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2017年6月24日(土)

【電撃PS】高橋慶太氏のコラム『電撃ゲームとか通信。』全文掲載。ボタンという発明の偉大さについて

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している高橋慶太氏のコラム『電撃ゲームとか通信。』。ゲームデザイナーとしての日常や、ゲーム開発にまつわるエピソードを毎号掲載しています。

『電撃ゲームとか通信。』
『電撃ゲームとか通信。』

高橋慶太氏PROFILE

 バンダイナムコゲームス(現BNE)時代に『塊魂』、『のびのびBOY』を制作。その後『Tenya Wanya Teens』を発表。現在は新作『Wattam』と、GoogleのARプロジェクト“Tango”向けに『WOORLD』を開発中。

 この記事では、電撃PS Vol.640(2017年6月8日発売号)のコラムを全文掲載!

『電撃ゲームとか通信。』

第九十四回:引き続き“ボタン”という発明の偉大さについて考えてみます

 どうも。最近クレジットカードをマイルが貯まるものから使用額の何%かが返ってくるキャッシュバック系に変更した高橋です。

 アメリカの航空会社のカードを使っていたんだけど、まず驚いたのが、家族でマイルのポイントを貯めたり共有できないこと。JALやANAでは共有できるのが当たり前だから、アメリカでも当然そうだろうと思って調べずに使い始めたところ、どうやらそれはUnited(あ、言っちゃった)には当てはまらないことが発覚。

 次に驚いたのが、貯めたマイルでチケットを購入しようとしても、大きな額ではないけど税金以外の謎のチャージをされること。マイルだけで購入したいのに、結局マイル以外にも謎のお金を払う必要があり、何の為に貯めたマイルなのか意味が分からなくなって来たので、キャッシュバックというもっとわかりやすいものに変えたのです。

 そして“マイル”からより直接的な“お金”が返ってくることになったことで、財布の紐がなんとなくいつもより若干緩みがちという、まんまとクレジットカード会社の戦略にのっかってしまっている今日この頃。

 今回は前回のボタンの話の続き。以前から、戦う系のビデオゲームが多い理由は、“戦う”という事が太古からつながる人間を構成する基本要素の1つであり、その感覚を刺激することで人々が熱中できるゲームをつくるのは、諸手を挙げて肯定はできないけど、避けられないものだと考えてきました。

 ただ、いわゆるFPSや戦う系三人称視点のゲームの映像的な攻撃性/残虐性にみんなが食いついているようには思えないなあ、とも感じていました。例えば人気の『Overwatch』。撃ち合いという行為は置いておいて、残虐表現としては至ってマイルドな部類だし。

 などと考えているうちに、ボタンという入力装置の視点からこの問題を考えた時、なんか納得できる答えらしきものが出てきました。

 アナログ入力装置としてのボタンの持つ特徴は、A.接点が浅く入力に大きな力を必要としないこと。B.バネの力で指を離すと元に戻る事ができる(Bに関しては2度押しで元に戻る“オルタネイト動作”と呼ばれるものもあるけど、ここでは一般的な押して離すと戻る“モーメンタリ動作”と呼ばれるものの事を言います)。

 そして、このAとBという特徴を持つボタンを、物理的/反射的に気持ちよくコントロールできるゲームはなんであるか? と突き詰めた結果の産物が、頻繁にリズミカルにタイミング良くボタンを押すことに特化したシューターやアクションといったカテゴリーのゲームなのでないかと。

 パソコンでFPSが人気がある1つの理由はマウスを使って狙いを定め、クリックで撃ち、WASDキーで前後左右に動く、という完成された操作方法のお陰なのかもしれません。果たしてゲーム自身がコントローラーに影響を与えてきているのか、それとも逆なのか。

 それは卵と鶏どっちが先か問題と同じで答えはないけれど、もしも最初のビデオゲームが発明された時に、ボタンではなく他の入力機構を持ったコントローラーであったなら、今あるゲームの世界はちょっと違ったものになっていると想像できます。

 例えば、さっき例に挙げたオルタネイト動作。2度押しで元に戻る機構のボタンがデフォルトのものとして採用されていたら、シューティングゲームや格闘ゲームは絶対に生まれてない。

 その当時アコーディオンのような押し込んだり引っ張ったりする仕組みがもっとも一般的であった場合は、もしかして『のびのびBOY』のようなゲームがもっと早く出来てたかもしれません。

 それこそ最初のビデオゲームがVRだった場合は、コントローラーの形状はもちろんのこと、その後に生まれてくるゲームは全く違ったものになっていたでしょう。個人的に興味があるのは、ボタンという“入力装置”とゲーム内で“アクションをする”のが完璧な組み合わせなのかどうか。

 他の入力装置が踏み入る余地が無いのかどうか。と、そんなもしもの世界を想像するんだけど、ボタンというのが究極的にシンプルで最強の入力装置の1つであることは間違いありません。これが無い世界のことを想像できないくらいボタンは生活に溶け込んでいます。

 この記事を書いているパソコンのキーボードだって言ってしまえばボタンだし、ボタンが無くなってきているスマートフォンですら“押し込む”感触は別の方法を使って再現しています。

 ゲーム向けに代用の入力装置をつくることは可能だと思うけど、ボタンに置き換わるほど一般的になり得るものはなかなか難しいだろうなあ。と、ここでボタン入力の奥深さをもうちょっとだけ。

 やっぱり代表的な例はジャンプ。ただこれは長年の刷り込みや慣れからくる先入観かもしれないけど、“押す>離す/元に戻る”というボタンの機構を上手に生かしたい場合、“押す=かがむ”と“離す/元に戻る=ジャンプ”というのが良さげなアイディアっぽく感じるけど、そうとも言えないのが面白いとこ。

 不思議なことに、最初の“押す”でジャンプしてくれた方が気持ち良いのです。正確にいうと“押す=ジャンプ”ではなく“押す=ちょっとかがんでジャンプ”が正解。もしかしたら足がすごく長いキャラの場合は押すと離すを使ったジャンプが合ってるかもしれないけど、どうだろうなあ。

 そうなった場合は左足と右足のコントロールも分けたいかも。とまあ、例のごとく落ちはないんだけど、このボタンという一般的すぎて誰も気づかないけどすごい発明を超えるようなゲーム、もしくは何か楽しいものをつくってみたいものです。スーパー難しいですが。

 そして全然関係ないけど以前つくったARゲーム『WOORLD』がGoogle play awardでBEST AR Experience賞をとりました。へー、って感じ。ではー。

(C) Keita Takahashi

データ

▼『電撃PlayStaton Vol.641』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2017年6月22日
■定価:694円+税
 
■『電撃PlayStation Vol.641』の購入はこちら
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