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2017年3月1日(水)

『NieR:Automata』飛行ユニット製作の裏側をお届け。メカ好き必見のロマンあふれるこだわりが爆発

文:タダツグ

 多くのアクションRPGファンを虜にしている『NieR:Automata(ニーア オートマタ)』。よりSF色が強くなり、たくさんのメカが登場することでも話題を呼んでいます。

『NieR:Automata』

 今回は、そんな本作に登場する“飛行ユニット”を制作したクリエイター陣にスポットを当てたインタビューをお届け。2Bたちヨルハ部隊が移動や戦闘にもちいるこちらの戦闘機、どうやら完成までにさまざまな紆余曲折があったとのこと。そのおもしろ開発エピソードをたっぷりと語っていただきました。

『NieR:Automata』
▲おもにシューティングパートで使用することになる飛行ユニット。このデザインを手がけたスタッフとは、いったいどんな人物なのか?

飛行ユニットを制作したのはUIデザイナー&新人デザイナー!?

――ヨコオさん。さっそくですけど今回は、ゲーム内に登場する“飛行ユニット”のデザインが生まれるまでの紆余曲折、おもしろエピソードをお聞かせいただけるとのことでしたが……。

ヨコオタロウさん(以下、ヨコオ):はい。じつは、本作に登場する飛行ユニットをデザインしたのは、UI(ユーザーインターフェイス)のデザインを担当されている木嶋久善さんなんですけど。

――木嶋さん! 以前のインタビューでも、いろいろお話をお聞かせいただきましたね。

木嶋久善さん(以下、木嶋):はい。あの時はお世話になりました。

『NieR:Automata』
▲木嶋久善さん。

ヨコオ:で、そんな木嶋さんなんですが、メカが好きで好きでしょうがなくて死にそうで、机の上とかメカモデルだらけなんですよね。

 だけど、こんなにメカを愛しているにもかかわらず、これまでにメカデザインを担当したことはないとのことで。それを見るに見かねたんでしょう。

 田浦さん(本作のゲームデザインを手がけた田浦貴久さん)が「じゃあ、『NieR:Automata』でちょっとメカデザインをやってみようか」って話をしたところ、なんと木嶋さんはふたつ返事で引き受けて、休日返上でやりはじめちゃって!

――大丈夫なんですか木嶋さん、そんなに身体を酷使しちゃって!?

木嶋:ええ、今はもう大丈夫です(苦笑)。

ヨコオ:でもって田浦さん、そんな木嶋さんのことを“ちょっと面倒くさそうだな”と思ったんでしょう。期待のホープとしてブイブイ言わせていた松下さんに、木嶋さんのことを押し付けたんですよ。ちょっとひどくないですか?

――それはひどい!

松下祥風さん(以下、松下):いやいや、とんでもない! 木嶋さんにはお世話になりっぱなしなので、押し付けられたなんて思ったことは一度もありませんよ!

『NieR:Automata』
▲松下祥風さん。

ヨコオ:先輩を立てるんですね。とにもかくにもそんなわけで、松下さんは上司に仕事を押しつけられ、木嶋さんによる飛行ユニットのデザインを、1人でモデリングをすることになったわけです。

――木嶋さんがデザイン、松下さんがモデリングという共同作業ですね。

ヨコオ:普通の工程だと、デザインをする→モデリングをする→エライ人がチェックしてOKを出す→終了なんですけど。木嶋さんはメカに自分の人生を賭けているので、リテイクがものすごくて(笑)。

 僕はOKって言っているのに、その後もなんか10回以上のセルフリテイクを出していて、結果、スケジュールがめちゃくちゃ伸びちゃったんですよ。具体的には、松下さんの拘束時間もヤバいことになった、と。

 周囲からは「もうそれくらいにしたら?(いいかげんにしろ)」ってやんわりと言われているんですけど、木嶋さんは止める様子がまったくなくて。でもって、松下さんは新人だから先輩のリテイクを断れずに、呪いのようにずっと作り続けていたっていう経緯があるんです。

――あのイカす飛行ユニットが生まれるまでに、そんな涙ぐましいリテイクの日々があったなんて(苦笑)。

ヨコオ:だからまぁ、ここでお互いの悪口を言い合ってスッキリしておくのが、今後の人間関係的にいいんじゃないかなっていう僕なりの配慮で、今日こうして電撃さんに取材に来ていただいたわけですけど。

――うーん、それを配慮というのも頷きにくいわけですが。おかげでこっちはおもしろいお話を聞けそうなので、どんとこいです!

