2017年10月31日(火)
アニプレックスは、公開中の劇場版『Fate/stay night[Heaven’s Feel] I.presage flower』の主題歌を歌うAimer(エメ)さんと音楽担当の梶浦由記さんによる対談の内容を公開しました。
劇場版『Fate/stay night[Heaven’s Feel]』は、ヴィジュアルノベルゲーム『Fate/stay night』の3つ目のルート“[Heaven’s Feel](通称・桜ルート)”を全3章で映画化する作品です。主人公の士郎を慕う間桐桜を通じて、聖杯戦争の真実に迫るストーリーが展開します。
対談は、『Fate/stay night[Heaven’s Feel] I.presage flower』が公開後1週間での興行収入4億円、観客動員数24万人を突破したこと記念して実施されたもので、『HF』の見どころや音楽の“聴きどころ”などについて話されています。
対談では、ネタバレともいえる主題歌に隠されたヒロインの思いや、これまでの『Fate』にはない音楽性などが話題となっています。
また、現在のアニメ技術を最高まで生かした映像面についてAimerさんが「どれだけの血と涙が流されたんだろう……」と思わず制作陣を心配する一幕もあったとのことです。
――本作品をご覧になっていかがでしたか?
梶浦由記さん(以下、梶浦):私は絵合わせの段階から何度も見ているんですが、完成したものがここまですごい映像になると思いませんでした。雪のきれいさや表情の細かさ……何より大量の虫ですね。
Aimerさん(以下、Aimer):ああ~(笑)
梶浦:なぜこんなにていねいに描いちゃったんだ! みたいな(笑)。後は街の美しさです。街に流れる静かで穏やかな空気。前半の平穏な美しい街と、後半の冷え込んでいく街の対比がよく出ていたと思います。
Aimer:私はとにかく戦うシーンに感動して、「どういうことなんだ!?」って思うくらい迫力を感じました。それにキャラのセリフが少ない分、効果音も印象的でしたね。最初に士郎が弓を引く音などもリアルで、まるで実写映画のようでした。
――他に映像面で印象に残ったところは?
梶浦:バーサーカーとの戦いがとにかく怖いんですよね。映画館で見ると、ものすごく大きくて「サーヴァントの戦いってこんなに恐ろしいものなんだ」って改めて思いました。大きくてスピードも速くて、「こんなの勝てないよ」って。大画面だから伝わってくるものもあるので、一度劇場で見ておくと、サーヴァントがむちゃくちゃ怖くなりますよ。
Aimer:絶望感がありますよね(笑)。私は、士郎がよくわからない世界に巻き込まれていく姿に感情移入しました。どうなっちゃうの? 本当に死んじゃうんじゃないの? っていう恐怖がつねにありましたね。本作の士郎には「絶対負けない」っていう雰囲気がないので。
梶浦:ないですよね
Aimer:この映画では、現実感のある風景の中で、多くの人に気付かれないまま戦いが進んでいくじゃないですか。私も夜に散歩をするのでとてもイメージできて、真夜中の街ってすごく静かで「ここで何か起きてもわからないんじゃないか」って頭に浮かぶことがあります。そうした場所で私たちの知らない戦いがあり得るかも、と考えさせられるリアリティーもすごいです。
梶浦:士郎逃げて! って本気で思ってしまう。不安感が半端じゃないですよね。
――音楽について監督から指示はありましたか?
梶浦:本当は、前半に音楽を1曲も入れたくなかったみたいですね。その意図に沿って、できる限り音楽を抑えた分、後半とのメリハリが生まれたと思います。
――梶浦さんは以前の『Fate』シリーズでも音楽にかかわっていますが本作の特徴は?
梶浦:今回は、これまで描かれていた『Fate』の物語が、士郎と桜による日常の裏側にあります。ですから裏の話が進んでいく時は、今まで通りのたくましい音楽で。反対に士郎たちのパートでは、ラブストーリーを盛り上げる音楽になっています。こちらは以前の『Fate』にはない音ですね。
Aimer:士郎たちの狭い世界の背景に壮大な戦いがあるという対比になっているんですね。ちなみに、士郎と桜が蔵の中でお話するシーンで『花の唄』のアレンジをしていただいた楽曲が流れ、そこで私は思いっきり泣きました(笑)。
梶浦:気づかない方も多いと思いますけど、実は『花の唄』のメロディーは本編の音楽に何度も使われていて。オープニングテーマにも歌のサビが仕込まれているんです。
Aimer:え! そうなんですか!? もう1回じっくり見てみます。
――話題に出た主題歌『花の唄』は梶浦さんが作詞・作曲・編曲を担当していますが、歌詞はヒロイン・間桐桜の心情を表しているのでしょうか?
