2016年9月17日(土)
9月15日~18日に開催されている“東京ゲームショウ 2016”において、ゲームアイデアの発掘イベント“センス・オブ・ワンダーナイト 2016”が開催されました。本記事では、このイベントで紹介されたユニークなゲーム8作品をレポートします。
“センス・オブ・ワンダー ナイト”は、“センス・オブ・ワンダー”を引き起こすようなゲームのアイデアを募集し、ゲーム開発者自身がプレゼンテーションを行うというもの。今年で9回目の開催となる、TGSの名物企画です。
ここで言う“センス・オブ・ワンダー”とは、見た瞬間、コンセプトを聞いた瞬間に、誰もがはっと、自分の世界が何か変わるような感覚のこと。つまり、誰もが思わずワクワクしてしまう、そんなユニークなゲームのアイデアが紹介されているのです。
プレゼンテーションが行われたのは、日本を含む世界各地から集まったゲーム企画8作品です。事前の選考では激論が繰り広げられたというだけあって、いずれも斬新な内容となっています。
なお、以下で紹介する8作品は、いずれもTGS2016のインディーゲームコーナーに出展されています。各ブースでは直接ゲームを体験したり、クリエイターの話を聞いたりすることができますので、興味のある方はぜひブースを訪れてみてください。
●Robin Baumgarten(インディーゲームコーナー:9-A37)
今回紹介された8作品の中でも、筆者が個人的にもっともインパクトを受けたのが、この『Line Wobbler』です。他の観客や審査員の皆さんも同様だったようで、観客が選ぶ“Audience Award”をはじめ、なんと3つものアワードを受賞しました。
このゲームのプレイが繰り広げられるのは、TV画面でもVR空間でもなく、無数のLEDが一列に並んだ全長5メートルのチューブです。そう、このゲームは1本の長い線を移動する光の点をコントロールして遊ぶという、おそらくは世界で唯一の“1D(一次元)”ゲームなのです!
▲緑色の光点が自機で、途中に出てくる赤い光点の敵と戦ったりしながら、ゴールを目指すというゲームです。 |
最初はホントにこれだけでゲームになるの? と思うのですが、光点の移動も滑らかで、しっかりと効果音なども用意されており、見ているだけでもけっこうハラハラドキドキします。
ゲームのグラフィックがどんどんと進化している現在ですが、これだけシンプルでもゲームは成立するという逆転の発想が、筆者をはじめとする観客のハートにガツンと衝撃を与えてくれました。まさに“センス・オブ・ワンダー”な作品だと言えるでしょう。
ちなみに、この一次元のダンジョンはチューブなので、途中で曲げたりといったこともできますが、TGSのインディーコーナーでは配置の関係で、天井から縦に吊り下げられているようです(笑)。
▲1本しかないルートの途中には、黄色い溶岩地帯といった障害物も出現します。 |
▲自機のコントロールは、バネ製で前後左右に動くスティック型コントローラーで行います。 |
●Videogamo(インディーゲームコーナー:9-A22)
自作ハードウェアのゲームをもう1つ。こちらの『DOBOTONE』は、専用のゲーム機本体と4つの2ボタンコントローラからなる“パーティーゲームシステム”です。
パーティーゲーム専用ハードというだけあって、いくつか収録されているゲームは、ジャンプと攻撃で他のプレイヤーと戦ったり、ボタン連打でトロッコを走らせたりといった、直感的な内容になっています。プレイヤーキャラは常に各コントローラに対応した色で表示されているので、自分のキャラを探し回る心配もありません。
と、ここまでなら、まるでファミコン以前の内蔵ゲーム専用ハードに先祖返りしたみたいな感じなのですが、この『DOBOTONE』では最大4人のプレイヤー以外にもう1人、“リミックス”役のプレイヤーがゲームに参加できます。
リミックス担当のプレイヤーが本体のボタンやダイヤルを調整することで、4人のプレイヤーが遊んでいる真っ最中に、画面を拡大・縮小したり、ゲームスピードをスローにしたり、他のゲームにいきなり切り替えたりすることができるのです!
