2017年12月25日(月)
『スターオーシャン:アナムネシス』第2章はさらなるオリジナル展開が実現!? 和ヶ原聡司先生×小林秀一P対談
先日1周年を迎えたばかりのiOS/Android用アプリ『スターオーシャン:アナムネシス(SOA)』。歴代のシリーズキャラを登場するオールスタータイトルとして話題を集める本作について、電撃オンラインではノベル“STAR OCEAN anamnesis -The Beacon of Hope-”を掲載し、その魅力をお届けしている。
今回は、この小説の執筆を手掛ける和ヶ原聡司先生と、『SOA』のプロデューサーである小林秀一さんとの対談企画が実現。和ヶ原先生が『スターオーシャン(SO)』にかける想いから、小説を執筆することになったきっかけまでをお聞きしていく。
▲写真左からプロデューサーの小林秀一さんと、小説家の和ヶ原聡司先生。 |
きっかけはTwitter!? 『SOA』がノベル化にいたったきっかけ
和ヶ原聡司先生(以下、敬称略):本日は『スターオーシャン』について、小林さんとオタクトークができると聞いてやってきました! よろしくお願いいたします!
小林秀一(以下、敬称略):和ヶ原さんはガチの『スターオーシャン』ファンですからね。たぶん僕よりシリーズに詳しいと思うので、どこまでついていけるものか不安もありますが(笑)。こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします。
――和ヶ原さんは現在、ノベル“STAR OCEAN anamnesis -The Beacon of Hope-”を連載中ですが、小林さんたち『SOA』チームが小説の執筆を和ヶ原さんにお願いしたきっかけはなんなのでしょう?
小林:和ヶ原さんがTwitterで“『SOA』の小説を書かせてほしい”と発言されていたのを拝見したからですね。
和ヶ原:あの発言、ご覧いただけていたんですね(笑)。花嫁ネルや花嫁マリアの実装時期のことでしたから、もう半年くらい前のことですが。ガチャで花嫁ネルを引き当てた瞬間のパッションで、後先を考えずに発言したものを拾っていただけるとは思ってもいませんでした。どうもありがとうございます。
小林:『SOA』の物語をメディア化する構想はずいぶん前からあったのですが、実現にはかなり慎重になっていたんです。『SO』の世界観はかなり複雑なうえに、物語やキャラクターの設定資料については、少なくともスクエニに残っている物だけでは足りないと思っていましたし、原作者であるトライエースの五反田義治さん(※)の頭の中にしかないものも多くて。
それをしっかりと形にできる方でなければ、小説にする意味はないと考えていました。『SO3』以降におけるトライエースタイトルでのノベル化やコミック化、いわゆるマルチメディアコンテンツ化において、大きな成功体験がなかったこともあり、二の足を踏んでいたところもあります。
でも、あのツイートを見たとき「和ヶ原さんのお力をお借りすれば、積年の夢がかなうのでは?」と感じたので、こうしてオファーさせていただきました。
※五反田義治さん:開発会社・トライエースの代表取締役社長にして、『SO』シリーズのシナリオや世界観設定をまとめる。シリーズの生みの親の1人。
――小説にすることのメリットや、狙いはどこにあるのでしょう?
