2018年2月20日(火)
2月23日に発売予定のBD&DVD『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1』。本作のレビューをお届けします。
2005年の『交響詩篇エウレカセブン』の放送から早いもので13年。現在までに、別の宇宙のレントンとエウレカの物語である劇場版『交響詩篇エウレカセブン ポケットが虹でいっぱい』、レントンとエウレカの息子・アオを主人公にした続編『エウレカセブンAO』などの作品を世に送り出してきた本シリーズですが、新たなる試みとして、シリーズ初代作を再構築した劇場版が企画されました。
それが『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』です。
毎年1作ずつで全3作が制作されるとのことで、このたび発売されるのは、2017年9月に公開された『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1』のパッケージとなります。
筆者は『交響詩篇エウレカセブン』のTV放送をリアルタイムで見ていました。少年と少女の想いをてらいもなく描いた第26話“モーニング・グローリー”も素晴らしかったですし、特に、日曜の朝7時に半分寝ぼけている中で見て、あまりの衝撃にそのまま目が覚めた第48話“バレエ・メカニック”は2006年の体験としては特筆すべき事柄でした。長らくアニメを視聴してきた中におけるマスターピースのひとつとなっています。
そんな筆者から見て『ハイエボリューション1』はどう映ったのか? その感想をお届けしていきたいと思います。
さて、90分という尺の中でどのように、そしてどの範囲まで『交響詩篇エウレカセブン』の物語が再構築されるのか? それが大きな興味でもありましたが、90分のうち最初の30分弱が新規に描き起こされた“ファースト・サマー・オブ・ラブ”の顛末となっています。
『交響詩篇エウレカセブン』に登場したものの、一言も発することのなかったレントンの父、アドロック・サーストンとエウレカのエピソードであり、そのアドロックは古谷徹氏が演じています。
人類を襲った未曽有の大災害とアドロックとエウレカの絆が描かれることで、『交響詩篇エウレカセブン』への導入の不明点が明確になったことは大きな収穫だったと思います。レントンからエウレカへの想いは一目ぼれだったわけですが、エウレカはどういった経緯でレントンに興味を持ったのか? そのあたりの経緯が推察できます。そもそも彼女は感情は動機が希薄でしたし、“恋”がなにかもわかっていませんでしたからね。
また、多数のKLFや艦船が登場する圧巻の戦闘シーンでは、若き日のホランドとデューイ、タルホ、そしてチャールズとレイの活躍が描かれるのもうれしいところです。この戦闘部分のアニメーションは、見る者をグイッと『交響詩篇エウレカセブン』の世界観に引きずり込んでくれます。かつてTVシリーズを見た人は、コーラリアンに対する恐怖を呼び起こされるでしょうし、初見の方であっても、いかに絶望的な状況であったのかが伝わることでしょう。
また、Hardfloorの『Acperience7』がこの戦闘シーンで流れるのですが、この曲は本作の大きな聞きどころのひとつです。
ファースト・サマー・オブ・ラブ以降の物語は、レントンの視点で進行し、時間軸も過去と現在を行き来します。『ハイエボリューション1』では、レントンとビームス夫妻のエピソードが中心になり、エウレカは回想に出てくるのみ。細かな設定に差異を生じているものの、物語の進行は『交響詩篇エウレカセブン』とおおむね変わりません。
本作でビームス夫妻絡みのエピソードを中心に据えたのは、レントンの成長が著しいことと、変わらず混沌とする我々の生きる世界の情勢の写し鏡だからでしょう。
そのことがよくわかるのが、病気で死の瀬戸際にあるヴォダラクの少女の話です。レントンがその少女と出会ったのは、ヴォダラクによるテロが起きた街。かつて『交響詩篇エウレカセブン』が放送された2005~2006年は、2001年の911テロの記憶も新しく、アメリカを中心に“自分と異なるもの”への排斥が行われていました。あれから12年たってもこの混沌は解消されていません。
レントンが生きる今には、我々が生きる今と似た問題があり、レントンがその問題をどうとらえているのかを通して、彼の在り方が見えてきます。
この少女との“出会いと別れ”を味わったレントンは、やがてチャールズから選択肢を示され、ビームス夫妻と別れることになります。レントンの独白は、2人と別れた直後から始まったもので、自らが選んだ道を往く覚悟の後の述懐なのです。
それは作品を通してのテーマである「ねだるな、勝ち取れ、さすれば与えられん。」という意志の発露でもあります。ストーリーを知っていても、今回の再構築によってレントンの心情がよりスムーズに説得力を持って入ってくるのは見事! の一言です。
