2017年9月13日(水)
9月7日よりSteamで、PC用アドベンチャーゲーム『東京ダーク』が配信開始されています。
『東京ダーク』では、プレイヤーは警視庁の女性刑事となって、彼女とその恋人でもある同僚の刑事に襲いかかった奇怪な事件の謎を解くため、東京の各地を巡って捜査を行うことになります。
主人公は捜査の過程を通じて、大都市・東京が抱える“闇”の部分に触れることになります。はたして彼女は自分自身の正気を保ちつつ、事件の真相に迫ることができるのでしょうか……?
アニメ風のビジュアルで、ホラー的な要素も含んだダークな世界観を描き出す本作の魅力を、ゲームインプレッションの形で詳しくご紹介します。
また記事の後半では、開発元であるcherrymochiのお2人に、本作が誕生した経緯や攻略のポイントなどをお聞きしていますので、お楽しみに。
冒頭でもご紹介したように、『東京ダーク』の主人公は警視庁の伊藤絢美(いとう・あやみ)刑事です。ゲーム開始の時点では、捜査一課の同僚であり彼女の恋人でもある田中一樹刑事が行方不明になっており、伊藤刑事は彼の捜索を行っています。
▲本作のヒロインとして活躍する、警視庁の伊藤絢美刑事。 |
田中刑事が行方不明となった背景には、伊藤刑事と田中刑事の2人が6カ月前に鎌倉で遭遇した、ある事件が関係しています。
“レイナ”と呼ばれる謎の少女を手がかりに、伊藤刑事がこの事件の真相を追求していくと、やがて彼女は衝撃的な真実を知ることになるのです……。
▲レイナと呼ばれる謎の少女は、以前に伊藤刑事と会ったことがあるようですが……? |
本作のゲームシステムは、ポイントクリック型のアドベンチャーゲームです。新宿や秋葉原、浅草といった東京の街が横スクロールタイプの2Dマップで表現されており、伊藤刑事を移動させて気になる場所をクリックすることで、新たな情報を入手できます。
街で暮らしている人々と出会った際には、会話の選択肢が表示されるので、それを選ぶことで会話が進行していきます。刑事らしく強く出るべきか、それとも優しく聞くかによって、相手の反応も変化しますから、選択肢は慎重に選びましょう。
ポイントクリック型といっても、伊藤刑事が街を移動していると、調査可能なポイントが四角い枠で表示されるので、見逃したりする心配はありません。
この種のアドベンチャーゲームにありがちな、調査に行き詰まってストーリーが進展しなくなる状態がほとんどないのが、本作の大きな特徴です。
NPCとの会話の内容に注意して、ヒントとなる情報をキチンと覚えてさえいれば、物語はスムーズに進行していきます。
ただし本作には、重要なゲームシステムが1つ存在しています。それは伊藤刑事の精神状態を示している“SPIN”と呼ばれる4つの数値です。
▲“SANITY(正気度)”、“PROFESSIONALISM(職業倫理)”、“INVESTIGATION(調査能力)”、“NEUROSIS(ノイローゼ)”の4種類の頭文字を取って“SPIN”と呼ばれるこの数値は、ESCキーを押すことでいつでも確認できます。 |
この数値はポイントを調べたり、何らかの行動を実行したりするたびに、数値が増減して変動します。じつはこの数値によって、ストーリーの進行にも変化が生じているのです。
といっても、SPINの数値がどのように影響しているかを確認するには、トライ&エラーを繰り返す以外にはありません。しかも本作の1周目では、オートセーブされているので後戻りしてやり直すということも不可能です。
鍵のかかったゴミ箱を開くには、拳銃を撃って鍵を壊すことも可能ですし、NPCから鍵を入手して開くことも選べます。
その時点のSPINの数値によっては一方の選択肢しか選択できないこともある他、どちらを選んだかによってもSPINの数値が変動し、その後の行動に影響します。
そのため最初のプレイでは、自分が直感的に選択した結果を受け入れるしかないのです。それでも行き詰まることはほとんどないので、誰でもエンディングまでたどり着くことができるはずです。
それがいったいどのようなエンディングなのかは、それまでの選択によりますが……。
エンディングを迎えるまでのプレイ時間は、テキストを読み進めていくスピードにもよりますが、だいたい4~6時間ほどでしょうか。ちなみに、いったんエンディングを迎えると、2周目以降のプレイ用に“New Game+”というモードが開放されます。
このモードではセーブスロットを使用して選択をやり直すことが可能になる他、シナリオの一部が変化し、新たなエンディングも追加されます。このモードを駆使することで、物語の全容を追求することも可能です。