小林:『SOA』の物語をもっともっと広げていきたいというのが一番の狙いですね。本作はアプリゲームという特性上、物語を重要視していないユーザーさんも少なくありません。
もちろん我々としては、これまでの『SO』シリーズと同じレベルで物語に力を入れていきたい、と思っているのですが、残念ながらゲームの構造上、演出が弱くなってしまいがちですし、プレイスタイルとしてもコンシューマーのRPGとは異なり、ミッションを進めることを優先してスキップすることも多いでしょうから。
――それはもったいないお話しですね。ただ、コンシューマ作品に比べたら手軽に遊べることが重視されるアプリゲームにおいては、物語を読まないプレイヤーさんが一定数いることも理解できます。
小林:せっかく『SO』の歴史の一部としてこれからも続いていく内容なのに、それに触れてもらえないことはすごくもったいないし、純粋に我々の力不足でもあるな、と考えていました。
ゲームの構造上で、“このキャラがいないとこのシナリオでの攻略不利になる”などの誤解もされたくないので、シリーズキャラをメインシナリオに絡めることもできませんでしたし。
そういうことも考えて、この物語を魅力的に、しっかりと伝えられる方法として、メディア化は必要だろうと考えていたのです。何かしっかりと、かつ手軽に読んでいただける方法、たとえば小説にするのはどうだろうか……そんなことを考えていたときに、和ヶ原さんのツイートを拝見して「コレしかない!」と確信したんです。
とはいえ、和ヶ原さんがとてもお忙しい方であることも認識していましたので、実際にオーダーしてもお引き受けいただけるかは五分五分以下だと考えていましたが。和ヶ原さんは、はじめて『SOA』の小説の話がきたときはいかがでした?
和ヶ原:興奮しました。電撃小説大賞の受賞や『はたらく魔王さま!』のアニメ化のお話をいただいたときと同じくらいテンションが上がりましたよ。
お話し自体は電撃文庫編集部さんからいただいたのですが、担当編集さんは僕がどれだけ『SO』を好きか知っている方なので、「先生! スクウェア・エニックスさんからこんなお話をいただいたんですけど、どうしますか!?」って、向こうも電話口で興奮気味で。
そのお電話を受けたとき、僕は外に出ていたんですけど、喜びのあまり周囲の人の目を気にする余裕もなく「マジですか!?」と叫んでしまいました(苦笑)。
小林:そこまででしたか! こちらとしても光栄です。
和ヶ原:もちろん、仕事として引き受ける以上は好きという感情だけではいけないと思っています。クオリティは担保しなければなりませんし、スケジュールの調整もあります。
そこらへんの“オトナのお話”を担当さんと電話でしながら、すでに頭の中では「小説にするのなら、あの惑星のこんなエピソードを広げたいな……」といったことを考えていました。
――お話が来た瞬間に、すでに引き受けること前提で考えていたってことですね。
小説家・和ヶ原聡司が生まれた理由は『SO3』でクレアが仲間にならなかったから!?
小林:そもそも、和ヶ原さんが『SO』と出会ったきっかけはなんなのでしょう? 最初にプレイされたのは、やはりスーパーファミコンの『スターオーシャン(SO1)』でしたか?
和ヶ原:最初に遊んだのは『SO1』ではあるんですけど……じつは苦い思い出があるんです。実写を用いたCMとか、SF映画を彷彿とさせるオープニングとか、ものすごく印象に残っているんですが、自分で購入できなかったんですよ、お小遣いなくて。
『SO1』の発売当時って、ちょうどプレイステーションやセガサターンといった次世代機が台頭してきていた時期で。僕は当時まだ中学生で、どのハードを親に買ってもらうか悩んでいましたから。
――心はすでに次世代機に向かっているわけで、SFCのゲームを買っている場合じゃないってことですかね。
和ヶ原:ええ。なので、『SO1』は友だちにソフトを借りて遊びました。
小林:それが苦い思い出なんですか?