木嶋:いや、でもヨコオさんにそれを言われると心が痛みますよ。

ヨコオ:痛いんですか!? 心が痛いって言いました? あんなにリテイクを出しておいて!

木嶋:いや、リテイクを出してしまったからこそ心が痛いわけですけど……。

――普通、そんなにリテイクされることってあるんですか?

ヨコオ:少なくとも、僕はあんまりないですね。

――松下さんは新人だとおっしゃっていましたから“こんなもんかもしれない”と納得されるかもしれないですけど。後ろから見ていたヨコオさんいわく“ない”らしいですよ、木嶋さん。

木嶋:いや、まあ、はい。反省します。

ヨコオ:歯切れが悪すぎる(笑)。反省してないでしょう、木嶋さん!

――ちなみに、最初からもうこのデザインだったんですか? 飛行ユニットって。いわゆる多段変形っていうか、複数の形態になれるじゃないですか。あれには驚かされましたよ。

木嶋:まず最初に、ヨコオさんからのオーダーで「流線型の飛行機と、無骨なパワードスーツに変形するユニットを組んでくれ」って言われたんです。最初は「一部のパーツをパージして変形するデザインでいけますか?」って聞かれたんですが、思わず「いや、完全変形させていいですか?」って聞き返しちゃって。

『NieR:Automata』

――パージではなく、完全変形。パージのほうがデザイン的には楽というか、自由度が増えそうなものですけど、完全変形にこだわってしまったんですね。

木嶋:おっしゃるとおりです。正直、半分は僕の趣味なんですけど。もう半分では、ゲーム的に考えて、どこでも自由に変形して使える方が幅が広がっていいよなっていう計算もありました。

――それでだいぶ印象が変わりますよね。

木嶋:ヨコオさんからは完全変形のOKをもらえたので、すぐにデザインにとりかかりまして。

――こういうのって、デザインに対して忠実なモデリングしないといけないものなんでしょうか。デザイン的には嘘をついてもいいんじゃないんですか? 

木嶋:まぁ、ゲームですので嘘をつくことはできますね。ただ、それは美学に反するじゃないですか。僕の哲学としては、まぁありえません。

――なるほど。哲学とまで言われてしまっては、そりゃあ松下さんも付き合わざるをえませんよね……。

松下:ええ。おかげさまで正直死にそうでした。3Dモデルって自由に動かすために、骨を入れる必要があるのはおわかりになりますか?

――なんとなく察しはつきます。ボーンとか呼ばれるやつですよね。パーツに骨を設定することで、そのパーツを自由に動かせるようになると。

松下:はい。で、飛行ユニットにはその骨が200個くらいあって、それらを同時に動かすもんだからモーションがものすごく複雑になるんですよ。

――このくらいのモデリングに骨が200本って、密度としてはどうなんでしょう。多いですよねきっと。

松下:ええ、多いですねものすごく。だから、関係各所に僕が怒られるわけですよ。まずはプログラマーさんに「どうなってんだこれ松下」と怒られ、次にアニメーターさんに「どうなってんだこれ松下」と怒られる……。

※後述されますが、2Bたちでも骨の数は100いくかいかないかくらいとのこと。

――おもしろおかしく話してくれていますけど、それ、ちょっと理不尽な気もしますが……どうですか木嶋さん。

木嶋:これでも、僕は変形をだいぶ簡単な方に抑えたつもりだったんですけど。

松下:おっと!?

――予想外の反応です(笑)。

松下:僕は新人でゲームなんか作ったこともなくて、初めて携わったタイトルがこれだったので、もう各所で「すみません」しか言えなくて。

木嶋:うーん。これで「難しい」って言われるのはちょっと……いや、だいぶ納得がいかないです。でも、結果的にいろいろな人から嫌われたんだろうなとも思います。

ヨコオ:僕は好きですよ。

松下:僕も好きです。大丈夫です。

――ぬくもりがすごい(笑)。ちなみに、最初このデザインはこの方向性だったんですか? パワードスーツのときは操縦者の姿が外に露出していて、飛行形態になるとキュッと格納されるみたいな。

木嶋:そうですね。基本はもともとのデザインからそれです。微妙にスタイリングが変わっていたりはしますけどね。

――武装に関してはどなたが決めたんですか。ショットとミサイルがありますよね?

