2017年2月19日(日)
【電撃PS】『FF15』の信頼できる仲間たちは挑戦的AIで作られた。開発者がその手法を解説!
ゲーム開発者向けイベント“GAME CREATORS CONFERENCE’17”が2月18日に大阪府立国際会議場にて開催された。
ここでは、スクウェア・エニックスのリードゲームプランナー・Sun氏と、AI技術者・三宅陽一郎氏による講演“FINAL FANTASY XVが開拓するAIキャラクターによるRPGストーリーテリング”の模様をお届けする。
▲『FFXV』リードゲームプランナー・Sun氏。 |
▲『FFXV』リードAIアーキテクト・三宅陽一郎氏。 |
プレイヤーの体験を深くする物語の語り方
Sun氏は「RPGはストーリーだけでなく、ストーリーテリング(=語る手法)がセットになって、初めてプレイヤーの“体験”になる」とストーリーテリングの重要性を語った。とくに本作においては、その手法そのものが『FFXV』ならではの“体験”をプレイヤーに与えているという。
『FFXV』のコンセプトは“最高の仲間たちとの旅”。仲間がいると楽しく、いなくなると不安でさびしい。そんな感情をプレイヤーに“本気”で感じさせることを目指し、そして“仲間と一緒に居たいから、一緒に冒険をしたいから”がゲームを起動する動機になるようにとデザインしたそうだ。
では、どのような手法をもってその体験をプレイヤーに与えるのか? 本作では、ムービーやカットシーンの多用ではなく、プレイヤーが一番プレイにおいて時間をかける“オープンワールドでの自由体験”を利用して仲間を作り上げるという、新たな構想を試みている。
オープンワールド作品において、物語のほとんどは、主人公の独り旅を通じて描かれる。このことは、オープンワールドで常に主人公と行動をともにする仲間のAIを作りあげる難しさを逆説的に物語っている。裏返せば『FFXV』が世界に名高いオープンワールドRPGと比較してもオリジナリティを保つには、そこがキーポイントでもあった。
複数のAIが連携して状況を判断
まず三宅氏により、本作におけるAIの技術的な側面の解説がなされた。本作では“メタAI”、“キャラクターAI”、“ナビゲーションAI”という独立した3つのAIが連携することで、ゲームコンテンツを作っているのだという。
“メタAI”は、全体をコントロールするAIで、仲間もそのコントロールの対象となる。いわば、作品を俯瞰して指揮する映画監督のようなものだという。
“キャラクターAI”は、キャラクターの頭脳。自分で考えて、自分で感じて自分で行動する自立型のAIだ。
“ナビゲーションAI”は、主に足元まわりを担当。フィールドの移動や位置検索などの根幹を担う。
さらに“キャラクターAI”は、抽象的な意思決定を行う“知能レイヤー”、モーションを制御する“アニメーションレイヤー”、そしてこの2つを取り持つ“ボディ・レイヤー”の3つで構成されていると解説。これにより、一般的に言う“AI”である知能レイヤーがすべてを把握していなくても、ボディ・レイヤーとアニメーションレイヤーから情報を引き出して判断することができる。
キャラクターには“聴覚”と“視覚”が実装されており、センサーで周辺の情報を取得している。そこから意志を決定し、アクションをする流れを“インフォメーション・フロー”という。また“ナビゲーションAI”によって同心円状に複雑な地形を検索し、すべてのキャラクターが移動できるようにしているという。
なお、上記のAIについては参考文献が公開されているので、興味のある人は“ディジタルゲームにおける人工知能技術の応用の現在”を確認してみよう。
“心地よい仲間との冒険”という無二の体験を得るために
その後、講演者は再びSun氏に交代し、仲間の思考や挙動のデザインについての解説がなされた。
本作では、物語的なシナリオ上の役所によってキャラクターをデザインするのではなく、AIによるキャラクターデザインを重視しており、行動は細かなAIによって制御されている。すなわち、キャラクターそれぞれの性格を考慮し、取りうる行動のサンプルすべてを事前に考え、細かく作り込む必要がある。
“プロンプトは一生懸命でお調子者である”、“イグニスはいつもノクトのことを気にかけている”――そういった性格をカットシーンやセリフだけではなく、挙動によって表現したという。イグニスがノクトの近くでつねに戦い、振り向いて様子をうかがうのも、そうしたAIデザインの結果だ。
さらに、本作の重要なコンセプトでもあるという“一緒にいて心地いいと感じる仲間”を実現するためには、“役割を果たす機能性”、“そこにいる、と思える実在感”、“一緒にいたいと思える心地よさ”、“心を揺さぶる情緒”の4つの基礎があるという。それぞれの詳細は以下のとおりだ。
役割をきちんと果たす仲間
まずは前提として、仲間たちはゲームに役立つ存在でなければならない。バトルでノクトがピンチに陥ったときに仲間が近寄って助けてくれるといった、当たり前のことを当たり前に行ってくれる不便のなさが必要になる。
そんななか、人間に似ている人間ではないものを見たときの怖さや違和感、いわゆる“不気味の谷”をプレイヤーが感じてしまうような不自然さを削ることの重要性も語られた。相手のパーソナルスペースに異常に侵入しても避けないといった、“人間ならこんなことしない”というような、不自然な行動すべてを潰すのは大変だったそうだ。
実在感のある仲間
ゲームの役割を果たさせるだけではなく、キャラクターに無駄な行動を取らせることも大切だとSun氏は語った。例えば走りながら腰を叩く仕草をしたり、雨が降って寒そうなとき、くしゃみをしたり。そんな細かな仕草ひとつひとつが、臨場感やキャラクターの実在感を格段に増加させる仕組みであるようだ。
一緒にいたいと思える仲間
本作の課題であったという“どうしたら一緒にいて心地よい仲間が作れるのか”。この課題をクリアするためのスタート地点は、“一緒に歩くこと”だったという。プレイヤーの歩くペースや場所に合わせて、仲間が“隣を一緒に”歩く。仲間が並んで歩くことによって初めて、いい距離感が生まれたようで、大切な要素であったとのこと。
また、キャラクターがその時々に何を考えているのかは、AIによってつねに表現したという。具体的には、仲間がノクトのことを考えているのか、それとも自分自身のことを考えて無意識になっているのか? その思考はどのように挙動にて表現されるのか?
