2017年3月10日(金)
『NieR:Automata』×『PSO2』コラボ記念! ヨコオタロウと木村裕也が語るコラボ実現までの道のり
人気2大RPGによる夢の企画が実現! 3月10日より、スクウェア・エニックスの『NieR:Automata(ニーア オートマタ)』とセガの『ファンタシースターオンライン2(PSO2)』のコラボがスタートします。
これを記念して、今回は両作品のディレクターによる対談企画が実現! コラボが実現することになった経緯、『ニーア』と『PSO2』それぞれの魅力、互いのクリエイターとしての考え方、そして『PSO2』のニコニコ生放送で物議をかもした“夜のオーディション”についてまで、さまざまなトークテーマで赤裸々に語っていただきました。
【お話を聞かせてくれた人】
・ヨコオタロウさん
株式会社ブッコロの代表取締役。『NieR:Automata』のディレクターを務める。インタビューなど、公の場に顔を出すときはエミールヘッドを被って登場することはあまりにも有名。代表作に『ドラッグ オン ドラグーン』など。
・木村裕也さん
株式会社セガ・ゲームス所属のクリエイター。『ファンタシースターオンライン2』のシリーズディレクターとして、エピソードの枠組みを超え、シリーズ全体を統括している。酒井智史シリーズプロデューサーとのコンビによる生放送での軽快なトークはファンに人気。
▲写真左から木村さん、ヨコオさん。 |
夜のオーディションで決まった!? 『NieR:Automata』×『PSO2』コラボ実現までの道のり
――『NieR:Automata』と『ファンタシースターオンライン2』、夢のコラボの実現おめでとうございます! どうしてこのコラボが実現したかをお聞きしたいのですが、まずはその前にお二人の出会いのきっかけからお聞きしていいですか?
ヨコオタロウさん(以下、ヨコオ):それについてはパワーポイントで資料をまとめてきました。
木村裕也さん(以下、木村):えっ……まさか“PSO2 STATION!”で出したアレのことですか?
ヨコオ:ええ。電撃さん、音読してください。
こんにちは。ヨコオタロウと申します。
この度の、『PSO2』とのコラボ本当にうれしく思います。
じつは『PSO2』の木村Dと酒井Pはプライベートで以前から存じ上げておりまして……。
昔の木村さんは、金髪をなびかせた“非常にオラオラした感じ”のヘアースタイルをされていらっしゃいました。
それを見た自分は“怖いから友達になれない!”と思ったことを今でも鮮明に覚えています。
そんなある日、僕は木村さんに聞きました。
「『PSO2』のディレクターってモテるんですか?」
「何言ってるんですか!?」
木村さんは明らかに動揺した様子で返答します。僕はさらに質問を重ねます。
「例えば、“夜のオーディション”とかしてるんじゃないですか?」
「何ですかソレ!?」
薄暗い照明。
豪華な家具。
ガウン一枚を羽織った木村Dは巨大なワイングラスをゆっくりと回している。
「君が新しい子かね……?」
そう言った木村の視線の先には怯えた新人タレントが立っていた。
「そう。ここが最終オーディション会場……君の合否は“僕の一存ですべて決まる”んだ」
「そんな……卑怯な……」
「おおっと、勘違いしちゃいけないよ。僕は強制なんかしない」
「だけど、このオーディションに落ちたら、君の事務所はどうなってしまうのかなぁ……?」
新人タレントは震えながら黙っている。木村は“ネットリとした視線を”絡めながら今日の獲物にゆっくりと近づいてゆく。
木村はささやくように言う。
「イイ声を聞かせてごらん……」
「わ……私……」
「私 やっぱり ムリです!!」
彼女は木村を突き飛ばし、部屋を飛び出していった。
一人部屋に残された木村。
「クッ……クク……“俺の顔にドロを”塗ってくれましたね……」
木村はグッとワインを飲み干す。
「この私の権力さえあれば“芸能界すべてを支配”することも可能だというのに……」
「いずれ、あの小娘も私の……」
ガチャン!