和ヶ原:それが……じつはまさにジエ・リヴォース(※)と戦うぞってときに、セーブデータが消えてしまいまして……。
※ジエ・リヴォース:『SO1』におけるボス。『SOA』ではイベント“ジエ・リヴォースを打倒せよ!”で登場したことでもおなじみ。
小林:ええっ!? それは当時ならではのバッテリーバックアップあるあるですね(笑)。
和ヶ原:しかも、自分のデータだけならまだしも、持ち主である友だちのデータまで消えてしまっていて。あの瞬間は頭が真っ白になりましたね。それがトラウマになって、しばらく『SO』から離れることになりました。
最初に遊んだシリーズ作品はたしかに『SO1』なんですけど、最初にクリアした作品となると『スターオーシャン セカンドストーリー(SO2)』になります。『SO1』はPSPで発売された『スターオーシャン1 First Departure』まで時間が空くことになりますね。
小林:なるほど。じつは僕も『SO1』はオンタイムでは遊んでいないんですよ。スタートは『SO2』からで、そのときはすでにゲーム業界で働いていましたから。当時はまだエニックスですらなく、前の職場で宣伝でありながらもプロデューサー的な仕事をしていまして。
そんなときに『SO2』に触れて、「こんな戦闘システムのゲームを作りたい!」と強烈なインスピレーションを受け、実際にその時にお仕事をしていた開発会社に相談もしたんですが、あっさりと「あんなゲームを作るのは、普通の開発チームでは無理ですよ」って言われてしまい(苦笑)。それ以来、『SO』とそれを作ったトライエースは自分にとって高嶺の花でした。
和ヶ原:わかります。『SO2』は僕にとっても本当に衝撃的で、とにかくずっとプレイしまくっていましたね。
小林:では、和ヶ原さんにとって一番好きな『SO』シリーズとなると……。
和ヶ原:どうしても『SO2』になりますね。『スターオーシャン Till the End of Time(SO3)』も負けないくらい大好きですけど、やり込んだ時間が違いますから。
時間があった学生時代に『SO2』のやり込みボリュームはちょうどよかった。当時、出会ったキャラクターをあえて仲間に入れないことで、別の物語が楽しめるようになるというのは衝撃的で、全部の組み合わせを見るためにひたすらプレイしていました。
小林:先ほどもお話しましたが、僕にとっても『SO2』は憧れであり特別な作品です。『スターオーシャン ブルースフィア』以降はずっと仕事としてシリーズにかかわり続けてきているので、どれが好きとかはもはや言えなくなっている側面もありますけど。
和ヶ原:『SO3』のころには、すでにシリーズにかかわっておられたってことですよね? では、こちらのアイテムには見覚えもあるのでは……。
小林:懐かしい! 『SO3』の予約特典のアイテムストラップ!! この特典、僕が制作に携わったものなんですよ。ライトストーンは本当は透明にしたかったんですけど、当時の技術や予算では、やりたくてもできなくて。まさかこんなところで、あの苦い思い出がよみがえることになるとは(苦笑)。
和ヶ原:そうだったんですか(笑)。でも、僕はかなり気に入って愛用していましたよ。ずっとケータイのストラップとして使っていたから、石の塗装が剥げてしまっているくらいです。
▲『SO3』予約特典のアイテムストラップ。“魔光石”、“ライトストーン”、“スフレのペンダント”、“メデセトラの輝石”の4種類から1種類がランダムでもらえた。 |
――和ヶ原さんは『SO』シリーズのグッズをコレクションなさっているんですか?
和ヶ原:そうですね。当時のゲーム雑誌から小説、コミックス、サウンドトラックやドラマCD、トレーディングカードなど、目についたものは片っ端から集めていましたし、いまだに捨てることなく所有しています。
▲和ヶ原先生にお持ちいただいたグッズ(一部)。どれも貴重なもの。 |
トレーディングカードの裏に書かれたテキストに、ゲーム内では出てこないような細かい設定が書かれていたりして、今回の小説を書く際にものすごく役立ったりもしました。
▲集めていたグッズが貴重な資料にもなったとのこと。 |
小林:それはすごい! このトレーディングカードって『SO2』のものですよね? これは僕も所持していませんし、そもそもスクウェア・エニックスにも現物が残っていないと思います。ものすごくレアですよ。
和ヶ原:今回のお仕事が決まって、あらためてカードのイラストを見返しました。『SO2』の十賢者のイラストがちゃんと見られるのって、じつはこのトレーディングカードだけなんですよね。でも、『SOA』のミカエルはちゃんとデザインが統一されていてうれしかったです。
▲イラスト:motさん。 |
小林:『SOA』で過去作のキャラを登場させるにあたって、デザインは当時のものを踏襲するというのは明確にこだわっている部分です。十賢者に関してはスクエニ側にデータが残っていないので、インターネットで一生懸命画像を検索したりして確認するにも苦労しましたが(苦笑)。
和ヶ原:そのこだわりを感じられるところが、ファンとしてうれしいんですよね。
小林:ちなみに、和ヶ原さんが一番好きなキャラは誰ですか?
