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2017年11月22日(水)

『オーバーウォッチ』を“観る”楽しさ――eSportsプロチーム"SCARZ"が語る戦術面でのポイントとは

文:電撃PlayStation

 全世界3500万以上のプレイ人口を誇るアクションシューティング『オーバーウォッチ』(以下『OW』)。

『電撃PlayStation』

 11月3~4日のイベント“Blizzcon2017”で行われたワールドカップ決勝トーナメントでは1試合1試合激戦が繰り広げられ、その白熱ぶりを日本から観ていた方も多いことと思います。

『電撃PlayStation』

 そんな『OW』、11月17日にはBlizzcon2017で発表されていた新キャラクター”Moira”が実装となったほか、3日後の11月25日からは日本のトッププレイヤーも集う大会“Overwatch OPEN DIVISION JAPAN”シーズン3がスタート。さらに12月からは全世界の都市に根ざしたチーム群が覇権を競う“オーバーウォッチリーグ”も始動(ともにPC版での展開となります)……と、ここ最近とくにeSports関連での新展開があったことで、あらためて『OW』への熱が高まっている方も少なくないはず。

 そんな方々に向けて、本記事では第一線で活躍を続けているeSportsプロチーム"SCARZ"の面々に、ワールドカップの名試合をもとにして試合での“戦術的な見どころ”や“攻守のための考え方”などをうかがってみました。

■解説してくれたSCARZメンバー

Tsurugizさん
『電撃PlayStation』
▲『OW』部門コーチ。攻守の意志統一、上達の手助けなど、主に戦術的な面で舞台裏からメンバーをサポート。元選手で、当人の腕前も相当なもの。今回主に解説してもらった。
はせがわさん
『電撃PlayStation』
▲『OW』部門選手・DPS(攻撃手)。抜群のエイム力を誇る。得意キャラクターはトレーサーやマクリー、ウィドウメイカーなど。
AsianSushiさん
『電撃PlayStation』
▲『OW』部門選手・Support。マーシーをはじめ、サポートキャラクターをメインに選択。確かな戦略眼で前線を支える、チームのライフライン。

 今回解説のためにSCARZに選んでもらったのは、Blizzcon2017で行われたワールドカップの準々決勝・アメリカVS韓国の第3マッチ目、HANAMURAステージでの試合。

 熱戦のすえ互いに4ポイントずつ獲得するものの最終的にドローという、"史上最高のHANAMURA戦”との声も多い1戦だけに、チェックすべき点が多くあったようです。

■OWWC 2017 | Quarterfinal | US vs. KR

ラウンド1(攻撃:アメリカ 防衛:韓国)

●01:04:20付近

Tsurugiz:まず、お互いの構成を見てください。攻め側(アメリカ)は最初ウィンストン、D.Va、トレーサー、ソルジャー76、マーシー、ゼニヤッタというダイブ構成(突撃能力に秀でたキャラクター中心の構成)。一方、防衛の韓国側はオリーサ、ロードホッグ、ジャンクラット、トレーサー、マーシー、ゼニヤッタです。

 韓国側はオリーサを中心としたじっくり引いて守れる構成で、これはダイブ構成のアンチ(有利に対抗できるキャラ・構成)になるんです。なので、遠目からそれを確認したアメリカ側は、交戦前に速攻でウィンストンをロードホッグに、ソルジャー76をジャンクラットにキャラチェンジしています。

 この即断が素晴らしい。ジャンクラットを出す理由としては、オリーサに対してジャンクラットが強いからです。盾割りでも強いし、弾が放物線を描くので盾の上を通過できて、後衛に直接攻撃を加えられるという点でも有利です。アンチではないですが、相手の構成に"刺さる"可能性の高いキャラですね。

『電撃PlayStation』

●01:05:00付近

――ここでアメリカのジャンクラットの弾で不意に韓国のマーシーが倒れ、その後ジャンクラットが敵複数の待ち構える高台へ一気にジャンプ。

はせがわ:相手のマーシーが落ちたので一気に行って、連続キルしてますね。これはもちろんプレイヤースキルあってのものですが、仮にジャンクラットが死んでも高台のポジションを取れればプラスになるので、この突撃は十分アリです。

Tsurugiz:逆にオリーサにプレッシャーをかけず高台を放ってキャプチャーポイントに行こうとすると、ヒーラーがPoke(長射程のアビリティなどで攻撃されること)されてしまったりとか、ポイントに移動する途中でやられてしまう可能性もある。

 なのでAをとるためにはまず高台の安全を確保しないとねっていう共通認識のもと、チーム全員でそこを攻めた感じですね。

●01:05:45付近

――アメリカチームがそのままポイントAを奪取。ポイントBへ向かい、右手奥・建物の2階から攻める。一方韓国はポイントAを奪われてすぐタンク2名がキャラクターチェンジ。ウィンストン&D.Vaが出撃。