刑事が主人公で、行方不明の同僚を探すという導入から始まる『東京ダーク』ですが、じつは本作のメインストーリーには、伝奇ホラー的な展開も盛り込まれています。
先に紹介したSPINの数値の中に“正気度”というパラメータがあるように、恐怖は本作の重要な要素となっています。
しかも伊藤刑事が東京の街で出会う人々の中には、ヤクザのような裏社会の人間たちも存在しています。また、一見すると普通の生活を送っている人々のなかにも、じつは意外な問題を抱えている人物もいます。
タイトルのとおり、現代日本のダークな部分にスポットを当てているのが、本作のユニークなところです。
かといって、読んでいて気が滅入るような展開が続くゲームなのかというと、そうでもありません。メインストーリーには思わず息が詰まる内容も登場しますが、一方で東京の街で暮らすNPCとの会話では、思わず笑ってしまうほどコミカルなやり取りが繰り広げられています。
このNPCのキャラクターが、じつに個性的でおもしろいんですよ。個々のキャラクターにそれぞれの生活が存在しており、しかも調査を進めていくと、NPC同士が意外なつながりを持っていることがわかるといった展開も用意されていたりして、プレイを進めていくうちにきっと、お気に入りのNPCができるはずです。
▲秋葉原のメイドカフェを訪れた伊藤刑事は、パンケーキを口にして思わずうっとりとした表情を見せてくれます。 |
東京の街で暮らす人々の人生模様と、その裏側に潜んでいる恐ろしい“闇”を、主人公の伊藤刑事とともに体験できるのが、本作の最大の魅力だと言えるでしょう。
プレイを終えたあと、ヒロインの伊藤刑事や印象的な登場人物についてゆっくりと考えたくなるような、そんな味わい深いゲームとなっています。
さてここからは、『東京ダーク』を開発したインディーゲームスタジオ“cherrymochi”のジョン・ウィリアムズさんとウィリアムズ真保さんご夫妻に、開発の経緯などを伺います。
ジョンさんはイギリスの出身ですが、お2人は現在鎌倉で暮らしており、ゲームの開発拠点もそちらに置かれています。
なお今回のインタビューは、ジョンさんの英語を真保さんが日本語に通訳しつつ、真保さん自身のコメントを随時補足していくという形式で行われました。そのため記事上では、お2人のコメントを1つにまとめる形となっています。
▲『東京ダーク』クリエイティブディレクターのジョン・ウィリアムズさん(左)と、プロデューサーのウィリアムズ真保さん(右)。 |
――本作は、“Square Enix Collective(スクウェア・エニックス・コレクティブ)”と呼ばれるプロジェクトから登場したタイトルですね。このプロジェクトは、いったいどんなものなのでしょうか?
“スクウェア・エニックス・コレクティブ”は、インディーゲームの開発支援を目的として、イギリスにあるSquare Enix Ltd.が展開しているプロジェクトです。
このプロジェクトではまず、インディーゲームの企画を1週間に1本ずつ公開して、一般の皆さんにこのゲームを実際に遊びたいかどうかを、まず聞くんです。
『東京ダーク』は投票の結果、94%もの支持を得られたので、プロジェクトのサポートを受けられるようになりました。
――支持が得られると、どういったサポートを受けられるのですか?
制作資金の調達に必要なクラウドファンディングのサポートと、マーケティングやパブリッシングに関するサポートを、プロジェクトから受けることができます。
ただし制作資金は、キックスターターで得られたファンドと自分たちの貯金のみで、プロジェクトからは出ないんです。その代わり、完成したゲームのIPの権利や、ゲーム内容に関する決定権は100%、自分たちのものになります。
なにしろ小さなスタジオですから、ゲームの制作だけで手一杯で、マーケティングまではまったく手が回らないんです。Steamのページの準備や、海外のメディア取材のセッティングといった部分を受け持ってもらえたのは、本当に助かりましたね。
――続いて、cherrymochiがどのように誕生したのかをお聞きしたいのですが、お2人は以前からゲーム開発などを行っていたのでしょうか?
cherrymochiはもともと、夫婦2人で始めた小さなスタジオなんです。
ジョンは以前、イギリスのヒューレット・パッカードで、GPSを使ったPDA用ゲームを開発していましたが、ジョン自身がディレクターを担当してゲームを制作するのは、今回が初めてです。ちなみに私(真保さん)は、ゲームやアニメやマンガが大好きなただのオタクです(笑)。
▲cherrymochiの開発拠点が置かれている鎌倉は、重要な舞台の1つとしてゲームにも登場します。 |
――お2人はどんなゲームがお好きなのでしょうか?
