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2017年6月2日(金)

【電撃PS】『FF14 蒼天のイシュガルド』を締めくくる第5弾サントラ発売直前“祖堅正慶氏”インタビュー!

文:電撃PlayStation

 2017年6月7日(水)、『ファイナルファンタジーXIV』の第5弾Blu-rayサウンドトラック“THE FAR EDGE OF FATE”がついに発売となります。

『ファイナルファンタジーXIV』

 ニーズヘッグや三闘神(ソフィア、ズルワーン)、機工城アレキサンダー……といった『蒼天のイシュガルド』のクライマックスとも言えるコンテンツを彩る旋律が収められた、まさに『蒼天のイシュガルド』を締めくくるにふさわしい1枚――。

 今回はそんな最新サントラの発売直前企画として、サンドディレクター・祖堅正慶氏にインタビュー!

 『蒼天のイシュガルド』を振り返りつつ、『紅蓮のリベレーター』やドラマ“光のお父さん”、オーケストラコンサートのお話も含めていろいろと聞いてみました。

⇒『THE FAR EDGE OF FATE』特設サイトはコチラ!

※本企画は、電撃PlayStation5月25日(木)発売のインタビュー記事全文掲載版です。

『ファイナルファンタジーXIV』

祖堅正慶氏インタビュー

――『蒼天のイシュガルド』のラストを飾る5枚目のアルバムですが、3.Xシリーズを振り返ってみての感想はいかがですか?

祖堅正慶氏(以下、敬称略):アルバムを作るから50曲作らなきゃという感じではなく、あくまでゲームに対して「ここには必要だろう」と作ってきただけなので、振り返ったら5枚目だったという感じですね。気づいたらすごい数になっていて、こうしてジャケットを見ると「そんなに作ったかぁ」というのが正直なところです(笑)。

――毎回、全力で作曲されていますから、曲数を数えるヒマもない感じですね。

祖堅:そもそも、あんまり曲数は気にしてないんですよね。コンテンツプランナーから必要な場所に必要な曲の指示をもらいますが、あくまでも要望なので、必要じゃない場所にまで曲が欲しいと書いてあるんですよ。なんでもかんでも指示を受諾してたら期間に間に合わなるうえにメリハリもなくなってしまう。そのあたりはコンテンツの内容を考慮して必要な分だけ曲を作っているつもりです。

――その結果がギネス世界記録(最もBGMが多いビデオゲーム)の受賞ですからね。

祖堅:別にギネスを取りに行ったわけではなく、たまたま仕事をしていたらそうなっただけで。振り返ってみて、「ああ、そんなやっていたのか」くらいですね。まだまだ作っていますし、『紅蓮のリベレーター』ではさらにドカッと曲も増えますからね(笑)。

――ではあらためて収録曲をご覧になって「これは大変だった」というようなエピソードがあればぜひ!

祖堅:エピソードがあるかと言われれば、全部の曲にあるんですけどね。そのへんの細かいコメントはサントラのなかの1曲ごとに入れてあるので、それを見てもらったほうがいいですかね。DISC内のコメントも今回はバラエティに富んでいて、効果音の担当に書かせていたりもしていますよ。

――それは意外な裏話が読めそうですね

『ファイナルファンタジーXIV』

祖堅:楽曲について触れると、『蒼天のイシュガルド』の最初のサントラ(“Heavensward: FINAL FANTASY XIV Original Soundtrack”)というのは、フィールド曲に注目したりと、その世界を感じられるものになっています。

 逆に、そのあとのサントラは、そのパッケージの集大成と言いますか、コンテンツ寄りの曲が多いんですよね。例えば今回ならば、各ダンジョンと“三闘神”“アレキサンダー”“ディープダンジョン”が入っているので、色が違うごちゃまぜ感が楽しめると思います。

 コンテンツ的に過去の『FF』シリーズからのアレンジ曲は後半側によく入る事が多く、そういう意味でもおもしろさは一番かもしれないですね。とくに今回の聴きどころは、“三闘神”“ニーズヘッグ”“アレキサンダー”ですね。

――“三闘神”は3つコンテンツがありますが、統一のイメージみたいなものはあるのでしょうか?

