2016年10月28日(金)
OVA『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』八瀬監督インタビュー。ミステリーとして意識したポイントは?
10月26日にBlu-ray&DVD第1巻が発売されたOVA(オリジナルビデオアニメーション)『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』。この作品を手がけた、八瀬祐樹監督のインタビューをお届けします。
『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』は、2002年に刊行された西尾維新さんのデビュー小説で、『戯言シリーズ』の第1作目でもある作品です。
今回のOVAではこの原作を、同じく西尾維新さんの代表作である『〈物語〉シリーズ』をアニメ化した、制作会社シャフトと新房昭之総監督によって、全8巻で映像化します。
●動画:『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』第2弾トレーラー
◆イントロダクション
日本海に浮かぶ孤島、鴉の濡れ羽島。
そこに建つ屋敷には、島の主の赤神イリアによってあらゆる分野の天才たちが客として招かれていた。
だがある朝、屋敷の中で、首斬り死体が発見される。
そして事件は、それだけでは終わらなかった……。
◆第1話
《ぼく》が、玖渚友の付き添いとして鴉の濡れ羽島にやって来て、三日目の朝。
《ぼく》は、敷地内を散策する中で、この島にいるさまざまな人たちに会う。
客として招かれた天才たち――園山赤音、姫菜真姫、伊吹かなみ。
《ぼく》と同じく天才の付き添いとして島に来た逆木深夜。
そして屋敷に仕えるメイドたち――班田玲、千賀あかり、千賀ひかり、千賀てる子。
そして《ぼく》は、天才画家であるかなみに絵を描いてもらう約束をする。
このインタビューでは、OVAの監督を務める八瀬祐樹さんに、制作時のエピソードや作品の見どころをお聞きしました。
▲第1巻ジャケット。 |
ミステリーとして、原作のセリフをしっかり聴かせるということを意識しています
――まずは、原作を読んだ際の感想を聞かせてください。
八瀬:これまで『〈物語〉シリーズ』のアニメにも携わってきて、その時に西尾さんの原作にも触れてはいたんですけど、『クビキリサイクル』は読んでいなかったんです。監督に決まる前に、絵コンテと演出を担当するという話があって、その段階で初めて読ませていただきました。
なのでどうしても、この小説をどうやって映像化するのかという視点で読んでしまったのですが、西尾さんはデビュー当時からやりたいことがはっきりしていたというか、最初から完成されていた方だったんだなぁという印象を受けました。
言葉やセンテンスのうまさやおもしろさも、ずっと変わっていないですし、キャラクターがみんなキ立っていて、それぞれの性格がはっきりしているというのは、読んでいて感じましたね。
▲《ぼく》(声優:梶裕貴)。この物語の語り部。玖渚友の付き添いとして鴉の濡れ羽島にやってきた。 |
――この作品はかなりミステリー色が強いので、その意味では映像化がなかなか難しい作品ではないかと思うのですが?
八瀬:それぞれのアリバイについて話す場面が出てくるのですが、会話中心のシーンがあるという意味でアニメーションとしては難しいのかなというところはありますね。
――第1巻を先行して見たところ、会話が中心ではあるんですけど、カメラワークなどであまり単調にならないような演出がされていると感じました。
八瀬:そうですね。そのあたりは意識してやっています。
映像的な面で言うと、フィックス(※カメラを動かさずに撮影すること)が基本ではあるんですが、一部はBG(背景)を3DCGで作ってカメラを動かしていくという手法もとっています。そういう形で画面に変化をつけて、リズムを出していますね。
▲玖渚友(声優:悠木碧)。天才のひとり。情報工学と機械工学のスペシャリスト。 |
――同じ西尾維新さんの作品のアニメ化ということで『〈物語〉シリーズ』の演出などを意識しているところもあるのでしょうか?
