2018年2月10日(土)
ダウンロード用ゲームから佳作・良作を紹介する“おすすめDLゲーム”連載。今回は、スペインのインディーディベロッパー・Deconstructeamが開発したPC用アドベンチャーゲーム『The Red Strings Club(レッド・ストリングス・クラブ)』をプレイしての感想をつづります。
『レッド・ストリングス・クラブ』の舞台は、AIやインプラントのテクノロジーが人々の間に浸透したサイバーパンクの世界。ハッカーとバーテンダーという異なる立場で情報屋を営む2人の主人公が、巨大企業の推し進める計画“ソーシャル・メンタル・ケア”の存在を知り、その計画を阻止するため動き出すことになります。
▲レッド・ストリングス・クラブは、前半の舞台となるバーの名前でもあります。この店に、壊れたアンドロイドがやって来たことから、物語が大きく動き出します……。 |
“ソーシャル・メンタル・ケア”とは、インプラントを介して人間の感情を制御し、強い不安や怒り、恐怖といった感情を抑えることで自殺や犯罪を消し去ろうという計画です。
この計画に携わる人間たちは、計画を心の底から人類のためだと考えているし、阻止しようと考える主人公たちは“他者が感情を制御をすることは人間性を侵す行為”だと主張して両者は対立します。
ゲーム的には、前半はバーテンダーとしてカクテルを振る舞いながら情報収集し、後半はハッカーとして他人になりすましながら情報を集めていくなど、プレイ感にメリハリがあって、場面に応じたゲーム性を体験しながらストーリーを進められるのが魅力です。
▲序盤には、陶芸のように形を整えてインプラントを作成するというミニゲーム風の遊びも用意されています。繊細なマウス操作が要求され、慣れるまでが意外と大変……(笑)。 |
▲後半のプレイでは、怪しい場所を調べつつ、電話口で他人になりすまして必要な情報を入手していきます。誰の声を使って、誰に電話するかが重要です。 |
特にバーテンダーとしてカクテルを振る舞う前半は、酒の混ぜ方によって客のどんな感情を刺激するかが異なり、会話の選択肢で同じものを選んでも、客の気分によって会話内容が変わってしまうおもしろさがあります。
客は“ソーシャル・メンタル・ケア”を推し進める企業、スーパーコンチネント社の関係者であるため、この情報収集は重要なパートで、それだけに相手のセリフから性格を推測し、“どのような気分にしてどんな話題を振るのが適切か”を考えるのは、秀逸な日本語訳のおかげもあって、非常にやり応えのある部分になっています。
▲人物のシルエット上に複数表示された白いアイコンが、心の中に抱えた感情や思考を示すソウルノードと呼ばれるもの。酒を注ぎ、赤い円(ソウルディスク)を任意のノードに合わせます。 |
▲カクテルを飲んだ客は、ソウルノードと同じ気分に。適切な話題を選べば、必要な情報を得られます。 |
なお、プレイヤーの選択や行動が後の展開に影響を与えるケースもあり、主要な行動選択は、タイトルとも重なる“赤い糸”によって記録され、自身の紡ぐ物語をいつでも見ることができます。
オートセーブのみのゲームであるため、分岐を見ながらやり直して進めることは難しいものの、周回プレイにおいては大いに参考になるはずです。
▲プレイヤーの選択をたどる赤い糸は、画面の左上にあるUIからいつでも参照できます。(※ネタバレを避けるため、本画像のみ拡大表示を外しています) |
また、物語を楽しむうえで、2人の主人公が魅力的であることも印象的でした。翻訳の力によるところも大きいでしょうが、主人公2人のシニカルな会話とほんのりとハードボイルドな雰囲気を漂わせるセリフ回しは、サイバーパンクの世界観とマッチしていて惹かれるものがあります。
▲主人公の1人、ハッカーのブランダイスは、24歳の若者らしい情熱と青さに好感が持てるキャラ。何より初登場シーンのインパクトが強烈で、彼の存在は頭から離れません。 |
▲バーテンダーの主人公ドノヴァンは、40歳を超えて人生経験も豊富なキャラです。人の弱さまでを愛し、悲しみに美しさを見出せる人柄は、ブランダイスでなくとも惹かれます。 |
もしテクノロジーが人間の感情を制御して自殺や犯罪を止められるなら、その行為は悪なのか? どこまでが幸福につながり、どこからが人間性の侵害なのか?
『レッド・ストリングス・クラブ』では、歪んだ未来社会を描くサイバーパンクの世界観を通して、世界がどれだけ変わっても残る“人間味”や“人間性”の本質を問われる物語が描かれ、その答えをプレイヤーが紡いでいくことになります。
物語のテーマとしては、現代のゲームにおいて珍しいものではなく、テクノロジーによって人間の感情が制御されることの是非を単純に問われれば、おそらく多くの人が否定的な答えを出すと思います。
しかし、本作の問いかけはもっとプレイヤーに踏み込んできます。
目の前にレイプをしようとする人がいたら? 殺人をしようとする人がいたら?
問いかけが具体的になった時、今度は簡単に答えが出せないのではないでしょうか。少なくとも筆者は悩みましたし、答えを出した後も、むしろ今になっても「あの時に選んだ答えは正しいのか?」と考え続けています。
本作のよいところは、対立する両者の考え方がしっかりと描かれるところです。ドノヴァンがカクテルを提供して情報収集する相手は、“ソーシャル・メンタル・ケア”に携わる企業の人間であり、ゲームとしての目標を達成していく過程で、この計画に対するさまざまな考え方を知ることになります。
最後までゲームをプレイした時、自分はどのように悩んで、どのような答えを出したのか? 出した答えから何を考えているのか、その体験がとても貴重なものになると思います。
サイバーパンク作品の魅力の1つは、テクノロジーと人間の曖昧な境界線の上に成り立つ社会構造、その歪みや混沌をフィルターにして、人間性の本質を見つめ直せるところかと思います。
本作はストーリーも演出も作り込まれ、同ジャンルを好む人なら刺さるものがあるはずです。必ずしもスッキリとしたプレイ感を得られるとは限りませんが、少なくともゲームをプレイした価値を噛みしめられる、あるいは心に小さな何かが残る、上質なサイバーパンク作品になっています。
クリアまで数時間程度と軽めなので、短時間でゲームをプレイした満足感を得たい時などにもおすすめの1本です。大作と大作のすき間や気分転換をしたい時など、ちょっとした時間に触れてみてはいかがでしょうか。
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