木嶋:あれも基本的には僕が考えました。ミサイルに関しては「この辺から出ますよ」としか言っていませんけど。

――ほほう。どの辺に格納されているんですかね、銃弾って。

木嶋:ミサイルは、基本的には翼の下にあるポッドから出ています。そういう体裁になっているんですけど、他にもいろいろなところから出ていますよね、どう見ても(苦笑)。ただ、ミサイルの弾頭をかなり小さく設定しているので、どっかに入っているんだと思います。ヨルハ部隊の科学力で。

『NieR:Automata』
▲こちらは木嶋さんのデスク風景。とにかくメカだらけ……。

――ヨコオさんからは、飛行ユニットでの戦闘シーンがあることを前提に発注がきたんでですか? 単なる移動手段ではなく。

ヨコオ:どうでしたっけ?

木嶋:最初から戦闘があるとお聞きしていましたよ。

ヨコオ:どうしてそんなことにしたのか、よく覚えていないですね……。だいぶ前のことですし。

――ちょっと聞くのが怖いんですけど、これって完成までにどれくらいの期間がかかったんですか? 

松下:2016年の4月くらいに引き受けてから、2016年末までがっつり制作していました。他の作業と並行しながらではありますけど。本来は4月くらいからスタートして、5月……遅くとも6月には終わるだろうと踏んでいたんですけど。木嶋さんにモデルを提出するたびに「ちょっといい?」って呼び出されて。「ちょっとここ気になるんだよ」「マジですか、じゃあやり直しますか」ってやり取りを何度も繰り返しました。

――なんとまぁ(笑)。

松下:木嶋さんは律儀な方ですから「ここ直しといて」って言ってスッと帰ったりはせず、残って待ってるんですよね、僕の作業が終わるまでずっと。でもってもう1回見せたら「うーん、違うんだよね」「すみません、やり直します」ってなって。

 そんなことをやっていくうちに、僕もけっこう楽しくなってきちゃいまして……。盲目的に夢中になっては、上司に怒られる日々が続きました。

――そんなこんなで、実質どれくらいまで引っ張っていたんですか?

松下:「もうこれで終わろう!」ってお互いに言うタイミングが定期的にありました。たぶん3カ月に1回くらいですかね。でも、そのたびに「でもやっぱりここが気になる……」って話になり、結局は2016年12月に体験版が出る寸前まで手直ししていましたね。ホントにギリギリまで。

ヨコオ:やってたやってた。さすがに僕も叱りました(苦笑)。

木嶋:あれはですね、あとから色変の設定がついたからですよ。

――色変?

木嶋:色が変わる設定です。2Bと9S、操縦者によって機体の色が変わるという設定が入ったんですよ。

――ありました、ありましたね。えっ、でもそれで何か修正がいるんです? 単純に色を変えればいいだけなのでは……。

木嶋:とんでもない。色味の調整が必要なんですよ。ちょうどそのころ、ゲーム全体のライティングもセッティングが決まったところだったんで、最終調整も込みでやっていた感じですね。

――ちなみに、特に何度もリテイクが入ったのはどこの部分だったんですか。

松下:全体の構造は木嶋さんががっつり監修したものがあったので、そんなに大きく変化してはいません。ウェイトの設定とか構造とかは死にそうになりながら微調整しましたけどね。

 あとはディティール。これがやっぱり、密度がとても重要で。ここをないがしろにすると、引きのカメラで見たときにライティングの印象でぜんぜん違ってきたりするので、細部までこだわりました。

 で、2人で何度も相談して仕上げたものを他の人に見せたら、「うん……それでどこが変わったんですか?」って言われたりとか(苦笑)。あれは悲しかったです。

――ロマンの部分ってことですよね、きっと。

木嶋:たしかにディティールには細心の注意を払いました。最初の基本的な変形の部分は僕のほうでモデリングして渡していたので、松下にはニュアンスの部分に力を入れてもらっています。なるべく荒唐無稽なディティールとかが入らないように。

松下:木嶋さん、ブロックのおもちゃで変形も可能な飛行ユニットを作ってくれていたんですよ。基本的なディティールはその時点でほとんど完成していたので、僕がちょっとでも変えようものなら「なんで変えたの?」って叱られて(苦笑)。

