2017年11月28日(火)

【おすすめDLゲーム】周回が楽しい『Hidden Agenda』。対戦モードはADVの新しい遊びになり得るか?

文:キャナ☆メン

 ダウンロード用ゲームから佳作・良作を紹介する“おすすめDLゲーム”連載。本記事では、PS4用ソフト『Hidden Agenda ―死刑執行まで48時間―(以下、Hidden Agenda)』のレビューをお届けします。

『Hidden Agenda』

 『Hidden Agenda』は、『Until Dawn -惨劇の山荘-』を手掛けたSupermassive Gamesの開発するアドベンチャーゲームです。女性警察官のベッキー・マーニーを主人公に、死体に罠を仕掛けて第1発見者も殺害する通称“トラッパー”という犯罪者をめぐる事件が描かれます。

 『Until Dawn -惨劇の山荘-』のように、1つ1つの選択がストーリー展開に影響するデザインになっていて、プレイヤーの選択次第で、物語のシーン構成や登場人物たちのたどる運命と結末がまったく変わってきます。また本作は、PS4とスマートフォンやタブレットを連動させて遊ぶ、PS4の新しい体験を提供するタイトルになっていることも特徴です。

『Hidden Agenda』
▲彼女がベッキーで、画面はある選択を行う場面です。視点人物はベッキーを含めて2人で、彼女らの心理や言動、行動を決めていきます。

 その“モバイルデバイスを使った体験”って普通のゲームと何が違うの? というところも含めて、ここからは『Hidden Agenda』のおもしろさを書いていきたいと思います。

1つ1つの選択に意味がある楽しさ

 『Hidden Agenda』は、キャラクターの演技と音声、映像の演出でストーリーが進行する、よく“映画のような(シネマティック)”と形容されるタイプのアドベンチャーです。

 今作は、特にシネマティックの部分が顕著で、デバイスがそもそもコントローラじゃなくスマホやタブレットですし、キャラクターの移動どころか、ボタンを押すことさえなくストーリーが進行します。まさに映画のように映像が流れる。そして、シーンの随所でプレイヤーの選択が求められ、その選択が登場人物の運命に影響を与え、物語が変化していきます。

『Hidden Agenda』
『Hidden Agenda』
▲本文中では“選択”の一言で済ませていますが、実際には、時間無制限の選択肢、時間制限のある選択肢、QTE、ポイントクリック的な証拠探しなどバリエーションがあります。

 こんな風に書くと「見ているだけのゲームなのか」と思われるかもしれませんが、世界観や出来事の発端を知る必要のある序盤こそ、手を止めて映像を見ている時間がやや長いものの、基本的には頻繁に選択を求められるので、本格的に物語が動き出してからは、積極的にストーリーへ介入するゲーム性を楽しめます。

 それに、プレイヤーが選択を求められる場面は、ストーリーの劇的な瞬間だけに限らず、会話の何気ない流れの中にもたくさんあります。しかも、ボタンのかけ違い程度に思える差が、登場人物の運命を変えてしまうこともあり……。

『Hidden Agenda』
▲もう1人の視点人物である女検事フェリシティ・グレイブスです。

 ストーリーの流れに大きくかかわるイベントは、その発生後に参照できるものの、それが何にどう影響しているかは明確でなく、何度かプレイすることで「おそらく、このイベントがここにつながっているのだろう」とわかるような感じです。

 そのため、選択の1つ1つに気が抜けず、何度もプレイする内に「まさかこんな流れも存在するとは……」と思うことも少なくありません。ちょっと選択が変わっただけで違うストーリー展開を見られるデザインは、やはり本作の一番おもしろいところで、“1つ1つの選択に意味がある楽しさ”がゲームの醍醐味だとも思います。

『Hidden Agenda』
▲映像の演出においてもライティングや登場人物の表情にこだわりを感じ、シーンに見応えがあります。

 ちなみに、最初に『Until Dawn -惨劇の山荘-』を引き合いに出したので一応断っておくと、本作にホラー要素はありません。ゲーム的には、選択による物語の変化を楽しむ内容に特化していて、1プレイあたりのクリア時間も2時間くらいとコンパクトになっています。

 とはいえ、1度クリアしただけでは「もし別の選択していたら、どうストーリーが変わるんだろう?」という欲求が生まれるはずで、実際、筆者は何度もプレイしたくなって今のところ6周しています。どのくらい周回するかは人によりけりでしょうが、結果的には2時間で終わるようなゲームにはならないと思います。