梶浦:はい。完全に桜目線の歌がいいと思いまして。今作の第1章では、桜はあまり自身の感情を表に出しませんよね。エンドロールで桜の思いを素直に言葉にすることで、彼女への理解を深めてもらおうとの狙いがあります。ただ歌詞は少しネタバレですけど(笑)。その旨を制作側に伝えたら「いいんじゃないですか」って。
――Aimerさんが『花の唄』を初めて聞いたときの印象は?
Aimer:サビのメロディーが印象に残りました。「え? ここでこの音になるの?」って。行っちゃいけない音にあえて行っているというか。歌詞も1番では「貴方のこと傷つけるものすべて私はきっと許すことができない」と来て、2番では「私を傷つけるものを貴方は許さないでくれた」とか。歌詞を追うにつれて、どんどん殴られている感じすらしました。
――なるほど……。
Aimer:これほど女性的な歌詞を、これまでで初めて歌いました。桜の物静かなたたずまいがあるからこそ、歌詞のすごみが出てきますよね。でも自分も女性だから、とてもシンパシーを感じます。汚れのないものって、振り切ってしまえばどす黒くなる場合もある。歌っていて、自然と感情的になりました。
――本作で好きなキャラクターは誰ですか?
梶浦:やっぱり桜ですね。“桜を好きになろうよ”って作品ですよ、これは。1人の少女が不穏な世界に巻き込まれていく中、士郎たちがどうやって困難に立ち向かっていくのかを見守ってほしいです。
Aimer:私も桜です。これまでの作品だと“料理を作っている子”というイメージでしたが、彼女の内面を知ることができて好きになれる映画です。
――最後に改めて劇場版『Fate/stay night[Heaven’s Feel]』の“見どころ・聴きどころ”を教えてください。
梶浦:音にたずさわった者として、士郎と桜の2人の世界と、バトルシーンの音楽の落差に注目していただければ。中盤には、サーヴァントであるランサーと“あるお方”との長い戦闘があって、作画監督も私も力を入れているので、ぜひしっかり見てほしいですね。余談ですけど『Unlimited Blade Works』(2014年のTV版)の1話と2話を見ておくと、より物語がわかりやすいかと。
Aimer:日本アニメのクオリティーってここまできたんだ、っていうのが本作でよくわかります。戦闘シーンの制作では、どれだけの血と涙が流されたんだろう……という。心配になってしまうくらいでした。
梶浦:ふふふ。
Aimer:それに主題歌ですが、自分で歌ったのにエンドロールで感動して泣いてしまいました(笑)。梶浦さんが桜の気持ちを表現してくださったのでエンドロールで席を立たずに最後まで『花の唄』を聞いていただけたらうれしいです!
――なるほど……一度見たのに、もう一度見たくなってしまいました……本日はありがとうございました。
15歳のころに“声が出なくなる”というアクシデントに見舞われるも、数年後には独特のハスキーで甘い歌声を得ることとなります。
インディーズでの活動を経て、2011年に『六等星の夜』でメジャーデビュー。2016年9月に発売したアルバム『daydream』はCDショップ大賞2017準大賞を受賞。今年5月には初のベストアルバム『blanc』、『noir』を2枚同時発売し、ロングセールスを記録中。
作詞・作曲・編曲を手掛けるマルチ音楽コンポーザー。1993年に“See-Saw”のコンポーザー兼キーボディストとしてデビュー。
2002年、TVアニメ『機動戦士ガンダムSEED』のエンディングテーマ『あんなに一緒だったのに』がヒット。並行してアニメを中心とした劇伴音楽を手掛け、数々の話題作を担当します。
2004年より個人プロジェクト“FictionJunction”の活動を開始。“Yuki Kajiura LIVE”と称したライブも精力的に行い、現在vol.#13まで開催。2017年1月には、劇伴を担当した大人気アニメ『ソードアート・オンライン』をコンセプトとしたライブをアメリカ・ハリウッドで開催。
日本国内のみならず海外でもワンマンライブを行うなど、世界中のファンを魅了しています。また、ヴォーカル・ユニット“Kalafina”を全面的にプロデュース。発売した5作のオリジナルアルバムと2枚のBestアルバムすべてをTop10入りさせるなど、世界中にその名を轟かします。
アニメ作品以外にも、北野武監督・主演映画『アキレスと亀』やNHK歴史番組“歴史秘話ヒストリア”、NHK連続テレビ小説“花子とアン”の音楽を担当するなど、ジャンルを問わず、幅広い作曲・音楽プロデュースを手掛けます。ヨーロッパと東洋のエッセンスが融合した独自の世界観を持つサウンドで、日本のみにとどまらず、ワールドワイドに熱い支持を集めています。
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