飛行ユニットが2人の距離を縮める? たしかに紡がれるクリエイター同士の絆

――ちなみに、『マクロス』シリーズを手掛けている河森正治さんも、レゴブロックでバルキリーを作って変形ギミックを考えているって記事を見たことがあります。

松下:有名ですよね、その話。たぶん、それと遜色ないレベルのもので、変形のシークエンスがカリッと決まっていたので、こちらとしてはありがたかったですね。

木嶋:モデリングする前に自分でちょっと作ってみたんです。あれを作ったことによって、いろいろ見えてくるものがありました。「この辺の稼働はもうちょっと増やさないとな」とか「この辺はちょっと強度的にヤバいから、構造を足しておこう」みたいな感じです。

『NieR:Automata』
▲ブロックで制作されたという飛行ユニット。すでにデザインの方向性は完全にでき上がっている。

――アーマーを足してゴツくしよう的な?

木嶋:いえ、アーマーじゃなくてフレームですね。支えがちょっと足りなくて、このままではプラプラになるからちょっと補強しておこう……みたいな。そうじゃないと、構造的にエンジンとかを支えられないだろう……と。

――なるほど。そこも嘘はつかないんですね?(笑)

木嶋:まあ僕、嘘をつくのは嫌いなので。

ヨコオ:素晴らしい。

木嶋:骨とかも最初に決めたっきり、とくに触っていないよね?

――骨ですか……ちなみに、2Bたちアンドロイドのモデルには、いくつくらいの骨が入っているんでしょう。300くらいですか?

松下:2Bたちは……そうですね、揺れモノを入れても100いくかいかないかくらいじゃないですかね……。

――主人公たちが100いくかいかないか? それで、これが200……。

松下:それに2Bたちが乗り込むもんだから、骨の合計は300本くらいになるわけですよ。それでまぁ、「おい松下!?」ってなるわけです。

――それはプログラマーさんたちも「どうなってるの?」ってなりますね。

松下:そうです。結局、骨が1個しかないモデルを作ったり、イベント用の飛行ユニットとかカラーバリエーションで6種類必要になったりとか、ちょっと……いやかなりヤバかったです。

――なるほど……。ちなみに、木嶋さんはディティールにこだわったとおっしゃっていましたけれど、中でも一番重視していたものというか、“ここを見てほしいんだよ”ってところはどこなんでしょう?

木嶋:一番こだわった部分ですか。頭部がけっこう複雑な三次元曲面で構造されているので、そこのボリューム感とかは気にしましたね。やっぱり顔の部分なんで。

――顔ですか!?

木嶋松下:はい、顔です。

ヨコオ:2人同時(笑)。

松下:コイツ、けっこうカッコいい顔してるんですよ。

――でも、顔なんて本編じゃほとんど見えなくないですか?

木嶋:いやいや、見る人は見ると思いますよ。そういう人のために僕は作っているんです。

ヨコオ:まぁ、細かい部分は電撃さんの設定資料集で見ればいいのかな、と。ぜひ掲載してもらいたいです(笑)。

――もちろんです。ちなみに参考にした機体とかってあるんですか? つまるところ、木嶋さんが一番好きなロボットってなんですかってことだと思うんですけど。

木嶋:一番好きなロボット……基本的に『マクロス』のバルキリーは好きですけどね。なかでも一番を決めるとなると……うーん、難しいですね。

――VF系です? ゼントラーディ軍のものとかもありますけど。

木嶋:いや、そこはVF系なのは間違いないですけどね。ちょっと今すぐには決められません。ごめんなさい。

――いえいえ。バルキリーには影響を受けているって話だと思うのですが、僕としてはトレジャーさんから出ている『レイディアントシルバーガン』を思い出しました。

木嶋:『レイディアントシルバーガン』ですか……。

ヨコオ:そういうシューティングゲームがあるんですよ。

木嶋:すみません、知らないですね。ハードはなんでしょう?