『電撃PlayStation』

Tsurugiz:ここもそうですね。基本的にポイントB右上の高台と、正面の2F通路をまず確保する。例えば攻め側がソルジャーだったりウィドウだったりジャンクラットだったりをその位置に置ければ、それだけでもう防衛側は対処しにくいんです。

 韓国側はそうさせないためにこうしてウィンストンが移動して防衛しています。有利なポジションを譲らない。目的のポイントを狙う/守るために、まず攻守の要となる位置を奪い合う戦いがあるわけです。

――その後アメリカ側が複数キルし、キャプチャーポイント内で敵味方入り乱れる混戦の展開に。

Tsurugiz:こういう混戦になってくるとあとはフォーカス(複数人で目標を合わせ攻撃する行為)と個人技がものをいうわけですが、防衛側がそういった状況に持ち込まれてしまったのはやはり要所となるポイントを取られてしまったからです。

 普通の試合でもよく見ますが、ソルジャーなどがずっと高台からフリーで打ち続けているような状況ですね。リスポーンした人はポイントに入らないとならないため、なかなかそこまで対処しに行けず……ここからの逆転が難しいわけです。

――第1ラウンド、アメリカ側がポイントBを奪い勝利

ラウンド2(攻撃:韓国 防衛:アメリカ)

●01:08:45付近

Tsurugiz:第2ラウンド、韓国側はFLOW3R選手がウィドウメイカーを選択しています。このあと飛び抜けたパフォーマンスを見せてくれるんですが……そもそもウィドウを出す利点は"遠目からキルを取れる"だけじゃないんです。

 ウィドウが狙っているということはそこに"顔が出せない""正面に立てない"ということだから、その射線すべての"ポジションを取れる"のが重要。もちろんキルを取れることは大事ですが、仮に取れなくてもチームとしての仕事はできているんです。

 ウィドウが出ているっていうことで、相手のポジションを強制的に動かしている。移動可能な範囲を狭めている。とくにHANAMURAのポイントA付近だと位置的にウィドウに対処するのが難しいし、ポイントの正面に障害物がないためウィドウやハンゾーが強いマップだというのもあります。

 アメリカ側は射線を避けて横に捌けるしかない。だいたいリスポーン鑑みてポイントB側に集まりますね。今回はFLOW3R選手の連続キルもあってそのままポイントAを奪えていますが、よくあるのが、ウィドウがポジションを確保したあとにトレーサーなどがポイントに入るパターン。

 トレーサーをポイントに置くことで防衛側は誰かしらポイント内に入るしかなくなり、入ってきたらそこでウィドウがキルを取る。チームの連携として重要な動きです。

●01:10:10付近

――ポイントAを奪取し、韓国側はポイントB右上の高台へ。アメリカ側はソルジャー76がゲンジにキャラクターチェンジ。

Tsurugiz:ウィドウがポイントB正面2Fを確保していますが、このポイントを取ると、相手は位置的にこのウィドウに対処しにくいんですよ。むりやり飛んでくるしかない。もちろんアメリカのウィンストンがウィドウをどかそうと試みるんですが、1人だとなかなかうまくいかない。

――アメリカ側はウィンストン&D.Va&ゲンジで高台の防衛に当たり、FLOW3R選手のウィドウメイカーを撃破。しかしその後も韓国の猛攻が続く。

●01:11:10付近

AsianSushi:ここもいいプレイだよね。韓国側のウィンストンがジャンプパック&プライマルレイジで1キルとって、近くにいたアメリカのソルジャー76は一度逃げるんだけど……。

Tsurugiz:そのあとウィンストン側は離れると見せて曲がり角の死角で待機して、戻ってきたソルジャーを倒してるんですよね。こういうのが、ゲームをよく理解したうえでの個人技です。

 そしてそのあと味方のヒーラーが1人落ちてしまったのを見てすぐ退いてます。ここは6人で行かないとポイントを奪える可能性がかなり低い場面ですので。

――6人そろって仕切りなおした韓国は、ウィドウメイカーが再び高台を占拠。アメリカのウィンストンが対処に向かうも逆にそれを撃ち落とし、そのままの流れでポイントBを奪取した。

はせがわ:アメリカのゲンジもウィドウに向かおうとしていたんですが、韓国側のウィンストンがそれをよく見ていて仕事をさせていなかったですね。

Tsurugiz:ゲンジが飛ぶ前に抑えて、そもそもウィドウのところに行けないようにしてましたね。防衛側もあの場面でウィドウを出して、攻撃側のウィドウを狩る手もありますが、逆に言うとそれだけ極端なことをしないとあの場面であの場所にいるウィドウをどかすのはなかなか難しいと思います。

