2017年6月16日(金)
変わりゆくE3の姿と、そこから見えてきたゲームとファンの未来像【E3 2017】
米国・ロサンゼルスで現在開催中の“E3 2017”。本稿ではE3開催前に行われた各社の発表やプレスカンファレンスを受けて、その注目ポイントと、そこから見えてきた今後のゲーム業界の動向についての考察をお届けする。
『モンスターハンター:ワールド』を筆頭に、今年のE3はゲームソフトにフォーカス
昨年のE3 2016では、Xbox One Sや“Project Scorpio”が発表されたり、PlayStation VRの発売日が発表されたりと、ゲームハードに関する話題が多く見られた。
それに対して今年の“E3 2017”では、“Project Scorpio”の正式名称が“Xbox One X”に決定し、北米で11月7日に499ドルで発売されると発表された以外、ゲームハードに関する発表はなかった。
Xbox One Xにしても、今年のE3で詳細が明かされることは告知されていたため、あくまで規定の発表だと言える。
ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)や任天堂は、PlayStation 4 ProやNintendo Switchがすでに登場済みということもあり、今年のE3ではゲームソフトを全面に押し出していた。
一方のマイクロソフト(MS)も、Xbox One Xの紹介に多くの時間を割くことはせず、そこで動作するゲームソフトのほうに比重を置いていた。
その結果、今年のE3は例年以上に、各社ともゲームソフトそのものにフォーカスする形となったのである。
その中で最も大きなサプライズとなったのが、『モンスターハンター』シリーズの完全新作がPS4で初登場する『モンスターハンター:ワールド』だ。
同作に関しては、E3会場を訪れている海外の人々よりも、日本のゲームファンのほうにより大きな驚きを持って迎えられていることだろう。
その他、今回のE3で新発表されたタイトルとしては、空中や水中をも自在に駆け巡る協力プレイが衝撃的な『Anthem』、『メトロ』シリーズのさらなる進化を示した『Metro Exodus』、ドット絵で壮大な世界観を描き出す『The Last Night』などが、筆者個人としては強く印象に残った。
また、『God of War』『Days Gone』『Spider-Man』『シャドウ・オブ・ウォー』『スーパーマリオ オデッセイ』『ゼノブレイド2』といった、すでにその存在が明らかになっていたタイトルも、非常に魅力的なゲームプレイの様子を披露してくれた。
PS4やXbox Oneの登場から数年を経て、いよいよソフトの収穫期に入ってきたこともあり、今年の各社の発表からは、これから2018年にかけても充実したゲームラインナップを楽しめるという実感を、改めて得られたと言えるだろう。
VRブームは落ち着いたかに見えるが、今後の展開に期待
一方、昨年発売が開始されたPS VRをはじめとして、一気に盛り上がった感のあるVRだが、各社のプレスカンファレンスを見る限り、今年はやや落ち着いているという印象を受けた。
もちろん、PS VRでは『Star Child』『Moss』といった興味深いタイトルが新発表されたし、『ファイナルファンタジーXV』の世界観で“釣りゲー”を楽しめる『MONSTER OF THE DEEP:FINAL FANTASY XV』が発表されるというサプライズもあった。
またベセスダ・ソフトワークスは、昨年のE3でVR対応版を発表した『Fallout 4』『DOOM』に加えて、今回は『The Elder Scrolls V:Skyrim(スカイリム)』のPS VR版を発表した。しかも『Fallout 4』や『スカイリム』は、100時間を超えるゲームプレイをVRでも、そのまま楽しめるという。
とはいえ、昨年PS VRのローンチにあわせて対応ソフトをリリースした多くのメーカーは、今回のE3ではあまり大きな動きを見せていない。
また、Windows Mixed Reality(MR)を提唱して、対応ヘッドセットやコントローラを発表しているMSは、今回のE3でMR対応ゲームを大々的に新発表するのではないかと期待されていたが、特にそうした動きは見られなかった。
ただ、だからといって“VRのブームは終わった”と考えるのは早計に過ぎる。ゲーム開発者のあいだでは、VRやMRに対する関心はなおも高い。現在は、ハードの普及や性能の向上を横目で見つつ、さらなるソフトを準備している段階だと想像できる。
ゆえに我々ゲームファンの側も、VRソフトの登場をさらに長い目で見ていく必要があるだろう。
業界向けの見本市から、一般公開型のイベントに変化するE3
この記事の冒頭で記したように、2016年から2017年の前半にかけては、新たなゲームハードの登場が相次いだ。だがここで1つ、重要な点を指摘しておかねばならない。
PlayStation 4 ProやNintendo Switchはいずれも、昨年のE3より後に開催されたメーカー独自のイベントで発表されて、その後に一般発売されている。つまり、発売前のハードをE3で一度も披露されることなく、そのローンチを迎えているのである。
そもそも、北米向けのゲーム見本市であるE3を、日本のゲームメディアがこうして大きく報じているのは、そこでの発表が北米だけでなく、日本を含めた全世界のゲーム市場に大きな影響を与えるものになるからだ。だがここ数年、E3の位置づけは大きく変化してきている。