和ヶ原:ネルですね。『SO1』や『SO2』の頃はまだ幼くて、キャラ萌えというものがわかりませんでした。でも、『SO3』の頃ともなれば、好みの女性キャラ像がしっかり固まっていて、そこにネルがピタリと符合したんですよ。
ネルはいろいろな雑誌でイラストを見かけたときから気に入っていたんですが、いざ遊んでみたら、『SO1』のイリア以来の“主人公を導いていく年上の女性キャラ”だったので、ますます好きになりました。あとは、クレアも思い入れが強いですね。
小林:なるほど。
和ヶ原:じつのところ、作家の和ヶ原聡司が生まれたのは『SO』があったからこそなんですよ。具体的には、『SO3』でクレアが仲間にならなかったからこそ、今の自分があるんです。
小林:えっ? どういうことですか!?
▲イラスト:玖条イチソさん。 |
和ヶ原:クレアがパーティメンバーに加わらなかったことが、当時ものすごく不満だったんです。「どうしてこのキャラが仲間にならないのか? そうか、だったら自分で小説を書いて仲間にしてしまえばいい」そう考えて、いわゆる二次創作を始めたことが、自分の創作活動のはじまり。そこで小説を書くおもしろさに目覚めてしまい、今日に至るわけです。
小林:それは業が深い……いえ、結果オーライなんですかね。
和ヶ原:当時は不満もありましたが、今となっては「クレアはパーティに加わらないからこそ魅力的だった」と思っています。
仲間に加わらないキャラだけにしか出せない味があることを、クレアから学ばせてもらいました。そういう意味ではクレアもネルに劣らぬほど大好きなキャラといえますね。
小林:クレアを仲間キャラとして実装するというのは、我々としても長年の夢が実現する瞬間ということで、ちょっと特別な感情はありました。じつは『SO3』当時、クレアをパーティキャラとして仲間に加える案も出たんですよ。
ただ、○○○○○○○○を考えると、クレアを仲間にしてしまったら○○○○○○○○こともあって、結果的にアドレーが仲間になったと聞いています(苦笑)。
和ヶ原:「親父ー、お前が仲間になるんかい!」と当時はツッコんだものでしたが、そういう理由があったんですね。
小林:ちなみに、『SOA』で好きなキャラとなるといかがですか? ビジュアル面だけではなく、性能面も考慮することになると思うのですが。
和ヶ原:もちろん『SOA』でもネルとクレアは特別なんですが、ノーマルのクレアは性能面でちょっと今の環境では物足りない印象ですかね……。悪魔クレアはアタッカーとして優秀ですけど。そういう意味では、やはりネルが一番になりますね。
小林:なるほど。
和ヶ原:自分の中での譲れないこだわりのなかに、“絶級を一度は必ずネルでクリアする”というものがあります。ネルの毒があれば貢献できると思うんですよ。事実、ほとんどキックされたりはしませんから(笑)。
▲イラスト:アマガイタローさん。 |
――ネルの毒は今なお有効ですからね。しかし、和ヶ原さんはなかなかのやり込み派ユーザーだとお見受けしました。ネル……というかダガーキャラを使いこなせる人は、プレイヤースキルが高いイメージがあります。
小林:ダガーは銃よりも敵との距離が近いぶん、立ち回りが難しい印象があるかもしれません。動きもトリッキーなものが多いので、使いこなすには慣れが必要だと思うのですが、和ヶ原さんがネルですべての絶級をクリアされているとは。
和ヶ原:ネルはまだまだ強いと思いますよ! ただ、僕が上手かというとそうでもないとは思いますが……。調査ランクもまだ100に届いていませんしね。なかなか星を回ってレベル上げをする余裕がなくて。
小林:ネルやクレア以外で使っているキャラはいますか?
