を体験できるだけに、すでに本編をプレイ済みの人でも見逃せないでしょう。
▲ラプチャーの中枢を管理する“ミネルバズ・デン”を舞台に、新たな物語が展開されるストーリーDLC。イオンレーザーを装備した強力なタイプのビッグダディ“ランサー”など、新たな敵や武器なども登場します。 |
▲もう1種類のシングルプレイDLC。リトルシスターを狙って次々と襲撃してくるスプライサーを撃退し、より多くのアダムを獲得するというチャレンジに挑むことができます。 |
先にも紹介したように、この『バイオショック コレクション』の中で、本作のみセリフの音声が英語なのはやや残念ですが、日本初登場のサイドストーリーが楽しめるという意味では、非常に価値のあるリマスター版です。前作と続けて楽しめることもあり、この機会に改めて再評価してほしい作品だと思います。
2013年に発売された『バイオショック インフィニット』は、タイトルがナンバリングではないことからもわかるように、過去2作とはやや雰囲気が異なります。しかし実際にプレイしてみれば、物語の面でもゲームプレイの面でも、シリーズにふさわしい作品だと納得できるでしょう。
これまでの2作が海底都市ラプチャーだったのに対して、本作の舞台は天空を飛行する空中都市“コロンビア”です。また時代設定も、ラプチャー誕生以前の1912年となっています。ちなみに物語の中で明かされますが、世界観自体は過去2作とも関連のある共通のものです。
借金に追われる探偵のブッカー・デュイットは、空中都市コロンビアに幽閉されている少女エリザベスを救い出し、ニューヨークまで連れてくるという依頼を受けます。なぜエリザベスは幽閉されているのか? そして空中都市コロンビアに隠された真実とは? この依頼はブッカー自身の運命にも、大きくかかわっていくのですが……。
▲一見すると、美しい理想郷のように見える空中都市コロンビア。しかしその裏側には、人種差別や資本家と労働者の対立といった、20世紀初頭のアメリカが抱えていた“闇”の部分が凝縮されていたのです。 |
過去2作が、崩壊した海底都市というホラーテイストの強いシチュエーションだったのに対して、空中都市を舞台にした本作は華やかで明るい雰囲気になっています。主人公であるブッカーのアクションも、腕に装着したスカイフックを使って空中を華麗に移動できるという派手なものです。
ところがその明るい雰囲気の裏側には、アメリカの社会が抱える負の側面という、ラプチャーとも通じる暗い部分が潜んでいます。そして、探偵のブッカーが囚われの少女エリザベスを救うという、まるで冒険活劇のような物語もまた、次第に予想外の展開を見せるようになるのです。
▲建物のブロックごとに空中に浮かんでいるコロンビア市街には、“スカイライン”と呼ばれる貨物運搬用のレールが張り巡らされています。主人公のブッカーは、左腕に装着したスカイフックを利用して、このスカイラインを自在に移動できます。 |
▲過去2作のプラスミドと同様に、本作でも“ビガー”と呼ばれる薬を飲むことで、敵や機械を一時的に味方にできるといった、さまざまな特殊能力を習得できます。 |
そして本作で最も注目したいのが、ヒロインであるエリザベスの存在です。主人公のブッカーによって幽閉されていた塔から解放されたのち、彼女はプレイヤーの操作するブッカーと行動をともにするようになります。
主人公のそばを歩いて会話したりするだけでなく、戦闘の際には弾薬などのアイテムを拾って主人公に投げ渡してくれるなど、自発的にアシストしてくれます。その行動には単なるNPCを超えた、パートナーとしての存在感がしっかりと表現されているのです。
▲場面に応じて、変化に富んだ表情を見せてくれるエリザベス。いわゆる洋ゲーっぽさとは一線を画した、日本のゲーマーにとっても魅力的なキャラクターとなっています。沢城みゆきさんによる日本語ボイスも、見事にマッチしています。 |
ちなみに過去に発売されたPS3/Xbox 360版の時点で、音声はDLCも含めて完全に日本語化されており、ブッカー役の藤原啓治さんや、エリザベス役の沢城みゆきさんをはじめとする豪華声優陣の熱演を、このリマスター版でも堪能できます。
この『バイオショック インフィニット』は、シリーズの中では最も新しい作品だけに、ビジュアルこそ最新機種にあわせてリマスターされているものの、新規のコンテンツが追加されているといったことはありません。
ですが、本作を紹介するにあたって最初に触れたように、過去2作とはやや雰囲気の異なる本作が、シリーズとしてワンパッケージに収録されたこと自体が意味のあることだと、筆者としては考えています。
なかでも重要なのが、本作のストーリーDLCである“ベリアル・アット・シー EPISODE1・2”です。
全2部作という大規模なストーリーが展開される、このDLCの舞台となっているのは、1958年のラプチャーです。そう、このDLCでは崩壊以前のラプチャーを探索できるのです!
海底都市ラプチャーの内部にあるデュイット探偵事務所に、1人の美女が訪ねてくるところから、この物語は始まります。エリザベスと名乗るこの美女は、探偵のブッカーにある少女の捜索を依頼します。この2人は、『バイオショック インフィニット』本編のブッカーとエリザベスと、いったいどのような関係にあるのでしょうか?
▲ラプチャー内部にあるデュイット探偵事務所にやってきた、謎の美女エリザベス。その表情は少女だった頃のエリザベスの面影を感じさせますが、はたして同一人物なのでしょうか? |
▲崩壊前のラプチャーでは、のちにスプライサーになるかもしれない住人たちが、贅沢で華やかな生活を繰り広げています。この海底都市が崩壊する時には、どんな惨劇が起こるのでしょうか……。 |
▲崩壊前のラプチャーには、愛くるしい姿のリトルシスターたちも存在しています。 |
このDLC自体は以前から配信されているものではありますが、崩壊後のラプチャーを描いた『バイオショック』2作とワンパッケージに収録されることで、シリーズを締めくくる完結編としての重みを、より強く実感できるはずです。
これまで見てきたように、このリマスター版の3作品はいずれも、現状で望みうる内容がほぼすべて収録された、ベストに近いものだと思います。この中のどれか1作でも未プレイであれば、間違いなく“買い”だと断言できます。
そして全作をプレイ済みだというシリーズの熱心なファンであればなおのこと、手元に置いておきたくなるソフトです。
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