ラウンド3(攻撃:韓国 防衛:アメリカ)

『電撃PlayStation』

●01:14:44付近

AsianSushi:このラウンド、アメリカがウィドウ対策のいい立ち回りをしてましたね。相手にウィドウがいるってわかったらすぐ右側に退避して、ウィドウが高いところに乗ったらその瞬間にD.Vaやウィンストンがすぐ対処し、とにかく随時ウィドウを狙撃可能な位置に乗らせない動きをしています。

 FLOW3R選手もやりにくかったんじゃないかな。ただ、逆に韓国のほかのメンバーが、"そこに固まってるならポイントを踏もう"ってことでポイントA内に入り、アメリカ側の陣形を動かしたりもしていますね。

――その後アメリカ側がうまく防衛し、韓国のFLOW3R選手はウィドウメイカーからゲンジにキャラクターチェンジ。

はせがわ:ゲンジを出した理由としては、アメリカ側が2カ所に分かれた配置になることが多いから、そこをフォーカスして狙えるようにってことかな。

『電撃PlayStation』

Tsurugiz:このあとだいぶ膠着しましたね。お互いアルティメットアビリティの撃ちどころを探っていた状況でしたが……。韓国側がこのままポイントAを奪ってます。

はせがわ:これなんで取れたかと考えると、やっぱり韓国のトレーサーが、アルティメットアビリティを持っているアメリカ側を即座に倒していたからかな。ゼニヤッタとソルジャー76を両方とも暗殺していましたね。

――ポイントAを奪った韓国側はポイントBへ。しかしこの時点で残り時間は30秒程度。

Tsurugiz:残り時間少ないですが、こういうときも韓国チームは焦らず30秒フルに使って体勢を整えるんですよね。残り5秒くらいでポイントに入ります。

 ちゃんとこれも考えられていて、時間いっぱい使ってポジションを整え、相手を引かせて……アルティメットアビリティからめて一気に攻めたわけです。アメリカ側は、前で当たれなかったこと、簡単にいいポジションに入らせてしまったところが敗因となった感じですね。

――アルティメットアビリティで即座に1人落とし、韓国側は全員で猛攻。そのまま一気にポイントBを奪取

ラウンド4(攻撃:アメリカ 防衛:韓国)

●01:21:30付近

Tsurugiz:アメリカ側、こういうトレーサーの動きもうまいですね。ポイントAの建物2Fから撃たれると防衛側は対処しにくく、撃たれ続けるのをさけるため動かざるを得ない。HANAMURAのこのポジションは強いんですよね。ウィンストンやゲンジでも使えます。

『電撃PlayStation』

――その後、一気の攻めでアメリカがポイントAを奪取

Tsurugiz:今アメリカがポイントに入るまでかなり時間をかけたと思うんですが、その間何をやっていたかというと、敵のポジションを動かしてたんですよね。トレーサーたちがちょこちょこ動いて敵のポジションをどかし、味方の前線を上げ、有利な位置を確保したらポイントになだれ込む。

●01:24:50付近

Tsurugiz:防衛側はちゃんと高台で当たって敵にいいポジションを取らせないようにしていましたが、HANAMURAは押し込まれると挽回が難しいマップなので、防衛の韓国はだいぶキツい状況でした。

 ただこのときアルティメットアビリティを発動したばかりのソルジャーをゼニヤッタが高台からの一撃で倒すんですよね。この一撃がなければアメリカはそのまま押し切る形でこのラウンドを取れていたはずです。

AsianSushi:超ファインプレーですね。韓国側はああいうファインプレーがところどころにあって、そのおかげで最終的に有利な状況になる試合が多かったです。彼らが個人技でつぶしているシーンっていうのは、映ってはいないけれどやはり多いんですよね。

はせがわ:ただこのあとアメリカが取るんだよねこのラウンド。残り40秒。

――韓国のD.Vaが対応して高台のポジションを防衛するも、アメリカのソルジャー76の活躍もあって連続キル。アメリカがポイントBを奪取する

ラウンド5(攻撃:韓国 防衛:アメリカ)

●1:29:00付近

――延長1戦目。攻めの制限時間は1分。構成は韓国がD.Va、ウィンストン、ゲンジ、トレーサー、ルシオ、アナというダイブ構成。対するアメリカはD.Va、ウィンストン、ソルジャー76、トレーサー、マーシー、ゼニヤッタ。

 1分という短時間なので、攻め側の韓国は全員で一気にポイントへ押し寄せるものの、背後からの攻撃でまずアナが死亡。トレーサーとウィンストンの連携によりアメリカのソルジャーを撃破するも、残りの味方がやられトレーサー1人が敵陣に残る形に。