ビデオジョッキー感覚で、ゲームの内容そのものをリアルタイムに操作できるという本作は、ある意味、スタイルの固定されたゲームに対するチャレンジと言えるかもしれません。とはいえ、ゲームを妨害されるプレイヤーの側も、ゲームを妨害するリミックス側も、これはワイワイと盛り上がるでしょうね。
▲『DOBOTONE』の専用ハード。中央に並んだダイヤルで、ゲームをリミックスできます。 |
▲2本のスティックに1個ずつボタンのついたコントローラーを使って、最大4人で対戦できます。 |
●INSTITUTE OF TECHNICAL EDUCATION/NATIONAL UNIVERSITY OF SINGAPORE(インディーゲームコーナー:9-A55)
人間の五感のうち、視覚・聴覚・触覚の3つを使ったゲームはすでに多数存在しています。残る2つの感覚のうち、“嗅覚”をゲームに活用できないかという研究から生まれたのが、この『TAINTED』です。
本作はシンガポールで開発されていますが、シンガポール周辺のマレーシアやインドネシアには、ポンティアナックという女性の幽霊にまつわる伝説があるとのこと。男性に恨みを抱いているこの幽霊は、バナナ農園によく出没するのだそうです。
この幽霊を題材にしたホラーゲームである『TAINTED』では、3DCGで表現されたゲーム画面と連動して、4種類の香料が噴出される専用のデバイスを使って、ゲーム中の“匂い”を表現しています。幽霊が近づいてくるとバナナの匂いが漂うといったように、“匂い”がゲーム進行の鍵となっているのです。
▲4種類の異なる匂いの香料が、ゲームの進行に応じて専用デバイスから噴出されるとともに、匂いに対応した色のLEDが発光します。 |
“匂い”を半ばネタ的に採り入れたゲームはこれまでにもありましたが、ここまで真剣なスタンスで取り組んでいるのは素晴らしいと思います。こういった地道な研究からこそ、新しい発明は生まれてくるはずです。
ちなみにプレゼンのスライドを見ると、開発者の方は残る1つの感覚である“味覚”をゲームに採り入れる研究にも挑んでいるようで、そちらの成果も気になります。
●大阪電気通信大学 デジタルゲーム学科 高見研究室(インディーゲームコーナー:9-A25)
“摩訶大将棋”は平安時代後期に生まれた日本独自の大型将棋で、縦横19マスの将棋盤と、敵味方あわせて192枚のコマを使用します。摩訶大将棋はこれまで、その複雑さから、実際に対局されたことはなかっただろうと考えられていました。
ところが、本作の開発者たちが古文書を解析したところ、これまでのルール解釈がじつは誤りで、実際に対局可能だと判明したとのこと。個々のコマの動きこそ複雑ですが、1回の対局は1時間ほどで終了するのだそうです。
『アドバンスド摩訶大将棋』は、各コマが移動可能な位置を教えてくれる支援機能や棋譜機能、さらにはインターネット対局機能まで装備して、誰でも気軽に摩訶大将棋を遊べる環境を整えたソフトです。将棋の歴史、さらにはボードゲームの歴史を知る上で、非常に意義深いものでしょう。
個人的には、このソフトと摩訶大将棋のルール解説、再発見の経緯などのドキュメントがセットになったものがあると、よりいっそう興味深いのではと思います。
●team ok(インディーゲームコーナー:9-A59)
『Chambara』は、2人プレイによる対戦型のアクションゲームです。対戦の舞台となるフィールドは基本的に、白と黒のツートンカラーで構成されており、2人のプレイヤーキャラは、一方は全身が白、もう一方は全身が黒になっています。
つまり本作では、自キャラと同じ色の背景に隠れながら対戦相手に近づき、手裏剣で攻撃して倒すというステルスアクションゲームになっているのです。シンプルでわかりやすいルールと、スタイリッシュなグラフィックが見事に結びついた、切れ味の鋭い作品になっています。
▲写真だとややわかりにくいですが、対戦相手が自分と違う色の背景を通る瞬間にシルエットが見えるので、そこで相手の位置を把握して攻撃を行います。 |
●Northway Games and Radial Games(インディーゲームコーナー:9-A31)