祖堅:“新生編”でいう蛮神戦のポジションが、“蒼天編”の“三闘神”に投影されています。そのため、それぞれにオリジナリティを持たせようと、意識的に同じような曲調を持っていかないようにしていますね。“セフィロト”は激しく、“ソフィア”は美しく、“ズルワーン”はゲーム音楽みたいな感覚で分けていたのですが、“ズルワーン”がとくに難航した覚えがあります。

 なんかオーダーがめずらしい感じだったんですよ。今までは参考イメージみたいなものが明確にあったのですが、“ズルワーン”だけ“ザ・ゲーム音楽”にしたいと言うフワッとした指示でした。要は、スーパーファミコン時代の曲が現代版にアレンジされたような曲がほしいということで、今のような形に落ち着きました。

――“三闘神”といえば、『FFVI』の“死闘”が流れたのもファンとしてはうれしかったです。

祖堅:“三闘神”ですからね(笑)。“死闘”を使うことは、サウンドのメインコンセプトとして最初から決まっていました。僕の最初のイメージは、前半はオリジナル曲で後半から“死闘”につなげることを想定していたのですが、いろいろすったもんだありまして。

 主に“後半はオリジナル曲”派の吉田と意見がぶつかりまして。でも、バトルコンテンツの映像を観てから僕の印象が変わり、やはり前半にしようと。具体的に言えば、例えば”セフィロト”がデカくなってゲンコツでドカーンとやってくる“『FFXIV』らしいバトル”に“死闘”を合わせても、どうしてもしっくりこなかったんですよ。

――たしかにあの展開は『FFXIV』らしさの部分ですから、オリジナルのほうがバチッと決まりますね。ちなみに“三闘神”の曲の発注はどなたから?

祖堅:“三闘神”は石川夏子の発注ですね。彼女のお気に入りは“ソフィア”の曲らしいですよ。

――石川さんの発注で、「彼女らしいな」と思う特徴的なものはありましたか?

祖堅:“ソフィア”とかは、わりと今までにない感じの発注でしたね。ただ、『紅蓮のリベレーター』の楽曲も彼女からメインで発注を受けているのですが、“美神ラクシュミ”の参考イメージが“ソフィア”とすごく被っていて困ったのを覚えています。

――“美神ラクシュミ”はどうなるのか、今からとても楽しみです。

祖堅:どうなるんでしょうね、僕からはまだ何も言えません(笑)。“ラクシュミ”というか『紅蓮のリベレーター』全体的にですが、こちらのコンテンツはいろいろとリテイクが多くて、けっこう大変です。

『ファイナルファンタジーXIV』

――今回のサントラでは、さきほども話題になったアレキサンダーの曲をまとめて聞けるということで、そこを楽しみにしているファンも多いと思います。“機工城アレキサンダー”の“シリーズとして続く曲”は、作っていていかがでしたか?

祖堅:“アレキサンダー”は楽しかったですね。今までメカメカしい音を出すようなサウンドは、『FFXIV』ではやれていなかったんです。ですが“アレキサンダー”は機械仕掛けの雰囲気だったので、わりとそういう方向の音を出せたので、楽しみながら作りました。“アレキサンダー”は、本線とは違う方向に制作できた感じはあります。

 例えば、“天動編3層”の“指数崩壊”は、今までにないバトル曲になったんじゃないでしょうか。アレキの曲に関してはちょっとだけ悔しいエピソードがありまして。

 バトル班の人が“天動編4層”の時間停止演出の画面を見せてきて、「ここ、専用BGMが必要だと思いません?」とか言ってくるんですよ。やり方が汚い(笑)。「僕は別にほしいとは言ってはいませんが、あったほうがプレイヤーが喜びますよね?」って。アオリが本当に上手いんですよ(笑)。