八瀬:『〈物語〉シリーズ』とはある程度、雰囲気を変えていきたいと考えています。キャラクターデザインが同じ渡辺明夫さんですし、制作会社も同じシャフトですから、色づかいにしても撮影にしても、意識しなくても似てしまう部分が当然出てくるとは思いますが、たとえば、『〈物語〉シリーズ』では短いカットを積んで緊迫感を出すといったことをやっているんですけど、今回はあまりそういった表現は使わないようにしています。
部屋の中での会話中に急に違う場所になったりすると、その部屋で殺人事件が起こっても、途端にリアリティがなくなってしまいますよね。今回はミステリーでもあるので、話している場所が変わったり、イメージシーンにしてしまったりにはならないよう気を付けています。
あとは『〈物語〉シリーズ』で印象的な表現である文字テロップを短く出したりといったことは、基本的にやらないようにしようとか、ギャグ的な描写もある程度は控えようとか、そういうところも意識しています。
▲園山赤音(声優:嶋村侑)。天才のひとり。世界的な研究機関・ER3システムの中でもその頂点に位置する七愚人に数えられている。 |
――『〈物語〉シリーズ』のアニメは、テンポがすごく速いですよね。
八瀬:『〈物語〉シリーズ』も本作も、西尾さんの文章をどれだけ再現するかというのが基本にあるんです。先ほど例に出したテロップにしても、原作の文字から拾っているので。とにかく原作の内容を詰め込むという、そういった意図でやっているんです。
今回はOVAということもあって、尺(時間)の余裕がTVに比べれば若干あるので、テロップではなく、ちゃんとセリフとして聴いていだかればなと。
▲伊吹かなみ(声優:川澄綾子)。天才のひとり。決まったスタイルをもたない画家として知られている。 |
言葉の読み方やイントネーションは、西尾維新さんに監修してもらっています
――物語の舞台となる鴉の濡れ羽島や、屋敷の見せ方がおもしろいと思いました。
八瀬:基本的には原作のラインに沿って、書いてあることをなるだけ拾って忠実にという形でやっています。ただ、デザイン面に関しては、okamaさんが描いたイメージから膨らませていますね。
――声優さんのキャスティングについてはいかがでしょうか?
八瀬:総監督の新房昭之さんのなかでは、メインの2人は梶裕貴さんと悠木碧さんでいきたいと決まっていたみたいですね。他のキャスティングについては、音響監督の鶴岡陽太さんたちと相談して決めています。
▲逆木深夜(声優:浜田賢二)。かなみの付き添い人。生まれつき足が悪く車椅子で生活している彼女を、なにかとサポートしている。 |
――主人公役の梶さんは、特にセリフのボリュームが大変ですよね。
八瀬:そうですね。モノローグにナレーションにと、ほぼずっとしゃべり通しですから。
――原作ではセリフ回しが独特なので、どういった感じでイントネーションが再現されるのか、楽しみにしていました。
八瀬:原作の西尾維新さんもアフレコ現場にいらっしゃるので、名前の読み方とか発音の高低とか、そういったところは直接チェックしていただいています。
▲姫菜真姫(声優:遠藤綾)。天才のひとり。過去視・予知・精神感応などの能力を持つ占術師。 |
――しっかり監修されていたということですね。
八瀬:そうですね。たとえば、複数の読み方ができてしまう単語のような、自分たちでは判断がつかないものもありますので。“鴉の濡れ羽島”もそうですね。「“ぬればじま”なのか、“ぬればねじま”なのか?」と。そういった部分は、西尾さんしかわからないところですね。
――西尾さんは『〈物語〉シリーズ』のアフレコにも来られていたのでしょうか?
八瀬:自分が演出した時もいらしていましたし、ほぼ来られていると思います。こちらも一言一句間違いなくやろうということを目指しているので、西尾さんもそういった思いを感じていただいているんだと思います。
▲佐代野弥生(声優:池澤春菜)。天才のひとり。島のみんなの食事をまかなう料理人。 |
八瀬監督のお気に入りのキャラクターは?
――第1巻で主要キャラはどのくらい登場するのでしょうか?
八瀬:全員登場していますね。1カットぐらいしか出てこない人もいますが。
▲赤神イリア(声優:伊瀬茉莉也)。鴉の濡れ羽島の主。天才と称される人物を島に招いて交流することを楽しみに、日々を送っている。 |
――そのなかで、八瀬監督のお気に入りのキャラクターは?
八瀬:キャラクターが全部で13人いるんですけど、動かしやすいという意味では玖渚友ですね。第1巻を見ていただいたらわかるように、みんなけっこうテンション低めでしゃべっているんですよ。そのなかで唯一、友だけは勝手に騒いで、いろいろと動いているので。
正直を言うと、あんな風に天才たちが集まって、ピリピリしている中に入っていきたくはないですよね(笑)。そのあたりは“しょうがないよね、天才なんだから”と思いながらやってます。主人公がかわいそうだなぁと(笑)。
――占術師の真姫さんにも、よくいじられていますね(笑)。
八瀬:ただ散歩に出かけただけなのに、なんであそこまでボロボロに言われなきゃいけないんだって(笑)。かわいそうですよね。
――そういった原作での言葉のやり取りを映像で見られるのは、ファンとしては待ってましたという感じでうれしかったです。では、音楽や音響についてはいかがでしょう?