『Hidden Agenda』

本作ならではの複数人プレイ

 『Hidden Agenda』は、スマホやタブレットをPS4本体と連動させ、それをコントローラとして使います。スマホであれば片手で操作できる快適さがありますし、ゲームの進行を妨げずに必要な情報をデバイスの画面で参照できたのも遊びやすかったです。

 ただ本作の場合は、スワイプでTVモニタ上のポインタを移動させる操作であるため、たまに思うように操作できないことがありました。とはいえ、大体の位置に合わせられれば反応するようになっているので、大抵の場面では困らないかと思います。まあ、何と言っても、リラックスした姿勢で片手プレイできるのはラクです(笑)。

『Hidden Agenda』 『Hidden Agenda』
▲専用アプリをインストールしてプレイします。スマホでは、好きな時に人物情報や運命のイベントといった物語にかかわる情報を見られます。

 また、『Hidden Agenda』は最大6人のプレイに対応していて、通常のストーリーモードを協力して遊べる他、特殊なルールでポイントを競い合う対戦モードが用意されています。

 協力・対戦プレイともに、1人で遊ぶのとストーリー自体は変わりません。違うのは、プレイヤーの選択が発生した時の決定方法で、協力・対戦ともに専用のルールがいくつか存在します。

『Hidden Agenda』
▲複数人のプレイでは、基本的に多数決や全員一致で選択肢を選んでいきます。
『Hidden Agenda』
▲協力プレイでは時折、重要な選択の前に質問が行われ、投票で選ばれた人が1人で選択を行うケースもあります。

 協力プレイについては、競う必要がないため、リビングで一緒に映画やドラマを鑑賞するのと近い感覚で、物語や選択についてあれこれ語り合いながらプレイできるのが楽しいです。自分たちの決定で主人公がピンチになったり、事件の真相が少しずつつわかったりするから、展開に対して一喜一憂もありますし。

 また、自分がつい無意識に避けてしまいがちな選択肢を他の人が選んでくれることもあり、それによって思わぬシーンを発見できたのも、おもしろいところ。もちろん、1人で遊び続けてもいずれは見つけられますが、他の人と一緒にプレイして新しい発見があると、何だかうれしくなるってものです(笑)。

アドベンチャーゲームのさらなる可能性を感じる対戦モード

 対戦モードについてはちょっと特殊で、“秘密の指令カード”というものがゲームの進行に応じて配布されます。このカードに書かれた指令を実行したり、指令を持つ人物を見抜いて阻止したりすることでポイントを獲得でき、その累計で勝敗が決まります。

『Hidden Agenda』 『Hidden Agenda』
▲カードが配られた段階では、自分の手元にだけ表示されます。

 ただし、指令の内容次第では主人公に不利をもたらしたり、事件の真相から遠ざかったりするケースもあります。極端な話、自分が勝つためには主人公を破滅させないといけないようなことも……!

 そのカオスな展開も対戦モードのおもしろさの1つで、ストーリーをどう分岐させるかについて、プレイヤー同士の駆け引きが発生するのは、新鮮な体験だと思います。

『Hidden Agenda』

 例えば、前述の勝つために主人公を破滅させるプレイに照らすならば、ある意味で悪役や黒幕のような気分を少し味わえます。実際には、自分が何かのロールプレイをするわけでなく、ただ勝つために選択を誘導する結果なのですが。

 逆に言えば、そこにゲームシステムのフォローがないところは、少し勿体ないように思います。自分も含めて誰も望んでない“主人公の破滅”を、ただ己の勝利のために成し遂げてしまうシチュエーションは、複雑な心境ながら斬新な体験です。それを阻止したことも、単にゲームに勝利する以上の達成感があるかもしれません。でもそれを実感させるゲームシステムや表現がなければ、あまり興奮や葛藤もないでしょう。

『Hidden Agenda』

 また対戦モードでは、指令を実行するためにブラフやポーカーフェイスを使った騙しあいがあって、現実の駆け引きも含めてゲームになっているのがおもしろいです。テーブルゲームやカードゲームが得意な人と一緒に遊べば、より駆け引きが白熱するように感じます。

 ただし、逆に言うとそれはゲーム画面の外で行われていることなので、楽しさが “誰と一緒に遊ぶか”に依存し過ぎているようにも思います。もう少しゲームシステム的に駆け引きをフォローする手段があれば、もっと誰とでも楽しめるかもしれません。