ジョンが最近プレイした中では、『ニーア オートマタ』が大のお気に入りですね。このゲームについて1日中話し続けているぐらい、ヨコオタロウさんの世界観が大好きなんです。
それから『シュタインズ・ゲート』をはじめとする、日本のビジュアルノベルも好きだし、『Bloodborne(ブラッドボーン)』も好きですね(ジョンさんによると「宮崎英高さんは自分にとって神だ!!」とのこと)。
『東京ダーク』の1周目がオートセーブされて後戻りできないのは、ゲームジャンルこそ違いますが、『ブラッドボーン』や『ダークソウル』シリーズに影響されている部分があります。
――ゲームを好きになったきっかけとなるような作品はありますか?
今から20年ぐらい前は、イギリスではコンシューマゲーム機がほとんど普及していなくて、PCでゲームを遊ぶのが主流だったんです。
ジョンはその頃、PCで『DOOM』や『Quake』といったFPSを遊んでいて、そのMODとしてオリジナルのレベルを自作してネットで配布するようになったことが、ゲーム開発のきっかけになったそうです。
そんな中、1998年にイギリスで、PC版の『ファイナルファンタジーVII』が発売されました。ジョンはそれまで、FPSのようなアクションゲームを遊んでいたのですが、『FFVII』がきっかけとなって、ストーリーを楽しむゲームのおもしろさに目覚めたのだそうです。
――『東京ダーク』の開発は、どのようにスタートしたのですか?
ジョンは日本に長く住んでいることもあり、日本の都市伝説や歴史、それから“JKビジネス”といった現代日本の社会問題を、ゲームの中核となるストーリーとうまく融合できないかと考えていたんです。
ジョンはこのゲームで、ストーリーとプログラミングと背景アートを全部自分で担当しています。音楽とキャラクターデザインは自分では無理なので、この2つを担当するスタッフと、英語版ストーリーの共同ライターと開発アシスタント、それに私(真保さん)を加えた6人で、基本的には開発を行っています。
▲ゲーム中には、映像スタジオのグラフィニカが制作したアニメーションも盛り込まれています。 |
――ストーリーのテキストはまず英語で執筆されて、それを日本語に翻訳する形でしょうか?
最初は英語で書き起こされたストーリーを私(真保さん)が日本語に訳していたのですが、このゲームではテキストが非常に重要になるので、日本語の表現をもっとうまくやりたいと思って、小説家の嬉野君(うれしの きみ)さんに翻訳をお願いしました。
嬉野さんが日本語に翻訳したものを、Co-writerのクリスがもう一度英語にしてジョンに渡すと、それを見たジョンがストーリーを修正したりといった、アイデアの共有も行われています。
コアとなる物語は英語で先にあったものですが、そういったやり取りを通じて、英語と日本語、両方のバージョンをよりよいものにすることができました。
――実際にプレイしてみて、日本のコンシューマゲームでは中々踏み込めないような、東京をはじめとする現代日本が抱えているダークな側面にまで切り込んでいるので、驚きました。
東京を舞台にしたホラーゲームを作るのであれば、決して他の都市には置き換えることのできない、東京でしか起こりえない物語を描きたかったんです。自分たちは東京という都市が好きで、明るい面も暗い面も含めたその魅力を、世界に伝えたかったので。
それに東京は、新宿や秋葉原や浅草といったその中にある街ごとに、それぞれ個性がありますよね。その個性をゲームにも採り入れたいと考えました。そういう意味では、本作では移動先となる街自体も、重要なキャラクターになっているんです。
たとえば秋葉原では、いわゆる“JKビジネス”の話題が登場します。でも最初からその話題を描きたいと思っていたわけではなくて、秋葉原という街の個性を表現しようと思った時に、その話題を採りあげるのがいいだろうと考えたからなんです。
――ところで、メインとなるストーリーはかなりダークでヘビーな内容ですが、主人公をはじめとするキャラクターはなぜ、アニメタッチで表現されているのですか?