『電撃PlayStation』

はせがわ:ソルジャーへのフォーカスすごいな。トレーサーとウィンストンと。

AsianSushi:ここで響いていたのがマーシー差ですかね。アメリカはマーシーを出して、韓国側は一気に攻めるためにルシオ&アナをピックしていましたが、状況に刺さらずで。やっぱりマーシーによるヒールや蘇生は強いですね。韓国側はマーシーのヒールをアナの瓶(一定時間、被ヒール無効の効果)で止めて一気に倒す算段だったのかもしれませんが、アメリカ側がうまく対処してましたね。

――時間いっぱいアメリカが守り切り、最終判定は次のラウンドの結果しだいに

ラウンド6(攻撃:アメリカ 防衛:韓国)

●01:31:30付近

――延長2戦目。アメリカがポイントAを取れば勝利。韓国が守り切ればドローという場面。構成は韓国がD.Va、ウィンストン、ファラ、トレーサー、ゼニヤッタ、マーシー。アメリカはD.Va、ソルジャー76、トレーサー、マーシー、ゼニヤッタ、ルシオというサポート3構成。

Tsurugiz:この状況で防衛側の韓国がファラを出すというのは珍しいですね。極端なピックをしたということで、韓国が勝負に出たという見方もできるかもしれません。アメリカの最初の構成がジャンクラット込みだったので、ファラを出せばその構成に対応できると踏んでの選択だったはずです。

 この後、アメリカはポイントに入る前に、1分まるまるかけてポジションを取るための動きをするんですよ。ポジションをとってからキャプチャーポイントに入る。キルも取れて、そのおかげでだいぶ有利な状況でポイントでの攻防に入れたのですが……。

はせがわ:韓国は当たりが速いから、アメリカがポジションをとりに動いている間に戦列の後ろ側の敵を倒してるんですよね。

Tsurugiz:アメリカ側が複数倒して人数的な有利を得たこともあり"勝った"と思ったであろう展開でしたが……韓国はこのあとトレーサーのSAEBYEOLBE選手やファラのFLOW3R選手が中心になって個人技で劣勢を巻き返すんです。実況ももう”アメリカ勝った!”という雰囲気ですが、気が付くと防衛側の人数のほうが多くなっているという。

はせがわ:SAEBYEOLBE選手がアメリカのトレーサーとマーシーを落としたのが大きいですね。アメリカ側に落ち度はないのですが……あえて言うなら、ポジショニングを重要視しているなかでルシオを出していないのが難だったかもしれません。

 ルシオのスピードブーストで一気に行かないと、ポジションを取ろうと移動している最中に後列が倒されてしまいますので、そこでちょっと穴ができたのかなと。

――局所的なファインプレーの連続により、最終ラウンドは韓国が防衛。この試合の最終結果は4:4のドローとなりました

『電撃PlayStation』

 かなり長くなりましたが、いかがでしたでしょうか。前述したように、『OW』は今後これまで以上にeSportsタイトルとしての動きが活発化し、動画などで世界各国のプレイヤーによる名試合を観る機会も、さらに増えてくると思われます。

 そんなとき、単にスーパープレイを見て盛り上がるのももちろんいいのですが、試合を見て各チームがどういった意図でどこを攻め、何を狙い何を防ごうとしているのか……といったところまで読み取れれば、もっともっとおもしろさを感じられるはず。今後試合を観戦する際は、ぜひこういった細かい部分にも注目してもらえればと思います。

 さて、本日11月22日発売の電撃PlayStation Vol.651では『OW』や『CoD』の立ち回りなど戦術面を考察するFPS特集企画を掲載。

 本記事で解説してくれたeSportsプロチーム"SCARZ"の面々に細かくインタビューし、プロならではの視点から戦い方のノウハウを教えてもらいました。興味がわいた方はぜひお近くの取扱店舗で手に取ってみてください!

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(C) 2017 Blizzard Entertainment, Inc. All rights reserved. Overwatch and the Overwatch logo are trademarks and Blizzard Entertainment is a trademark or registered trademark of Blizzard Entertainment, Inc. in the U.S and/or other countries.

データ

▼『電撃PlayStaton Vol.651』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2017年11月22日
■定価:694円+税
 
■『電撃PlayStation Vol.651』の購入はこちら
Amazon.co.jp
▼『オーバーウォッチ ゲームオブザイヤー・エディション』
■メーカー:スクウェア・エニックス
■対応機種:PS4
■ジャンル:STG
■発売日:2017年10月5日予定
■価格:7,800円+税
▼『オーバーウォッチ ゲームオブザイヤー・エディション(ダウンロード版)』
■メーカー:スクウェア・エニックス
■対応機種:PS4
■ジャンル:STG
■発売日:2017年5月24日
■価格:7,800円+税

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