突然、木村の持っているグラスが床に転げ落ちる。
「……ん? グラスを落とし……ぐっ……グウウウウッ!!」
突如木村が苦しみ始めた。
「これは……毒!?」
床でのたうちまわる木村。その時、部屋の扉が開く。そこに立っていたのは……。
「さ……酒井さん!?」
立っていたのは、木村と同じガウンを着た酒井P。
酒井は冷たく笑う。
「若手タレント一人オトせないディレクターなど、“『PSO2』には不要”です」
「君には期待していたんですけどね……残念です」
「ま、待ってください! 酒井さん! 俺は……」
酒井が手元のスイッチを押すと、木村の居た場所の床に突然穴が空いた。
木村が奈落の底に落ちる。
「木村くん……ディレクターとしては失格ですが、最後くらいは腹を減らしたワニの餌として役に立ってください」
木村の悲鳴が消えた後、酒井はゆっくりと窓ガラスに近づいていった。その先に広がるのは、大東京の美しい夜景。
「クククッ……やはりPである私が出る必要があるようですね。『PSO2』の運営も……新人タレントをオトすのも……」
酒井の目には夜景の光ではなく、薄暗い欲望の炎がゆらめいていた……。
『PSO2』が如く 完
※編注:もちろん、フィクションです。
――これ、音読する必要ありました? それにしても内容がひどい。木村さん……最低ですよ!
木村:えっ!? ちょっと待ってください、さすがにこれが真実だと思っているわけではないですよね?(苦笑)
――ええ、さすがに(笑)。
木村:コラボにあたってヨコオさんにコメントだけくださいとお願いしたら、これが届いてビックリしましたよ……。
ヨコオ:ビックリしたのは僕のほうですよ。まさか、せっかく書いたコメントに修正が入るなんて思ってもいませんでしたからね。じつにおめでたい企画の余興に、言論統制が入るなんてっ!
木村:いやいやいや(苦笑)。
――原文はとても表に出せないようなもっとヒドイことを書いていたんでしょう、ヨコオさん?
ヨコオ:そんなことないです。だいたい、実際やっているんですから、夜のオーディション。
木村:ありませんってば! ヨコオさんこそ、自分がやっているからそんなことを言うんじゃないんですか!?
ヨコオ:僕がそんなにモテるわけないじゃないですか!
▲ラウンド1、ファイッ! |
――あんなマスクばっかりかぶっているから……。
ヨコオ:まぁいいです。親玉は酒井さん(※『PSO2』の酒井智史シリーズプロデューサー)ですからね。木村さんは、しょせんは手下にすぎませんから。
――すみません……このままだと夜のオーディションの話だけで終わってしまいかねないので、僕としてもすごく興味はあるのですが、ひとまず木村さんからお二人の出会いのきっかけについて説明してもらえますか?
ヨコオ:読者はそんなものに興味ないですよ! それより夜のオーディションは……。
木村:そんなもの(苦笑)。ヨコオさん、夜のオーディションって言いたいだけですよね。そもそもの出会いのきっかけは、ゲーム関係者が集まっての脱出ゲームでお会いしたことです。
ヨコオ:当時、木村さんは金髪でとても浮ついていて、とてもじゃないけど友だちにはなれない感じでした。
木村:浮ついてはいませんでしたし、あれをきっかけにいろいろお話しするようになったじゃないですか。
――では、今回のコラボについては……。
木村:ええ、僕から提案させていただきました。
ヨコオ:セガさんからスクウェア・エニックスさんに打診があったんです。女性関係と違って、仕事は真面目ですから木村さんは。
木村:いちいち何か挟んできますね……。本当は『ドラッグ オン ドラグーン3』が出た時にもコラボを考えたんですけど、タイミング的に難しかったんですよ。なので『NieR:Automata』発表がされた時に「今度こそは!」と思い立ち、すぐにプロデューサーの齊藤陽介さんにメールしました。そしたら、送った一時間後くらいに「ぜひやりましょう!」ってお返事をいただけまして。
――即決じゃないですか。スゴい! それを聞いた時のヨコオさんの率直な感想はいかがです?
ヨコオ:『PSO2』はさまざまなタイトルとコラボしていると聞いていたので、お話があった時には「今度は『ニーア』でどんな金儲けをするつもりなんだろう」と思いました。
――それはちょっと率直すぎますねぇ(苦笑)。
ヨコオ:結果的には、とてもクオリティの高いものを作ってもらえて感謝しています。木村さん、ありがとうございました。これが『PSO2』の稼ぎに貢献できればいいんですけど。
――ちなみにどんなコラボ内容になっているんでしょう?