――祖堅さんがこの振りに応えないわけがないと知っているからこそですね。

祖堅:だから「やってやろうじゃねーか」と(笑)。

『ファイナルファンタジーXIV』

――そのかいもあり“天動編4層”の“ライズ ~機工城アレキサンダー:天動編~”は、ドイツのファンフェスのライブで大いに盛り上がりました。

祖堅:盛り上がってくれてましたね! 逆に盛り上がり方がすごすぎて、こっちがビックリしました。あと「演奏の最中に時間停止して伝わるかな」なんて言いながら実践してみたんですけど、そこが1番盛り上がってました(笑)。

――厳しい戦いの最中の時間停止なので、とても印象に残っている光の戦士も多いと思います。それがサプライズでとあれば、ファンは否応なしに盛り上がりますよ。

祖堅:ちなみに途中に挟む“無限停止”は、いわゆる時報の音を入れてあるんですが。普通の時報では1分間に60回鳴るのでBPM(テンポ)的に言うと120なんですが、“無限停止”はBPM140で少し早くしてあります。

――だからいつもより不安に感じるんですね。

祖堅:そういえば、テレビやラジオで時報が聞こえてくると、光の戦士はアレキのビームがどこに降ってくるか見渡したくなるとか。身体に染み付いていますね(笑)。

――時間停止したときに音が変わる演出は、どのように表現しているのでしょうか?

祖堅:あそこは特殊な処理を行っています。同じテンポのまま進行するなかで、そのまま別の曲に入れ替わり、加えて曲が変わったあと、サウンドのアウトプットにローパスフィルターをかけています。

 わかりやすく言いますと、中域から高域ぐらいの音が聞こえにくくなるようなフィルターをかけているんです。それを、すべてのアウトプットにかけているので、じつは時間停止中にシステムコンフィグなどを開いても音がおかしく聴こえるんです。

 時間停止中だけの特別なフィルターを用意したってことですね。サウンドプログラマーは超嫌がってましたけど、「まぁ、でも『FFXIV』だから」と言って通しちゃいました(笑)。

――時間停止中にシステムコンフィグを開いたことがないから気づきませんでした。

祖堅:いつもとぜんぜん違う音になっているので、ぜひ試してみてください。

『ファイナルファンタジーXIV』

――“アレキサンダー”といえば、“律動編4層”の“メタル:ブルートジャスティスモード”もはずせません。最初に曲が完成したときのスタッフの反応はいかがでしたか?

祖堅:僕らは発注に対してよくできたなという感じでしたけど、バトル班およびプランナーは爆笑でしたよ(笑)。

――でしょうね(笑)。僕らプレイヤーも驚いたり笑ったりしながら戦いましたし。

祖堅:じつは、一番最初はまったく違う曲だったんですよ。レグラ・ヴァン・ヒュドルスと戦うときに流れるBGM“勝利への猛攻”の“アレキサンダー”版みたいな曲を“律動編4層”用に作って実装していたんです。

 ですが、これはこれでいいんだけど、コンセプトが違うってバトル班に言われまして。「もっとベタな戦隊ヒーローにしたい」と強い要望がありました。「もしかしたらコミカルになっちゃうけど、いいの?」と聞いたら、「むしろそっちにいきたい」と言われたのを覚えています。

 エンドコンテンツはひしひしとやるよりも、楽しんでやってほしい思いがあったらしくて、「一度、思いっきりお笑いの方向に振り切ってもらっていいですか?」という話になりました。その後の1~2曲目はボツったんですけど、3曲目にあの方向性になって「コレです!」と。そこからはドンドン悪ノリしていって、あの形になりました。

――ちなみに、曲中に入る合いの手は、子どもの声を別撮りで入れたんですか?