レントンの独白を持って語られる物語は、時間軸が現在と過去を行ったり来たりする複雑な構成ですので、混乱するかもしれませんが、最低2回は見てもらいたいです。最初はストーリーを見て、2回目にレントンの心情と思考を追えば構成の妙が見えると思います。
ちなみに、本作を見た担当編集はこのように複雑な構成にした意図などを脚本の佐藤大氏に聞いてみると言っていました。そちらも後日掲載予定ですので、気になる人はそちらもお楽しみに。
再構成によって生じる違いは、レントンの祖父であるアクセル・サーストンが登場しないこと。レントンがビームス夫妻の養子として育てられたこと。ゲッコーステイトという組織は存在せず、ホランドやエウレカは軍の所属のままであること。Lay-outも登場しません。チャールズとレイは軍を退き、民間軍事会社で働いています。
再構成部分は画面比が4:3になっており、過去映像の使いまわしのように思われるかもしれませんが、結構細かく手が入っています。わかりやすいところだと、Lay-outの代わりにホランドが軍のプロパガンダ誌に載っていることでしょうか。他にも、人間関係の微妙な変化に違和感を抱かせないように、さまざまなところで表情が描き変えられています。
こういったところは「なんだ、使い回しか……」と決めつけてしまい、見逃されがちですが(ホントすみません、著者も見逃してました!)、『交響詩篇エウレカセブン』を見直してから『ハイエボリューション1』を見ると、描き変えによってちゃんと整合が取れていることがわかるのです。
ひとつ疑問なのは、レントンがアクセルから託されるアミタ・ドライブは今回どうやって手に入れたんだろうということくらい。そこらへんは後々明らかにされるのでしょうか? もしくはそうした経緯も変わってしまうのでしょうか? こうしたあたりを想像をふくらませて楽しめるのも、再構築作品ならではの部分と言えるかもしれません。
『ハイエボリューション2』ではビームス夫妻の今後がどうなるか、『交響詩篇エウレカセブン』通りなのかが気になるところです。レントンとビームス夫妻の関係は『交響詩篇エウレカセブン』より長く濃密です。しかも本作では、チャールズたちにエウレカの殺害を任務として与えられています。
覚悟を持ったレントンが彼らとどう対峙するのか、ホランドたちはどうするのか、レイは、チャールズは、エウレカは……。ここからどんな話に展開していくのかワクワクが止まりません。
そのワクワクを高めてくれる極めつけが最後のシーンです。「そんなことより今日って何曜日? そうそう、月曜。始まりはいつも月曜だ」から始まるレントンのモノローグは、TVシリーズ第1話を想起させる部分があったり、そこから尾崎裕哉さんの主題歌『Glory Days』につなげてきたりと、全3作からなる映画の第1作目として、最高の出来となっていました。
で、そんな余韻をブッ飛ばすのがインパクト抜群の次回予告ですよ。アネモネがアネモネっぽくないといいますか、なんかアイドルっぽくなっていることをはじめ、驚きの種がガッツリつまっています。
『ハイエボリューション1』がレントンの物語だったように、『ハイエボリューション2』はアネモネメインの物語。ここではどんな驚きが待っているのか気になってしょうがありません。
記事冒頭でもお伝えした通り、そんな本作のBD&DVDが2月23日に発売予定となっています。電撃オンラインでは、脚本を手掛けた佐藤大氏のインタビューや、さまざまな特典が盛りだくさんとなっているBlu-ray特装限定版の開封記事などもお届け予定となっていますのでお見逃しなく。
なお、公式サイトでは、Blu-ray特装限定版に収録されているサウンドトラックから4曲を試聴することができます。佐藤直紀さんのサウンドを確認できるチャンスですので、こちらもチェックしてみるといいでしょう。
発売前日となる2月22日には、4時間にわたる記念特番が配信されます。トークパートでは、京田総監督、脚本の佐藤大氏、社会学者・上野俊哉氏、アニメ評論家・藤津亮太氏が出演し、『エウレカセブン』を語り尽くします。
そしてDJパートでは、本作の劇中歌『Get it by your hands HI-EVO MIX』を提供したHIROSHI WATANABE氏によるスペシャルプレイが楽しめます。
Blu-ray&DVD発売前日の2/22(木)19:00~、ハイエボ1の真相に迫る4時間の生特番を #DOMMUNE にて配信!京田総監督、脚本の佐藤 大さんらに加え、社会学者・上野俊哉さんをお招きするトーク&HIROSHI WATANABEさんによるエウレカスペシャルミックス!お見逃しなく!https://t.co/GaJVxk5m1N#エウレカ pic.twitter.com/jBFYKQ9X9P
エウレカセブン ハイエボリューション公式 (@EUREKA_HI_EVO) 2018年2月19日
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