木村:コスチューム、武器、音楽、ロビーアクションなどを実装しています。ロビーアクションは2Bの自爆のモーションや、9Sのハッキングのモーションを実装しました。
ヨコオ:あ、『PSO2』と違って『NieR:Automata』は開発費がカツカツのプロジェクトなので、こちら側で何かを実装するのは無理でした。
木村:おっと(苦笑)。
――めちゃくちゃ生々しいお話をどうも(苦笑)。ちなみに、お互いの作品を遊んだりはしているんでしょうか?
ヨコオ:僕はオンラインゲームは積極的に遊んでいないんですけど。ドリームキャストで『PSO』をちょっとだけ遊んだことがあります。ボリュームがすごくて、ものすごく時間がかかりそうなゲームだな、と。ちなみに『PSO』を遊んでいない僕のような人間でも、『PSO2』から始めて大丈夫なんでしょうか?
木村:もちろんです。まったく問題ないように作っています。
ヨコオ:僕が知ってる『PSO』はMORPGだったんですけど、『PSO2』はどうなんでしょう。
木村:基本的にはMOですね。ただ、ロビーに数百人は入れるようになっていますので、MORPGとMMORPGの間のような遊び方ができるようになっています。
▲こちらは2017年1月に期間限定で登場していたお正月ロビー。季節によってロビーの雰囲気が変わるのも『PSO2』の特徴となっています。 |
ヨコオ:ロビーアクションを実装していただきましたけど、ロビーで何をするんですか?
木村:おもにコミュニケーションですね。おかげさまで多くのプレイヤーさんにプレイしていただけていますが、そのぶん遊んでいる皆さんはじつに多様なんです。仲間と会話でコミュニケーションをとるのが楽しい人もいれば、逆に会話が得意じゃないから、あまりチャットや会話をしたくない人もいます。そんな人たちがほどよくコミュニケーションをとれる要素として、ロビーアクションを用意しました。
ヨコオ:なんだか、僕が知っている『PSO』とはぜんぜん違うものですね。
木村:吹き出しチャットなど『PSO』ならではの部分は残しつつ、新たな遊び方を提案しているってイメージですね。
――ちなみに、木村さんからヨコオさんにはどのような依頼があったんですか?
ヨコオ:どんなことをやりたいですかって質問があったので、やりたいことをやりたいだけ詰め込んで送りつけました。どれだけやってもらえるのかなって。
――よそのゲームで、何かを試すようなことはやめましょうよ(笑)。ちなみに、コラボアイテムはどうやって手に入れるんですか?
木村:スクラッチで手に入ります。
ヨコオ:ガチャじゃないですか!! なるほど、それで大儲けするヤツですね!?
木村:いやいやいや! 一般的なガチャとは違って、無課金ユーザーでもゲーム内通貨を使って他のユーザーがショップに出品したスクラッチの景品を購入することもできますし。入手するチャンスはそこまで限定的ではないと思いますよ。
ヨコオ:いろんなゲームの衣装や世界観が、ひとつの世界にたくさん放り込んであって成立してるっていうのはすごいなぁと思いますね。
木村:これはとても珍しいことだと思うんですが、『PSO2』のプレイヤーさんって、全身を同じ装備セットでそろえる人ばかりじゃないんですよ。コスプレ感覚でコーディネイトする方がとても多いんです。
――それは確かに珍しいかも。キャラクターになりきりたいのではなく、あくまで自分を着飾るためのアイテムと認識されている方が多いってことですか。
木村:そうですね。プレイヤーさんにとって『PSO2』の主人公は決められたキャラクターではなくて、もう1人の自分というか、分身のように感じてもらっているんだと思うんですよ。
だから、プレイヤーさんごとに異なるさまざまなコーディネイトが生まれるのかな、と。異空間に行ったり、異次元に行ったりするゲームなので、いろいろな世界観を取り込みやすいのも大きいのかもしれませんね。
――ちなみに、衣装やロビーアクションを制作するにあたって気を配った部分はどこですか?
木村:まだ発売前のゲームでしたから、ゲーム内でどのように動くのか気にしながら取り組みましたね。『NieR:Automata』のファンの方にコレじゃないって思われるようなコラボになるのは嫌なので、動画や生放送などは全部拝見させていただき、動きやキャラクター性の把握に努めました。
ヨコオ:スクエニさんにサンプルロムをもらえばよかったのでは? さすがに、言えば出してもらえたと思いますよ!?
木村:いや、そんな手間をかけるのは申し訳ないので(笑)。
――かなりの手間ヒマがかかったものと予想されますが……とくに大変だったのはどこですか?