和ヶ原:エッジですね。タレントが優秀なので。ダメージを受けても怯まないスーパーアーマーも光りますが、やはり仲間全体のHPを40%も上昇させてくれる恩恵は計り知れません。彼がいるだけで安定感と心理的な余裕が違いますから、いまだに使い続けているユーザーさんも多いですよね。
小林:たしかに、エッジは今でも人気キャラの1人です。
和ヶ原:あとはレナも好きです。エンゼルフェザー(AF)の使いどころがおもしろいキャラですよね。全員のラッシュゲージがたまって、「よし、AFをかけてからラッシュコンボの起点になるぞ」と思っていたのに、他のプレイヤーが先にラッシュコンボを発動させたりしたときは、思わず「ちょっと待ってよーっ!」と声が出てしまいます(苦笑)。
▲イラスト:エナミカツミさん。 |
▲イラスト:あきまんさん。 |
小林:和ヶ原さん、ものすごくガチじゃないですか(笑)。どうもありがとうございます。
和ヶ原:僕はこの『SOA』がはじめてのソーシャルゲーム体験になるんですけど、おかげさまで課金抵抗がなくなってしまいました(苦笑)。
ただ、だからといってほかのタイトルには手を出していないので、ソーシャルゲームへの課金抵抗がなくなったというよりは、やっぱり『SOA』だからこそという部分はありますけど。
――和ヶ原さんの『SO』愛は本物ですね……。
艦長は主人公だけど★4相当? 和ヶ原さんの小説へのこだわり
小林:あらためて、和ヶ原さんに今回の小説を引き受けていただけて幸運だったと実感しました。執筆にあたって、何か苦労された部分はありましたか?
和ヶ原:苦労というか、キャラ同士の掛け合いについては細心の注意を払いましたね。僕はこれまでに多くの二次創作を読んできたのですが、キャラクターのセリフひとつで世界観が大きく壊れることって珍しくないじゃないですか。
どれだけシナリオやイラストがよくても、たとえばキャラの人称が違うだけで、ちょっと冷めてしまうんです。
小林:わかります。でも、そこらへんの統一をとるのがじつは一番難しかったりもするんですよね。
和ヶ原:そこはもう、何度もゲームをプレイして自分の中に培っていくしかないんですよね。『SOA』でいえば、“リーシュは「わたし」じゃなくて「あたし」なんだな”ってことを、しっかり理解していく必要があります。ファンはそういったところに敏感だと思いますので。
小林:和ヶ原さんから原稿をいただいたら、もちろんトライエースにもチェックを回すんですけど。ほとんど修正が入らなかったことにスタッフ一同がざわっとしました。
和ヶ原:え、それはどういう意味の「ざわっ」ですか?
小林:「マジか」って意味の、驚愕の「ざわっ」ですよ。『SO』のゲームシナリオは、五反田さんがストーリーを考えてプロット化し、それをシナリオライターさんがシナリオの形に仕上げていく形になるんですけど、なんらかの齟齬が発生するんです。
というのも、五反田さんの頭のなかには僕らも把握していないような設定がいっぱい詰まっているので、ライターさんとしても最初は知らない情報だらけなんですね。だから、まずはそれを聞き出して精度を上げていくというプロセスを踏むことが多いんです。
ただ、今回の和ヶ原さんに関しては、未発表であろう設定以外では、ほとんど齟齬がなかった。これは本当にものすごいことなんですよ。
和ヶ原:褒め過ぎですよ(苦笑)。小説を書く前に『SOA』のシナリオは何周もまわり直しましたし、過去作も曖昧になっていた部分は再度プレイして確認し直していますから、大きなズレは出にくいですよね。
あと、個人的に五反田さんは作家肌というか、“作家脳”の持ち主だと感じています。なので、いただいた設定の落とし込みについてはさほど苦労しませんでした。
――ご自身と似ている側面があるということなんですね。
和ヶ原:そうですね。自分としては、この小説を書いていて久しぶりに二次創作を書いていたあの頃の“ほとばしる何か”を感じて驚きました。「なんだ、俺まだこういうのも書けるじゃん!」と、自分でもビックリしたんです。
小林:原稿もすごいスピードでとんでもないクオリティのものを仕上げていただけましたが、執筆にあたって苦労された部分もあったのではないですか?