インディーゲームの開発者のように、ユーザーとの対話を重視する人々は、業界向けの見本市であるE3ではなく、ユーザー参加型の他のイベントを重視する傾向が出てきている。
任天堂は数年前から、E3でプレスカンファレンスを行わず、全世界のゲームファンに動画配信で直接、新作ゲームを紹介する形を採っている。
また任天堂をはじめとする主要ゲームメーカーは、ゲーム紹介や開発者のインタビューを、E3会場から長時間のライブ動画で配信している。
こうした傾向を受けて、E3は今年から業界関係者だけでなく、一般のゲームファンも入場できるようになった。業者向けの見本市から、東京ゲームショウやgamescomのような、一般公開型のゲームイベントへと近づいたのである。
来年以降のE3でもこの形式が定着するのかどうかは、まだわからない。だが、ゲームの実況プレイや動画配信によって、ゲームファンとゲーム、そしてゲームメーカーが直接つながる時代へと変わってきている中で、世界最大のゲームイベントであるE3もまた変わらざるを得ないのは、疑いようのない事実だろう。
ゲーム自体がメディアとなることで、時代はクロスプラットフォームへと向かう
ゲームとゲームファンの関係が変化してきているという観点において、非常に興味深い2つの発表が今回のE3で行われた。
世界的な人気ゲームである『マインクラフト』と『ロケットリーグ』がそれぞれ、ハードの枠を越えたクロスプラットフォームを実現するというものだ。
『ロケットリーグ』のクロスプラットフォーム対戦自体は、昨年のE3で発表されていたが、今回は同作のNintendo Switch版が発表されたことで、Xbox OneとSwitchというコンシューマ機同士の対戦がいよいよ実現する。
『マインクラフト』の発表はさらに衝撃的だ。『マインクラフト』はもともと、オリジナルのPC版(Java版)から派生する形で、各コンシューマ機やWindows 10、スマートフォンなどのモバイルデバイスやVRといった多彩なハードへと広がってきた。
ところが今回、Windows 10/モバイル/VR版とXbox One版、そしてNintendo Switch版が1つのエディションに統合されて、クロスプレイやゲームサーバーの共有が可能になると明らかにされた。
この『マインクラフト』の展開は、単なるクロスプレイを意味するのではない。じつはWindows 10版の『マインクラフト』では今春から、“Minecraft マーケットプレース”と呼ばれるゲーム内ストアの運営が開始されている。
このストアでは大型のアドベンチャーマップやキャラクタースキンといった、さまざまなコンテンツを購入できる。今回発表された統合によって、こうしたコンテンツの購入データも、ハードを越えて引き継ぐことができる。
つまりMSとしては『マインクラフト』そのものを、ビジネスが可能な1つのプラットフォームと考えているのだ。その戦略において、ハードを越えてエディションを統合することは、ある意味で必然だと言えるだろう。
ゲームの実況配信が普及したことにより、人気ゲームはそれ自体がメディアとして、あるいはプラットフォームとして、ゲームファン同士をつなぐものになりつつある。同じゲームのファン同士がコミュニケーションを行ううえで、ハードの壁などないほうがいいのは当然だ。
今回のE3で明らかになった、クロスプラットフォームへと向かう動きもまた、ゲームとゲームファン、そしてゲームメーカーの関係が変化していることを象徴していると言える。
ゲームイベントを通じて、クリエイターとファンがつながりあう関係に
そんな新しい時代へと向かう変化の中で、E3をはじめとするゲームイベントはどうあるべきなのか。そしてゲームクリエイターとゲームファン、そしてゲームメーカーの3者はどのような関係を築いていけばいいのだろうか。
今回のE3における各社のプレスカンファレンスの中で、筆者が最も印象に残ったのは、“ユービーアイソフト E3プレスカンファレンス2017”の最後に繰り広げられた光景だ。
このイベントの最後に発表されたのは、『Beyond Good & Evil 2』というSFアクションアドベンチャーゲームだ。同作は2008年にいったん制作が発表されたものの、その後は開発が難航していると伝えられていた。
今回、9年ぶりに再始動の発表が行われた際、ステージに登壇したゲームクリエイターのミッシェル・アンシェル氏は、感極まって思わず目に涙を浮かべていた。
その直後、ユービーアイソフトのイヴ・ギルモCEOは、アンシェル氏をはじめとする同社のゲームクリエイターたちをステージに呼び込んで、観客に紹介した。
全世界から集まったゲームメディアの取材陣(彼らは熱心なゲームファンでもある)は、クリエイター諸氏に対して温かい拍手を送っていた。
ゲームの作り手であるクリエイター、送り手であるパブリッシャー、そして受け手であるゲームファン。ゲームによってつながる3者が、この瞬間に一体となっている素晴らしい雰囲気が、LAから遠く離れた日本で動画配信を見ている筆者にまで伝わってきた。
これからの時代において、E3をはじめとするゲームイベントがどのような形を採るべきなのか、筆者にもまだわからない。
だが、このようにゲームとそのクリエイター、そしてゲームファンが互いにつながりあう良好な関係を築くことが、今後のゲームイベント、そして今後のゲーム業界に求められているのは間違いないはずだ。