八瀬:音響については、ミステリーということで位置関係も大事になってきます。例えば、屋敷の1階なのか2階なのかという違いも出したいので、それによって環境音や雰囲気を変えてほしいという話はしました。それに加えて、テロップで“1階”と出したりして、場所についてはしっかりと視聴者の方にわからせる流れを意識しています。
あとは、音をつけすぎないというか、あまりうるさくしすぎて、物語に集中できなくなるのを避けたいなとは思っています。
▲班田玲(声優:桑島法子)。イリアに仕える使用人のひとりでメイド長。 |
――第1巻を見ると、キャラクターのセリフがすんなりと頭に入ってくる印象でした。
八瀬:そうですね。音が派手だと、どうしてもそちらに意識がいってしまうので。今回はミステリーとしてちゃんと作るということを意識しています。
▲哀川潤(声優:甲斐田裕子)。イリアが一週間後の来訪を待ち焦がれている人物。 |
――そういえば、西尾維新さんのアニメ化ではおなじみのキャラクターコメンタリーについてですが、今回は哀川潤が登場していますね。
八瀬:哀川潤と、『最強シリーズ』の長瀞とろみですよね。『〈物語〉シリーズ』の時は基本的に、本編に出てくる人がコメンタリーで出てきたので、「ここで長瀞なんだ!」って思いました(笑)。そういう意味で、キャラクターコメンタリーを書き下ろされている西尾さんは、本当にファンサービスのしっかりした方ですよね。
▲千賀あかり(声優:桑谷夏子)。イリアに仕えるメイドのひとり。三つ子の長女。 |
――かなり気の早い話ですが、本作が全8巻で完結したのちに、『戯言シリーズ』の2作目以降の映像化は?
八瀬:外伝やスピンオフを除いても、『戯言シリーズ』だけで6作品あるんですよね。みなさんが次回作を望んでいるのならば、2作目以降もありえるんじゃないかと思っています。
▲千賀ひかり(声優:新谷良子)。イリアに仕えるメイドのひとり。三つ子の次女。 |
▲千賀てる子(声優:後藤邑子)。イリアに仕えるメイドのひとり。三つ子の三女。 |
――では最後に、ファンのみなさんにメッセージをお願いします。
八瀬:見応えのある映像になっていると思います。それとあわせて、西尾維新さんが作り出したキャラクターたちが、声を持ち、動いていくのを楽しんでいただけたらありがたいです。
キャラクターコメンタリーの詳細と店舗別特典情報について
Blu-ray&DVD完全生産限定版に収録されるキャラクターコメンタリーについては、『最強シリーズ』から、哀川潤(声優:甲斐田裕子)と長瀞とろみ(声優:折笠富美子)が登場する、西尾維新さんによる書き下ろし脚本となっています。
さらに、店舗別特典のイラストラフも公開。各店舗での特典内容は公式HPの映像商品ページで確認できます。
■OVA『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』1巻
【価格】
・Blu-ray完全生産限定版:ANZX-13601 3,600縁+税 ※各巻共通価格
・DVD完全生産限定版:ANZB-13601 3,600縁+税 ※各巻共通価格
【完全生産限定版特典】
・原作者:西尾維新書き下ろしキャラクターコメンタリー(出演:哀川潤/声優:甲斐田裕子、長瀞とろみ/声優:折笠富美子)
・キャラクターデザイン:渡辺明夫描き下ろしデジジャケット
・特製ブックレット12P
・全巻連動購入キャンペーン応募台紙(キャラクターデザイン:渡辺明夫描き下ろし全巻収納BOX)
・クリアケース
【スタッフ(敬称略)】
原作:西尾維新『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』(講談社ノベルス・講談社文庫)
キャラクター原案:竹
総監督:新房昭之
監督:八瀬祐樹
シリーズ構成:東冨耶子/新房昭之
脚本:木澤行人/中本宗応
キャラクターデザイン・総作画監督:渡辺明夫
総作画監督:鈴木博文
イメージボード:okama
美術設定:大原盛仁
美術監督:内藤健
色彩設計:日比野 仁/渡辺康子
3DCGディレクター:越田祐史
3DCG制作:オレンジ
撮影監督:江上 怜
編集:松原理恵
音響監督:鶴岡陽太
音楽:梶浦由記
アニメーション制作・シャフト
【キャスト(敬称略)】
ぼく:梶裕貴
玖渚友:悠木碧
園山赤音:嶋村侑
伊吹かなみ:川澄綾子
逆木深夜:浜田賢二
姫菜真姫:遠藤綾
佐代野弥生:池澤春菜
赤神イリア:伊瀬茉莉也
班田玲:桑島法子
千賀あかり:桑谷夏子
千賀ひかり:新谷良子
千賀てる子:後藤邑子
哀川潤:甲斐田裕子
(C)西尾維新/講談社・アニプレックス・シャフト