和ヶ原:そうですね……基本的には楽しんで書かせてもらっていますが、フィデルのキャラづけというか、艦長との立ち位置についてはちょっとは悩みましたね。
彼は『SO5』の中でも、ところどころで言葉づかいが変わることがあるじゃないですか。具体的にはヴィクトルとの掛け合いで、普段は敬語を使っているのに、急にタメ口になることがある。
これは僕のなかで、カミューズ流の兄弟子としてヴィクトルと話している際はタメ口になるのだと解釈しています。つまり彼は、年齢などよりはその人の立場や階級といった、実質的な部分に敬意を払う人だと思うんです。
小林:なるほど。そうなると、艦長とのやり取りでも敬語になるのは必然ですね。
和ヶ原:はい。ただ、この艦長というのがなかなか曲者で。ゲームでは会話中にちょこちょこ選択肢が出てきて、そこから彼の人となりが推し量れるわけですけど、プレイヤーさんによって選ぶ答えが変わるため、艦長に抱く印象にどうしてもブレが出てしまうんですよ。
小林:しっかりとした受け答えを好むプレイヤーもいれば、おちゃらけた解答を選ぶプレイヤーもいるでしょうからね。
和ヶ原:そうなんですよ。でも、小説にする以上はしっかりとキャラを立てないといけませんから、そこは試行錯誤しましたね。連邦において、探査船とはいえ艦のキャプテンを任されているということは、それなりのポジション、キャリアを積んだ立場であると思うんです。
そして、ゲーム内では彼がどんな選択肢を選んでも、リーシュやコロは艦長のことを頼れる人物だと敬意を払っている。これはすなわち、彼がしっかりとした地盤を築いているからこそではないかな、と。
そう考えると、やはりそこそこの年齢であるとも思うんですよね。あまり明言したくはないのですが、自分の中では30代の男性として意識して書いています。
小林:ゲームの中では自分自身が艦長となるものなので、明文化もしていませんし、設定もしていません。ですが、僕もプレイする際には、まさに、それくらいの年齢層の男性をイメージしていました。
これは本当にユーザーによって異なるイメージなので、小説ならではと考えてほしいですね。
――小説では、艦長も戦闘に参加していてちょっと新鮮です。
和ヶ原:そこも悩んだんですけど、いつも仲間の影に隠れているようなキャラじゃないだろうと思って。僕のなかで、艦長は★4キャラくらいの強さを想定しています。それこそ、スティーブとかそこらへんに近い、目立ち過ぎない屋台骨。縁の下の力持ち的なポジションにしました。
――★4ですか。わかりやすくておもしろいです(笑)。設定として、ちゃんと“リーシュが紋章石を用いて召還を行っている”ことが明記されている点にも驚きました。
和ヶ原:そこは、ゲームのノベライズなのでちゃんと入れ込まないと。さすがに、召還にあたって5,000個もの紋章石を使用しているとは思いませんが(苦笑)。“ピックアップ”という単語も、違和感のない形で入れ込んでいるつもりなので、これからの展開にご注目ください。
――主人公やパーティメンバー以外のキャラも登場するんですね。これはキャラ同士の掛け合いがますます楽しみになってきました。
和ヶ原:本当は武器ガチャの要素も入れようかと悩んだのですが、そうなるとあまりにも物語が膨らみ過ぎるので断念しました。召還に関してなど、ゲーム中とはちょっと違った見せ方になってしまう部分はあるのですが、それもメディアミックスの味だと思っています。
これは僕自身、『はたらく魔王さま!』でのメディアミックス経験で感じたことで、メディアごとに適した異なる切り取り方がされているほうがおもしろいと思っています。
――ここでちょっとお聞きしたいのですが、いまだに謎が多い存在であるリーシュについては、和ヶ原さんはどれくらいの知識をお持ちなのでしょう? 彼女の正体や目的についても、すでにご存知のうえで原稿を執筆されたんですか?
