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2016年10月23日(日)

『聲の形』山田尚子監督や牛尾憲輔さんがこだわり抜いた音楽制作秘話をトークイベントで語る

文:Taka

 興行収入17億円を突破した公開中の京都アニメーションによる劇場アニメ映画『聲の形』のトークイベントが、10月13日に新宿ピカデリーで実施されました。

『聲の形』

 『聲の形』は、監督を山田尚子さん(『けいおん!』、『たまこラブストーリー』など)が、脚本を吉田玲子さん(『ガールズ&パンツァー』など)が、キャラクターデザインを西屋太志さん(『氷菓』、『Free!』など)が担当する、大今良時さん原作の劇場アニメです。

 トークイベントでは、山田尚子監督、音楽を担当した牛尾憲輔さんが登壇。作品の中でとても重要な要素であった音楽について、二人三脚で取り組んだ制作秘話などを語りました。

 本記事では公式で公開されたトーク内容をお届けします。

『聲の形』

牛尾さんが音楽を担当することになった経緯について

山田:元々、agraph.(牛尾が別名義で活動をするソロユニット)の音楽をずっと聴いていて気になっていました。

 今回『聲の形』の監督を任せて頂くことが決まった時にピンときたというか。“聲の形=agraph!”ってすぐにつながったんです。

 自分から音楽をぜひこの方に、と言うのはほぼ初めてだと思うのですがリクエストをしました。

牛尾:ありがとうございます。僕も山田尚子監督作品のファンだったので、山田作品に触れるなんて怖い……と思いながら、初めて挨拶した時に緊張して逃げるように去ってしまいました。

山田:でも、1番最初の打ち合わせの時に、この作品をどう作るかという話をしたんです。無限や極限についての話とか周りのスタッフの方はみんなポカンとしていましたが、牛尾さんは話が通じたんです。

牛尾:シンパシーを感じましたね。(笑)これだ! と。この曲(トーク中のBGM”lit”)は、打ち合わせの日に帰ってすぐできました。もらった画コンテを楽譜台に立ててピアノを弾いたりしながら作っていきました。

山田:絵コンテを描いている間にもどんどん音楽ができ上がってくるんですよ! ほぼ同時進行みたいな作業はおもしろかったですね。

牛尾:山田監督には週1回位の頻度でレコーディングスタジオに入ってもらって、仮の映像にこの曲をここにあてる、っていう作業を普通は音響監督や他の方がやってくれることを山田監督を含めてやっていました。

山田:初めてのことばかりでしたので大丈夫かな、っていうのもあったけど、おかしなことがあったら鶴岡音響監督がきっと言ってくれる! ということで(笑)

音楽のこだわり

牛尾:(観客へ向け)ピアノの中にいるような気がしませんでした? アップライトピアノで色々試して、ピアノの中みたいな音像ができたんです。

 (外の音を遮って)将也は自分の内面にどんどん入っていくようなところと、硝子はどんな風に身体で音を感じているんだろうというところ、そのあたりはよく話しましたよね。

 言葉にするとイメージが固定されてそれ以外がなくなってしまうから、言葉になりえないようなコンセプトから音作りをスタートできたのがよかったです。

山田:牛尾さんの曲づくりのアプローチが自分のフィルム作りと似ている気がしていたんですが、実際会ってともに作品作りをさせていただくことによってその思いが確かであったことがわかってとてもうれしかったです。

ラストシーンで悩みました

山田:文化祭の後の将也のラストシーンが難しくてどうやって終わったらいいのか、と悩みました。わたしは会社のスタジオのそばを散歩していて、小さい河原があるんですけどそこで将也がすっと入ってきて最後はこれに向かって作っていこう、と思えた瞬間がありました。

 牛尾さんも同じところで悩まれていたのを知って、一度スタジオにいらっしゃった時に、「小さな河原ですがもしよかったら……」とその河原を紹介しました。

『聲の形』

牛尾:その河原がすごくよくて。小雨が降っていて、いろんな色の傘があって。それぞれお互いには認識していないけど、僕のいる位置の画角からはいろいろ(人や場所が)見えたんですね。

 そしたらもう1回、将也にフォーカスしていいんだなーってことに気がつけて、泣いていました。

 でもその場所って、京アニの近くだからさっきあいさつしたスタッフたちが通るんですよ! 「こいつ、大丈夫か?」みたいな顔をされながら通り過ぎていくという(笑)。

最後にひと言

牛尾:純度を保って最後まで作ることができました。10年、20年経ってからまた見直せる、何回もみたくなる作品になったんじゃないかと思います。

 今日観られた方もまた何度でも劇場に足を運んでもらえるとうれしいです。本当にありがとうございました。

山田:音、音楽を大事したいと思っていた作品です。牛尾さんにお願いすることができて、想像を絶する、想像以上の音楽ができ上がりより魅力的な作品になったと思います。

 こんなにもクリエイティブな部分を大切に壊さずに、純度を高く保ったまま、みなさんのもとへお届けできたことが本当にうれしいです。今日はありがとうございました。

■映画『聲の形』作品情報
【キャスト】(敬称略)
・入野自由(石田将也)
・早見沙織(西宮硝子)
・悠木碧(西宮結絃)
・小野賢章(永束友宏)
・金子有希(植野直花)
・石川由依(佐原みよこ)
・潘めぐみ(川井みき)
・豊永利行(真柴智)
・松岡茉優(石田将也“小学生”)

【スタッフ】(敬称略)
・原作:『聲の形』大今良時
・監督:山田尚子
・脚本:吉田玲子
・キャラクターデザイン:西屋太志
・美術監督:篠原睦雄
・色彩設計:石田奈央美
・設定:秋竹斉一
・撮影監督:髙尾一也
・音響監督:鶴岡陽太
・音楽:牛尾憲輔
・主題歌:aiko『恋をしたのは』
・音楽制作:ポニーキャニオン
・アニメーション制作:京都アニメーション
・製作:映画聲の形製作委員会
・配給:松竹

(C)大今良時・講談社/映画聲の形製作委員会

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