2017年2月24日(金)
バンプレストが開発した新たな印刷出力技術・CG-i(シージーアイ)。その魅力がどこにあるのか? アニメ『ソードアート・オンライン』のキャラクターデザインを手掛けた足立慎吾さんにCG-iで出力した印刷物を見てもらい、いただいた感想からその魅力をひも解いていきたいと思います。
▲こちらはCG-iで出力された『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』のメインビジュアル。 |
こちらは300点が限定生産され、2月25日10時より商品として受注を行う予定です。受注地域は日本のみで、受注は“一番工房”の申し込みページから。同じくabec先生のキービジュアルをCG-i規格で商品化したものもabec先生キービジュアルの申し込みページで受注予定です。
まずは「CG-iってなんなの?」という人のために説明します。2016年9月に発表されたCG-iは“CGイラストのために設計・開発された独自の出力規格”です。
既存の技術でCGイラストを印刷する場合、RGBカラー(赤・緑・青)で塗られた色をCMYKカラー(シアン・マゼンダ・イエロー・キープレート(≒黒))に変換し、印刷します。これは、通常の印刷で使用されるインクではRGBカラーを表現できないから。
▲RGBとCMYKが表現できる色味のイメージです。RGBをCMYKに置き換えると、どうしても鮮やかさが減退してしまいます。 |
RGB→CMYK変換の際、どうしても“表現できない色”が出てきますが「どうにかしてRGBの色味を紙の上で表現できないか?」――こうした考えが起点となって生み出された新規格がCG-iです。
百聞は一見に如かずということで、CG-iで印刷されたCGとRGB→CMYK変換をして印刷されたCGを見比べていただきましょう。
▲CMYK規格でCGを印刷したものです。 |
▲CG-iでCGを印刷したものです。 |
▲最後に、CGのメインビジュアルです。 |
写真で見ても、CG-iがどれだけCGに近づいているのかが分かっていただけると思いますが、クリエイターの目から見るとどれくらい違いを感じ取ってもらえるのか? 記事の冒頭でも述べたように、足立慎吾さんにその違いを語っていただきました。
途中、CG-iの技術的な部分については、開発を担当した鷹尾充輝さん(バンプレスト)にお答えいただいています。
インタビューの後半では、足立さんが制作した『ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』のメインビジュアルについてあれこれお話を伺いましたので、最後までご覧ください!
――まずは、ご覧になっての率直なご感想をお聞かせください。
足立さん:こうして比べて見るとまったく違いますね。このお話を聞いた時に、正直なところ「まったく違いが判らなかったらどうしよう」という不安があったのですが、部屋に入ってすぐに違いが分かったので、ホッとしました(笑)。
パッと見ただけで、納品データと同じような色で出力されていることがわかったくらいです。従来の印刷物ですと、アスナの髪の先のほうって、どうしても消えてしまうんですよ。それがきれいに印刷されているのが見事だと思いました。
――この部分ですね。
▲CMYK規格(上)とCG-i(下)の比較です。アスナの髪色の違いが分かるでしょうか? |
足立さん:ええ。ですがポスターにするとこの部分にキャッチコピーが入るので、色が飛んでしまっていても「むしろコピーが見やすいかな?」くらいに考えていました。実際は印刷で出てほしいけれど、ちょっと難しいかな? と考えていた部分ですので、それが出ているものを見て、うれしかったですね。
本当にしっかりと色を見せたかったら濃いめの配色にするのですが、そうやってしまうと今度はビジュアル全体がドギツイ色になってしまいます。ですので、そこは従来の技術だと許容せざるを得ないポイントだったんです。今後、CG-iが普及していけば、よりCGの魅力を活かした印刷物を見られるようになるかもしれないですね。逆にお伺いしたいのですが、これは普通の紙に印刷しているんですか?
鷹尾:紙です。ただし、通常よりもかなり厚手の紙を使っています。あまり薄いと、インクを乗せた時にたわんでしまうんですよ。
足立さん:よろしければ、どうしてこの絵を使ったのかも聞きたいです。
鷹尾:CG-iの特徴のひとつなのですが、色が鮮やかになることで、絵の奥行きが出る効果があります。このメインビジュアルを見た時に、キリト、アスナ、現実世界の背景、AR世界の背景といった具合に、4つのレイヤーがあって非常に奥行きを感じられる絵だったので、CG-iの特性を活かせる絵の1つだなぁと思ったことがきっかけです。
足立さん:この背景を作ってくださったのはBamboo(バンブー)という会社なのですが、アニメーションの背景作りにおいてはトップクラスのところなんです。本当だったら、今日ここにお呼びして見てもらいたかったですね。伊藤(智彦)監督も先ほどCG-iで出力されたメインビジュアルを見て「劇場にも置いてもらえたらいいのに」と言っていました。
鷹尾:ありがとうございます。ユナイテッド・シネマ豊洲に併設されているカフェにキリトやアスナの剣をはじめ、アイテムが展示されているのですが、そちらにCG-iのメインビジュアルを飾る予定があります。
足立さん:ここまで細密な背景のビジュアルはなかなかないので、機会があったらいろいろな人に見てもらいたいですね。
――発色や仕上がりなどについてはどのように思われましたか?