木村:2Bの……なんというか……あの白いのがチラリとするのがNGじゃないかなという話になりまして(苦笑)。どうしようか悩みつつモヤモヤしていたら、生放送で「あれは白レオタードだ」ということがわかり、「じゃあ大丈夫だな!」と。
ヨコオ:だから、どうしてメディア越しに確認するんですか! 直接聞いてくれればお教えしますよ!?
▲やばい、見えそう! というかほぼ見えてますが、大丈夫。これ白レオタードです。 |
――では、そんなヨコオさんから見て、コラボの内容はいかがでした?
ヨコオ:今回、『モンスターハンター フロンティアZ』さんともコラボさせてもらったんですけど、それぞれに違いが出ていてとても興味深かったですね。
――なるほど。双方のキャラクターに同じ衣装を着せたとしても、骨格や体型の関係で『PSO2』のほうがより『NieR:Automata』に近い印象になるかな……とは思いますね。
ヨコオ:あと、ポッドが完全にポッド過ぎて、思わず笑っちゃいました。
木村:キャラメイクでいろいろできることは『PSO2』の大きな特徴だと思っていますので、できるだけ元の作品に似せたいと思って制作しました。せっかくのコラボですからね。実際に、現場ではコラボ発表用のキャラクタークリエイトは自分で全部やっています。
ちなみに、一番最初のコラボ提案の際から、コスチュームなどの仕様については、かなり細かく説明させていただきました。
なまじキャラメイクの自由度が高いぶん、必ずしも2Bたちのように細いキャラがこの服装をするわけではないんですよ。それを事前にお伝えしつつ、「太っちょなキャラがヨルハの服を着たらこうなりますよー」って例も提示したりして。そこまで許容していただいたうえで、コラボ実現に至った形です。
――ちなみに木村さん、昨年12月に配信された体験版はプレイされました?
木村:もちろん遊びました。その後は、同じように遊んだ担当スタッフから「実際遊んでみたら違う感じがしたので、一度監修に提出したコラボ武器のエフェクト変えたいです。いいですか?」と言われました。
――実際に遊んでみて、感想はいかがでした?
木村:まだ物語についてはよくわかりませんが、体験版のアクションを遊ばせていただいた限りでは、プラチナゲームズさんの蓄積されたアクションゲームのノウハウのスゴさを如実に感じましたね。セガもアクションゲームをたくさん作ってきている会社ですが、アクションの開発チームがちょっと悔しそうにしていましたよ。
ヨコオ:持ち上げますねぇ。でも、プラチナゲームズさんは本当にスゴイんですよ。
木村:急に視点が変わったりするところとか大好きです。
――いきなり横スクロールになったり、シューティングゲームになったり、サウンドノベルになったりと、本当にビックリしますよね。
ヨコオ:そこらへんはユーザーさんに評判が悪いところなんですけどね。
木村:えっ、そうなんですか?
ヨコオ:そうなんです。でも、残念ながらいきなりゲーム性が変わったり、視点が変わったりするところが『ニーア』の本質なので、仕方ないんですけど。
▲前作からおなじみですが、場所によっては横スクロールっぽい視点になることもあります。 |
▲俯瞰視点になることもあります。 |
木村:僕、じつは『DOD』も好きだったんですよね。とくに、ドラゴンを操作して戦う“上空戦”が印象的で。よくもまぁアクションゲームとシューティングというまったく別のゲーム性を両立させたものだとビックリするとともに、ヨコオさんにシンパシーを感じる部分もあるんですよ。
あれはきっと、自分が好きなゲームを作らせてもらえないから、だったら今引き受けている仕事の中に無理やり詰め込んじゃえ……的なところから生まれたものなんですよね?