これは例えば、ノクトが動かないとき、グラディオがノクトから意識を外し、ノクトから離れる。それをプロンプトが追い、その途中で置いてきたノクトに意識が再度向かって呼びかける、といった遷移によって表現される。これにより、さらにキャラクターは人間らしく見えるようになった。
もちろん、言葉でのコミュニケーションにも注力している。本作では、朝に顔を合わせたら「おはよう」と挨拶するなど、人間であれば当たり前のことをひとつひとつAIに細かく設定されている。これにより、ゲーム内のキャラクターと意見を共有することで、プレイヤーとの間に絆を生むことができる。
これはセリフだけでなく、MMORPGのような非言語のコミュニケーションでも表現されており、仲間がチョコボでジャンプをすれば、プレイヤーも会話するようにチョコボでジャンプしたくなる、といったような“非言葉コミュニケーション”も盛り込まれている。
RPGを家で友人とプレイしたときに、ゲームについて意見交換をすることによって、操作をしない友人と作品の体験や感想を共有した経験がある人は多いはずだ。
本作では、それと同等のことをゲーム内で、プレイヤーと仲間キャラクターとが行うことで、リアリティのある絆意識をプレイヤーに根づかせるような工夫が施されている。バトルで仲間が頻繁に声をかけてくるのは、この試みの一環だ。こうした小さな積み重ねによって、AIで動くキャラクターが、より人間らしく感じられるようになっている。
“一緒にいたいと思える心地よい仲間を作り上げること”が、本作でのAI制作におけるアイデンティティだと語るSun氏。これはほかのゲームにはない要素で、損得を超えて、一緒にいるだけで幸せだと思える仲間を作りあげることが、本作において重要なミッションだったようだ。
心を揺さぶる仲間
心を揺さぶる瞬間、というのはドラマであり、これをAIで表現するのは難しく、イベントに頼らざるを得ないところはあるという。ただ、この心を揺さぶる瞬間とは、一緒にいたい瞬間があるからこそ思い出に残るもので、これまでに述べた3項目の積み重ねのうえで、より輝くものだと語った。
演技をしない主人公
テストを経て仲間の挙動が豊かになる一方、プレイヤーの分身である主人公の演技をプレイヤーのみにゆだねてしまうのも、演出としては味気がなく感じられたという。そのため、プレイヤーの操作を邪魔しない範囲で、最善の演技をするように“プレイヤーAI”というものを導入しているという。
これにより、“雨が降っていてプレイヤーが何も操作をしていないとき、ノクトが自律的に雨に反応する”といった些細なことをプレイヤーAIが代理として実行することにより、ゲームをプレイしている中で“ノクトが生きている”と感じたプレイヤーは多いはずだ。
プロンプトの写真AI
写真を撮るプロンプトは、写真を撮るという行為そのものでキャラクター性を物語っているという。「(バトルシーンなど)こんなときに写真撮ってるの!?」というツッコミがユーザーから寄せられることが多いが、それはじつは開発の狙いに合致しているという。プロンプトは愉快なキャラクターとしてパーティ内に位置づける狙いがあったためだ。
この写真AIについては、アメリカで開催される予定の“GAME DEVELOPER’S CONFERENCE”の講演にて詳しく語られるようで、興味を持った方はそちらもチェックしてみてほしい。
最後にSun氏は、人間のAIは求められるハードルが高く、コストがかかることへの周囲への理解のほか、完成形のチーム内共有も難しいなど、開発の苦労を語った。しかし、次の時代にノウハウを残すこともできたと考えており、「挑戦してよかったと思う」と述べて講演を締めくくった。
余談だが、質疑応答では「入れたことで気持ち悪くなった演出はあるか?」という質問に対し、「仲間に意識してもらうことはうれしいと思っていたが、仲間がずっとノクトを見ていると、すごく気持ち悪かった。どこへ行っても視線を感じる。だから意識させるときも、すこしおさえるようにしている」と答え、会場は共感の笑いに包まれた。
(C)2016 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. MAIN CHARACTER DESIGN:TETSUYA NOMURA
データ