和ヶ原:いえ。リーシュについてはまだまだ未知数というか、僕も正体などは教えてもらってないですね。
小林:ぶっちゃけていうと僕も知りませんよ、リーシュの正体は(笑)。たぶん、まだこの世の中で五反田さんしか知らないんじゃないですかね。
和ヶ原:そういう意味では手探りをしながら書いている部分もありますけど、リーシュはゲーム中でかなりキャラが立っているので、あまり悩んだりはしませんでしたね。どう転んでも違和感がないように味付けしているつもりです。僕自身、彼女がこのあとどんなことになっていくのか、楽しみなんですよね。
ますます広がりを見せる『SOA』の世界――気になる第2章の展開とは
小林:ここで和ヶ原さんに相談したいことがあります。『SOA』のシナリオはランビュランス編が終了し、今は第2シーズンに向けて準備を進めているのですが、過去作のキャラ以外の登場人物たちをもっと個性的に引き立てていくにはどうすればいいですかね?
和ヶ原:過去シリーズとうっすら関連付けていくというのはいかがですか? 今は艦長やコロたちは、連邦の力がおよばない7万光年も離れた場所にいるので、なかなか難しいことではあるかもしれませんが……。
――じつはムーア人の痕跡が……とか、それこそエターナルスフィアのアレコレが……とかですか?
和ヶ原:いえ、あまり直球過ぎるのはよくないので、あくまでもうっすらと。たとえばシリーズキャラによく似た見た目のキャラを登場させて、「これはあのキャラとなんらかの関連があるのでは?」とファンがピクリとできれば、それで十分だと思うんですよね。
――ファンが想像を膨らませる余地を入れ込むのがおもしろいってことですかね。
小林:なるほど。ゲームとしてはシリーズキャラに引っ張ってきてもらった側面が強いのですが、これからは『SOA』のオリジナルキャラもしっかり立てて行かないと、『SOA』の物語は『SO』の歴史の1つになりえない、と思っているもので。アドバイスをありがとうございます。
――いっそのこと、第2章からは和ヶ原さんにもシナリオに入ってもらえばいいんじゃないですか?
小林:うーん、これはまだ秘密にしていようかと迷ったんですが、今回の小説を読ませていただいたうえで、和ヶ原さんには第2章のプロットにもご協力いただけないか、とご相談をしようかと思っていたんです。
今回の小説はランビュランス編の再構築でもあるので、それをより多くの方に理解してもらえれば、次の物語につなげられると思いましたので。
――正直なところ、小説の更新がますます楽しみになってきました。
和ヶ原:小説自体はすでに書き終えているので、僕自身もファンの皆さんのリアクションなどを楽しみにしているところです。大熊まいさんのイラストもステキなので、そちらも楽しみなんですよね。
小林:本当は、この小説企画を電撃オンラインでWEB連載させていただくあたって、挿絵を入れるつもりはなかったんですよ。ただ、和ヶ原さんの小説があまりにもおもしろかったがゆえに、チーム内で盛り上がってしまいまして。
運営プロデューサーの甲斐から「多くの人にイメージを伝えたい」「ぜひイラストも掲載したい」と熱烈に言われてしまったんです。いやらしい話、そこにコストを割くべきかどうかはプロデューサーとして悩んだのですが、彼の熱意と、そして作品のクオリティに押されてOKを出しました。
和ヶ原:そうだったんですか? たしかに、僕もイラストが掲載されるとは聞いていなかったので、電撃オンラインで初めて拝見してびっくりしたんですよね。
小林:ギリギリまで悩んでいたので、ご報告が遅れて申し訳ありませんでした。でも、和ヶ原さんのテキストと大熊まいさんのイラストの相乗効果で、『SOA』の世界がますます広がっていることは間違いありません。ぜひ、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
和ヶ原:こちらこそ、自分にできることがあれば何でも協力させていただきます! どうぞよろしくお願いいたします。
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