2016年12月5日(月)

『グランツーリスモSPORT』では初代『GT』からやりたかったことが実現できた! 山内一典氏が語るHDR映像革命

文:電撃PlayStation

 “ゲームでしか体験できないものがある”と聞くと、私たちはどうしてもファンタジーを思い浮かべることだろう。だが、今やゲームは世界で唯一、本物を表現できる映像媒体になったのだ。今回、“PlayStation Experience 2016”のメディア向けセッションで山内一典氏が語ってくれた、PS4用ソフト『GT SPORT』における“光の表現”についての技術を紹介しよう。

『GT SPORT』
『GT SPORT』
『GT SPORT』
『GT SPORT』
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▲山内一典氏。

 現在PS4で開発中の『GT SPORT』は、4K、60fps、HDR映像表現(以下HDR)、ワイドカラー、VRに対応している。4KはPS4 Pro、VRはPS VRでの対応となるが、今回のセッションでは、主にすべてのPS4で表現可能なHDRとワイドカラーについて解説があった。

『GT SPORT』
『GT SPORT』
『GT SPORT』
 

 技術的な話をされてもわからない! という人のために先に要点をまとめると以下となる。

・『GT SPORT』は通常のTV(SDR)の100倍の明るさ(10000nits)を表現可能
・これまで表現できなかった車体色をワイドカラーで初めて実現
・ハリウッド映画すらも凌駕する映像を生み出せるPS4

 それでは、それぞれについて解説していこう。

【注意】今回の記事では解説のために現地で撮影した写真を掲載しているが、これらは現地でライターが見せてもらった実際の映像とは正確な色味が異なる。その魅力のすべてをお伝えできないのは心苦しいが、写真は参考として見ていただきたい。

『GT SPORT』は通常のTV(SDR)の100倍の明るさ(10000nits)を表現できる。

『GT SPORT』
『GT SPORT』
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 現在ほとんどの家庭あるTVはSDR(スタンダードダイナミックレンジ)と呼ばれる方式で、明るさ(輝度)を100nits程度で表現している。nitsとは明るさの幅を示すもので、暗い~明るいを100段階で表示する、といえばわかりやすいだろうか。最近発売されたHDR(ハイダイナミックレンジ)のTVは1000nits前後。言葉で言えば『真っ暗~ちょっと暗い~普通~ちょっと明るい~まぶしい』を100nitsとすると、1000nitsは『真っ暗~ほんのちょっと暗い~ちょっと暗い~ほんの少しだけ暗い~普通~ほんの少しだけ明るい~ちょっと明るい~かなり明るい~まぶしい(段階を幾つか省略)』みたいな感じで、光を10倍の表現で表示できることになる。

 『GT SPORT』の10000nitsがどれほどのものか、少しはおわかりいただけるだろうか? “朝の光と夕方の光は違う”というのは誰でも感じることだろうが、『GT SPORT』ではそれだけではなく、“朝の光に照らされた車が反射する光”まで表現しているのだ。もちろん車の塗装によっても反射光が異なるわけだが、それすらも表現し得るというものだ。

『GT SPORT』
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これまで表現できなかった車体色をワイドカラーで初めて実現

 車をWEBやスマホのカタログで見たことがある人も多いと思う。最近はボディカラーをボタン一つで変えられたりするが、WEBで見るよりも実物の塗装のほうがキレイ、と思ったことはないだろうか? これは本物の色を、PCやスマホで表示可能な色(sRGB)で再現できないためだ。例えば“7.5”の小数点を省いた数字で表現しようとすれば、7か8にならざるをえない。色で言えば、黄色を赤の間をオレンジで表現できたとしても、黄色とオレンジの間を表現できない、といったところ。

 実際、これまでもロードスターやフェラーリの赤、マクラーレンの黄色など、一部の車のボディカラーは通常の映像媒体(sRGB)では表現できなかったのだが、今回PS4がHDR対応したことで初めて再現することができた。これが『GT SPORT』のワイドカラー表現だ。

『GT SPORT』
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 車に詳しい方ならご存知だと思うが、マクラーレンで採用されているボディカラーは意図的にsRGBのカラースペースの外にあるのだという。これを通常のRGBベースのデジタルカメラで撮影しても、本物とはかけ離れた色になってしまう。実際の朝焼けや、観光地の風景をスマホで撮影するとなんだか味気なく感じることはないだろうか? それも同じ理由が起因している。

 これは車業界でも非常に革命的なことで、これまでカタログですら伝えきれなかった“本物”の魅力を『GT SPORT』なら表現できるというわけだ。まだ開発段階ということで車業界の関係者は『GT SPORT』の映像表現を目にしていないそうだが。

ハリウッド映画すらも凌駕する映像を生み出せるPS4

 上記まででも書いていることだが、高性能のカメラでもHDRに対応していなければ、光の表現力やワイドカラーへの対応は難しい。つまりハリウッド映画などでも、デジタルデータがsRGBとして記録された段階で、一定以上の光や色の表現が失われることになる。情報量が多いBlu-rayでもSDRであれば同様だ。HDRに対応したUltra HD Blu-rayなども出てきているが、PS4はHDRに対応したことで記録媒体を経由することなく、ダイレクトにHDR対応の映像をモニターに出力できる。つまり、劣化しないままの画面を作り出せるのだ。これは非常に画期的なことと言える。

 そのうえで『GT SPORT』が持つ10000nitsという数値は、数年後の映像表現を見据えた規格。現時点で『GT SPORT』が発売されたとしても、TVが追いつかないのだ。もし数年後に高性能のTVに買い替えたら、そこで初めて“本物”の『GT SPORT』に出会えるかもしれない。なお、『GT SPORT』は細かく時間や天候、ライティングの変更が可能となっている。現在開発中のゲームデータでは、天候やライティングを変更する際に10秒程度の時間がかかるそうだが、製品版では数秒で変更が可能になるとのこと。

『GT SPORT』

 かなり細かい解説を書くことになったが、『GT』の開発チームはHDRの研究を3年前からやっている。その頃にはHDRなど世の中のどこにもなかったので、すべて自分たちで手探りでやっていたそうだ。それが今回の表現力のアドバンテージにつながっているのは間違いないだろう。そして、これだけのハイエンドな技術が、PS4 Proはもちろん、通常のPS4でも再現可能なことに驚きすら感じる。まだまだ研究の余地があると語る山内氏だが、それ以上に「これをみんなに見て欲しい!」という気持ちがヒシヒシと伝わってきた。発売が延期となった『GT SPORT』だが、意外と早い段階で我々の目の前に登場してくれるのではないだろうかと、期待せずにはいられない。

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