――もともとはアーケードのゲームで、今遊ぶとなるとセガサターンかXboxのLive Arcade版ですかね。もう20年近く前のシューティングです。“剣で敵の弾丸を斬れる”っていうギミックがあって。飛行ユニットもブレードで敵の弾を斬れますし、変形した時のフォルムとかもちょっと似ているように感じたんですよ。「これはスタッフの中に『シルバーガン』好きがいるぞっ!」って(笑)。

木嶋:なるほど、今度見てみたいですね。ちなみに、実際のところ飛行形態のデザインに関しては、この機体の名前にもあるように“Ho229”っていう実際の戦闘機をイメージしている部分が大きいです。

 パワードスーツ形態では、海外のロボットデザインにあるようなわりとごちゃごちゃした現実的なパーツを用いているというか、海外のメカデザインを意識しつつ、日本のロボットものにあるヒロイックな要素も残しました。ちょうどそれらの折衷みたいなところを狙ってデザインしていますね。

『NieR:Automata』

――スマートさと無骨さを兼ね備えたもの。

木嶋:そうですね。それを両立させるのは簡単ではありませんので。それを実現するために、ディティールに細部までこだわったってところがあります。

――敵が今回、機械生命体ということもあって敵もメカじゃないですか。木嶋さんはオペラのボスを作られていましたけど、敵側とヨルハ側でフォルムは明確に変えようってコンセプトはあったんですか?

木嶋:そうですね。基本的に敵の機械生命体はなるべくシンプルな形で、無骨さとかわいらしさがあるっていうのと、技術的にそんなに洗礼されていない感じを出そうというのが根底にありました。ヨコオさんから絶対にNGといわれていたのが、三次元曲面を絶対に使っちゃいけないっていうのがあって。

――先ほどのお話にも出ましたけど、三次元曲面ってなんですか?

木嶋:簡単にいうと、平面を変形させるだけでは作り出せない複雑な曲面のことですね。

ヨコオ:たとえばアイアンマンのマスクのような、ちょっと複雑な面取りですね。

木嶋:機械生命体のデザインには、それを使っちゃいけないっていうのがコンセプトにありまして。逆にヨルハ側にそういう制限はなかったので、差別化するためにも好き勝手やれた部分はあります。

――こだわりが強いことはものすごい伝わってきます。

木嶋:ヨコオさんも飛行ユニットについてはだいぶこだわっていましたよ。

ヨコオ:そうはいっても序盤の2週間くらいで、後の2年くらいは木嶋さんがずっとこだわっていましたよね。

木嶋:2年はやっていないですよ。たとえば機械生命体のデザインは、ヨコオさんに提出したらたいてい一発OKだったんです。修正するにしても「ここのデザインラインがちょっと違うから微調整してください」ってレベルで終わってましたけど、飛行ユニットに関してはすごい細かいところまで発注がありましたから。

ヨコオ:確かに細かかったです。

――ヨコオさんってメカものはお好きなんですか? 『エヴァンゲリオン』がお好きなのは知っていますが。

ヨコオ:好きですね、はい。

――では、飛行ユニットを発注するにあたってイメージしていたものとかはありました?

ヨコオ:イメージにあったというか、敵のデザインラインがあって、それとは違うように見せないといけなくて。じゃあそこの違う意味で魅せるっていうのはいったいなんなんだろうって考えつつ、世界観からあまりにも浮いた感じにならないようにしないといけないな、という部分は考えていましたね

――こっち方のが明らかにテクノロジーとしては上だなっていうのは感じますよね。

ヨコオ:それは意識してそうしてますね。やっぱりゲームのキャラクターでプレイヤー側が強いんで、少数精鋭だけど強いってことがわかるデザインにしています。機械生命体は1体1体は弱いんですが、とにかく数が多くて物量で攻めてくる……そんな対比に見えるようにしてもらいました。

――それがシンプルなディティールと複雑なディティールっていうところで表現されているってことですよね。

ヨコオ:そのとおりです。

『NieR:Automata』

――ちなみに、木嶋さんと松下さんは2人で寄り添ってお仕事することが多かったと思うんですけど、木嶋さんから見て松下さんはどんなクリエイターで、松下さんから見て木嶋さんはどんなクリエイターなんでしょう?