祖堅:あれは、ウチのスタッフを「おーい!」って集めて、「ブルートジャスティストランスモード!」と書いた付箋を渡したあとに「今から、これをせーので読んで」と言って収録し、それを加工して入れました。野郎どもを集めて加工したらオネェ(?)みたいになっちゃったので、実際に使用したのは女性スタッフだけを集めて録ったモノになります。ただ、収録したときは、みんな首を傾げながら帰っていきました(笑)。

――ちゃんと子どもの声に聞こえるんですね。

祖堅:女性であればギリギリ子どもの声にできます。男だとどうしても子どもっぽくはならなくて。

――そっちのバージョンもちょっと聞いてみたいですけどね(笑)。

祖堅:イヤですよ(笑)。

――“ディープダンジョン 死者の宮殿”のBGMは、かなり懐かしいものが使われていましたね。

祖堅:“ディープダンジョン”は吉田の完全な趣味で『タクティクス・オウガ』の曲を使っているんですが、これをアレンジするかどうかの話し合いもありました。個人的に、これらの曲は音源の特性まで考慮して非常に考え尽くされ巧妙な作りになっていると分析していたので、これはアレンジよりもそのまま入れたほうがいいだろうという話になりました。

 ですが、サントラに入れる際は、他の曲は全てハイレゾ音源として収録しているので、せっかくだからタクティクスの曲も、ということでハイレゾ音源用にリマスターしてあります。

―― 一切の妥協がないですね……。

祖堅:とりあえず、今のところはないと思います……たぶん。

――ちなみに、“ディープダンジョン”では過去のダンジョンのBGMがランダムで再生される仕掛けになっていますが、この仕掛けは祖堅さんのアイデアなのでしょうか?

祖堅:「ダンジョンが毎回ランダムなら、曲もランダムでいいじゃん」と言ったような気がします。ただ、“ディープダンジョン”は僕らではなくゲームプログラマー側がランダムに選ばなくてはいけない仕様になっていて……。

 僕らサウンドのデータの管轄で組むぶんにはすごく簡単なのですが、サウンドがあまりわからない人にプログラムを組んでもらう大変さがありました。でも、実現してよかったです。じつは階層が進むごとにランダムのセットも変わっていくので、それも攻略の楽しみの1つになればいいなと思います。

――過去のダンジョンに行く機会はコンテンツルーレットぐらいですし、うれしい仕組みですよね。

祖堅:あとはオーケストリオンが実装されたとはいえ、仕様の都合でどうしてもオーケストリオンはモノラル音源になってしまうんです(汗)。オーケストリオンで気にいった曲があれば、ぜひサントラを買ってもらって、本当の音を楽しんでほしいですね。

――“漆黒のエッダ”は、ダンジョンでかかる曲としてはかなりキレイな旋律ですが、この曲を作ったときの思いはどのようなものでしたか?

祖堅:やりたかった、ですかね。もともとのはじまりは“地下霊殿 タムタラの墓所”の音楽です。ホラーな感じでやりたいということだったので、パイプオルガンだけでダークな葬送行進曲みたいなものを作ったんです。

 このとき、これでバトルしたらすごくジメジメしたカッコイイバトルになるというのを吉田に進言したんですけど、ものすごく拒否されまして(笑)。その後、エッダの話が進むにつれてジメジメコンテンツとして確立されていき、“惨劇霊殿 タムタラの墓所(Hard)”でパイプオルガンによるジメジメしてカッコイイバトルを実現できたんです。

 そしたら、その曲をエッダのテーマとして昇華させてあげたいと思っちゃったんですよ。それが、ここでやっと念願が叶った形ですね。これでエッダも成仏できるだろうと思います(笑)。

――“蒼天編”の締めとなる“オメガ対神竜戦”のBGMは作っていていかがでしたか?

祖堅:流れで作ったので、あまり思い入れがあるわけではないですが、けっこうオーケストラ映えする曲ができたかなと思ってます。あれは、オーケストレーションのプロがいまして、その人と二人三脚で作りました。いいのができましたね。オメガ対神竜という大事な戦いですから、そこは外さないように。

――開幕、“タイダルウェイブ”がきましたしね。

祖堅:そうですね(笑)。そこは当時プレイヤーだった開発員たちがしっかり作ってました(笑)。

5枚目だからこそ悩み抜いたジャケットデザイン

――サントラのジャケットについておうかがいします。今回、パッケージカラーが紫になっています。これはニーズヘッグをイメージしたとのことですが、紫に決めるまでいろいろ候補があったのですか?