足立さん:アニメのセルの絵は基本的に単色で作られていて、このビジュアルのように階調のある色は、後の撮影やアフターエフェクトで追加されるのですが、近年はどんどんとその技術が上がっています。それもあって、先ほども言ったように印刷だとなかなか上手に出ない部分があるのですが、CG-iであればきれいに出力できるんじゃないかと感じました。
▲CMYK規格(上)とCG-i(下)の比較です。CG-iのほうが赤、そして特に緑が鮮やかに出ています。 |
足立さん:CGの技術がどんどん進化していく中で、時代にマッチした印刷技術が出てきたな、という思いがあります。CG-iを見た他のクリエイターがどんな感想を抱いたのかも気になりますね。
鷹尾:今までさまざまなCGクリエイターに見てもらいましたが、「CG-iで画集を作りたい」との声を結構いただいています。
足立さん:なるほど。デジタルで絵を描いている人にとって、生原画ってこの世に存在しないんですよね。だからそういう声があるのも理解できます。個人的には、CG-iの印刷物を使った展覧会があるとうれしいです。
CGの展覧会というものを考えた時に、やはり通常の印刷のものだとちょっと違和感がありますし、かといって高額なモニターをならべて見ていただくという形だと、わざわざ足を運んでもらうものなのかと思えてしまいますし。
鷹尾:バンプレストでも商品展開でCGのイラストをクリアファイルにしたりするのですが、もっともっといいものにできるのではないかとの思いがあったんですよ。それを目指したことが、CG-iが生まれた経緯ですね。足立さんのおっしゃった展覧会をはじめ、アイデア次第でもっと生に近いCGの魅力を見せられるかと思います。
足立さん:先日図らずも、絵を描く仕事において紙に描くのがいいのか? デジタルで描くのがいいのか? という話をしたんですよ。アナログで描くのがいいと言う人もいましたが、デジタルだと取り回しがいいことや表現の幅が増えること、やり直しが容易ということで、やはりデジタルでの作画を魅力に思っているクリエイターが多くなってきている印象があります。今の若い世代は、そもそもCGの技術をきちんと備えてこの世界に入ってきていますからね。
どんどんとデジタルで絵を描く人は増えてきているんですが、先ほども言ったようにアナログに対してデジタルでは生原画が存在せず、その点については寂しい感じがするね、という声があがったんですよ。
もちろんCG-iという技術をもってしても、肉筆の原画という意味においては異なるのは重々承知ですが、その絵を描いた人が見ていた色を高い再現度で共有できるというのは、とても魅力的だと思います。
ここからは、メインビジュアルがどのようにして作られたのかについて、足立さんにお伺いしました。
ここだけでしか読めないお話もありますので、最後までご覧くださいませ。
――メインビジュアルを作る際に、スタジオとしてはどういう工程で制作されていったのでしょうか?