ヨコオ:ちょっと照れる質問きましたね。

松下:僕は新人研修の時から木嶋さんに面倒を見てもらっているので、とにかくお世話になっているって感じです。最初は今みたいな優しい印象じゃなくて、どっちかっていうと頑固で愛想が悪い、ちょっと怖い先輩だったんですよ。

――そうなんですか? 頑固ではありそうなものの、柔和な方に見えますけど。

松下:あくまで最初のイメージですけどね。ずっと面倒を見てもらっているうちに、じつは優しい方だってわかりましたけど、飛行ユニットの修正で1日中僕がパソコンに向かっている時は、さすがに「コイツ可哀想だな」って思ってくれたのか、ゆずうどんを買ってきてくれたことがあるんですよ。

 それを2人ですすりながら、一緒に飛行ユニットについて語り合ったりして。あれが僕の中でとてもうれしくて、今でもたまにゆずうどんを買ってしまうんですよね。

――そこはスイーツとかじゃなくて、ゆずうどんなんですね。なんか男っぽい。

木嶋:単純に夜でしたので、気の利いたものを買えるようなお店が開いていなかったんです(苦笑)。

松下:他になかったんですよね? で、「ゆずうどん食べなよ」って声かけてもらって。そうはいっても厳しい先輩ではあるんですが、ビジョンが最初からガチッと固まっていてブレることがないので、道のりは遠いんですけど、行ったり来たりのムダがないのでとてもやりやすいです。

 じつは僕自身、メカを作るのってものすごい苦手だったんですが、木嶋さんに指導していただいたおかげでテクニックが身に付きましたし、とても感謝しています。最初の時は本当にただただ怖い印象でしたけど、考えてみれば、日報では優しかったですよね?

――ほう。ツンデレですか? ちなみに日報ってどんなものなんでしょう。

木嶋:1日の報告書みたいなものですね。新人研修の時、今日やったことなどを新人に書いてもらうんです。それを僕のような教育係がチェックして、返事を書くっていう。

松下:日報出しました! って言ったら「そこに置いておいて」ってそっけなく言われて。「ああ、感じ悪いなぁ」って思ったりもしたんですけど、いざ返ってきた日報を見たら「わからないことはあったらいつでも聞いてね!」って、とても優しいコメントが描かれていたりしたんですよ。正直、好感度上がりました(笑)。

――ギャップ萌えか! なんというか、木嶋さんがシャイなだけって気もしてきました。

松下:今ではすごくフレンドリーに話しかけてくださるので、距離感はだいぶ縮まったのかなって思っています。

――それだけ認められたってことなんじゃないですか?

松下:それはちょっとわからないですけど(苦笑)。僕にとっては、尊敬している大先輩です。

――では、そんな木嶋さんからみて松下さんはどうですか?

木嶋:最初はやっぱり新人で、とくに松下くん自体は生物的な造形とかをやっていて、メカはほとんどやったことがないってこともあり、最初は「まだまだかな」って思う部分が少なくありませんでした。

 実際、一部のデザインがあまりにも見るに見かねて、自分でモデリングし直したりっていうこともありまして。その辺、作業的にちょっと重荷になったこともあるんですけど、もともと彼は造形をやっていたこともあり、立体物に対する強い関心、そして熱意がすごくて。

 僕は飛行ユニットに限らず、ゲーム内のメカをただのオブジェクトではなく、一個の立体、現実の世界にあるプロダクトとして考えていたんで、そういうところは通じ合うところがあった気がしますね。そこらへんのシンパシーを感じてからは、どんどんやりやすくなっていきました。

――わかりやすく言えば、性癖が合うっていうことですよね。

木嶋:そんなところですね。なまじ似たもの同士だけに、お互いにストッパーにならなくて、暴走して怒られたりもしたわけですが……。

――なかなか普段まわりにいない性癖だと思うんで、逆に波長が合っちゃうとってことなんですかね。

木嶋:じつは、夜中に仕事をしていたら「木嶋さん見てくださいよ」って急に近寄ってきたことがあって。それで彼のPCをのぞいてみたら、本来変形するはずのないメカが勝手に変形していたり、複数のパーツを組み合わせて新しいザコを作っていたりしたんですよ。

 それがすごくおもしろくて、僕自身そういう遊びがすごく好きなので「おお、いいじゃん!」って。なかには、実際にゲーム中にも入れてもらったデザインもありましたね。怒られながらも(苦笑)。

――やはり怒られるんですね(笑)。結局、いろいろなところで怒られた2人だったわけですけど、また別のプロジェクトで一緒にやりたいとかありますか?