祖堅:“蒼天編”の世界観的に曇天と蒼の竜騎士というイメージがありました。前作HEAVENSWARDは曇天の灰色、そして今作となるので、最初は青で行こうという話がありました。何パターンか微妙に違う青を集めてみたんですけど、どうしても“新生エオルゼア”のアルバムである通算2作目のサウンドトラック(“A REALM REBORN: FINAL FANTASY Original Soundtrack”)に似てしまって……。

 どうしたものかと考えていたら、現役の光の戦士でもある音楽出版部のスタッフから“紫”という案を出されまして。ニーズヘッグやイシュガルドの国旗、ヴォイドアークとかあのへんのステージの色味も紫でしたから、遊んでいると紫が目に飛び込んでくることが意外と多かったんです。竜騎士の禁書装備も紫色に近かったこともあって、主人公の色でもあるのかなと。という点をこのスタッフに進言されてものすごく納得して、紫でいこうと決めました。

――言われてみると納得できますね。

祖堅:紫にもいろいろあって、薄いとギャルの服みたいに、逆に濃すぎると黒がぼやけてわかりにくくなってしまうので、ギリギリの色味を探しました。けっこう時間かかりましたが、いい感じになったのではないかと。ちなみに、店舗特典のスリーブケースはパッチ3.2からパッチ3.5までの絵柄になっています。僕のオススメですは、ミンフィリアのヤツですね。 ハイデリンの海藻に絡まれたミンフィリア(笑)。

――サントラの特典であるボーナストラックも、東京のファンフェスのライブ映像とかなり豪華ですよね。

祖堅:相変わらず容量がパンパンなので、MCとか余計な部分はすべてカットして実演奏のみ収録してますが、特典映像だけで合計2時間も入っていますよ。

――それは見ごたえありますね! これらの映像の音調整なども、祖堅さんがご担当されたのですか?

祖堅:僕がやりました。ライブって事前に打ち合わせして音の調整を行っても、会場にお客さんが入るとやはり音が変わってしまうんです。なので、特典として入っている映像はあらためて調整された「僕が聞いてほしかった音」になっています。

――単純に収録しているわけではなく、この特典だからこそ聞ける音楽になっているわけですね。

祖堅:はい。ですからせっかくなので、低音が聞こえる環境で聞いてほしいですね。

『ファイナルファンタジーXIV』

ドラマ“光のお父さん”を陰ながら支えた、サウンドチームの存在

――テレビドラマ“ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん”ではサウンドチームがガッツリかかわっているそうですが、具体的にはどのような部分でタッチされているのでしょうか?

祖堅:基本的には、ドラマのエオルゼアパートは実在のサーバーで撮影していまして、映像に関しては編集という技でどうにかすることが可能ですが、音に関しては映像を録った際に同時に録音していた音を映像と同じように編集しても、音が細切れになったり、環境音がブツ切れになったりしてしまいます。

 結果的にどうやっても録画動画素材からドラマで使える音って録れないんですよね。1話のパイロット版映像をいただいたときに「大変そうだな」と感じたので、「もしよろしければご協力しましょうか?」とお声かけして、調整を担当させていただきました。

――視聴側は自然に聞こえているから気づきませんでしたが、考えてみれば当たり前のことですね。

祖堅:そもそも、エオルゼアの世界を作っている音自体が、“違和感なく自然に聞こえる”というのを最終的な目標にしています。ですが、今回はそれによって、リアルのドラマ編集とまったく同じ弊害が起こってしまったわけですね。

 僕らは、ある種の“自然に聞こえるためだけに特化したシンセサイザー”をゲームに組み込んでいます。なので、「テレビで流すから音源をください」と言われても、ゲームを走らせた状況を再現しないとその音は録れないんですよ。