足立さん:生まれるまでに紆余曲折のあった絵なんですよ。そもそも『劇場版 SAO』のキービジュアルは、全部で4点あり、メインビジュアルは4つめのキービジュアルにあたります。正直なところ、最初は「4つもいるのかなぁ?」と思ったりもしました(笑)。キービジュアルって、出た時だけパッと注目されて後はまったく使われない。結構労力のかかる割には報われないところがあるんです。
でもせっかく4つ作るのであれば、似たものにはしたくない、出発点が違う絵にしたいとの思いがありました。1枚目は、委員会の要望もあってキリトとアスナ。そして躍動感のある絵がほしいとのことで、キービジュアル第1弾のイメージが固まっていきました。
▲キービジュアル第1弾です。 |
足立さん:本当は、このビジュアルでARゲームが登場すること、舞台が東京であることを伝えるために、東京タワーを使う予定だったのですが、さまざまな事情で東京タワーが使えなくなり、最終的にこのようなビジュアルになりました。
そして第2弾は、私が考えたビジュアルになります。《アインクラッド》とさまざまなキャラクターが配置されています。
▲キービジュアル第2弾です。《アインクラッド》の階層ボスたちがあしらわれている点もポイントですね。 |
足立さん:第3弾は、私の同級生のデザイナー・ワツジサトシさんが担当したビジュアルになります。彼はもともと『SAO』の作中で使われている専用のフォントや、アイコンなどを手掛けた人物で、タイルを組み合わせたような形状になっているデザインと、新キャラクターたちが印象的な1枚です。
▲キービジュアル第3弾です。 |
そして4枚目は、映画などのポスターをデザインしている人にお願いするつもりだったんです。アニメなどで活躍している人とはあえて違う分野の人がデザインしたらどうなるだろうか? との思いがあったんですよ。
ですがお願いしようと思っていた人がさまざまな事情があって降りてしまったりして、そうこうしているうちに時間がなくなり、私が作ることになりました。デザインに当たっては、アニメ『ソードアート・オンラインII』後半のオープニング映像を担当してくれたSTEREOTYPE(ステロタイプ)の方に手伝っていただいたんです。元々、キービジュアルのデザインをしてもらう候補に挙がっていた方で、相談したところこころよく引き受けてくださいました。
後日いくつかいただいた案の中に、アスナが大きく描かれていてキリトがフルショット(全身)で描かれているものがいくつかあり、それをどのような形にビジュアルとして納めるのかを私が手掛けました。
ステロタイプから送られてきたアイデアで最も印象的だったのが、アスナの身体の中にAR世界が描かれているというもので、これはメインビジュアルのキーポイントになりました。
▲メインビジュアル(キービジュアル第4弾)です。 |
また、デジタルなイメージを絵に漂わせるために、エフェクトを加えて、このようなビジュアルに仕上がりました。
実は、アスナの髪の毛はもっと左のほうに向かって長く伸びているんですよ。このビジュアルはポスターにするために途中で切れてしまっていますが、どこかで目にする機会があるといいなぁと思っています。
――このビジュアルが公開されるにあたって、“本編を見る前と見た後ではビジュアルの印象が変わる”という触れ込みがあったのですが、そのあたりも意識していたんですか?
足立さん:実は、制作時はまったく意識していなかったんですよ。もちろんメインビジュアルを制作した時に本編の内容は知っていましたが、今まで『SAO』をまったく見たことがない人であっても、『劇場版 SAO』の物語がキリトとアスナの物語であることや、ARの世界が描かれていることなどを表したかったので、このようなデザインになったんです。
モニターで見るととても近くからビジュアルを見ることになりますが、ポスターになると、かなり距離があるところから見る人の目に飛び込ませなければいけません。ですので、画像の上のほう、一番目立つところにアスナを大きく描いています。
あまり深う言うとネタバレになってしまうので言いませんが、映画を見た人にとっては、確かにアスナの描かれ方が象徴的に思えるのかもしれませんね。これはラッキーだったなと。最初から想定していたって言ったほうがカッコよかったかもしれませんが(笑)。
――こうしたビジュアルを作り出すのは、どれくらい時間がかかるものなんでしょうか?
足立さん:思いついてしまえば実作業はとても短いんですよ。考えるのにとにかく時間を使います。モニターの前で考えている時間だけでなく、日常生活を送っている時などにも考えていて、フッと思いついたら手を動かす感じです。思いついたらラフを描き上げるまで数時間、原画を描くのも1日あれば……という感じですね。
作業時間自体はほとんど変わりませんでしたが、メインビジュアルを描くのは結構緊張感がありましたね。キービジュアルはあまり使われないと言いましたが、このビジュアルに限っては、ポスターになったりいろいろなところで使われますから。
――なるほど。このビジュアルを見ていて、今までおっしゃったポイント以外にも、アスナのなんとも言えない表情につい目がいってしまうのですが、こちらについてはいかがでしょうか?