ヨコオ:いや、それは違いますね。『DOD』はスクエニのプロデューサーである柴貴正さんから、「最近1対多数のアクションゲームが人気だから、そんな感じのものを作りたい」って言われたんですよ。「スクエニだから世界観は中世ファンタジーでやってね」とも言われて。
当時ペーペーだった僕は「わかりました」って答えたんですけど、開発スタッフにもともと『エースコンバット』に携わっていた人間がいたものだから、「なら、ドラゴンを出してシューティングゲームも作ろうか」ってことになったんですよね…。
木村:そんな事実があったとは。
ヨコオ:僕としては、まったく違うものを無理やり両立させようとするとぺらっぺらでベッシャベシャなものになるんじゃないかとも思ったんですが、なまじ「わ、わかりました……」なんて答えてしまったものだから、なんとかやるしかなくて『DOD』ってゲームが生まれることになったんです。
――でも、『DOD』を作り上げたことで、複数のゲーム性を1本に凝縮するという手法がヨコオさんの作風になった側面もありましたし、結果オーライだったのでは。
木村:でも僕、『ニーア レプリカント』に出てくる敵の弾幕は、ヨコオさんが弾幕系シューティングが好きだから盛り込んだものだというお話を、どこかのインタビュー記事で読んだ記憶がありますよ? あれは弾幕系シューティングを作りたいけど作れないから盛り込んだってことなのでは。
ヨコオ:そうですね。それはたしかにその通りです。
――『ニーア』の弾幕、いわゆる“イクラ”にそんな怨念のようなものが込められていたとは。だから時々、黒いヤツも出てくるんですね。
木村:必ずしも作りたいものを作れるわけではないという点は、やはり共感しますよ。じつは、『PSO2』にはA.I.S(エーアイエス)というプレイヤーが乗り込める人型機動兵器が登場するんですが、あれは僕がメカものを作りたいのに作らせてもらえなかったことへの反動で導入した側面があります。新規で作らせてもらえないのであれば、今作っているものの中に盛り込んでしまえという発想です。
▲『PSO2』のA.I.S。コトブキヤさんからA.I.Sのプラモも発売されるそうです。 |
ヨコオ:なるほど。つまり僕たちは、2人とも作りたくないものを作っているということでいいんですかね。木村さんは『PSO2』作りたいわけじゃなければ、僕も『ニーア』を作りたかったわけではないということで。これは記事としてはいいシメになったんじゃないですかね。
――いやいや、おもしろいけどそんなシメ方はないですよ(笑)。
パトロンが放っておかないヨコオタロウの魅力とは
ヨコオ:『PSO2』はかなり長く続いているタイトルだと思いますけど、現在、サービス開始からどれくらいになるんですか?
木村:おかげさまで、約5年くらいが経過しましたね。
ヨコオ:5年ですか? それはスゴイ。それだけの期間、ユーザーさんから支持を集めて、商売として成り立たせてきたというのはすごいですよね。このコラボをきっかけに、僕も遊んでみようと思っているんですが、時間泥棒になってしまいそうなのは危惧していて。そのあたりは大丈夫なんでしょうか?
木村:ガッツリと遊んでもらえるのもうれしいですが、基本的には週に1回、2~3時間遊んでくれるユーザーさんでもしっかり楽しめるバランスを前提に考えていきたいと思っていますので。そこまで長時間プレイしなくても、“緊急クエスト”といったおいしいところだけでもやってもらえたらと思います。
あとは、初心者の方へのチュートリアル的な内容となる“アークスロード”という要素も用意していますので、これから遊んでくださる『ニーア』ファンの方は、まずはこちらを重点的に進めてもらえればいいかな、と。
ヨコオ:そうか。僕が遊んでいるってことになったら、それをきっかけに人が増えて、木村さんがおいしい思いをする可能性があるわけか……。
――コラボってお互いの作品のファンを循環させることを目的としたイベントだから、すこぶる正しいじゃないですか、それって(苦笑)。
ヨコオ:でも、『PSO2』を遊んでいて『NieR:Automata』を知ったって人は、たぶんこのゲームは買わないんじゃないかと思うんだけどなぁ……。
――うーん、そんなことはない……と、思います。
ヨコオ:歯切れ悪ッ!!
木村:実際のところ、配信期間は3月10日から約1カ月ほどを予定しているのですが、こういったコラボ系のアイテムっておいそれと簡単に再販することはできませんから、『ニーア』ファンの方はコラボ期間でしっかりとアイテムを入手しておいてもらいたいですね。
ヨコオ:いやいや。『NieR:Automata』に関してはどんどん再販して、ガンガン価値を下げていきましょうよ! ちなみに、僕は原作者特典的な感じで、コラボアイテムをもらえたりはしないんでしょうか?