ヨコオ:ここは正直に、もう2度とやりたくないって言っておけばいいと思いますよ。

松下:いやいや! お互いもやり方とか、コミュニケーションの取り方がわかって、ようやく慣れてきたところなので、ぜひ今後もよろしくお願いしますって思ってますよ。

 お互いに、たぶん同じようなところで一喜一憂できるので、波長は合うのではないかと。そのぶん、今回の飛行ユニットのようにドツボにハマったらなかなか抜け出せない可能性はありますが……。

ヨコオ:補足なんですけど、プラチナゲームズさんのおもしろいところは、木嶋さんがじつはメカデザイナーでもなんでもないってところなんですよ。

――ですよね!? 以前のインタビューではおもにUIを担当しているっておっしゃってましたし。

ヨコオ:プラチナゲームズさんって、普通にデザインを担当するアーティストさんがいて、その人がデザインを起こすんですけど。木嶋さんは今回、まったく関係ないところからこの仕事を強引に引き受けて、しかもそれをやり遂げてしまった。そういう柔軟性がおもしろいなって思うんです。

木嶋:昔から社風として、そういう側面はあるんですよ。

――プラチナゲームズの社風ってことでしょうか。それはおもしろいですね。

『NieR:Automata』

――では、飛行ユニットが実機で動いているところを見た時はどんな印象でした? 納得は行っていますか?

木嶋:ダメではないですよね。

――意外と厳しいお言葉。

ヨコオ:木嶋さん的には45点くらいなんですよね、きっと。

木嶋:いや、そんなに低くはないですけど。

――じゃあ、点数をつけるとしたら?

木嶋:点数はつけたくないですね。あんまり。

ヨコオ:どうしてですか?

松下:モデルは100点ですよね?

木嶋:モデルもねぇ……。

ヨコオ:骨が2000本くらいないと納得できないんじゃないですか?

木嶋:骨はもういいです。骨はディティールなんで。

ヨコオ:わからないなぁ~。松下さんならわかりますか?

松下:どうでしょう(苦笑)。満足していないわけではないと思いますよ。

――実際、飛行ユニットめちゃくちゃカッコいいって思いながらプレイしていましたよ。

松下:フィギュアが出たらうれしいねって2人で話したりもしています。どこか手を挙げてもらえないものですかね……。

――フィギュア化、実現したらほしいです。どうせなら大きなものがいいですよね。

松下:そうですね。でも、実現したらしたで、その監修がいつまで経っても終わらなくて、すごくヤバいことになると思います。たぶん(苦笑)。

木嶋:うーん……。

ヨコオ:そこは否定しないんですね……。

――ではここで、プレイヤーに向けて“ぜひここを見てください”ってところがあったらお願いします。

木嶋:じつはこの飛行ユニットって、各機体にマーキングが入っているんですよ。これは僕がデザインして貼り付けました。本当によく近づかないと見えないと思うので、たぶん気づきにくいと思うのですが。「どうせ見えないだろうけど、まぁ貼れるよ」って言われたから盛り込んだ仕様なので。

ヨコオ:いや、さすがに見えないですよ。

木嶋:超近づかないと見えないんですけど、よければゲームを購入いただいて探してみてもらえれば。

『NieR:Automata』

松下:マーキングは機体ごとに……というより、登場するアンドロイドごとに個性付けされています。2Bたち以外のヨルハ部隊に関しても、全部用意されているほどのこだわり具合。

木嶋:そこはヨコオさんからの指示ですし。

ヨコオ:木嶋さん、ノリノリで作ってくれてましたけどね。

――では、次は松下さんのこだわりポイントを。

松下:飛行ユニットは本当に完全変形が大前提だったので苦労しましたが、いちいちその変形が気持ちよく、カッコいい変形音も入れてもらっていますので、そこらへんにも注目してもらえれば。発進シーケンスとかもすごくカッコいいんですよ。これぞロマンだな……と。

――しかし、飛行ユニットに関してまさかこんなにディープなお話になるとは思っていませんでした(笑)。20分くらいで聞き終わるかな~くらいの想定だったのですが。

ヨコオ:それで終わる木嶋さんじゃないですよ。なんなら第2回、第3回でもしゃべれますよね?

木嶋:そうですね。いくらでも。

松下:デザインに関してはもっとディープに語れます(笑)。

――いつかまたお願いできればと思います(笑)。本日はどうもありがとうございました。

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