――実写パートでエオルゼアの音楽や効果音が聴こえてきたのも、プレイヤーとしてはうれしかったです。

祖堅:最初の頃は監督のほうが、ゲームの曲を使うのを遠慮されていたんです。だから「映像を見ましたが、ここはこのBGMを使ったらいかがですか?」と、あらためてご提案させていただきました。最終的に、全7話+1話にサウンドスタッフ2名が付きっきりでMA作業(編集して音を付ける)に参加して、しっかり最後までかかわらせていただきました。

――クエストの受注音とか聞こえると「おっ」となりました。

祖堅:そのへんのパッセージとかは監督さんがやられています。プレイヤーなのでわかっているんでしょうね(笑)。ただ、「あまり全部が全部、これでやらなきゃいけないというわけではないので、一番合う方法でやっていただければと思っています」という感じで音源を渡しました。

“新生編”からの夢がついに実現!

――先日9月開催と発表されたオーケストラコンサートですが、企画はいつから温められていたのでしょうか?

祖堅:僕のなかでは、“新生編”が始まってからずっと準備はしていました。実際に軌道に乗り始めたのは2年くらいから前ですね。ただ、2016年問題(オリンピックに向けた施設改修による会場不足)で、会場がぜんぜん借りられなかったんですよ。

 これだけの規模のゲームなので、小規模な会場で回数を重ねるやり方はどうしても不可能なので、大きなところで一気にやるという方法しか選択肢として取れないんです。今回の東京国際フォーラムは日本で一番大きな会場で、あそこ以上にオーケストラができる大きな会場はほかにはありませんからね。2年かけてやっと押さえることができました。

――そうなると、その2年の間に曲数もものすごく増えたでしょうし、セットリストはやり直しですよね(汗)。

祖堅:そうですね。もともと「これをこうして……」という構想がいろいろあったのですが、全部リセットしました(笑)。こちらも吉田と一緒に決めたのですが、3カ月くらいモメましたね。

――曲の選考基準などはどういった形なのでしょうか?

祖堅:やはり交響組曲と言っているくらいなので、“新生編”“蒼天編”みたいな感じでカテゴライズを作ったうえで、起承転結がほしいと考えていました。なので、序曲から終曲まである、いわゆるクラシックコンサートとして成り立つ形で選曲しています。

 ただ、ゲームの物語にリンクさせているかと言われると、そんなことはありません。オーケストラコンサートとして聴いたときに、ちゃんとクラシカルな構成にしようと心がけました。

――アレンジについても祖堅さんが手がけるのですか?

祖堅:オーケストラ構成にアウトプットする部分はプロのオーケストレーターさんにおまかせしています。ですが、けっきょくそもそもの曲自体がオーケストレーションされているので、そこから演奏できる形に落とし込むという作業がメインですね。

 僕が作る曲は、オーケストラでやるにも人数が足りないみたいな曲もけっこうあったりするので、それを100人なりでできるものにダウンサイズするみたいな作業をやっています。

――今回、指揮に栗田博文さんにお願いされていますが、栗田さんとはどういったご縁があったのでしょうか?

祖堅:植松(伸夫)さんとのつながりからスクウェア・エニックスとのかかわりが深い方なんですね。東京フィルハーモニー交響楽団も、栗田さんとよくご一緒するということで、ぜひという形になりました。

――最強の布陣という感じですね。ちなみに、祖堅さんゲスト指揮の可能性は……!

祖堅:今回はしっかりやりたいので、指揮は栗田さんに全部振っていただきたいと思っています。……でも、何かしら“散らかし”には行きたいですね(笑)。

『紅蓮のリベレーター』のサウンドはどうなる!?

――『紅蓮のリベレーター』の楽曲には、いつ頃から取り組まれていたのですか?

祖堅:トレーラームービーは昨年の冬には取り掛かっていましたが、本格的に取り掛かったのは今年入ってちょっとしてからでした。

 当時はパッチ3.4~3.5でわりと手のかかる曲や効果音が多かったうえに、『紅蓮のリベレーター』のトレーラームービーのレコーディングをフルオーケストラで撮るついでにパッチ3.56の“オメガ対神竜”のBGMもフルオーケストラで撮ることになったんです。そのためにオーケストラ演奏用の楽譜を起こしたりと、かなり手の混んだことをしたので、年末年始はほとんどその作業にあててました。

――そのタイミングだと、パッチ3.5の曲を作りつつの並行作業になりますよね?