木村:もちろんお渡ししますよ。コラボさせてもらったタイトルの版元さんには、ご希望があったりすればコラボアイテムが入手できる特別なコードをお渡ししているんです。齊藤さんも、興味を持たれていたので、今回どちらにしろお二人のぶんはお送りしようと思っていました。
ヨコオ:スクエニさんがガメたりしなければいいんですけどね。
木村:『ニーア』と『PSO2』は親和性が高いと思いますし、とにかくキャラメイクだけでもやってもらえたらと思います。『NieR:Automata』の2Bと同じようなキャラクターを作ろうと思ったら、なかなか苦労するかもしれませんが。
ヨコオ:それはどういう意味ですか?
木村:キャラメイクの幅を広げるために、本当にたくさんのパラメータを実装しているので、慣れるまではどこをどういじれば自分が作りたいキャラになるのか、感覚がつかみづらいかもしれないってことです。
ただ、キャラメイクってその試行錯誤自体が楽しい遊びになっていると思いますし、似せていくにしても自分だけの2Bとかも生まれて、そこに愛着が湧いたりするかもしれませんので、この自由度の高さも楽しんでもらえれば。まぁ、1度決めた体型を途中で変えるのには課金が必要だったりもするんですけど……。
▲キャラメイクは驚くくらい細かいところまでいじれます。 |
ヨコオ:エグい、エグいなぁ! 整形するのにお金がいるって、現実世界じゃないですか!!
木村:その名もエステっていうんですけど(笑)。
ヨコオ:エステ!? そのまんまじゃないですか!! お直しにお金がかかるなんて……大丈夫ですかセガさん。
木村:もちろん、ユーザーさんの中にはエステにお金を支払いたくないって方もいらっしゃいますし、時々“エステ無料チケット”なんかも発行させてもらっていますよ。
ヨコオ:スゴイなぁ~。ちょっと直すくらいなら無料でやりますよ、と。でも、この先のガッツリとしたお直しには別途料金が発生しますよってことですか。なるほど、ゲームでお金を稼ぐってこういうのはこういうことなんですね。僕には無理です。
(一同爆笑)
――こうなると気が早いお話しではありますが、第2弾、第3弾のコラボにも期待してしまいますね。それこそ、緊急ミッションで敵の機械生命体と戦えたりするとアツいですよね。
木村:今回は発売前に動かなくてはならないプロジェクトでしたので、どうしてもやれることに制限があったのですが、もし第2弾以降があるとしたら、敵の機械生命体を入れ込むというのはアリですね。今回のコラボの評判によっては、前向きに検討させていただければと思います。
ヨコオ:ありがたいお話しです。じつは、飛行ユニットを実装してほしいとひそかに提案したけど、さすがに無理だと却下されました。
▲『NieR:Automata』に登場する飛行ユニット。 |
木村:コラボによっては1年近くかけて開発するものもあったりはするのですが。『NieR:Automata』の飛行ユニットを実装しようとなると、要素を丸ごと追加するようなものですので、ちょっと現実的ではなかったんですよね。もし今後の展開があるとしたら、やっぱり敵を出したりしたいなと思いますね。ちなみに、僕からもヨコオさんに聞きたいことがあるんですけど。
ヨコオ:ダメです。答えません。
――大丈夫です。答えてくれます。木村さん、質問ってなんですか?
木村:今回、『NieR:Automata』を開発するにあたって、ヨコオさんは大阪のプラチナゲームズに出向される形で、ずっと向こうで陣頭指揮を執っていたんですか?
ヨコオ:出向というのとはちょっと違うんですが、仕事の拠点は大阪に移して、プラチナゲームズの社内にもデスクを用意してもらい、そちらで作業を進めていました。
――今回はヨコオさんにとって、かなり理想の現場だったのではないですか? 優秀なクリエイターさんが数多くかかわられている印象がありますが。
ヨコオ:そうですね。ただ、あまりにも理想を追い求めすぎた結果、みんなプラチナゲームズさんだけで事足りてしまったんですよ。つまり、僕が必要なくなるというものすごいジレンマに陥ってしまったわけで。
木村:なんてことだ!
