萬から「触れてもいいか」と尋ねられた梓。
珍しい嘆願に思わず了承をするが……。

梓「う、うん、わかった。いいよ……？」

萬「ありがとうございます。……失礼を」

ふわりと柔らかい熱が、額に灯った。

梓（あ……）
　（触れるって、おでこ？）

意外な行動に心臓が高鳴る。

梓（唇が触れそうなほど萬が近くに……）
　（……どうしよう。萬の鼓動も、私の鼓動も聞こえてしまいそう）

萬「――……想定外ですね。困りました」

梓「…え、想定外ってな、何が？」

萬「思いのほか貴方の熱が心地よくて………」

ルードの部屋でふたりきり。ひょんなことから、髪を結ってもらうことに。

ルード「痛いところがあったら言ってくださいね」

梓（あれ？　気軽に頼んでしまったけれど）
　（男の子に髪を触られるのってなんだか……）

ルード「ここの後れ毛、ここまであげてしまってもきつくないですか？」

梓「う、うん。大丈夫」

梓（どうしよう。なんか、ドキドキする……）
　　（私、くせっ毛強いんだけど
　　　ルードくん、扱いづらくないかな）

そうして、梓の髪型は帝都で流行している「耳隠し」に
結われていって……

秋深まったある夜、まどろみの中にいた梓はふと温もりを覚え、目を覚ました。

梓（ん…？　暖かい……）
　（なんだ、毛布か…）

梓（毛布って、こんなに暖かかったっけ…？）

薄く目を開いた梓の目に飛び込んできたのは他でもない村雨の顔だった……。

梓（ええええっ!?　――む、村雨さん!?）
　（なんで？　どうして村雨さんがここに……！　いったいどうなってるの!?）
　（寝てる……本物だよね？　だって夢にしてはリアルすぎる。まつ毛だってはっきりくっきり――）

梓（暖かいと思ったら、村雨さんの腕が触れてるせいだったんだ）

村雨「……ん……」

おでこのすぐそばに、吐息を感じて――