祖堅:そうですね。加えてドイツのファンフェスで“アレキサンダー:天動編4”の“ライズ”をバンドでやることになったので、それの練習もしなくてはいけなくなっちゃって(笑)。2週間ぐらいは練習していました。いろいろ同期ものの裏準備もしなくてはならなくて、けっこうかかりましたね。

――“蒼天編”は“蒼天編”全体とおしての曲調という積み重ねがありますが、“紅蓮編”ではまた新しい方向性のものを作る必要がありますよね。それらを並行して行うというのは、やはり大変でしたか?

祖堅:それに関しては、そうでもないですかね。同じタイトルのなかでなら、違うものを同時進行というのは大丈夫なほうです。スクウェア・エニックスのサウンドは作品の兼任が多くて、多いときは8タイトルぐらい掛け持ちしていたときもありました。

 さすがにこのときは頭の中がグチャグチャになりましたけど(笑)。8タイトルもあると、あっちでは作曲、こっちでは効果音、そっちではエンジニアリング……というように、作業がバラバラなこともありました。そうなると、やっぱりぜんぜん違う作業になってくるので、脳の切り替えみたいなものは慣れないと大変ですよ。

――“紅蓮編”のこれまでに公開されたBGMは、今までとガラッと変わって尺八や和太鼓を使っていたり、“蒼天編”とはイメージがぜんぜん違いますね。

祖堅:“蒼天編”は、使っている楽器というかトラック数や音色の数がすごく多くて、“荘厳・壮大”といった重々しい感じをメインにしています。逆に、“紅蓮編”はすごく少なく、どのフィールドも“大編成のオーケストラ曲”みたいなものはほとんどないですね。すごくシンプルな構成で、楽器2つしか使ってない曲とかもありますよ。

――旋律が耳に残るものになりそうですね。

祖堅:“紅蓮編”は、舞台・世界観設定がけっこうオリエンタルなので、それに合わせるものとなると、わりと特徴的な楽器を使うことになるんですね。例えば、胡弓や馬頭琴とか、ティンホイッスルとかですね。

――今までの『FFXIV』にないタイプですね。

祖堅:そうですね。すごく独特な感じになっていると思いますよ。ゲームから目を離せば、一人旅がすごく合うイメージですかね。

――放浪している感じがあるんですね。

祖堅:メインストーリーがひと通り終わったら、フィールドを1人で歩くとすごく気持ちいいと思います。「俺、異国に生きてる!」って感じになれると思います。そういう意味では、音の色がすごく濃いかもしれないですね。

 街は、にぎやかな感じを出そうとしているので楽器が重なっていたりしますが、それでもクガネとかはわりと特徴的な音楽になっていると思います。尺八も入ってますしね(笑)。“紅蓮編”の内容的に“和”に寄せたくなるんですが、和の成分ばかりにならないように気を付けています。あくまでオリエンタルで、和はエッセンスとして取り入れている感じです。

『ファイナルファンタジーXIV』

――ベンチマークで聴ける曲がそうですか?

祖堅:ベンチマークに入っている曲で、実際に使われているのは3曲くらいですね。

――細かいところだと、レベルキャップが解放されてアクションが増えて、効果音周りも大変なのでは?

祖堅:それがですね……、今回はバトルシステムの大改修が入っているので、ほぼ全部のアクションに手を加えています。ほんとヤバイんすよ! もちろん昔のアクションにも調整が入っているので、ほとんど音もやり直しですね。正直、まだ終わってはないです(笑)。

――効果音といえば、水中に潜った際の音の聞こえ方を調整するのは相当大変だったのでは?