ヨコオ:難しかったですよ。完璧を求めようとしたことで、結果、そこに自分の居場所がなくなるんですよ? こんなに恐ろしいことはない。自分の存在意義とはなんなのかって話ですからね。アイデンティティにかかわる。
――ほほう……そこらへんの悩みというか葛藤が、『NieR:Automata』のシナリオでも表現されていた気はします。
ヨコオ:言われてみるとそうかもしれません。それもふくめて、ものすごく『ニーア』的だったなとは思うんですけど。
木村:でも、完璧すぎるのもそれはそれで寂しかったりしますよね。ゲームを作っている以上、火消しが楽しいって部分はあるじゃないですか。
ヨコオ:火消し? 今、火消しって言いました!? それってかなりのパワーワードですけど、記事に書いてしまって大丈夫なんですかね。火を起こして、それを消すのが楽しいだなんて。
――酒井さんに怒られたりしませんか? まぁ、包み隠さず書きますけど。
ヨコオ:記事を読んだファンは盛り上がるかもしれませんよ。「キター、木村キター!! 火消しが楽しいとか言ってやがる!!」ってね。『PSO2』の世界が『マッドマックス』のような世界になるかもしれない。「燃やしていくぜー!!」「木村を燃やせ―ッ!!」ってなるんじゃないですか?
(一同爆笑)
木村:いやいやいや、これはちょっと僕の言い方が間違っていました。サービスに関しての火消しという意味ではなくて、あくまで開発内部での問題という話ですよ。
ヨコオ:あ、なんだ。サービスのことではないんだ。
木村:もちろんですよ(苦笑)。僕が言いたいのは、開発がなんの悩みもなくスムーズに進んでしまうのは、それはそれでつまらないって意味です。山あり谷ありじゃないですけど、起伏が激しいほうがテンションが上がったりすることってあるじゃないですか。「やべえ、このバグをなんとかしないと!」とか「この仕様がどうしてもうまくいかないんだけど、どうすればいいんだ」とか、考えることはとにかくたくさんあるわけですが、そういった歯ごたえがないとおもしろくないですよね。
――そこらへん、ちょっとゲームそのものに似ている部分はあるのかも。ずっとヌルいゲームなんて、遊んでいておもしろくありませんからね。チームでモノづくりに挑むゲーム開発という現場は、より顕著にそういう側面はありそうですね。
ヨコオ:なるほど。まぁ納得です。ちなみに、木村さんは今おいくつですか?
木村:35歳ですね。
ヨコオ:まさに脂が乗りまくっている時期じゃないですか。僕はちょうどひと回り近く上になるんですけど、周囲は若手のクリエイターばかりになってきていて、居場所のなさっぷりが半端じゃないんですよ。「これから俺はどうやって死んでいこうか……」なんて考えちゃったりしています。
▲何故か腕相撲を始める2人。 |
▲あっ、ヨコオさんずるい! |
――悲しいことを言わないでくださいよ。
ヨコオ:今、10年くらい前のことを思い出そうとしているんですけど。当時の僕は「火消しをするのがおもしろい」なんてことを言えていたかな……ちょっと思い出せないですね。
――まぁ、ロッカーには入れられたりしていましたけどね……(苦笑)。
ヨコオ:あぁ、ロッカーね……(遠い目)。
――ではここで、あと2つだけお聞きしたいんですけど。
ヨコオ・木村:どうぞ。
――お互いの印象についてどう思っていますか? ヨコオさんから見て木村さんは、まだケツの青い若造かもしれませんし、木村さんにとってヨコオさんは邪魔な目の上のたんこぶ以外の何ものでもないかもしれませんけど。
ヨコオ:酒井さんとタッグを組んで5年もやっているという時点で、とんでもない人物だと思っていますよ。セガの権力の中枢にガッツリと組み込まれているってことですから。
真面目な話、長いプロジェクトをやっていると辞めていく開発の人も多い中で、5年もしっかりと続けているってところにセガらしさというか、木村さんの人間力を感じますね。35歳という油の乗った時期に合っている現場にいるんだろうなぁと思います。まぁ、最後は酒井さんにワニのエサにされてしまうわけですけども……。
――それはフィクションのお話ですよね?
ヨコオ:そうですね。フィクションです。そこだけはフィクション。そこだけはね。
木村:また出た(笑)。
――では、木村さんから見たヨコオさんはいかがですか?
