2016年11月9日(水)
【電撃PS】PS初のハイエンドモデルの秘密が明らかに! 生みの父 マーク・サーニー氏に聞く“PS4 Pro”
PlayStation 4 Proが11月10日に発売となる。若干大型化したが、パワーはスタンダード版PS4の倍と、より高性能に進化した。だがこれまでのPlayStationは、パワーアップするのは“次世代”に移る時だったはず。でもPS4 Proは、同じ“PS4世代”で性能アップする。その性能は? そしてその狙いは? コンセプトに大きく関わったサーニー氏に、デジタルに精通したライターの西田宗千佳氏が話を聞いた。
PlayStation 4 Pro(CUH-7000シリーズ)
●発売日:2016年11月10日
●価格:44,980円(+税)
●サイズ:約295mm×55mm×327mm(幅×高さ×奥行)
●質量:約3.3kg
ライター・西田宗千佳
得意ジャンルは、デジタルAV・家電・ネットワークなど“電気かデータが流れるもの全般”。著書に“漂流するソニーのDNA・プレイステーションで世界と戦った男たち”など。
PlayStation 4 Proの注目ポイント解説
【POINT1】グラフィック性能がパワーアップ! 4K解像度の映像出力に対応
PS4は2K(1920×1080ドット)までの映像出力に対応しているが、PS4 Proは縦横倍の“4K”に対応。映像出力が圧倒的に緻密になる。明暗・色域を拡大する“HDR”にも対応し、射し込む太陽や街灯の明かりを中心に、発色がより色鮮やかに。最新の4Kテレビと組み合わせたとき、最大の効果を発揮するが、2Kテレビでも画質向上効果は圧倒的。不自然な“ギザつき”がなくなり、細部がすっきり見える。
■画像で見るPlayStation 4 Proのパワー
テクスチャの表現力が大幅に拡大。遠景でも細部がすっきりと見えるようになっているのがわかる。光の表現もより自然になり、暗部もつぶれない。その効果は、まるで“視力が高くなった”と感じるほど。
【POINT2】ビジュアル・フレームレートの強化
PS4 Proでは性能に余裕が出るため、ゲームの“処理落ち”が軽減される。多数のキャラクターが登場したり、複雑な処理が必須となるシーンで“コマ落ち”が発生していたゲームの場合、それがなくなる可能性がある。また、1シーンにかけられる演算力が多くなるので、ビジュアル表現が強化される場合も。テクスチャの精細感が高まったり、反射・光源などの表現が追加されることもある。同じシーンでもよりリッチな表現を目指せる。
【POINT3】PlayStation VRがさらに快適に
PlayStation VRは解像度が960×1080ドット×両眼分で固定のため、4Kテレビのような直接的な解像度アップはない。しかし実際は、同じタイトルでも“解像感が増した”ように感じられる。VRでは酔いを抑えるため、最低毎秒60フレームのレンダリングが必須。そのため1フレームごとの表現に制約があったが、性能アップにより制約が緩くなり、内部解像度の向上やビジュアル表現強化が可能になった。
開発に深く関わるマーク・サーニー氏にインタビュー
▲PlayStation 4 リード・システムアーキテクト マーク・サーニー氏 |
マーク・サーニー
10代の頃からゲーム制作に携わり『クラッシュ・バンディクー』シリーズ、『ラチェット&クランク』など、数々の伝説的ゲームを開発。PS4の開発にはコンセプトの段階から深く関与している。
■PS4のゲームは“100%動く”。高画質化にはPro向け最適化が必要
──PS4 Proは、PlayStationとしては初めての“ハイエンドモデル”です。その狙いは?
ゲーム機の世代進化がなくなるとは思っていません。しかし、PS4 Pro開発の目的は“新世代をはじめる”こととはかなり違うんです。現在は状況が変わってきました。1つは、4K+HDRのような新しいディスプレイが生まれたこと。もう1つは、消費者が他の家電製品、例えばスマートフォンで“もっと回転の速い進化”に慣れてきたことです。そうしたことを、デベロッパーコミュニティがどう考えるのか考慮し、より高いモチベーションをもたらすにはどうすべきかを考えた結果生まれたのが、PS4 Proです。
──“次世代機ではない”とは?
これまでPS4向けに開発されてきた700あまりのタイトルが、“100%そのまま動く”ということです。PS4 Proモードでない場合、CPUやGPU(※1)の速度もまったく同じまま、同じ画質で動きます。そうでないと、スタンダード版では発覚しなかったバグが突然現れる可能性があるからです。
──PS4 Pro向けに最適化されていないゲームの場合、画質の向上はない、ということですね。
はい。PS4 Pro対応が行われたタイトルで、高画質化が行われます。
──では、PS4 Pro向けの最適化作業は、どのくらい大変なのでしょうか?