細長い棒や、転がってタイヤにもなる円柱などを組み合わせて、いろいろな形のオブジェクトを作り出してクリアを目指すパズルゲーム。もともとは2DのFlashゲームだったそうですが、VR空間の中で自分自身の手を使って3Dのオブジェクトを作りだせるようにしたことで、自由度が劇的に向上しています。
▲VR空間の中で自分の両手を動かすことで、まるで粘土細工のように簡単に、様々な形のオブジェクトを作り出すことができます。 |
自由自在にオブジェクトを作りだせる楽しさもさることながら、VRならではのユーザーインターフェースが非常に優れているのも、本作の特徴です。
各種機能を呼び出すツールバーを、なぜか猫の形をしたオブジェクトにして、自分の手でつかんで機能を選ぶことができたり、VR空間にいる自分自身を見ることのできる鏡代わりのカメラを配置できたりと、今後のVRソフトで広く活用できそうなアイデアがたくさん詰まっている作品です。
▲目の形をしたカメラを自分自身に向けて置くと、TVモニターのような形で、VR空間にいる自分のアバターの姿を見ることができます。 |
●SIGONO(インディーゲームコーナー:9-A18)
天体観測とストーリーが融合したアドベンチャーゲーム。人類が宇宙に離散したはるか遠い未来、プレイヤーは小さなロボット“エム”となって、自分を開発した女性科学者のリサとともに、人類の忘れられた故郷である地球を探すことになります。
地球の探索は、天体望遠鏡を使って見ることのできる無数の星々をスキャンし、その中から地球に似た星を見つけ出していくことで行います。こうして発見した惑星には、プレイヤーが自由に名前をつけることができます。
▲座標などのヒントを手がかりに、宇宙の星々をスキャンして地球に似た惑星を探していきます。 |
一方でロボットのエムは、自分自身を作り出したリサをはじめ、他の人間たちの姿が見えなくなっていることに気づきます。地球探索を進めていくことで、人間たちに何が起こったのかという謎が、少しずつ解き明かされていくのです。
“孤独”という感情をテーマにしているという本作は、日本のゲームファンにも親しみやすい雰囲気となっています。アドベンチャーゲームファンにぜひオススメしたい作品です。
▲ロボットのエムと人間たちの物語が、冷たくも美しい宇宙とは対称的な、温かみのある2Dグラフィックで描かれていきます。 |
●Bento Studio(インディーゲームコーナー:9-A04)
あらゆる要素がアルファベットの文字のみで構成されている、ストーリーパズルゲーム。重大な事故で入院し、死に直面している作家の内面をパズルをクリアすることで解き明かしていきます。
写真の例のように、複数のアルファベットを組み合わせて電球の形を作るといった形で、パズルをクリアすることができます。クールでスタイリッシュな画面も、非常に印象的な作品です。
8作品すべてのプレゼンテーションが終了したところで、今回のアワードが発表されました。結果は最初に紹介したように、一次元ゲームの『Line Wobbler』が三冠を達成するという高い評価を得ることになりました。
Audience Award Best Presentation Award Best Game Design Award | 『Line Wobbler』 |
Best Experimental Game Award | 『DOBOTONE』 |
Best Technological Game Award | 『Fantastic Contraption』 |
Best Arts Award | 『UnWorded』 |
いずれの作品も非常に印象的で、ゲームのさらなる可能性を感じさせてくれるイベントになっていました。来年は“センス・オブ・ワンダーナイト”が10周年を迎えるとのことで、今年以上に盛り上がることを期待しています!
▲今回の8作品を開発したみなさんと、審査員の皆さんがステージに集合。 |
■“東京ゲームショウ2016”開催概要
【開催期間】
ビジネスデイ……2016年9月15日・16日10:00~17:00
一般公開日……2016年9月17日・18日10:00~17:00
※一般公開日は、状況により9:30に開場する場合があります。
【会場】幕張メッセ
【入場料】一般(中学生以上)1,200円(税込)/前売1,000円(税込)
※小学生以下は無料