足立さん:いいでしょう、これ。こういうのは、運なんですよ。ラフの時から大きくは変わっていないのですが、本当は、いわゆるカメラ目線にしたかったんですよ。そのつもりで描いていたのですが、どうも目線がカメラに行かないんですよ。
こうしたビジュアルだけでなく、フィルムをやっている時でも目線をカメラに向けたいけれど、目線がカメラに来ないことがある。そういう時って非常に困るんですよね。ビジュアル的にはアスナの振りむいたこの角度は、非常に納得のいくものになったんですが、その点で悩んでいたんです。そんな時に相談したスタッフから「足立さん、この絵はむしろカメラに目線が来ていないからいいんじゃない?」と言われて、「確かに」と納得したんです。
考えてみればカメラを見なければいけないというルールがあるわけではありませんし、このほうがふと声をかけられて振り返っている感じが出ているんですよね。これがおもしろいところで、意図したとおりのデザインが描けたからって決していいものというわけではないんです。サッと描き上げたもののほうが案外いいものになったりします。
このカメラへの目線が結構大きな要素で、見る・見ないについては作品によって分かれる部分でもありますね。アイドル映画だったり、いわゆる“萌え”を前面に出した作品だったりであればカメラを見たほうが視聴者に訴える感じが出ます。逆に群像劇などではカメラを見ないようにする演出もあります。
――ただいま、スタッフの方にラフと原画を見せていただきましたが、アスナの表情はラフの段階では唇を閉じているんですね。
足立さん:そうなんですよ。でもこれだと、アスナが強く見えすぎてしまうんですよね。あるデザイナーさんと話をした時に、最近は“男性が女性を守る絵”をあまり作らない傾向にあると聞いたんです。例えば、キリトがアスナを抱きかかえて守るような絵ですね。こうしたものはあまり好まれない、と。
今にして振り返ってみると、そうしたやり取りが下敷きにあったので、ラフではアスナを強めに描いていたように思います。ですが、いざラフから原画にした時の私は「これだと強すぎて逆にアスナが怖く見えてしまうのではないか」と感じたんだと思います。そこで“女性の柔らかさ”を出すために、唇を少し開かせたのではないかと。
――最後に『SAO』ファンにむけて、足立さんが感じたCG-iグラフィックの魅力と、『劇場版 SAO』を一言お願いします。
足立さん:CG-iに関していえば、とにかく印刷された実物を一度見てもらいたいですね。私も今日初めて見ましたが、『SAO』をきっかけにして、新しい技術が広がっていけばとてもうれしく思います。
映画に関していえば、とにかく見ていただければ。2012年から続けている作品ですので、映画で初めて『SAO』を知った人もいるかもしれません。『SAO』は人の死を描いている点にしても、キリトとアスナの関係性にしても、ハイティーン向けの要素が多く含まれている作品で、現時点で高校生くらいの人だと小説や以前のアニメシリーズを見ていない人がいるかもしれません。そうした人が新たに『SAO』を楽しむきっかけになってくれれば何よりです。
――ありがとうございました!
このインタビューでは、CG-iの魅力だけでなく、『劇場版 SAO』のメインビジュアルについていろいろとお話を伺いましたがいかがだったでしょうか? 記事の冒頭でも説明しましたが、CG-iで出力したメインビジュアルが300点の限定生産で商品化され、“一番工房”からリリースされます。
足立さんが制作したメインビジュアルを大きく、そしてなるべくCGに近い色合いで堪能したいという人は、購入を検討してみてはいかがでしょうか?
■受注概要
開始日:2017年2月25日(土)10:00
終了日:2017年3月26日(日)23:59(※受注期間中に上限数に達し次第、販売終了となります)
サイズ:約500mm×609mm×27mm
重量:約3.0kg
商品受渡:2017年5月中旬より順次発送予定
電撃屋だけの8大特典が付属するPS4/PS Vita用ソフト『アクセル・ワールド VS ソードアート・オンライン 千年の黄昏(ミレニアム・トワイライト)』の電撃限定版が、通常版と同日の2017年3月16日に発売! 予約ページは下記バナーから。
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もちろん、通常版に付属する初回封入特典“プレイアブルキャラクター「サチALOver.」が使用できるダウンロードコンテンツ”と“プレイアブルキャラクター「ユナ」が使用できるダウンロードコンテンツ”、“ゲーム内で使用できる『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』の衣装”も付属します。
1次受注は予約者全員が購入することができましたが、2次受注からは数量限定となっています。まだ予約していなかったという人は、早めに予約しておいてくださいね。
・ゲームソフト本体(PS4版またはPS Vita版)
・abec先生&HIMA先生描き下ろし限定収納BOX
・サウンドトラックCD
・スペシャルコンテンツBlu-rayディスク
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・特別小冊子『電撃NerveGear VS』
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・ゲーム内で使用できる「情熱の装備 水着《ソレイユ》」の衣装がダウンロードできるプロダクトコード
・初回封入特典 プレイアブルキャラクター「ユナ」が使用できるダウンロードコンテンツ
・初回封入特典 プレイアブルキャラクター「サチALOver.」が使用できるダウンロードコンテンツ
・初回封入特典 ゲーム内で使用できる『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』の衣装
(C)2016 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス刊/SAO MOVIE Project
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