非常に簡単ですよ! 9月8日にニューヨークで開かれたカンファレンスで、PS4 Proに対応した『Days Gone』のデモンストレーションを公開しましたが、あの開発には“たった1人”のプログラマーしか関わっていません。我々の目標は、PS4 Pro対応に関わる開発工数を、ゲーム全体の開発工数の“1%以下”に抑えることでした。その目標は十分に達成できていると思います。
──4K対応というと、グラフィックデータの作り直しを含めた大変な手間がかかると考えますが……。
そうではないです。グラフィックなどの“アセット(※2)”は、スタンダード版とまったく同じです。PS4 Pro向けに変更する必要はありません。でも、ご覧いただいた通り、問題ないでしょう?(笑) 映像の細部まで、きちんと“4Kらしい”画質になります。アセットを作り直すことになると、“1%以内の工数で完了”どころか、デベロッパーに数億円もの投資をお願いすることにもなりかねません。そうなると、PS4 Pro向けの最適化を行なっていただけませんからね。
アセットの追加を前提としない理由は、PS4 Proのメモリーが8GBから変化していないからでもあります。メモリーが増え、アセットが増えると、それをロードし、処理する時間が必要になります。光ディスクの容量を使い切っていたら、ディスク枚数を増やすことになります。でも、そんなことはできない。ハードディスクにすべてをインストールする前提でも、ロード速度の問題はあります。 ゲーム機が“新世代”になれば、もっと多くのメモリーが搭載されるようになるでしょう。その時は読み込み速度の問題も解決するかもしれません。しかし、そこまですべてを変えれば、互換性の問題が出ます。それは、PS4 Proで目指した、私たちの目的とは違います。
■PS4にハードウエアを賢く追加。2Kの負荷で4Kクオリティを実現
──しかし、4Kでは、画素数が2Kの縦横2倍になります。負荷はその分大きくなり、ネイティブ(※3)な4Kレンダリングは最先端の高価なゲーミングPCでも容易なことではありません。
私たちは、スタンダード版PS4における“2K”とPS4 Proにおける“4K”を同じ意味合いにしたかった。すなわち、すべてのタイトルを4Kで動くようにしたいのです。そのため、いろいろと工夫し、ネイティブな4Kレンダリングにごく近い結果が得られるよう調整しました。結果はご覧の通りです。
4K表示には、メモリーが少しだけ、具体的には数百MB、追加で必要になります。じつはPS4 Proでは、メモリーが少しだけ増加しています。といっても、メインメモリーに使っている、高速なGDDR5のメモリーではないです。サウスブリッジ(※4)側に、スピードの遅いDDR3のメモリーを用意しました。元々256MBのメモリーを搭載していたのですが、これを1GBにしたわけです。
PS4では、Netflixやトルネなどのゲーム以外のアプリケーションが、ゲームが動作している際にもメインメモリーの中に常駐していました。そうすることで、素早く両者を切り換えられるようにしていたのです。
PS4 Proでは、コントローラーのPSボタンが押された瞬間に、これらのアプリを“増設したメモリー”のほうに移動します。こうすることで、メインメモリーを1GB空けることが出来ます。このうち、512 MBをゲームに割り当てます。
すなわち、ゲームに使えるメインメモリーは、スタンダード版PS4の“5GB”ではなく、“5.5GB”分使えるわけです。これで、ゲームのアセットはまったく同じままで、高解像度・高画質な映像を実現できます。
──それでも、性能的にはまだネイティブな4Kレンダリングには足りない。
そのために、GPUを改善しました。PS4 Proでは、AMD(※5)のPolarisアーキテクチャ(※6)から必要なものを取り入れ、一部には今後採用予定のものを、先行して採用しています。GPU内のコンピューティング・ユニットの数は18から36に倍増。結果、GPUのパフォーマンスは、スタンダード版の1.84 TFLOPSから4.20 TFLOPSに増え、2.28倍になっています。メインメモリーの動作クロックも24%あげて、帯域を218GB/秒に強化しました。
さらに、描線を滑らかにするアンチエイリアシングとレンダリングに賢い工夫をしています。PS4 Proには、SIEが独自開発した“ID Buffer”という技術が搭載されました。これは、GPUの負荷を抑えて正確なエッジ検出を行い、アンチエイリアシングを高度化し、より滑らかな描線を得るためのものです。
また“ジオメトリレンダリング”、“チェッカーボードレンダリング”という2つの手法を使うことで、描画負荷を減らします。例えばジオメトリレンダリングでは、1つの画素に“1つの色”と“4つの奥行き情報”を持ちます。色の数は、2Kと同じ量ということ。でも奥行き情報は4Kと同じ量がありますから、精細感は高まります。
さらにID Bufferを組み合わせることで、自然な滑らかさになります。この手法では、スタンダード版PS4で2Kだったタイトルを、パフォーマンスにあまり影響させることなく4K化できます。
さらに高画質にする場合には、“チェッカーボードレンダリング”を使います。こちらは、レンダリングを格子状に行うことで、“1920×2160ドット”に抑えます。負荷は上がり、若干のチャレンジは必要になりますが、より高い品質になります。多くのタイトルではこちらが採用されています。
こうしたことを、少ない工数と学習で実現できるようにしています。スタンダード版PS4のGPU解説の資料は434ページもあったのですが、PS4 Proの資料はずっと少ないですよ(笑)
──2KテレビやVRでの効果はどうですか?
解像度は上がりませんが、描線がより滑らかになり、1フレームあたりの表現がよりリッチになるので、スタンダード版との違いを、十分に感じてもらえるものになりますよ。2Kテレビでも、十分にパワーアップは感じていただけます。PlayStation VRでは、映像がリッチになることの効果がとても大きいですね。
※1 グラフィックに関する処理を行うチップ
※2 ゲームで使用される素材など、データ全般を指す。
※3 引き伸ばしなどを行っていない本来の解像度のこと。ここでは3840×2160でレンダリングすることを指す。
※4 マザーボードに搭載されるチップの1つ。内部の通信を制御する重要な役割を担っている。
※5 アメリカの半導体メーカー。PS4に使用されているメインプロセッサーを製造している。
※6 性能が大幅に強化された次世代のグラフィック技術。
(C)2014 Sony Computer Entertainment America LLC. Developed by Sucker Punch Productions LLC. The Space Needle is a trademark of Space Needle LLC and is used under license.
(C)2016 Sony Interactive Entertainment Inc.