2017年8月27日(日)
【電撃PS】この仕事をしていてよかったなあとなった話。山本正美氏コラム全文掲載
電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。
この記事では、電撃PS Vol.643(2017年7月27日発売号)のコラムを全文掲載!
第112回:誰のため、何のため
ちょこちょここのコラムでも書いていますが、僕はお酒を飲むのが大好きです。飲み屋という場所は、基本的に周りは知らない人たちばかりいる場なわけですが、こじんまりしたお店に足しげく通っていると、徐々に常連の人たちと仲良くなって、これがまた一段面白い空間になります。
仕事関連のメンツで飲むと、それぞれが抱えている状況次第では重い話題になったりもして、それはそれでもちろん楽しいのですが、利害関係のない人たちと飲みながら話すのは、まったく違った魅力があるのです。
ちょっと前、よく行く地元の焼き鳥屋さんでの話。常連さんとも会う回数が増えてくると、直接そういう話にはならないのですが、「お互い何をやっている人か」がだんだんわかってきます。
僕が知り合いになった常連さんには、いわゆる会社勤めの人もいれば、電車の運転手、プロ野球の審判、地元の建設業の社長、スナックのママ、防衛関係の人(この人はいまだに何をやっているかはっきりとはわかりません)、音大生など、多種多様な人がいます。
で、ある日、会話の流れで聞かれたわけです。「山本さん、ゲーム作ってる人なの?」と。
その人は、そのお店の親父さんの息子の彼女だったのですが、話していると、まあめちゃくちゃゲームに詳しい。それもそのはずで、彼女、誰もが知っている某大手ゲームメーカーの、元副社長の娘さんだったのですね。
彼女自身はゲーム業界とは違うお仕事をされていたのですが、JAPAN Studioのメジャー作品はもちろん、僕が手掛けた『勇なま。』や『TOKYO JUNGLE』なども知ってくれていて、いやー、嬉しいなあと盛り上がったわけです。そしてお酒も進んで話し込む中、ふと彼女がこんなことを言い出しました。
「ソニーさんのゲームで、『デカボイス』ってゲームがあったじゃないですか。あれ、すごく好きだったんですよね~」。
『デカボイス』は、2003年に発売されたPlayStation 2のゲーム。マイクを通した音声認識で、相棒の刑事や警察犬に指示を出しながら物語を進めていくアドベンチャーゲームでした。
自分としては結構な野心作だったのですが、ただ、セールス的にはまったく奮わなかった。なので、まさか14年も経った地元の飲み屋でこのゲームの話を聞くとは思ってもみなかったのです。
彼女もまさか僕がそのゲームのプロデューサーだと思わず、とめどなく溢れる熱い思いを語ってくれました。僕は、嬉しいやら恥ずかしいやらで、「実は、今の会社で初めてプロデュースしたのが『デカボイス』なんですよ……」と話したところ、エーっ! と店内に響く声で驚いてくれたのでした。
先日、武蔵野美術大学で講演をしたとき、質疑応答で学生さんからこんな質問がありました。「ゲーム制作者の皆さんは、遊んだ人の声とかをどれくらい拾っているのですか?」。講演の中で、ユーザーデータを分析してアップデートに活かす、という話をしたのでそれに関連した質問かと思ったのですが、よくよく聞いてみると、ぶっちゃけ作り手は、2chなどの掲示板を見たりするのかどうか?
ということが聞きたいようでした。僕はもちろん、「見ます」と答えました。かつて「社員必死だな」と書かれ、「社員必死です」と書き込んだこともある。日々のエゴサなんて当たり前、と答えたのです。
ゲームに限らずですが、作品は世に放たれた瞬間から、制作者だけのものではなくなります。作品を生み出すこと自体は制作者の自己実現の手段でもあるわけですが、特にゲームのような商業作品は、作品とはいえど遊んでもらえないことにはその価値はゼロに近い。
さらに言えば、ゲームは、絵画や小説のように、残っていさえすれば未来永劫鑑賞が成り立つ存在ではありません。ソフトはもとより、ゲーム機、モニター、そもそも電気がないと、体験すらしてもらえないモノなのです。
だからこそ、「今、この瞬間」に起こった反応をしっかり受け止め、次作への糧とする必要がある。もちろん、ネガティブな意見や心無い中傷にヘコむことは日常茶飯事です。向いていないのかな、と思うこともある。人によってはそういった「声」をシャットアウトする人もいます。
しかし、苦言を避けていては、たくさんある「面白かった!」の声にも辿りつけません。何年間もかけた苦労が報われる瞬間を、自ら捨ててしまう可能性だってあるのです。
恒久的に同じ状況で遊んでもらうことが難しいゲームは、一方で、テクノロジーの進化によって、遊び手の声や実際のプレイデータそのものを、作品の原動力にすることもできる。それが、ゲームの持つ唯一無二な素晴らしさだなあと思うのです。
僕らが作ったゲームで、ひょっとしたら人生が変わった人がいるかもしれない。僕らが作ったゲームで、ひょっとしたら救われた人がいるかもしれない。そう思えるような声を、掲示板であれツイッターであれ、偶然出会った飲み屋の人からであれ聞かせてもらえたとき、ああ、この仕事をしていてよかったなあと、こちらが救われた気持ちになるのでした。
ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー
山本正美 |
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ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ 部長兼シニア・プロデューサー。PS CAMP!で『勇なま。』『TOKYO JUNGLE』、外部制作部長として『ソウル・サクリファイス』『Bloodborne』などを手掛ける。現在、『V!勇者のくせになまいきだR』を絶賛制作中。公式生放送『Jスタとあそぼう!』にも出演中。
Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)
山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!