木村:僕からすれば、ヨコオさんはうらやましい立ち位置ですよ。ヨコオさんのためにいろんな人が開発の場を用意して、スタッフを用意して……いつも環境が整ってるイメージがあります。まるでアーティストのように思えるんですよね。
▲ん、ヨコオさん……? ダメですよ、ちゃんと木村さんの話を聞いてください! |
――ヨコオさんの作る作品の世界観に惚れ込んで資金提供する……さながらパトロンのような。スクエニの齊藤さんなんかは、まさにそんな感じなのではないでしょうか。そういう意味では、アーティストっぽいという表現は頷けます。
ヨコオ:まぁ、たしかに齊藤さんからは手厚いフォローをしてもらっていますけど。ただ、はっきり言っておきたいんですけど、僕はそんなに大層なお金はもらってないんですよね。スクエニさんの宣伝の方たちが途中で抜いて、熟女パブとかにつぎ込んでるんじゃないかと踏んでいます。
▲あっ……。 |
――こらこらこら(笑)。
木村:クリエイターとして環境が用意されるっていうのは、何ものにも代えがたいことだと思うんですよ。やっぱり、ヨコオさんにしか作れないものがあるからではないでしょうか。
ヨコオ:それは多くの人の気のせいなんですけどね。幻想ですよ。
木村:齊藤さんみたいなスゴ腕のプロデューサーは、ヨコオさんみたいなちょっと浮世離れした人が好きだと思うんです。ヨコオさんはズルいんですよ! ちょっと浮世離れしつつ、仕事はしっかりこなすんですよ! ちょうどいいところにいるんですよ!
今回のパワーポイントの一件もそうですけど、このしなやかさと強靭さが、パトロンを惹きつける秘訣なのかもしれませんね。
ヨコオ:僕からしたら、皆さん何かに遠慮しすぎな気がしますけどね。別にいいじゃないですか、夜のオーディションをネタにするくらい。そこで実名を出すくらい。だって、結局のところは“寝ていない”わけですからね。
▲突然ですが、ゲームディレクター2人の取っ組み合いの様子をお楽しみください。 |
木村:もうね、ヨコオさんは3年くらい前からずっとこの話ばっかりなんですよね。
ヨコオ:手を変え品を変え、なんとかして真実を聞き出そうとしています。今回、その事実をニコ生という場で全国の皆さんにお伝えできる喜びと、その使命の大きさに打ち震えていたというのに。まさかの応援コメントにリテイクって。
こっちはクソ忙しいさなかにパワポを作ったっていうのに! 改竄されないように、PDFで送りつけたっていうのに!!
木村:やっぱり! 絶対そうだと思ったんですよ。メールにはしれっと“特殊なフォントを使っていますので、PDF形式でお送りします”とか書かれていましたけど、これ、絶対こっちで修正できないようにPDFで送ってきてるな……って。
ヨコオ:いや、実際特殊なフォントを使っていますから。これは僕と木村さんの戦いだったんです。
▲本当に戦う2人。 |
――じゃあ、最後の質問です。もしお互いの立場が逆になったとしたらどうされます? ヨコオさんが木村さんの立場になり、木村さんがヨコオさんの立場になったとしたら。
ヨコオ:今から木村さんに代わって『PSO2』を担当しろと言われたら……僕は木村さんの作り上げた帝国を何も変えることなく、現状のまま出来のいいシステムからやってくる甘い蜜を吸いまくりますね。いずれ先細っていくとは思いますけど、それでもがんばらない。なんの工夫もせず、枯れるまでチュウチュウと吸い尽くしますよ。そこに僕の自我はないです。
――思っていた以上にひどい回答(苦笑)。
ヨコオ:いや、5年も経過してなお愛されているコンテンツなんですよ? それだけ完成度が高いってことだから、それを変えるなんてとんでもない。そんな大義名分のもとにチュウチュウします。
木村:今の回答を超えられるものを用意できる気がしないんですけど(笑)。ただ、いつかは『NieR:Automata』のように作り込まれた、壮大なシナリオのゲームを作ってみたいと思いますね。
ヨコオ:プフッ!
――なんで今、噴き出したんですか?
ヨコオ:いや、作り込まれた壮大なシナリオだったかなぁ……って思っちゃって。木村さんはセガの中で、新しいプロジェクトをやるつもりはないんですか?
木村:もちろん、いつかは新しいチャレンジはしてみたいです。ただ、あと最低5年は『PSO2』を頑張りたい気持ちが強いんですよね。もともと、サービスインの時に10年はやりますと宣言しているので。
あとはディレクターとしての向き不向きもあると思いますし、『ニーア』みたいなシリアスな作品を作ってはみたいですが、正直不向きだと思うので、自分の得意分野でもあるパラエティ色の強い作品を今後も生み出していきたいですね。
▲終始楽しい対談をありがとうございました! |
攻略設定資料集は4月28日発売。キャラ&ストーリー解説やヨコオタロウ氏による短編小説なども収録!
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