祖堅:けっこうこだわってやっています。あれはイロイロあって……ざっくり言うと水中専用のシンセサイザーを作った形です。今までの音も、そのシンセサイザーを通すことで違って聞こえるという感じですね。

――となると、フライングマウントに乗ったときは、フライングマウント用のシンセサイザーを通しているんですか?

祖堅:そういうことになります。風切音と大物の地形の通過音とかが鳴ったりする制御を1つのシンセサイザーでやっているんです。今回は、水中が増えるのでシンセサイザーも1つ増えたということですね。とはいえ、シンセサイザーを1つ増やすにも商品1つ作っているようなものなので、かなり大変なんですよ(汗)。

 でも、そこらへんがおもしろいんですよね。ゲームサウンドがただ音楽を作る仕事と違うのは、そういう部分です。“テクノロジーを駆使して、限られた資源の中で、その世界にある自然な音を再構築する”。いかにしてプレイヤーに自然な音を聞かせるか、そのアイデアと方法を考える作業はゲームならではと思うので、とても楽しいですね。

――やっていることは大変ですが、それが全面に出てしまうのは望むところではないとろではないと?

祖堅:違和感なく、何事もなく聞き流せるようなものを作りたいんです。“自然”を作り出すのが一番難しいですね。

――『紅蓮のリベレーター』の楽曲について、これだけは言っておきたいみたいなことがあればお願いします。

祖堅:『紅蓮のリベレーター』のロゴの意味、そしてそれを盛り立てるためのサウンドデザインを、かなり前からムービーシーンを作るチームと一丸となって作っているので、ぜひ最後までプレイしてほしいですね。

――今回のテーマ曲“revolution”も植松さんが手掛けられていますが、祖堅さんがかかわられている部分はあるのでしょうか?

祖堅:基本は吉田から植松さんに発注する形なので、曲が完成するまではとくに何もないです。その後の完成曲をゲームに落とし込む作業に対して、調整しなければならないこともあってそのやり取りは僕がしました。“蒼天編”と同じで大事なところで植松さんの曲を使いたいので、わりと温存している感じですね。

 最初は、『STORMBLOOD』のトレーラーで流れた曲が多いかもしれないです。

――“蒼天編”のように共通テーマがあって、そのテーマアレンジを使っていろいろな場所の音を組み立てている感じでしょうか?

祖堅:わりとトレーラームービーで使われた旋律が、モチーフになっている感じですね。加えて、フィールドはその土地に根付いたメロディーに準じています。いかんせん、オリエンタルな曲をアレンジして、例えばダンジョンに使うというのはものすごく難しいんですよ。

 オリエンタルな曲は、曲調・音階的に鬼気迫った曲にする音階じゃなかったりするので。ヘタしたらアラビアン風になってしまったりとかもありました。もともと、曲自体はパッと降ってきたものを形にしたんですが、それをアレンジしてダンジョンにしなきゃとかいうときは「うわぁぁ!」ってなりましたね。とはいえ、結果として納得行く形にはなっています。あと、今回は周回コンテンツの曲がイイ感じですよ。

 周回コンテンツでダルい曲だとイヤじゃないですか。“蒼天編”の“神域浮島 ネバーリープ”がフワっとしていて、コンテンツルーレットでコレになると僕自身がガックリきていたんですよ。なんで、今回はそういうのをなくそうと思って気を付けていますね。

 今回の周回コンテンツは、1つはフワッとしないようにしてて、もう1つは僕がやりたい放題にヤンチャしています。和風イケイケですね(笑)。太鼓がドンスコドンスコしてますよ。

――楽しみです! ではサントラの発売を心待ちにしているファンに向けてメッセージをお願いします。

祖堅:サントラはもっと早く発売したかったのですが、いろいろなことも重なり遅れて申し訳ありませんでした。その代わり、もれなくすべての曲が入っていますし、ボーナストラックも2時間入っています。オーケストリオンだと限界があって、聴こえない音とかもたくさんあるので、それをぜひサントラでじっくり聞いていただけると幸いです。『紅蓮のリベレーター』もお楽しみに!

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