 もちろん、ゲーム内に駆け引きのプラスアルファがないわけでなく、テイクオーバーカードという“切り札”的な効果を持つアイテムがあります。このカードの使いどころでも勝負が動くので、おもしろいエッセンスになっています。

 ただ、入手方法にランダム性がないので、プレイ経験が多い人ほど集めやすい点が少し気になります。対戦モードといっても、本作の場合はパーティゲーム的なカジュアル志向なので、もう少し別の入手方法がよかったようにも感じました。

『Hidden Agenda』
▲テイクオーバーカードは、選択の独占権を得たり、他人のカード効果を打ち消したりできます。協力プレイでも入手できます。

 とはいえ、ゲーム自体は全般にチュートリアルが丁寧で、誰にでもプレイできるようとても親切に作られています。モバイルデバイスを使った操作はシンプルですし、ゲームシステム的に複雑なことはなく、対戦モードについても、初めてプレイする人でも遊べる内容だと思います。

 秘密の指令を実行するタイミングについても、「ここが指令にかかわる選択だ」とナレーションが明言してくれるので、戸惑いはないでしょう。一見、駆け引きが損なわれるように思えますが、実際には騙しようもあります。それに、指令だけを見てノーヒントで何をすればいいか、阻止する上でどの選択が怪しいかわかるのは周回プレイヤーだけなので、チュートリアルが徹底しているのは英断でしょう。

『Hidden Agenda』

 長くなったのでそろそろまとめると、“アドベンチャーゲームで対戦プレイ”という遊びは、新鮮で奥深さがあり、幾重にも枝分かれするストーリーのおもしろさと相まって、非常に可能性を感じるモードです。だからこそ、ゲームシステム的にもう一押しがほしいと欲が出てしまう。

 ゲームシステムがもっと揉まれていけば、対戦モードはアドベンチャーゲームというジャンル自体の新しい遊び方になり得る気がします。

 周囲を騙して秘密の指令を実行できるか、それを見抜いて阻止できるか、という点では人狼ゲームに似ているエッセンスがありつつも、選択によって登場人物の運命やストーリーが変わっていくアドベンチャーゲームの土台があることによって、またひと味違った駆け引きや興奮を味わえるゲーム性を秘めているように感じます。

『Hidden Agenda』

 本作の性質上、オンラインではなく実際に人が集まって遊ぶ必要があるので、対戦モードをプレイするのは、いつでも好きな時にとはいかないでしょう。ただ、お酒を飲みながらでも遊べるような気軽さがあり、アドベンチャーゲームとしてはプレイの新鮮さもあるので、機会があったら対戦モードを遊んでみてほしいと思います。

1人でやり込めるし、対戦プレイの進化を見てみたい

 プレイ時間がコンパクトで周回しやすい本作は、繰り返しプレイして、まだ見たことのないシーンや話の展開を探すことが一番楽しいように思います。

 ちなみに、誤解のないよう書いておくと、本作は普通に1人で楽しめるアドベンチャーゲームになっています。また、協力・対戦プレイでも、同じストーリーを追うので、選択による物語の変化を楽しめます。何度も周回するなら、1人プレイのほうがラクでしょうが。

『Hidden Agenda』

 とはいえ、プレイヤーの選択によって物語が変わること自体は、アドベンチャーゲームとして『Hidden Agenda』固有のおもしろさというわけではないでしょう。同じ理由でおもしろいと言えるアドベンチャーゲームは、他にも挙げられます。

 そして『Hidden Agenda』というタイトルに目を向けた時、これは日本語に訳せば“隠された意図”のような意味になります。ゲームをプレイして事件の真相を明らかにすると、この言葉がストーリーのテーマを表していることに気づきますが、それと同時に、やはり本作のオリジナリティである対戦モード、その中の“周囲に意図を隠して指令を実行する”というゲームプレイも意味しているように思われます。

 そんな風に考えをめぐらせると、個人的にはやはり、対戦モードがアドベンチャーゲームの新しい遊びになり得るのか? そのことがとても気になります。実際にプレイして楽しめつつ、それ以上にまだおもしろくなりそうな期待を持てました。願わくば続編が発売され、対戦プレイについてこの先の進化を見てみたいと感じるゲームです。

データ

▼『Hidden Agenda ―死刑執行まで48時間―』
■メーカー:SIE
■対応機種:PS4
■ジャンル:ADV
■配信日:2017年11月22日
■価格:2,700円(税込)
開発:Supermassive Games

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