せっかく東京を舞台にしているのに、リアルなタッチのキャラクターが出てきたら、逆に違和感がありませんか? 私たちとしては“日本=アニメ”というイメージがあるので、むしろこれが自然な選択だったんです。
実際に欧米では、いろんなゲームショウに本作を出展すると、アニメ風のビジュアルに興味を持って立ち止まってくれる人が、非常に多かったんです。その意味でアニメスタイルのビジュアルは、マーケティング面での大きな強みになりましたね。
――メインストーリーがかなりダークで重い内容なのに対して、新宿や秋葉原で出会う街の人々のエピソードはちょっとコミカルな雰囲気で、その落差が心地よいバランスになっていて、楽しかったです。
プレイしている間、ずっと怖い、ずっと重たいというホラーゲームもありますが、本作はそうではありません。20分ごとに何か新しいことが起きて、20分ごとにゲームのトーンが変わっていくというのを意識して作っています。
それに、街の住人たちそれぞれにも背景となるストーリーがあって、プレイヤーの選択によってはキャラクターたちの運命も変わっていくんです。
▲新宿でバーを営む大三は、店の経営が思わしくないため、今の仕事を続けようか悩んでいます。このようにNPCの人生模様がかいま見えるのも、本作の魅力となっています。 |
――近年の日本のアドベンチャーゲームは、選択肢を選ぶことでストーリーが分岐していくノベルゲームの形式がほとんどです。それに対して『東京ダーク』は、ポイントを調べてフラグを立てることで新たな展開が発生するという、クラシックなスタイルのアドベンチャーゲームになっているのが、逆に新鮮な感じを受けました。
クラシックなアドベンチャーゲームからの影響はありますね。再度スクロールの画面でストーリーが進行するのは、『クロックタワー』などの作品を意識しています。
――あっ、そうなんですか! 個人的には『マニアックマンション』をはじめとする、ルーカスアーツのアドベンチャーゲーム(※)を連想していたのですが。
※ルーカスアーツのアドベンチャーゲーム……1980年代後半から1990年代にかけてPCなどで発売されたルーカスアーツ社のアドベンチャーゲーム(『モンキー・アイランド』、『グリム・ファンダンゴ』など)は、ポイント・クリック型のアドベンチャーゲームを代表する作品として、海外では高く評価されています。
もちろんそういったタイトルの影響も受けています。私たちは、欧米のゲームデザインと、日本のビジュアルノベルのストーリーをミックスしたようなゲームを作りたかったんです。
でもジョンは、アドベンチャーゲームのストーリー自体はすごく好きなんですけど、ストーリーを進めるためにパズルを解くのは苦手なんです。
だから『東京ダーク』にもパズルの要素はあるのですが、それはストーリーの進行に行き詰まってしまうほど難しいものではありません。
探索を続けてキャラクターと会話していると、自然とストーリーが進んでいくような形を目指して作っています。
――本作では何か行動を実行するたびに、主人公の精神状態を表す“SPIN”と呼ばれる4つの数値が変化しますよね。このSPINの数値はゲームの展開にどれぐらい影響しているのですか?
SPINの数値はとても重要です。この数値によって、街のキャラクターたちの主人公に対する態度が変わってセリフが変化しますし、SPINの数値によっては選択可能な場所や行動が画面に表示されない場合もあるんです。
――なるほど! それは重要ですね。
じつはほとんどのシーンに3パターンぐらいの展開があって、SPINの数値やプレイヤーの選択によって変化します。
エンディングの分岐にもSPINの数値が関係していて、1周目では10種類、2周目以降の“New Game+”でしかたどり着けないエンディングが1つの、全部で11種類のエンディングが存在しています。
すべてのエンディングを見ようと思ったら、行動によってSPINの数値を上手く調整する必要があります。
その意味では、ゲーム全体が1つの大きなパズルのようになっているのです。なんでも拳銃で撃ったりといった極端な行動をとり続けていると、エンディングも極端なものになるかもしれません。2周目以降の“New Game+”で開放されるセーブスロットを使って、いろいろと試してみてください。
――わかりました。『東京ダーク』の配信が始まったばかりの段階ですが、cherrymochiでは今後、どのような活動を計画されていますか?
スタジオとしてはもちろん、新しい作品を計画しています。それから『東京ダーク』のPC版が成功したら、コンシューマ機への移植もぜひ考えたいと思っています。
ゲーム以外に『東京ダーク』のアニメや小説、コミックといった可能性もあるのなら、それはとてもうれしいですね。プレイした人の中で、キャラクターのファンアートを描いたり、コスプレをしてくれたりする人が出てきてくれたら、ぜひ見てみたいですね。
――では最後に、このゲームについて興味を持った皆さんへメッセージをお願いします。
『東京ダーク』は日本発のゲームではあるのですが、外国人の目線から見た日本や東京の描写も入っている、ユニークな内容になっています。プレイした人はきっと驚いたり、いろんな新しい発見ができると思います。
ふだんゲームをやらない人でもストーリーを楽しめるゲームになっていると思いますので、ぜひ楽しんでみてください!
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